500eで無念の敗北! 敵は睡魔と空腹だった〜第2回 チキチキ東京-大間キャノンボール対決

東京から本州最北端の大間崎まで、バッテリー容量の小さなEVで走る「第2回チキチキ東京-大間キャノンボール対決」に、容量42kWhの『FIAT 500e』で参加してみました。勝負に挑んだ3台中バッテリー容量はいちばん多いのですが、それだけでは決まらないのがEVのおもしろいところ。まずは往路のリポートです。

500eで無念の敗北! 敵は睡魔と空腹だった〜第2回 チキチキ東京-大間キャノンボール対決

とにかく長距離で「乗りたかった」から参加

EVsmartブログでまたしても「チキチキ東京-大間キャノンボール対決」を、しかもバッテリー容量の小さなEVでやるという話を耳にして、『FIAT 500e』で参加を決めたのが実施の1週間前。

すぐにステランティス・ジャパンの広報担当者さんに電話をして、状況を聞きました。そうです、コネクターをCHAdeMO(チャデモ)からCCS1に変換するためのアダプターの現状です。

『FIAT 500e』は先日の記事でも書いたように、急速充電のための接続口が北米標準のCCS1になっています。これをチャデモ規格で使うための変換アダプターがあるのですが開発に時間がかかり、ようやく4月に提供が始まりました。

それを耳にしていたので、もしかしてアダプター付きで借りられるかもと思って連絡したところ、ちょうど貸し出しできる広報車が用意できたとのこと。この機会を逃してはならずと思い、無理矢理に仕事のスケジュールを調整して参加したのでした。

ただひとつの不安は、アダプターが出たばかりなので『FIAT 500e』の広報車で急速充電を繰り返しながらの長距離走行は、広報担当者さんによれば初めてだということ。ちょっとドキドキしましたが、SNSでちゃんと入っているという投稿を見て、自分を納得させてみました。

楽しい長距離計画

すでに掲載されている「第2回チキチキ東京ー大間キャノンボール対決」の記事にもあるとおり、大容量バッテリーを搭載した4台のEV、『トヨタ bZ4X』『日産 アリア』『テスラ モデルY』『ヒョンデ IONIQ 5』による第1回対決では、1位の『ヒョンデ IONIQ 5』が12時間23分でゴールしています。

これを超えるのは無理としても、今回の参加者、篠原さんの『HONDA e』(35.5kWh)と、寄本編集長のセグ欠け『リーフ』(推定22kWh)には先んじたいと思いつつ、計画を立ててみました。

まずルートは、常磐道は途中で片側一車線になる区間があるのが気になって、東北道経由に決めました。東北道は福島県くらいまでは急速充電器の出力が40kWがほとんどなのでどこで充電しようかと迷ったものの、充電器の出力よりもまずアダプターが使えるかどうかを確認するため、上河内までを第1区間に設定。

その先も、『500e』がどのくらいの急速充電可能なのかがわからないため、区間距離最大150km前後をメドにつなぐようにしてみました。

充電計画。初物の不安もあったので少し細かく刻んでみた。

とても順調な滑り出し

4月12日の午後7時前に、東京都江東区にある有明ガーデンの駐車場に入り、設置してある普通充電器で補充電。100%にしてスタートに臨みました。メーターに表示されている走行可能距離は260km。当初予定の上河内までは160km弱のはずなので、かなり余裕があるはずです。

午後8時10分頃にスタート。はじめは常磐道予定の『HONDA e』篠原さんの後ろについていたのですが、交通量がそこそこあったこともあり、すぐに見失いました。

ところが、常磐道は南相馬鹿島ICと新地ICの間が通行止めの表示を発見。常磐道の2人は気がついてるのかなあと思いつつ、とりあえず連絡。その後、篠原さんは東北道に進路変更。寄本編集長はそのまま常磐道に入っていったのが、位置共有をしていたGoogleマップで確認できました。

となると、上河内SAで篠原さんとバッティングする可能性が出てきましたが、位置関係を確認すると筆者の方が先行していたので予定通り充電することに。到着時のSOCは45%なので、かなり余裕を残していました。

ここでアダプターの様子を確認。なんの問題もなく充電できることがわかりました。充電しながら急速充電器があるSAPAとの距離を再確認して、少し予定を変更。次に目指すは約120km先の安達太良SAにしました。

登り基調で電費低下

東北道下り線は、宇都宮市を超えると登り基調が続きます。『500e』のメーターに表示される電費は、上河内SAまでは9km/kWhを超えていましたが、その先は7km/kWh前後をいったりきたりするようになりました。

加えて、上河内SAも安達太良SAも充電器の出力は40kWで、『500e』だと充電出力が30kW程度でしか充電できないので、電費を考えると走行可能距離は100kmちょっとしか伸びないことが確認できました。

そのため電費走行を心がけて、時速80~90km弱にACCを設定して少しのんびり走ることに。大型トラックがいるときには、速度が70km/h台にならない限りは、後ろについて空気抵抗を減らしたりしていました。

