米機関の安全性評価でテスラ「モデル3」が最高格付けに認定

IIHS(Insurance Institute for Highway Safety=米道路安全保険協会)が実施している安全性評価の格付けで、テスラ「モデル3」の2019年モデルが最高評価の「トップ・セーフティ・ピック・プラス(TOP SAFETY PICK+)」に認定されました。テスラは9月18日にブログで認定を発表。米国の全国紙、USA TODAY電子版が「It’s a very safe car」という見出しで報じています。

米機関の安全性評価でテスラ「モデル3」が最高格付けに認定

Model 3 Earns the 2019 IIHS TOP SAFETY PICK+ Award(テスラ社のブログ)

Green vehicles shine in IIHS safety tests – IIHS News(YouTube)

このところ、中国市場でEVの発火事故が続いていることが報じられるなどして、「EVの安全性ってどうなの?」っていう懸念の声が出てくることもあるようですが、EVsmartブログでも「電気自動車はガソリン車に比べて火災を起こしやすいのか?」でお伝えしたように、テスラ車の安全性能は高く、EV「だから」リスクが高いという根拠はありません。

【関連記事】
電気自動車はガソリン車に比べて火災を起こしやすいのか?

こうしたことに加えて、今回、モデル3が、厳しい内容で知られるIIHSの評価試験で既存の内燃機関の車と同等かそれ以上の高い評価を得たことは、EVに対する漠然とした不安を払拭するものと言えそうです。

IIHSの評価試験ってどんなもの?

IIHSは米国の保険会社が1959年に共同で設立した非営利団体です。当初は高速道路の安全支援を主目的にしていましたが、1969年に独立した研究期間として再出発して以降、科学的なアプローチで事故の損失を減らす研究に取り組んでいます。

IIHS(About us)

IIHSの研究は、運転手の疲労の問題やシートベルトの研究、車道からの逸脱防止や車道脇の危険排除など多岐にわたります。中でも自動車業界に大きな影響を与えてきたのが、衝突時の乗員保護や衝突回避の研究でした。

IIHSでは1969年にバンパーの試験を手がけたのをかわぎりに、73年に後方からの衝突によるガソリンの漏えい試験の実施、74年に事故時の乗員傷害度の評価方法を開発、76年に衝突試験でエアバッグの効果を評価するなど先進的な取り組みをしてきています。

92年にはVRC(車両研究センター)を開設し、ここを拠点に衝突試験を実施しています。

IIHSの衝突試験は、より現実世界に近づけるための項目を率先して採り入れたことで知られています。例えば、車の前方から正面衝突するのではなく、車が少しずれた状態(オフセット)で対向車や障害物にぶつかると想定した前面オフセット衝突試験は、IIHSが採り入れた後に、先進国の公的機関での衝突試験に導入されました。

IIHSのオフセット衝突試験は、前面の幅の40%が対向車などに衝突することを想定した、40%オーバーラップという方法です。衝突時の時速は64kmです。

車の一部に荷重が集中するオフセット衝突は、正面衝突に比べると車体の変形量が大きくなるため、乗員がけがをしないための車内空間、とくに足元のスペースを確保しておくのが難しくなります。IIHSがオフセット試験を導入した当初は、ほとんどの車が低評価になり、自動車メーカーからは厳しすぎるという声も出ました。

そんなオフセット衝突試験も、今ではNHTSA(米運輸省道路交通安全局)が実施しているNCAP(新車アセスメントプログラム)、NCAPの欧州版のEuro NCAP(ユーロNCAP)や、日本版のJNCAPでも実施していて、高評価を得るのがあたりまえになっています。

テスラ・モデル3の前面40%オーバーラップの衝突試験の様子

テスラ・モデル3の側面衝突試験の様子

IHSのテストはさらに厳しくなります。2003年には側面衝突テストを導入。これはサイドエアバッグの普及につながりました。2012年には前面オフセット衝突に25%オーバーラップの試験を追加したほか、2013年には非常時の自動ブレーキによる衝突回避性能試験を追加しました。

これらの試験結果をもとに、IIHSは高い安全性能をもつ車について2006年から「TOP SAFETY PICKs(トップ・セーフティ・ピックス」、2013年からはさらに上位ランクの「TOP SAFETY PICK+(トップ・セーフティ・ピック・プラス)」に認定し、ユーザーに情報提供をしています。

トップ・セーフティ・ピック・プラスの認定を受けたEVはアウディ「e-tron」が初

IIHSが初めて、トップ・セーフティ・ピック・プラスに認定したEVはアウディ「e- tron」2019年モデルでした。個別の評価結果を見ると、すべての項目で「Good」が並んでいます。

あ、紹介が遅れましたが、IIHSの性能試験の評価は基本的に、「Good(優)」「Acceptable(良)」「Marginal(可)」「Poor(不可)」の4段階になっています。

