ミラノ改め「ジュニア」でデビュー/アルファロメオ初EVの実力&日本発売は?

ステランティス傘下のアルファロメオがブランド初の電気自動車(EV)「ミラノ・エレットリカ」を発表しました。ところが数日後、車名がミラノから「ジュニア」に変更されることになりました。ジュニアの概要と、車名変更の顛末をお伝えします。

ミラノ改め「ジュニア」でデビュー/アルファロメオ初EVの実力&日本発売は?

アルファ初のEVはBセグSUV

アルファロメオは4月10日、セグメントBにあたるコンパクトカテゴリーのSUVに新モデル「ミラノ」を追加することを発表しました。ミラノにはハイブリッド車(HEV)の「IBRIDA(イブリダ)」と、電気自動車(EV)の「ELETTRICA(エレットリカ)」がラインナップされています。

エレットリカは、アルファロメオ初のEVです。いよいよアルファの本格的な電動化が始まりました。アルファロメオは2025年以降に投入するニューモデルは全て電動化する予定、なおかつ2027年までに100%をEVにすることを目指しています。

そのため、ミラノは内燃機関(ICE)を持つ最後の新型車になると見られています。

価格は、ロイター通信などによるとEVのエレットリカが3万9500ユーロ(約4万3000ドル)からで、HEVのイブリダは2万9900ユーロからになる予定です。今日のユーロ/円のレートで換算すると、エレットリカは約650万円です。

発表と当時に、HEVとEVの両バージョンに用意したローンチエディション、「ミラノ・スペチアーレ(Milano Speciale)」の予約受付をイタリアで開始しました。他の欧州地域にも順次、拡大していきます。

日本発売はどうなる?

なおミラノは、昨年12月にオートモーティブ・ニュースなど一部メディアで、4月に発表、9月に納入開始と報じられていました。今のところ、当時の予想通りに進んでいるように見えます。

では日本はいつになるかというのは、まだ発表はされていません。

ポイントは、やっぱりチャデモ対応がどうなるかでしょうか。ステランティスグループといえば、思い浮かぶのは「フィアット500e」のアダプターです。初期バージョンではいろいろ問題が起きていましたが、現行品ではおおむね解消されている印象です。

ステランティスグループのプジョーやDSブランドのEVはアダプターなしのチャデモ充電口を採用しているし、本来はアダプターなしが望ましいのですが、きちんと急速充電ができるのなら、アダプターありでもいいから早く日本に入れてほしい、という願望も筆者の頭に浮かびます。どちらにしても自分で買えるような価格ではないので、あくまで願望です。とは言え、実際のユーザー対応を考えると、今の掃除機サイズのようなアダプターではセールスは難しいかもしれません。

となると、充電口を日本オリジナルに変更しなくてはならず、日本導入までには少し時間がかかりそうな予感がします。とりあえず、今は少しでも早期に実現するよう、やおよろずの神さまに祈ることにします。

急転直下で名前が変わった

そんなことを考えていたら、4月16日、ステランティスからビックリのニュースリリースが発信されました。なんと発売から1週間経たずに、車の名前が変わってしまったのです。

原因は、イタリア政府から、ミラノという名前はイタリア製だと誤解される可能性があって、法律違反になるというクレームを受けたことでした。確かにミラノは、ポーランドにあるステランティスのティヒ工場で生産される計画ですが、なんじゃそりゃ、という感じです。

政府の批判を受けたアルファロメオは、発表から1週間弱で名称変更するという、珍しい事態になりました。

新しい名前は「ジュニア」です。

ということで、ここからは「ジュニア・エレットリカ」を中心に車の概要を紹介します。

なお、名称変更に際してのアルファロメオの対応は、ユーモアにあふれた超絶ユニークなものでした。経緯を含めて、最後に紹介したいと思います。

プラットフォームはCMP

ジュニアのサイズは、全長4170mm、全幅1780mm、全高150mmのBセグメントになります。

プラットフォームは、ステランティスに統合される前に、フィアット・クライスラーを含むグループPSAがマルチエネルギー対応として2018年に開発したCMPの電動版、e-CMPを使っています。

2020年の資料では、グループPSAは街乗り中心のシティーカーに属す中核モデルはすべてCMPを使うと示していました。そういえば「フィアット500e」も同じプラットフォームを採用しています。

そう考えると、500eの全幅は1700mm未満なので、ジュニアも全幅はもう少し小さくてもいいなあとも思います。最近の車はみな大きいので、あまり気にならないのかも知れませんが、都内でも地方の田舎町でも、狭い道はけっこうあります。

まあそれでも、今どき1800mmを切っていたら御の字という見方もできるのかもしれません。

バッテリー容量は54kWh

幅をある程度とっているためでもあると思いますが、バッテリー容量は54kWhを確保しています。

一充電での航続距離は、WLTPで最長410km(実用値に近いEPA換算推計値約366km)です。バッテリー容量は400km超を目指したのかも知れません。

なおエレットリカは、156psの基本バージョンのほか、240psの上位モデル「VELOCE(ベローチェ)」が用意されています。航続距離410kmは基本バージョンで、ベローチェの航続距離は公式にはまだ出ていません。

さて、54kWhで410kmということは、電費は7.6km/kWhになります。高性能モデルとしては良いのではないでしょうか。EVsmartブログ的にEPA換算してみても6.08km/kWhです。これなら満充電で300kmはかたそうです。

参考までに、WLTPの市街地モードでは一充電での航続距離が590kmとなっています。高速道路ですっ飛んで走らなければ、充電回数をだいぶ抑えることができるかもしれません。