そんな調子で約120kmを走り、ちょうど日が変わった深夜0時過ぎに安達太良SAに到着。ほぼ予想通り、SOC37%になっていました。

安達太良に立ち寄る前には、一気にこの先の国見SA(ルート計画に入れていた)まで行くという選択肢も考えたのですが、SOCが1桁になってしまいそうだったのでちょっと腰が引けてしまいました。

ここで寄本編集長と篠原さんの場所を確認すると、バッテリー容量や充電能力に差があるにもかかわらず、ほとんど差がついていません。

まだ東京から300kmも走ってはいないものの、他2車との容量差を考えると、『500e』のポテンシャルをフルに使い切れていないのは間違いありません。

それまでは、気温が下がってきたので栃木県に入ったあたりからはエアコンを23度に設定していたこともあり、いまひとつ電費や、SOCが低下したときの状況を把握しきれていないのが不安で、ギリギリまでバッテリーを使うことを躊躇していました。

が、しかし、さすがに少し加速しなければ『500e』に申し訳が立たないと、ちょこっとだけ決意を新たにしたのでした。

編集長から入電「鶴巣は充電禁止ね」って……

というわけで、安達太良SAで残り距離を計算すると、次は宮城県の鶴巣SA(しかも充電器最大出力は50kW!)で充電すれば、岩手県の紫波SAまで行けることが見えてきました。それぞれのSA間は約130km。上り坂で電費は悪化しつつあったので、無理そうなら一つ手前の菅生PAに寄るという手もあります。

ということで0時40分頃に安達太良SAを出発。寒いと眠くなるので、きちんとエアコンをつけて、トラックの後ろを電費走行です。福島県北部も高低差がありますが、菅生PAには寄らないで済みそうな電費になっていました。

すると、常磐道を行っていた寄本編集長から電話が入りました。

「お疲れさまです。どうしました?」と聞くと、ひと言。

「鶴巣は充電禁止ね」

何を言ってるんだろうと思いました。理由を聞くと、「今からおれが行くから」。

こんな横暴は聞く必要ないのですが、いちおう位置関係を見ていると、筆者のほうが先行していてちょうど入れ替わりで充電できそうな感じです。なので、電話はスルーしてそのまま鶴巣SAに駆け込みました。勝負は非情なのです。

鶴巣SA以北の東北自動車道SA/PAでは、充電器が50kWになります。実際に入れてみると、出力は40kWキープだったので、30分で20kWh。『500e』なら150kmくらいは走れそうです。

鶴巣SAでの充電が終わってプラグを外し、顔を上げると、目の前に寄本編集長の『リーフ』が入ってきたことに気がつきました。ドンピシャです。

この時点で時間は深夜3時を過ぎていました。筆者にとって本当の敵は、ここからやってきたのでした。

雨と睡魔と空腹と

紫波SAに着いたのは午前4時50分。ここに着く少しに朝日が昇ってきた、のですが、遠めに見る太陽は黄砂で霞がかかったようになっていました。視界に入る岩手の山々も、黄土色に霞んでいます。

朝日が昇ったら『500e』の屋根を開けて青空を満喫しようと思っていたのですが、とてもそんな状況ではありません。

それに寒かったのです。気温は5度になっていました。

そして紫波SAから岩手県九戸の折爪SAに向かう途中で、最大の敵がやってきました。若干の睡魔と、大きな空腹です。

八幡平あたりの高低差も難儀でした。鶴巣SAを出てからは、それまで1kWhあたり7km台後半だった電費が、一気に6.5km付近まで下がりました。電費の悪化を抑えつつ、眠気や空腹とも相対するのは、とても厳しい戦いでした。

なんとか折爪SAにたどり着き、充電を終えると、またもや寄本編集長がやってきました。実は『リーフ』は細切れ充電をしていたので、途中の一関ICでおりて一般道にある日産販売店で充電したらしいのですが、この時はそんなことは知りません。ぼんやりと、「結構早く着くもんだなあ」と思っただけでした。

そんな寄本編集長を横目に、コンビニのカツカレーとフランクフルトをかき込みました。眠気対策にはフランクフルトが最強です。もちろん、個人の印象です。

食べ終わって外に出ると、『500e』を見つけて話しかけてきたドライバーさんがいたので、少し立ち話。聞けば、初代の『BMW i3』に乗っているとのことです。購入直後から、なかなか苦労をしたそうです。でも同じような小型のEVがなかなかないので、次はどうしようかと考えているそうで、「それなら『500e』がちょうどいいですね」などと話し込んでいました。

そんな話をしている間に、寄本編集長が短時間での充電を終えて出発したのが目の端に見えましたが、充電回数はあと1回こちらの方が少ないだろうと予想していたので、「ふ、ふ、ふ、どうぞお先に」と余裕をかましてみたのでした。

なおこのドライバーさん、この時はシトロエン『C6』に乗っていたのですが、行き先を話したわけでもないのにゴール地点の大間崎でも見かけたのでした。『C6』は多くないし同じ色だったので、たぶん間違いないと思います。大間崎でも少しお話できればよかったです。

