テスラ2023年第3四半期の台数速報〜やや低調も年間180万台目標に変更はなし

テスラ社は2023年10月2日(現地時間)に、2023年第3四半期の生産台数と納車台数の速報を発表しました。生産、納車はいずれも前期を下回っていますが、前年同期は上回りました。テスラ社は生産設備のアップデートが原因と説明しています。速報をお伝えします。

テスラ2023年第3四半期の台数速報〜やや低調も年間180万台目標に変更はなし

生産、納車のいずれも前期比減

電気自動車(EV)メーカーのテスラ社は2023年10月2日に、第3四半期(7~9月)の生産台数と納車台数の速報値を発表しました。

生産台数推移

納車台数推移

生産台数は、『モデルS/X』が1万3688台、『モデル3/Y』が41万6800台で、合計43万488台となり、前期47万9700台の89.7%に留まりました。ただし前年同期の36万5923台からは17.6%増加しています。

納車台数は、『モデルS/X』が1万5985台、『モデル3/Y』が41万9074台、合計43万5059台で、前期比13%減、前年同期比では26.5%の増加でした。

生産台数、納車台数がいずれも前期を下回ったのは、部品供給が滞った影響があった2022年第2四半期以来です。

生産台数、納車台数の減少についてテスラ社はニュースリリースで「工場のアップグレードに伴う計画的な稼働停止による」と説明しています。また前期決算発表時にも、今期の工場の稼働停止は予告されていました。

年間販売台数180万台の目標は維持

結果的に台数は減少していますが、テスラ社は今年の販売目標である180万台に変更はないと説明しています。

第1四半期から第3四半期までの販売台数(納車台数)は132万4074台なので、180万台にするためには47万5926台が必要です。この数字は四半期の数字としては過去最高になります。

そのため、需要喚起を狙ってテスラがさらに値引きをするのではないかと予想する投資家もいることを、ウォールストリート・ジャーナルが伝えています。

また工場のリニューアルに関して、期間は明示していませんが、ブルームバーグは『モデル3』がモデルチェンジをしたことと、サイバートラックの生産準備のため目標台数を2万台ほど下回ったと報じています。

もっとも、今期実績の約43万台に2万台を加えても、前期の約48万台には届きません。こうしたことから、年末までにどのくらい台数が戻るのか、また戻すために値下げをするのかなどに注目が集まっています。

来期目標の240万台は達成可能なのか

テスラ社の今期の業績を、市場はどのように見ているのでしょうか。NASDAQでは、生産と納車の速報値が出る数日前、9月27日に240.5ドルだったのが、発表日に向けて上昇し、10月2日には251.6ドルになっています。翌日には246.53ドルに若干下げています。

ただし、2023年1月からは大きく上げていて、株価は1月3日の108.1ドルと比較すると2倍以上になっています。投資家は短期的な実績をそれほど問題視はしていないのかもしれません。

来期以降については、中国市場での苦戦を予想するアナリストが多いようです。

ブルームバーグは、中国ではBYDが『シーガル』と『ドルフィン』によって低価格帯の販売台数を伸ばしていて、第3四半期でも過去最高の台数を記録したと報じています。加えて、ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、ジョアン・チェン氏は、BYDの第3四半期の売上高に占める輸出の割合は9%で、前期の5%から増加したと伝えています。

またウォールストリート・ジャーナルは、「近い将来、テスラは困難に直面する」とし、中国での競争激化や、テスラ社は中国に新型車を3年以上投入していないことなどを理由に挙げています。『サイバートラック』は中国では生産台数が比較的少ないと予想されていることも指摘しています。

こうしたことからウォールストリート・ジャーナルは、ドイツ銀行のアナリストがテスラ社の2024年業績見通しについて、「市場が考えているよりも販売台数の見通しがかなり低いため、業績予想にはかなりの下振れリスクがあると見ている」とし、来年の納車台数予想を240万台から210万台に引き下げたとしています。

業績予想は、当たるも八卦当たらぬも八卦なところがあるので参考程度に見ておけばいいと思いますが、中国市場での競争激化と、中国メーカーの台頭は来年以降のEV市場の動向に大きな影響を与えそうです。

BYDの台頭を予想するリポートも

少し話が変わりますが、興味深い記事があったのでご紹介しておきます。

UBSグループのアナリストは2023年8月に出したリポートの中で、欧米の自動車メーカーは中国製EVの台頭によって世界市場シェアの5分の1と失うと予想したそうです。ブルームバーグが9月11日付けの記事で伝えています。

リポートでは、BYDを筆頭に中国メーカーの自動車市場のシェアは10年後までにほぼ倍増し、33%に達すると予想しているそうです。同時に欧米の自動車メーカーの世界市場シェアは、2030年までに81%から58%に落ち込むことになります。

UBSの中国自動車調査の責任者、ポール・ゴン氏はブルームバーグの取材に「世界の自動車産業は今後10年ほどの間に激変する」と答え、「欧米のレガシー企業にとって危機的状況になるだろう」とコメントしています。

ただ、テスラ社の市場シェアは2%から8%に上昇する可能性が高いそうです。また、この記事の中に日本の自動車メーカーは出てきません。ちょっと蚊帳の外という感じです。

UBSのリポートが中国メーカーの急伸を予想する理由のひとつが、コストです。UBSは2022年型のBYD『シール』を分解したところ、部品の75%が自社製で、バッテリーや半導体を内製化しているBYDは、テスラ社の中国製『モデル3』に対して15%、フォルクスワーゲン『ID.3』に対して30%以上のコスト優位性を持つと評価したそうです。

BYDの垂直統合の強みはこれまでにも指摘されていることですが、コスト競争力の強さは世界的に高く評価されるようになったようです。

ちなみにUBSのリポートでは、中国メーカーはアメリカでは大きな事業展開をしないだろうという見通しとともに、日本、韓国、インドで中国メーカーが大成功を収めることはないとも予想しているようです。

確かに日本市場はかなり特殊で、日本車信仰のようなものがあります。これまでの欧州車を見れば、参入が容易ではないのはよくわかります。

と言っても、JAIAの統計によれば2023年8月に、BYDの車は744台が登録されています。とうぜん、全部EVです。ヒョンデは同月に264台です。

9月以降は、ヒョンデは『KONA』の販売が始まります。BYDも『ドルフィン』を発売し、高級セダンEVの『シール』も日本デビューする予定です。もしかすると中韓の自動車メーカーは、EVだけで欧米メーカーに追いつく、かもしれません。わかりませんけどね。

と言うことで、BYDなどの台頭によって既存の自動車メーカーが市場を失う可能性がある中でも、テスラ社はシェアを拡大するというのが、世界の見方です。

こうした予想は今後のEV市場の動向次第なところがありますが、ドイツのショルツ首相が9月に開催されたミュンヘン自動車ショーで、ガソリンスタンドの運営者の80%に150kWの急速充電ができる設備の設置を義務付ける法律を導入すると発表したことをロイターなど複数のメディアが伝えています。

欧米はまだまだEV普及に向けて歩みを止めないようで、テスラ社の成長は、伸び率の鈍化はあっても続きそうです。

テスラ社は10月18日(現地時間)に、第3四半期の決算を発表する予定です。

文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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