欧州電気自動車充電ネットワークの『IONITY』がkWhベースの新料金体系を発表

2020年1月16日、フォルクスワーゲンをはじめとする欧米の自動車会社が参加して、欧州で急速充電器ネットワークを提供しているIONITY(アイオニティ)は、2020年1月31日から、充電する電力量に基づいた新しい課金体系に移行することを発表しました。

欧州急速充電器ネットワークIONITYがkWhベースの新料金体系を発表。2020年1月31日から適応。

IONITYってご存じですか?

当ブログの読者のみなさんは日常的にネットで情報収集されていると思いますがIONITYをご存じでしょうか。「IONITY」でググっても某大手家電メーカーのドライヤーの情報が目立っています。このドライヤーは「イオニティー」と呼ぶそうです。

でも、今回注目したいのは、検索結果のトップにさらっと欧文のみで表示されている(1/20現在)『IONITY EU』についてです。これは、欧州の急速充電器ネットワークで、一般的には「アイオニティー」と発音されています。EVsmartブログチームでは、日本の既存メディアが紹介しない(できてない)電気自動車や再生可能エネルギーの情報、またこれらに関わるニュースで「ぜひ皆さんに知っておいていただきたいもの」は、積極的にお伝えするようにしています。

今までにも何度か紹介してきましたが、少しおさらいしておきましょう。IONITYは、欧州での急速充電ネットワークを構築する目的で、ドイツのフォルクスワーゲン・グループ(Volkswagen Group: VW)とその傘下のポルシェ(Porsche)、アウディ(Audi)、さらにBMWグループ(BMW)、メルセデス・ベンツのダイムラー(Daimler)、そしてアメリカのフォード(Ford Motor)が2017年に合弁で立ち上げた企業です。2019年9月時点では、欧州の14か国に140基の急速充電器を設置していますが、2020年1月31日には200基を超える基数を設置完了の予定です。

IONITYの充電器の設置。2019年1月16日時点。北欧から旧西側を通って南欧まで「縦」の配置が目立ちます。旧東欧や旧ソ連地区では設置はなされていないようです。IONITYの公式サイトより転載。

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ちなみに、IONITYは欧州での急速充電器ネットワークですが、VWは急速充電網に関して、北米では傘下の「エレクトリファイ・アメリカ(Electrify America : EA)」を使って、350kW・150kWの両方を装備した超急速充電器や、超急速150kWにCHAdeMOの50kW急速を1基付けた充電器網を構築しています。

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IONITYが新しい料金体系を発表

今回発表された料金は、充電した電力量(kWh)に応じて課金されることが特徴です。事前に契約しているユーザー以外の「飛び込み使用(ad-hoc use)」では、「kWh」あたりの料金は「0.79ユーロ(およそ96円:2020/1/19レート)」となっています。

IONITYの公式発表[リンク先は英語pdf]

kWhあたり約96円というのは「高いな」という印象ではあります。参考までに日本の現行「NCS(日本充電サービス)」の料金と比較しておきましょう。NCSの場合、会員カードがない「ビジター充電」は1分50円。30分充電すると「1500円」ということになります。この料金は「時間」に対する課金なので、充電器の出力が違っても同じです。急速充電器の効率を90%と仮定して、出力別にkWhあたりの価格に換算してみます。

【出力50kWの場合】
50kW×O.5時間×0.9=22.5kWh
1500円÷22.5=約66.7円

【出力44kWの場合】
44kW×O.5時間×0.9=19.8kWh
1500円÷19.8=約75.8円

【出力30kWの場合】
30kW×O.5時間×0.9=13.5kWh
1500円÷13.5=約111.1円

【出力20kWの場合】
20kW×O.5時間×0.9=9kWh
1500円÷9=約166.7円

高速道路SAPAや日産ディーラーに多い44kW器以上の場合は、IONITY よりも少し安いですが、道の駅やコンビニに多い30kW以下の出力の場合は高くなることがわかります。実際には充電時の電池残量などの条件でこんなに充電できないケースが多いので、あくまでも参考データとしてご覧ください。

いずれにしても、月会費などを負担しない「ビジター=飛び込み使用」の場合、kWhあたり100円前後の料金設定となるのが、世界の方向性といえそうです。

IONITYの契約利用では、アウディの「eトロン充電サービス(e-tron Charging Service)」、メルセデスの「meチャージ(me Charge)」、BMWの「チャージ・ナウ(ChargeNow)」、ポルシェの「ポルシェ充電サービス(Porsche Charging Service)」、VWでは「ウイ・チャージ(WeCharge)」といった、各自動車メーカーが設立している「モビリティー・サービス・プロバイダー(MSP)」が提供する充電サービスを通して、高速道路上などの急速充電器を定期的に使うユーザーに対しては、「飛び込み利用」よりはお得な価格で使いやすい充電サービスを提供しています。具体的な充電料金は、各MSPとその提供する充電サービスの種類によって変わります。