熟睡して逆転を許す

さて、いよいよ下北半島です。当初の計画では、三沢市を経由して下北半島の真ん中にある六カ所村か、横浜町の道の駅で充電をしようと考えていたのですが、実績を踏まえると折爪SAからむつ市内の日産販売店まで十分に行けそうです。しかもむつ市内では、10分くらいの補充電ですみそうです。一気に下北半島を駆け抜けることにしました。

ただ、途中、「上北自動車道」という初めて見る名前の高規格道路で「青森」という標識を見たときには、「もしかして間違えた?」と思ったのですが、ちゃんと正しい道のりでした。全国にこうしたバイパスが増えてるんですねえ。20年前に初めて来たときには、こんな道はなかったのです。

信号のない上北自動車道から野辺地町を回って、国道279号線を北上すると、流れもよく、快適な道が続きます。

なのですが、ここで再び睡魔と尿意がやってきました。とくにお手洗いはガマンしてはいけません。むつ市内まで残り数キロのところにあったコンビニに駆け込み、ホッと一息ついたのでした。

ついでにコンビニ駐車場で寄本編集長と篠原さんの位置を確認すると、だいぶ差をつけているように見えました。少し太陽も出てきて、とてもいい春の陽気になっています。少し昼寝をしてもいいのではないでしょうか。

30分、寝ました。熟睡です。気持ちよかったです。睡魔も姿を消しました。

30分以上動かない500eにセグ欠けリーフが肉薄!

ふと目を覚ましてGoogleマップを見ると、なんと数キロ後ろに寄本編集長が迫ってきているのがわかりました。

寝過ぎました。

いそいで準備をして出発し、最後の充電目的地、日産プリンス青森販売下北店を目指します。最短ルートから少し外れていますが、50kW器があるので補充電の時間を短くできると考えてここに決めました。

ところが、これが失敗でした。なんとこの日産ディーラーの他にもう1店舗、大間崎への最短ルート上に別の日産ディーラーがあったのです。見逃していました。後から来た寄本編集長は、ここに立ち寄って充電したのでした。

しかも筆者は、10分の補充電でよかったのに充電中にまたしても少し寝てしまったのでした。気がついたときには寄本編集長は短時間の充電を終え、大間崎を目指して走り出していました。

最後の充電。

「しまった」と思い充電を止めて出発したものの、後の祭りです。一般道で差が縮まるわけもありません。

12時40分、大間崎のゴール地点に到着。力を込めないとドアがあかないほど強い風が吹く中、10分ほど前に到着していた『リーフ』の横に『500e』を並べたのでした。

有明ガーデンを出発してから16時間27分。平均速度は約68km/h、平均の電費はメーター表示で7.8km/kWhになっていました。

走行&急速充電データ

急速充電
回数
場所充電器メーカー
最大出力
区間走行距離
(km)
充電開始時間充電時間開始時SOC
(%)
終了時SOC
(%)
充電電力量
(kWh)
スタート04/12
20:13
100
1上河内PA下り東光高岳
40kW
15322:0730分458515.3
2安達太良SA下り東光高岳
40kW
1294/13
00:11
30分378015.8
3鶴巣PA下り東光高岳
50kW
13202:2930分308020.1
4紫波SA下り東光高岳
50kW
13904:5630分237519.9
5折爪SA下り東光高岳
50kW
12207:0830分247620.0
6日産プリンス青森
下北店
東光高岳
50kW
14211:1120分216213.3
ゴール大間崎5212:40
トータル85916時間27分3時間00分104.4

20年ぶりの大間崎で初の大間のマグロ

筆者が大間崎に来たのは2回目です。前回は、日本EVクラブがメルセデスベンツ『Aクラス』をコンバートしたEVで実施した、「2001年充電の旅」に自分の車で追従してきて、大間崎から函館にフェリーで向かうドライバー2人を見送りました。

この時は、夕方のフェリーを見送ってすぐ、東京にとんぼ返りをしたので、なにも食べることができませんでした。

今回、初めて、大間のマグロをカマのステーキ等で堪能することができました。美味かったです。でもそれだけでなく、大間町の寺川食堂の迫力にも衝撃を受けたのでした。その理由は、またの機会に。大間町に行ったらぜひいちど、試してみてください。

20年ぶりの大間の海は、何も変わっていないように感じました。対岸に函館市を遠望できるのも、あたりまえですが同じ光景です。

でも、変わったこともあります。20年前は、鉛電池のコンバートEVに付き従って、あちこちで100Vのコンセントを借りながら1週間ほどかけて秋田から大間崎まで走りましたが、今回は17時間もかけずに東京から自走で来ることができました。そんな変化も感じることができた、『500e』での860kmでした。

だからといって、もう一度やれと言われたら、「ダメ、絶対」って返事してしまいそうですけども。

ところで復路は、往路とはまた別のチキチキ・ランをすることができました。近日中にリポートをお送りします。お楽しみに!

【結果レポートシリーズ記事】
第2回 チキチキ東京-大間キャノンボール対決〜Honda e で経路充電インフラの大切さを実感(2023年4月20日)
第2回 チキチキ東京-大間キャノンボール対決〜バッテリーの小さなEV3台で競争してみた(2023年4月20日)

取材・文/木野 龍逸

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

執筆した記事