ジープ初のEV『アベンジャー』試乗レポート/人生を楽しむ人のための電気自動車

9月26日に発売されたジープ「Avenger(アベンジャー)」に試乗。同じプラットフォームのフィアット「600e(セイチェントイー)」との差にも注目しつつ、ジープ初のBEVモデルのファーストインプレッションをお届けする。

ジープ初のEV『アベンジャー』試乗レポート/人生を楽しむ人のための電気自動車

車両の詳細については、先日の発表会の記事もご覧ください。

遊び心が詰まったクルマ

はじめにアベンジャーのスペックをおさらいしておく。全長4105mm、全幅1775mm、全高1595mmのジープ史上最小サイズボディに、54.06kWhのバッテリーと115kW/156ps、270Nmのモーターを搭載。一充電走行距離486km(WLTCモード、EPA換算推計値は約388km)を与えられた、BセグメントのコンパクトSUVに位置付けられる電気自動車だ。

実車には発表会で対面しているので、今回は早速走り出してみた。するとジープがこのクルマに与えたひとつ目の仕掛け(遊び心)に気づいた。ウインカーを出すと、まるでバスドラムを鳴らしたあとに、スティックでスネアドラムの縁を叩くような感じの音色で「ドン、カッ、ドン、カッ」とリズムを刻む。ウインカーの作動音はリレーが発していた機械音を模した音をスピーカーから出すようになって久しいが、リレーの機械音のイメージからこんなに離れた(ある意味無視した)面白いウインカー音のクルマに接したのは初めてだ。

そして改めて外観を細部まで観察すると、ジープが散りばめた遊び心を見つけることができた。フロントのロアグリルには同ブランドのアイコンである7スリットグリルと丸いヘッドライトのプレート、ガラスには望遠鏡を覗く少年、ルーフにはてんとう虫が配置されている。アベンジャーのオーナーになったら、これらに気づく度に頬が緩みそうだ。

悪路走破性を実現する足まわり/乗り心地はしっかり目

アベンジャーのサスペンションは、競合他社の平均に対して2割増の減衰力が与えられているとのこと。ボディの上下動、ロール、ピッチングの動きを抑えることで、「ハンドリングと快適性に妥協することなく、悪路での最高の挙動を実現する」と謳われている。実際に600eとも明確に異なる乗り心地だった。

路面の段差やマンホールなどを、600eは最小限の揺れで通過し、うねりはふわっとバウンドしていなすのに対して、アベンジャーは段差なりのショックを伝え、うねりもその通りになぞる感じだ。ただしガタピシと固いわけではなく、完全に許容範囲の乗り心地で、むしろアベンジャーの方が「普通」かもしれない。それほどに600eは「優しい」乗り心地だった。

なお、アベンジャーには2つのタイヤサイズがある。今回の試乗車である標準グレードのアルティテュードの215/60R17と、オプションのスタイルパックおよび150台限定のローンチ・エディションが装着する215/55R18だ。幅は同じで扁平率も5%しか変わらないので、おそらくタイヤによる乗り心地の変化は少ないのではないかと思う。BEVはタイヤによって一充電走行距離が変化するが、前述のようにタイヤ幅は同じ。カタログスペックでも17インチが486km、18インチで485kmと1kmしか違わないので、スタイル重視で18インチを選んでも航続距離、乗り心地ともにデメリットは最小限になると思う。

アルティテュードの215/60R17サイズのタイヤ。メーカーはGOODYEAR、商品名はEfficientGrip 2 SUV。空気圧は前後ともに250kPa、積載量が多い場合のリヤが280kPaになることを含めて18インチも同じ設定値。

走りに関する部分では、ジープでは「セレクテレイン」と呼ぶドライブモードに、600eと比べてスノー、マッド、サンドの3つが追加されているのが注目すべきトピックだが、ドライ路面の街乗りである今回のテストドライブではその真価を試せる場面はなかった。ノーマル、エコ、スポーツの差は600eと同じで、スポーツにするとアクセルレスポンスが良くなる。エコはパワーを絞りすぎていないのが好印象だった。

セレクテレインでスノーを選択した場合のドライバーディスプレイ。右上に選択された「SNOW」が常時表示になる。

なお、600eと同じようにアベンジャーにもワンペダルモードはない。DとBレンジをワンタッチで切り替えられるが、Bレンジにしても回生度合いが一気に強まるほどの印象ではないことも共通していた。

1570kgの車重に対して、2.5〜3リッターのNAエンジンのような270Nmのトルクを、出だしから発揮するモーターのおかげで、必要十分な加速力を持っている。欧州仕様値の0-100km/h加速は9秒、最高速は150km/hだ。

