脱化石燃料実現のために人類は何をするべきか? テスラ「2023 Investor day」徹底解説【01】

2023年3月2日に開催された「Tesla’s 2023 Investor Day」を翻訳者でテスラオーナーの池田篤史氏が3回に分けて徹底解説。第1回は、イベントの冒頭で説明された「化石燃料から再生可能エネルギー(電力)に切り替えるには何をすべきか」というテーマについて解説します。

脱化石燃料実現のために人類は何をするべきか? テスラ「2023 Investor day」徹底解説【01】

人類の未来への明るい希望のメッセージ

テキサスで日本時間3月2日に開催された「Tesla’s 2023 Investor Day」。このイベントに先立ってイーロン・マスクは、「ここで言うInvestor(投資家)とは、地球の未来に関連する人類や生命という、限りなく広い定義である。このイベントは未来への明るい希望のメッセージになるだろう」とツイートしています。

テスラの株主や関係者のための発表にとどまらず、脱化石燃料についてあまり考えたことがない人が、考えや行動を変えるきっかけになるイベントだったといえるでしょう。

イベントは3部構成で、それぞれの以下のようなテーマでした。

【1】化石燃料から再生可能エネルギー(電力)に切り替えるには何をすべきか
【2】テスラは再エネにシフトするために何をしているのか
【3】そうすることでテスラにどのようなメリットがあるのか

最後のQ&Aまで含めると3時間半の長丁場でした。今回の記事では3回に分けて、徹底的に解説します。

2023 Investor Day(YouTube)

再エネシフトには240TWhのバッテリーが必要

人類が再エネにシフトするのに環境を破壊したり、我慢を強いられる必要はなく、十分過ぎるほどのエネルギーが得られる方法がテスラには見えています。計算根拠を記した白書がこちらのリンクで公開される(解説スライドのPDFは公開済み)ので、ご興味のある方はぜひ検算してみてください。

化石燃料を廃して再エネによる電気だけで人類を支える上で、まず足りないのが太陽光や風力で得た電力を貯めておくバッテリーです。試算では240TWh(テラワット時)必要だそうです。現在、おそらく世界中でまだ2~3TWhぐらいしかバッテリーがないだろうから、途方もなく遠いゴールに見えますが、十分なマージンを取って計算しても、今後10年間、世界経済の1%を再エネに向けるだけで実現できるのです。また、ソーラーや風車を設置する土地も陸地面積のたった0.2%しか必要ありません。日本に当てはめると約756平方キロで、おおむね福島県郡山市と同じサイズですね。

次に、どの分野を電気に置き換えていくと、脱化石燃料を達成できるのか、テスラでは5つの分野に的を絞っています。

① 電力需要を再エネでまかなう
② 自動車をEVにする
③ ヒートポンプを使う
④ 工業用に高温処理とグリーン水素を利用
⑤ 飛行機や船も電力で動かす

グラフ上段に書かれている数字を足すと100%になるのですが、これ以外にも石油の使用方法はあるため、石油からの完全な脱却ではありません。

まず①について、アメリカでは2022年に新たに建設された発電容量の6割がソーラーで、この分野は放っておいても順調に増加すると見られています。

②のEVへのシフトも順調に伸びています。すべての車がEVに置き換わったとして、その内訳がこちらです。世界中に現在20億台の車があるとされ(日本自動車工業会の試算では15億台)、自動運転とロボタクシーが実現すると車1台あたりの稼働率が上がるため、必要な車の台数が14億台ぐらいに減る前提です。下図ですが、これだけのテスラ車が売れるという意味ではなく、例えばフルサイズセダンは40M(4000万)台ぐらい存在するだろうという意味です。

右端のベールで覆われている2台のうち、片方はコンパクトカー(いわゆるModel 2)でしょうけど、こちらはSUVか、ワンボックスか何を表しているのでしょうね。アルファードクラスのワンボックスで、かつ、商用バンにも使い回せるプラットフォームだと、日本を含むアジア圏でよく売れるでしょう。テスラさん、早く作ってください。