急速充電は、最大100kWに対応しています。仕様上は、10%から80%まで30分かからないと説明があります。実際の受け入れ能力はテストしてみないとわかりません。

なんにしても、アルファロメオのEVというだけで、ちょっと妄想が膨らみます。もちろんICEの時のような気持ちのいいエンジン音はないのですが、アルファロメオがEVを作るとどうなるのかには、期待が膨らみます。

早く日本に来ないかなあ……と思うのです。

ハイブリッドはマイルド仕様

ジュニアにはもうひとつ、ハイブリッド車(HEV)バージョンのイブリダがあります。HEVとはいっても、マイルドHEVです。

駆動方式は前輪駆動と、「Q4」と呼ばれる四輪駆動の2種類になる予定です。

エンジンは1.2リッター、3気筒のミラーサイクルで、可変ジオメトリーターボを備えています。

これに21kWのモーターと、48Vのリチウムイオンバッテリーを6速のデュアルクラッチでつないだシステムで、最高出力136psにしています。

マイルドハイブリッドですが、市街地では基本的に半分以上の時間を電動モードで走ることができるそうです。欧州の市街地想定だと、最高時速が30kmとか40kmとかかもしれません。

バッテリーの容量も今は不明なので、リアルワールドの性能が判明するのはまだ先になりそうです。

なおイブリダは、昨年のオートモーティブ・ニュースの記事によれば、納車開始はEV版の2カ月ほど後になりそうです。

イタリア政府が名前にクレーム

さて、最後に、世にも珍しい車名変更について触れたいと思います。

アルファロメオによれば、ミラノという名称は、アルファロメオが1910年に設立された北イタリアの都市にちなんで名付けられました。生産は、フィアットの「500」なども手がけている、ポーランドのティヒ工場です。ロイター通信によれば、アルファロメオ初の、イタリア国外生産モデルになります。

これが問題になりました。

ロイター通信(4月11日付)によれば、ミラノ発表の翌日、イタリアのウルソ企業相は、イタリア製だと偽った「イタリアっぽい」製品を対象とした2003年の法律に言及し、「ミラノという名前の車はポーランドで生産することはできない。イタリアの法律で禁じられている」と、名指しでミラノを批判しました。

イタリアのメローニ首相は国家主義などを標榜して政権を取ったので、こうした法律を厳格に運用するようになったのかもしれません。実際の施策では硬軟取り混ぜた二面性があり、弱腰と非難されることもあるようですが、アルファロメオに対しては強気に出ました。

ロイター通信は、ウルソ企業相の批判は、メローニ政権とステランティスの舌戦の最新版だと述べています。両者はこのところ、イタリアでの生産拡大を巡って火花を散らしていたので、その流れでの圧力だったのかもしれません。

えー、ダメなの? じゃあジュニアで!

さて、メイド・イン・イタリア担当相でもあるウルソ企業相の批判を受ける形でアルファロメオは15日(現地時間)、車の名称をミラノから「ジュニア」に変更すると発表しました。

とてもおもしろいのは、ステランティスが出したリリースの内容です。コメディースキルというか、皮肉スキルが高すぎです。

まずリリースのタイトルが、「ミラノって名前がダメなの? じゃあ、ジュニアで!(MILANO NAME IS NOT OKAY? JUNIOR THEN!)」です。軽妙洒脱って、こういうことでしょうか。

そして、元のミラノからジュニアに名称変更することについては、アルファロメオとしては法律の要件を全て満たしていると確信している、と政府に反論した上で、こう述べています。

「新しいクルマの名前よりも重要な課題が(政府には)あると考えていましたが、『ミラノ』を『アルファロメオ ジュニア』に変更することを決定しました」

イタリアは、日本同様の低成長率に加え、高い失業率や労働者不足、移民問題などに悩まされていて、政策課題が山積みです。車の名前にクレームつけてないで自分の仕事をしなさいよ、という感じでしょうか。

大好きです、こういうの。

アルファロメオはさらに、名称変更までの間に一般ユーザー、ディーラーなどからの支援があったほか、メディアの注目を集めたジャーナリストなどに対する感謝を表明すると同時に、次のように述べています。

「この議論によってもたらされた無料の宣伝に対し、政府に感謝します」

胸が熱くなるひと言です。確かに世界的な注目が集まったのではないでしょうか。

実際、アルファロメオのジャン=フィリップ・インパラートCEOは、「過去数日間に受けた、新しいスポーツコンパクトカーへの注目には興奮している。オンラインサイトへの訪問が前例のない件数に達し、ウェブサイトが数時間にわたってクラッシュするほどだった」と、政府を皮肉りました。

もう、拍手喝采したいです。

翻って、今の日本に、政府から理不尽を押し付けられてこうした対応ができる企業がどれだけあるかなあと考えるのは時間の無駄なのでしませんが、このリリースに、アルファロメオの気概を感じたのでした。

オートモーティブ・ニュースによれば、ステランティスのタバレスCEOは記者団に、ミラノ(現ジュニア)をポーランドで生産をすることでコスト削減ができ、販売価格を1万ユーロほど下げることができ、競争力を上げることができたと述べています。

価格が高いために敬遠されると言われているEVやHEVにとってコスト削減は大きなポイントですが、生産拠点をどこにするかは政治も絡むので難しい問題です。

なお、反論しつつも名前を変更したことについて、ロイター通信など複数のメディアは、イタリア政府との余計な軋轢を避けたという見方を示しました。アルファロメオとしては実利をとったというか、政府に借りを作ったというか、何かの計算があっていったん身を引いたのかもしれません。ステランティスとイタリア政府の駆け引きはまだ続きそうです。

それはともかく、アルファロメオ初のEV、ミラノ改めジュニアの実車を早く自分の目で見てみたいと思う今日このごろです。日本導入、お願いします!

文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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