韓国・現代自動車と起亜自動車が欧州充電大手「IONITY」に参加

韓国の自動車大手「現代自動車グループ(Hyundai Motor Group =ヒュンダイ)」と系列の「起亜自動車(Kia Motors =キア)」は2019年9月9日、欧州の急速充電ネットワーク「IONITY」に参加すると発表しました。周辺情報を少し探ってみました。

韓国・現代グループが欧州充電大手IONITYに参加

※冒頭写真説明/最前列の向かって左が現代自動車グループのThomas Schemera氏、右がIONITYのMichael Hajesch氏。現代自動車グループの公式サイトより転載。

韓国の自動車大手「現代自動車グループ」が、ポルシェやアウディなどのVWグループに、BMW、ダイムラー、米フォードなどが加わった充電ネットワークの合弁事業「IONITY(アイオニティー)」に参加すると発表しました。韓国ではすでにComboとCHAdeMO両用の急速充電器が登場していますが、世界的に目を向けても、CHAdeMO陣営が強みの「V2H」で大きな動きを見せなければ、CCS陣営の躍進を座視することになりそうです。

周辺のメディアなども読んでみましたが、千葉の大停電が長引き、そちらの取材を優先してしまったので、ちょっと時間が経ってしまいました。(←言い訳です、すみません。)

IONITYとは

さて、IONITYは、欧州での急速充電ネットワークを構築する目的で、ドイツのフォルクスワーゲン・グループ(Volkswagen Group)、ポルシェ(Porsche)、BMWグループ、メルセデス・ベンツのダイムラー(Daimler)、それにアメリカのフォード(Ford Motor)が2017年に合弁で立ち上げた企業です。

2019年9月現在、欧州の14か国に140基の急速充電器を設置していますが、2020年までに欧州で「最大350kW」で充電できる超急速充電器を400基設置するとしています。当ブログの読者の皆さんには釈迦に説法ですが、ざっとおさらいしておくと、日本でネットワークが構築されている「CHAdeMO」が「最大50kW」、2019年1月末に納車が始まった電池容量62kWhの日産の「リーフe+」が受けられるのが「最大100kW(バッテリーの状態などにより実際は70kW前後)」、テスラの「スーパーチャージャー」が「120kW」ですから、350kWは確かに凄そうです。ケーブルの水冷化は必須でしょうね。

なお、フォルクスワーゲン・グループは急速充電網に関して、北米では傘下の「エレクトリファイ・アメリカ(Electrify America : EA)」を使って、350kW・150kWの両方を装備した超急速充電器や、超急速150kWにCHAdeMOの50kW急速が1基だけ付いた充電器網を構築しています。

ヒュンダイは今…

そうしたなか、「ヒュンダイ」がIONITYへの参加を発表しました。株式取得を通して出資の形です。IONITYのCEOであるミヒャエル・ハィェシ(Michael Hajesch)氏は以下のように述べています。

Michael Hajesch氏。IONITYの公式Twitterより転載。
Michael Hajesch氏。IONITYの公式Twitterより転載。

現代自動車グループはe-Mobilityに積極的に関与することで、国際的な経験とノウハウをもたらしてくれます。現代自動車グループがIONITYに新たに投資する決断をしてくれたのは、社齢の浅い会社である私たちに対する、信頼の証しだと思います。

この時点では、現代自動車グループは具体的な参画方法を明らかにしていませんでしたが、投資という形だととらえられていました。現代自動車グループのエグゼキュティブ・バイスプレジデント兼製品部門長のトーマス・スキーメラ(Thomas Schemera)氏は以下のように述べています。

Thomas Schemera氏。現代自動車の公式サイトより転載。
Thomas Schemera氏。現代自動車の公式サイトより転載。

今回のIONITYへの参加は、当社が未来のe-Mobilityに積極的に関与していく態度を明確に示しています。私たち現代自動車グループがIONITYに加わることで、超高速充電に新しい時代をもたらすものと確信しています。ガソリンを給油するよりも、シームレスで簡単に充電できるようになることでしょう。

「現代自動車グループ」は世界で5位の自動車企業で、傘下には、「現代自動車(Hyundai Motors)」のほか「起亜自動車(Kia Motors)」があります。両ブランドとも「電気自動車(BEV)」と「プラグイン・ハイブリッド車(PHV)」を複数種類発売しており、すでに北米だけでなく欧州へも輸出されています。市場調査会社「IHSマーケット」の調査によると、2019年上半期のグローバル市場では4万4,838台のEVを販売し、市場シェアは5位(6.5%)を占めるまでに成長しました。2014年時点ではわずか0.9%だったものの、2017年には3.7%、2018年に4.1%とシェアを伸ばしてきました。

コンパクトSUVのBEVである「Hyundai KONA Electric」。ヒュンダイの公式サイトより転載。
コンパクトSUVのBEVである「Hyundai KONA Electric」。ヒュンダイの公式サイトより転載。