③はヒートポンプの普及です。最新のテスラ車はもれなくヒートポンプを装備しており、この技術を工場や住居に転用することを目論んでいるようです。ヒートポンプとは、簡単に言うとエアコンの逆だと思ってください。夏にエアコンを使うと、部屋が涼しくなって室外機は熱い空気を出しています。テスラの暖房は、外の世界をエアコンで冷やして、室外機から出た熱をキャビンに送風しています。ガス暖房と比較して3分の1のエネルギーしか必要としないので、重油やガスを燃やしているセントラルヒーティングの家が多いアメリカでは特に効果的です。

④は皆様が直接目にする機会は少ないですが、工業用の熱やエネルギーをどう電気に置き換えていくかという話です。日中に太陽から得られた電気をバッテリーに蓄えるのではなく、熱や水素に換えて貯蔵し、必要な時に取り出します。

最後に⑤ですが、イーロン・マスクは「化石燃料と電気は全く別のエネルギー源だということを前提に船や飛行機を設計しなくてはならない」と述べています。ガソリン車と共通プラットフォームのEVも存在しますが、専用設計のEVにはどうしても劣ります。同様にタンカーや飛行機も専用設計にすることで、近い将来の電動化が実現ができるとテスラは考えています。

第1部の最後に説明されたのは、バッテリー用の資源についてです。リチウムやニッケルなどは十分に採掘できるし、乗用車はニッケルすら不要で、地球に有り余っている鉄を使ったリン酸鉄(LFP)バッテリーにすれば良いと言っています。やがては寿命を迎えたバッテリーをリサイクルしてリチウム等を取り出せるため、20~30年後にはほとんど鉱物資源を新規に採掘しなくて良くなるでしょう。ガソリンは燃やしたらまた次の石油を掘らないといけないので、そこが大きな違いですね。

以上が第1部の内容でした。次回の記事では、第2部と第3部について徹底解説します。

文/池田 篤史
※記事中の画像はTeslaのPDF資料やアーカイブ動画から引用。

【連続企画】
脱化石燃料実現のために人類は何をするべきか? テスラ「2023 Investor day」徹底解説【01】
再エネシフトのためのアクションとは? テスラ「2023 Investor day」徹底解説【02】
次期コンパクトEVをいち早く手に入れる方法は? テスラ「2023 Investor day」徹底解説【03】

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 「ヒートポンプ」を暖房、「エアコン」を冷房と誤解されていないでしょうか。「ヒートポンプ」とは熱媒体を利用して熱を移動させる方式のことで、冷却と加熱どちらにも利用します。ヒートポンプ方式を利用しているのは、家庭用エアコンやEV用エアコン(冷却と加熱両方)、一般的なクルマのエアコン(冷却のみ)、冷蔵庫や冷凍庫(冷却のみ)、エコキュート(加熱のみ)など多岐にわたります。

    ヒートポンプは、電気エネルギーから電熱線などを介して熱を得るよりも、同じ電気エネルギーでより多くの熱を得られるため、暖房のために化石燃料を燃やさずに、いわゆる「ルームエアコン」による暖房を普及させよう、ということでしょう。

  2. ソーラーや風車を設置する土地も陸地面積のたった0.2%しか必要ありません。という話はおそらく世界全体の事だと思います。
    世界の陸地面積は日本の約380倍ですが、電力需要だと世界は日本の約27倍です。

  3. この解説の中で日本地図で郡山市を示して「ソーラーや風車を設置する土地も陸地面積のたった0.2%しか必要ありません。日本に当てはめると約756平方キロで、おおむね福島県郡山市と同じサイズですね」とあります。郡山市の面積が日本の面積の0.2%なのは確かですが、日本の電力を太陽光で賄うにはこの10倍以上の面積が必要だと思います。

    例えば、自然エネルギー財団の記事には「太陽光発電は地面に太陽電池パネルを設置して発電される。日本やドイツの平均発電量は、1平方メートルあたりで年間0.1MWh(100kWh)程度だ。この計算によれば、日本の年間電力消費量約1,000TWh(1兆kWh)を賄うために必要な面積は、日本全土の2~3%程度ということになる」とあります。
    https://www.renewable-ei.org/column/column_20150903.php

    これによると日本の電力を供給するのに必要な面積は約10,000平方キロで、市レベルではなく県レベルの面積が必要で、岐阜県か青森県くらいの面積が必要になります。

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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