では、今回トップ・セーフティ・ピック・プラスを獲得したテスラ・モデル3の項目をざっと見てみましょう。

IIHSウェブサイトより

個別評価では、やっぱりズラッと「Good」が並んでいます。数少ない「Acceptable」は、運転手の足元下部のけがの評価と、チャイルドシートのラッチの使いやすさとチャイルドシートアンカーの総合評価です。でもこれは、EVとは関係ないですね。衝突試験はすべてが「Good」です。

テスラ・モデル3の前面25%オーバーラップの衝突試験の様子

25%オーバーラップの衝突試験の動画を見ると、運転席側の損傷が激しいことがわかります。評価結果からは、これでも足元空間は確保されていることになります。

テスラ・モデル3の結果を受けて、IIHSのチーフリサーチオフィサーのDavid Zuby氏はUSA TODAYの取材に対し「電気自動車がほしいと思ったときに、安全性を犠牲にする必要はありません」「自動車メーカーの取り組みは順調で、最先端の安全技術を投入しています」と述べています。

またテスラ社は同社のブログで、フロントのエンジンがなくなったことで衝撃を吸収するエリア(クランプルゾーン)を広くとることができたのが、最高評価獲得の大きな要因になったと説明しています。

ちなみにUSA TODAY電子版によれば、シボレー「BOLT」は衝突試験では良好な成績だったものの、ヘッドライトのテストで評価が低かったのがネックになったようです。確かに詳細結果を見ると、BOLTのヘッドライトは「Poor」の評価。IIHSは、コーナリング時のヘッドライトの照射角度や対向車からの見え方(眩しいと点数が低い)などを評価していて、BOLTはロービームが過剰に眩しかったと評価されています。いずれにしても、EVだから何かがあったということではありません。

ちょっと変わり種では、ヒュンダイの燃料電池車「Nexo」2019年モデルがトップ・セーフティ・ピック・プラスに選ばれています。

IIHSが、モデル3と同じミッドサイズの上級セダン(Midsize luxury cars)2019年モデルでセイフティー・ピック・プラスに認定したのは他に、レクサスES 350、BMW3シリーズ、メルセデスベンツCクラスでした。ちなみに日本車では、ミッドサイズのスバル・アウトバック4ドアワゴンと、トヨタ・カムリ4ドアセダンなどがセイフティー・ピック・プラスを獲得しています。

2019 TOP SAFETY PICK+ winners(IIHS)

電池の安全性はどうなの?

冒頭で少し触れたように、中国でEVの発火事故が続いていることが報じられ、EVの電池の安全性に対して疑問を呈する記事も見られます。ただ、今年8月のJETROのリポートを見ると、発火事故は中国製EVが中心で、テスラの報告は1件のみのようです。

またベンチャー企業の上海蔚来汽車(NIO)は、上海市で発生した「ES8」発火事故の後、リコールを発表しています。対象は、JETROのリポートによれば4803台です。

ES8の発火事故の原因は、バッテリーモジュールの配線が不適切だったため、カバーをしたときに圧迫されて絶縁体がショートしたためと発表されています。製造元は中国の寧徳時代科技でした。ただ、これもJETROのリポートによれば、寧徳時代科技は自社が供給したバッテリーモージュールが、NIOが設計したバッテリーパックと干渉したためとし、モジュールの配線の問題には触れていないようです。

バッテリーが発火するのは、熱暴走と呼ばれる現象が起きるためです。リチウムイオン電池は、正極と負極を分けているセパレーター(絶縁材)がなんらかの原因で損傷して内部が短絡したり、過充電が原因で、電池の一部が異常発熱すると、一定の温度以上になった時に温度上昇が止まらなくなり発火したり爆発したりします。セルが熱暴走すると、他のセルの温度を上昇させて影響が広がることがあり、連鎖反応が続くと大きな発火事故になります。

材料評価などを手がけるコベルコ科研は、18650というテスラにも使われている直径18mm、全長65mmサイズの電池の内部短絡試験で温度が150度を超えると暴走したという結果を公表しています。暴走時の温度は1000度を超えるという報告もあります。

ただ、メーカーの多くは、くぎ刺しや圧力をかける試験など厳しい条件をクリアした電池をEVに使用しています。またブルームバーグニュースの記事でも触れているように、NHTSAは2017年のリポートで、EVの発火や爆発のリスクは内燃機関の車に比べて同等か、やや低いと報告しています。

独特の設計思想のテスラ

もうひとつ付け加えると、テスラは汎用の18650(モデルSなど)や2170(モデル3)という小さなセルを大量に組み合わせて使っているため、熱暴走が起きにくいのではないかと見る自動車関係者もいます。

直径21mm、全長70mmのリチウムイオン電池のセル

リチウムイオン電池の熱暴走が怖いのは、単位あたりの貯蔵エネルギーが大きいためです。またEV用に設計されているリチウムイオン電池は、できるだけシステムをコンパクトにするためにセルを大きくしています。セルのエネルギーが大きければ事故時の爆発力も大きくなるため、より高度な熱暴走対策が必要になります。