現代自動車グループは、2019年1〜7月の世界の電動車両の販売において、現代ブランドの「コナ・エレクトリック」が2万4,983台売れて、初めて10位以内にランクインしました。(「電動車両」と書いたのは、BEVだけでなくPHVも販売数に含まれてたデータのためです。)6位の「ルノー・ゾエ」が2万8,592台なので、4,000台の差まで迫っており、今年下半期には追いつくか、追い越す可能性も出て来ました。

KIAブランドから発売されているNiro EV。KIAの公式サイトより。
KIAブランドから発売されているNiro EV。KIAの公式サイトより。

「現代・起亜自動車(ヒョンデ・キア)」は韓国の自動車大手です。すでに現代ブランドからCUV(コンパクト・クロスオーバーSUV)の「コナ」や、乗用車の「アイオニック」、起亜ブランドからは「ソウルEV(e-soul)」、「ニロEV(Niro EV)」など複数の電気自動車を発売しており、市場展開と車種拡充に関しては日本のBEV市場に引けを取りません。

KIAブランドから出ている「e soul」。KIAの公式サイトより。
KIAブランドから出ている「e soul」。KIAの公式サイトより。

2019年9月9日から10日にかけて、electrek中央日報(日本語版)が伝えているほか、東亞日報(日本語版)も「9日はドイツのミュンヘンに位置する電気自動車高速充電機器メーカー『IONITY(アイオニティ)』に投資する計画も明らかにした」と伝えています。

【関連記事1】
IONITYの公式サイトにあるニュースリリース(英語)
【関連記事2】
ポルシェがタイカン発売へ準備着々〜欧州の350KW超急速充電スポットが100カ所に!

日本のエネルギー政策にパラダイムシフトを及ぼした「3.11」の大震災・原発事故から間もなく9年が経とうとしていますが、BEVやV2Hだけでなく、再生可能エネルギー利用技術の開発に関しては「前向きな動き」があまり見えてきません。国策で進めてくる中国は別枠としても、国が積極的な韓国の動きを見るにつけ、日本のBEVや再生可能エネルギー技術とそれを支える産業には、明るい未来を探すほうが次第に難しくなってきています。世界で市販は唯一と言っていい「V2H」だけでも迅速かつ急速に進めないと、日本は世界の「置いてきぼり」になることでしょう。世界の様々な情報に触れるにつけ、不安を感じます。

(箱守知己)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. どうも返信ありがとうございます。
    しかしそうなると自宅で充電できない集合住宅などでのEV所有者の運用コストを大幅に考え直さなければならない、又は既存の集合住宅への充電設備の充実なども考えなければならなくなりますね!

    1. momo様、おっしゃる通りだと思います。自動車メーカーは、集合住宅での充電環境の整備のために、自腹で充電設備にお金をかけ続けるか、法改正などを含めて政治に働きかけるかなどの様々な選択肢があると思います。

  2. 初めまして。
    イオニティーは昨年充電料金を5倍に値上げしました。
    これはテスラなどに比べてBEV開発で遅れていてHEVや嘘をつき続けてきたディーゼルを中心としたICEの環境技術も劣っている欧州メーカーのBEV開発やラインナップの拡充がなされるまでBEVの普及を遅らせるためのサボタージュだグリーンウォッシングだなどと欧州では批判されていることもある様ですが、BEV普及に反するこの行為は実際のところどういう意図があるのでしょう?

    私i8に乗っていたのですが、確かに欧州車のHEVは色々問題があって運転環境によっては前輪と後輪の制御がチグハグでプリウスなどと比べて十分開発ができていない印象を持ちます。なのでサボタージュは不明ですがHEV開発を諦めて一足飛びにBEV開発を目指しているという主張は確かだと思えます。

    1. momo様、お世話になっております。充電料金、実際に、利益を出そうとするとそういう金額になるということでしょうね。普通に考えて、何も生産・提供しない設備で電気だけを販売すれば、利益が出るためには太陽光発電等が必要になります。電力会社から電気を買っていたら、その価格がいくらかにもよりますが、基本的に元の電気代の数倍にしないとコスト割れしますよね。
      そういう点で、私はこの値上げの動きは自動車メーカーの選択によるものだと考えています。自動車メーカーは、長距離旅行を可能にするため、この価格を少なくとも自社の車両オーナーに対しては、低価格に据え置かないといけません。タイヤ交換のたびに50万円かかる車を販売したら、全く売れないのと同様です。タイヤのコストはどうやっても、魔法のように安くすることはできません。差額は、メーカーが負担するしかないし、中間の事業者のマージン(利益として取る幅の金額です)が大きすぎると考えるなら、またそのようなリスクがあるなら、自社でタイヤを開発するしかありません。

  3. 2015年付近では圧倒的に急速充電網は進んでいたのに、電欠しない程度の間隔で設置が終わり、いよいよこれから使い勝手向上の為の設置フェーズだという時期から、サッパリ進展しなくなりました。
    日本には「お・も・て・な・し」の文化がありますが、悪い意味での「おもてなし」として、BEVの使い勝手向上を望まない特定企業や業界への忖度として故意に進めなくしているのではと、勘繰りたくなります。
    急速充電器設置は一般庶民の金銭感覚だと極めて高価に感じますが、行政の立場から見れば決して高価だとは思えません。環境問題を見据えた先行投資ですね。

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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