Bセグメントでも余裕のある室内空間

インテリアについては各種スイッチのデザインや配置も600eと同じなので、機能面は変わらないが、シートやドアトリムなどのカラーがアベンジャーは黒、600eは白と異なるため車内の雰囲気はガラリと変わり、それぞれの車種に合わせた色の使い分けがされている。

シフト操作はセンターコンソールの大きな収納スペースの上にあるP、R、N、D/Bの4つのボタンで行う。

運転席に標準装備のマッサージ機能を試してみると、腰をほぐすようにランバーサポートが下から上に連続する動きを繰り返す。これは、運転中に体勢を変えづらいドライバーにはとても有効だと思った。特に寒い時期はシートヒーターと合わせて使うと腰痛持ちの方も良いかもしれない。

マッサージ機能のスイッチはシートクッションの右側にある。フロアマットは「X」の文字をカモフラージュした「X-camo」デザインのオプションで49500円。助手席は電動ではなく手動調整だが、シートヒーターはある。

600eも後席(頭上に3.5cmの余裕)には筆者でも問題ないスペースが確保されていたが、よりボクシーなスタイルのせいもあってかアベンジャーの頭上には4.5cmの空間があった。なお、筆者がドライビングポジションを決めた運転席との間の膝前のスペースは14cmだった。シート下に爪先は入らないが、シートクッションから太ももが浮くこともなく、背もたれの角度も含めて着座姿勢に問題はなかった。

後席のリクライニング角度は調整できない、後席足元の中央は約14cm盛り上がっている。

ラゲッジスペース容量は5Lの差(アベンジャー:355L、600e:360L)があり、見比べるとホイールハウスの張り出し具合がわずかに違う。筆者実測値では、最大幅は118cm(600eは117cm)、最小幅は89cm(同100cm)、奥行きは65cm(同69cm)だった。後席シートを全て倒してもフラットな床面にはならないので、車中泊の快適な寝床を作るには工夫が必要になりそうだ。

リヤシートは6:4の分割可倒式シートを採用している。

無骨なジープスタイルが最大の魅力

ジープブランドということでアベンジャーにAWD仕様を期待していた方がいるかもしれないが、このコンパクトサイズでAWDが欲しい場合、現時点ではレネゲードのPHEVしかない。アベンジャーのAWDについてジープブランドのグローバルプロダクトプランニングを担当するマット・ナイクイスト氏に確認したところ「検討している」とのことで明確な答えはなかった。600は来春に日本にもマイルドハイブリッドの導入が予定されているが、このクルマもイタリアのウェブサイトを確認すると駆動方式はFWDだ。

とはいえ、例えばすでにラングラーを持っている人のセカンドカーに、街中で扱いやすいサイズのアベンジャーは最適だと思うし、AWDが必須ではない人には一充電で実質300km以上を走り切る(厳寒期はもっと短い数値になるだろうが)性能をもつアベンジャーはファーストカーにもなり得ると思う。

未来的、先進的なイメージやデザインが多いBEVの中に、ジープらしい無骨さをも感じさせるルックスで登場したアベンジャーは、電気自動車の選択肢に多様性をもたらしてくれる1台だと感じた。

主要スペック

ジープ
アベンジャー アルティテュード
全長(mm)4105
全幅(mm)1775
全高(mm)1595
ホイールベース(mm)2560
トレッド(前、mm)1540
トレッド(後、mm)1530
最低地上高(mm)200
車両重量(kg)1540
乗車定員(人)5
最小回転半径(m)5.3
車両型式ZAA-FH1JE
プラットフォームeCMP2
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)127
一充電走行距離(km)486
上記のモードWLTC
EPA換算推計値(km)388
モーター数1
モーター型式、フロントZK02
モーター種類、フロント交流同期電動機
フロントモーター出力(kW/ps)115/156
フロントモータートルク(Nm/kgm)270/27.5
バッテリー総電力量(kWh)54.06
急速充電性能(kW)50
普通充電性能(kW)6
駆動方式FWD
フロントサスペンションマクファーソンストラット
リアサスペンショントーションビーム
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキディスク
タイヤサイズ(前後)215/60R17
荷室容量(L)355
0-100km/h加速(秒)9(欧州仕様値)
最高速(km/h)150(欧州仕様値)
Cd値(空気抵抗係数)0.338
車両本体価格 (万円、A)580
CEV補助金 (万円、B)65
実質価格(万円、A - B)515

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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