IONITYのCEOであるミヒャエル・ハィェシ(Michael Hajesch)氏は、次のようにコメントしました。

Michael Hajesch氏。IONITYの公式Twitterより転載。
Michael Hajesch氏。IONITYの公式Twitterより転載。

欧州全体で、シームレスかつ高速で、長距離移動を可能とする「電気によるモビリティ(電気自動車を用いた移動)」を実現するために、均質的で一貫した充電ネットワークを構築することが、これまで常に私たちIONITYの目的となってきました。お客様に、他では得られない高いレベルのサービスを提供することが、当社のビジネスの鍵です。電気自動車の急速な発展に際して、当社の提供する新しい課金体系は、ヨーロッパで実行可能で明快な価格体系を提供します。お客様のそれぞれのニーズに応じて、皆さまが利用可能な最も適切なサービスを自由に選択していただくことができます。

デザイン賞で金賞を取った充電器

ほんの数か月前のことですが、IONITYの新世代「ハイパワーチャージャー(HPC)」は、2019年の「iF賞」で金賞を獲得しました。この充電器には、数多くの多機能LEDライトリング(HALO)が組み込まれています。夜の高速道路での安心できる目印にするため、ドライバーが充電ステーションを見つけやすいように、このような目立つデザインを採っています。さらに、最適化されたメニューナビゲーションを備えた新しい「HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)画面」を用いての分かりやすい操作により、利用者に直感的なサービスを提供し、ストレスのない支払いを実現しています。

この充電器は、このような革新的な設計に加えて、ヨーロッパの7カ国語が表示できます。HMI画面と24時間年中無休のホットラインのサービスと合わせて、それぞれの土地でお客様に安心かつ便利なサービスを提供するとしています。

2019年のiF賞で金賞を獲得した、IONITYの超急速充電器。多機能LEDランプ・表示が組み込まれ、直感的に操作し易く、暗い夜でも安心してBEVを充電器まで導けるようになっています。IONITYの公式サイトより転載。

「iFデザイン賞(iF Design Award)」は、ドイツの中核都市のひとつハノーファー(Hannover)を拠点に活躍する、工業製品デザイン振興のための国際的な組織「インダストリー・フォーラム・デザイン・ハノーファー(iF)」が毎年開催する、世界的に定評のあるデザイン賞のひとつです。1953年に始まって以来、全世界の工業製品を対象に、優れたデザインを選んで表彰しています。

2005年に、日本製の椅子として初めてiF賞を受賞したコクヨの「AGATA/D」。コクヨの公式サイトより転載。

これまでにiF賞「金賞」を受賞した日本製品には、コクヨの椅子「AGATA/D」(2005年)や、レクサスGSとIS(2007年)などがあります。

穴織カーボン株式会社のカーボン製無水調理鍋「ANAORI CARBON POT DISC」。2019年にiF賞の金賞を受けている。穴織カーボン株式会社のニュースリリースより転載。

2019年には、穴織カーボン株式会社の「カーボン製無水調理鍋ANAORI CARBON POT DISC」が金賞を受賞しています。

iFデザイン賞を2007年に受賞した小田急電鉄の「VSE(Vault Super Express)」と名付けられた50000系電車。同社の代名詞である「ロマンスカー」としては7台目になる。小田急電鉄のニュースリリースより転載。

またデザイン賞は、小田急電鉄の「50000形電車(VSE)」が2007年に受賞しています。

現在、20か国で、860基以上の充電器を、200以上の充電ステーションが提供しています。 IONITYは、それぞれの充電ステーションに複数のユーザーユニットを備え、最大350kWで充電できる充電器をヨーロッパの高速道路に沿って配備することで、ユーザーに大きな利便性を提供しています。

計画されたネットワークが完全に整備されると、IONITYの充電器は2020年末までには、ヨーロッパの24か国をカバーし、100%再生可能エネルギーによる充電を提供することになります。IONITIYは、みなさんの自動車による旅が環境へ与える影響を大幅に削減し、環境に配慮したドライバーに安心を与えることで、一貫して持続可能なアプローチを採用しています。

IONITYのiF金賞受賞の充電器。IONITYの公式サイトより転載。

日本でも、CHAdeMOのJCNを実質引き継いだe-Mobolity Powersが今後いろいろとサービスを発表してくることでしょう。欧州に負けないような、ユーザーに寄り添ったサービスが充実することを願っています。

(文/箱守 知己)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 未確認情報?

    日産自動車とホンダが、ドイツメーカー等と組んで。Ionty Japanを作るとか?

    兎に角!日本国内は遅いから(汗)

    ホンダは、近い将来にガソリン車の販売を一切止めるらしいし!(笑)

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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