一方でテスラの電池は、小型のセルを組み合わせています。セルのエネルギーは大型の電池に比べて小さいので、熱暴走をしたときに他のセルに与える影響も小さくなります。また、望ましくないことですが、もしセルのひとつに問題が発生した場合でも、システム全体への影響が小さくてすみます。

もちろん、数が増えれば全体のシステム管理に高度な制御技術、ソフトウエアが必要ですが、電池の設計生産に比べればコストは少なくてすむ可能性があります。なにしろ場所はシリコンバレーです。

余談ですが、この考え方は、テスラがロードスターを設計した時からのものでした。当時、テスラは三洋電機から18650の供給を受けていました。言ってみれば、乾電池で車を動かすようなものです。

時代的にまだ大型のEV用電池がなかったというのが主な理由ですが、小さなセルを組み合わせることでトラブルの影響を抑えられるという発想の転換は、他メーカーの技術者も感心していました。設計思想はメーカーによって違いますが、テスラは当初から、電池の安全性確保に関して独特の考え方を持っていたことがわかります。

2008年にパロアルトにあったショールームに置かれたロードスター

僕がそんな話をテスラで聞いたのはロードスターしか作っていなかった10年以上前のことですが、当時は車体の衝突安全性確保にまで手が回っていたのかどうか、怪しいように感じています。それはそれとして、乗ったらものすごく楽かったのは確かです。

それが今回、モデル3でIIHSの最高格付けを獲得したというのは、テスラがユーザーの安全確保を高度の優先事項として考えていることの証左であり、自動車メーカーとしての存在感を、市場やユーザーに強く印象づけたということなのかもしれません。

(木野龍逸)


4 thoughts on “米機関の安全性評価でテスラ「モデル3」が最高格付けに認定”

  1.  初めまして!
    いつも拝見してます。nです!
     テスラに興味を持ったのは、父に庭先で
    車をぶつけられてからです!
     いつかわかりませんが、安全・安心なテスラを
    所有したいです!

  2. 「単位あたりの貯蔵エネルギー」は、意味が不明瞭だと感じました。意図したのは「単位体積あたりの貯蔵エネルギー」とか「セルひとつあたりの貯蔵エネルギー」でしょうか。ご確認いただけますか。

  3. 中国での今年のテスラの火災は1件だけと、さらっと流されていますが、発生している以上、ユーザーやユーザー予備軍には気にはなりますよね。

    もちろん、NIOなどとは深刻度は別次元なのは判りますし、テスラ(火災のあったモデルS)がとりわけ危険な車とも思いませんが、それでも火災が発生した以上はなかったように扱うのはどうでしょう。

    むしろ、その状況や対応を取材して頂く方が、真の安心を得られるのではないでしょうか。(安心できるような対応がされていれば、ですけれど)

    今回は、3月に香港で停車中にバッテリー火災が発生し、テスラは原因調査中としながらもバッテリーの寿命と温度管理のためのソフトウェアアップデートをその後に発表しています。そして、なぜかそのアップデート作業不備について4月の上海の火災の調査状況の発表の中で触れるなど、テスラの振る舞いもちょっと不安にさせる部分があります。

    実際の火災では、バッテリーモジュールから別のモジュールへの延焼がきちんと防がれていたとか、居住スペースは守られて避難する時間は稼がれていたとか、テスラが発表した火災の状況の中にはポジティブな情報もあります。

    衝突安全性能の最高評価は素晴らしいと思いますし、物理的なダメージに危険を伴う電池を積む以上、安心に寄与するのは間違いありません。

    しかしながら、上海や香港の車両火災は衝突時に発生している訳ではありませんから、電池の火災については衝突安全性だけでは防げません。

    機会がございましたら、もう少し深掘りして頂ければと思います。

    1. MZY様、コメントありがとうございます。今後、新しい情報が入りましたらまた報告していきたいと思います。
      車両火災は世界中で発生しています。そして国土交通省のデータベースを検索していただくと分かりますが、車両火災は燃料やバッテリー以外の原因でも非常に多く発生しています。
      つまり火災が起こったからと言って、必ず燃料系やバッテリー系・充電系に問題があったかどうかも、結局は車両メーカーが発表するデータを信じるしかない部分はあります。
      http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/cgi-bin/accidentsearch.cgi
      ここから仮に、車歴4年以内、今年1-9月の間に火災が発生した原因を見ると、走行中2件、駐車中2件。走行中に関しては、走行中のエンジン破損によるオイルからの出火、オイルフィラーキャップの閉め忘れによるオイルの飛散による出火。駐車中に関してはエンジンルームに可燃物を置き忘れてそれが原因となって出火、シートヒーターが故障し過熱して出火となっています。このレベルでデータが出てくるようになるまでには、もう少し時間がかかるかもしれません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です