日本初開催の「INSTALLER DAY」とは?
2024年4月25日、テスラ社の蓄電池のテスラ認定販売施工会社などに向けたイベント「INSTALLER DAY」が日本で初めて開催されました。「テスラ」と聞くと一般的には高性能な電気自動車をイメージしますが、自動車と並ぶ主力製品として、家庭向け蓄電池のPowerwall(パワーウォール)や産業向けの蓄電池Megapack(メガパック)を販売しています。
Powerwall製品のうち初代Powerwallは国内では販売されなかったものの、Powerwall 2からは日本にも参入し、現在も家庭向け蓄電池の主力製品として販売されています。そして一番右が同社最新の家庭向け蓄電池となるPowerwall 3(主な特徴や仕様は次章で解説)で、米国では既に発売され、時期は不明ながら近日中に日本国内でも販売されると見られています。
テスラではこのPowerwallを販売するにあたり、世界各地で「認定販売施工会社」と呼ばれるパートナーシップを組む方法を採用。このパートナーを募集するための説明会が今回開催された「INSTALLER DAY」となります。今までは各事業者と直接相談や交渉を行って認定していましたが、さらに普及を拡げることを目指し、日本国内では今回が初めての開催となりました。
当日はテスラ社の取り組みやPowerwallの説明に加えて、ステージ上で施工デモを実施。短時間で容易に施工を完了できることが来場者にアピールされていました。
なお、同社はイベントに合わせて認定販売施工会社の募集に関するプレスリリースを発表していますので、興味のある事業者の方は以下のリリースをご確認ください。
【関連サイト】
テスラ家庭用蓄電池 Powerwall の認定販売施工会社を新たに募集(PR TIMES)
Powerwall 3はどんなところが進化?
イベントの注目ポイントの一つが、国内で初めて公開された最新の家庭向け蓄電池、Powerwall 3です。Powerwall 2からPowerwall 3になったことで外見と中身の両方が進化しています。
どんな進化を遂げているのか。まず、外見やデザインの違いとしては、一番目立つ前面が金属調からガラス調に変更され、より高級感が増しています。また、厚さが少し増した代わりに幅が狭くなり、より設置しやすい形状に変更。側面は黒色から金属調に変更されました。Powerwall 2の方が良かったとの声もありますが、実物を見ると前面のガラス調とよく調和していました。デザインは人によって好みがあると思いますので、国内での発売後、ぜひテスラのショールームで実物を確認してみてください。
次に、機能的な違いを見てみましょう。国内向けの仕様は未発表ですが、米国仕様におけるPowerwall 2との違いは以下の通りです。
Powerwall 2 | Powerwall 3 ※米国仕様 |
|
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サイズ(mm) | 1,150×753×147 | 1,099×609×193 |
容量 | 13.5kWh | 13.5kWh |
連続出力 | 5kW | 11.5kW |
ピーク出力 | 7kW | 13.5kW ※増設時30kW (マスク氏Xより) |
太陽光発電 パワコン | なし | 内蔵 最大20kW |
電池種別 | 三元系 | LFP ※報道より |
構成 | 最大10台 135kWh | 最大4台/ユニット 54kWh ※最大で4ユニット 216kWh (報道より) |
価格(税込) | 本体:1,000,000円 ゲートウェイ:21万円 | 未発表 ※米国では9,300ドル |
※最終的な価格は認定販売施工会社が提供し、これは地域や設置環境により差異が出る可能性があります。 |
大きな違いとしては、連続出力が5kWから11.5kWに大幅に上がった点、太陽光のパワコンを内蔵している点、三元系より長寿命とされるLFP電池を採用している点が挙げられます。
出力の向上は特にオール電化などで消費電力が大きい場合に恩恵を受けられるほか、次に解説するVPPでの本領発揮が期待できそうです。また、太陽光のパワコンを内蔵したことで太陽光発電と一緒に設置する場合の費用が抑えられるほか、充電時の変換効率が向上するメリットも。一方で、既に太陽光発電を設置済みの場合は無駄になってしまうため、国内での発売時にはパワコンを内蔵しないタイプが選択できるようになることに期待です。
Powerwall普及で期待されるVPPとは?
Powerwallを語るうえで、VPP(Virtual Power Plant=仮想発電所)としての活用は外せません。VPPは分散して設置された小さな蓄電池をまとめて制御し、仮想的に大きな蓄電池(=発電所)として動作させる考え方です。
例えば実証が進む米国などでは電力会社と提携したり、テスラ社が自ら「Tesla Electric」として電力事業に参入。自宅の太陽光で発電した電力や(太陽光が豊富な昼間などの)電力価格が安い時間帯に充電し、需要が多く電力価格が高い時間帯に売電することで、収入を得られる仕組みが整備されています。
Join our Virtual Power Plant in California directly via the Tesla app
Offered with @PGE4Me, @SCE, @SDGE to support the California grid with clean energy while earning compensation https://t.co/w93hflhAd4
— Tesla Energy (@teslaenergy) March 5, 2024
上記の例では3台のPowerwallでVPPに参加し、1年間の電気代が無料になったうえで、さらに$574.77の収入が得られたとしています。
また、同社は国内でも宮古島などの一部地域でPowerwall を活用したVPPを推進しています。
宮古島では株式会社宮古島未来エネルギーなどと提携し、各家庭に無料でPowerwallを設置。2022年8月には300台を突破し、2023年度には600台を見込んでいることが発表されていました。再エネを有効活用できるだけでなく、電力系統の安定化にも寄与。さらに台風など、災害時に停電した場合でも電気が使えるようになるとしています。
【関連サイト】
Powerwallによるバーチャルパワープラント「宮古島VPP」が日本最大級に。(テスラ公式ブログ)
また、今回のイベントで、災害対策を意識した興味深い展示がありました。
前述の通り、事前に太陽光発電やPowerwallを設置していれば、地震や台風などの災害で停電した場合でも電気が使えることに触れました。一方で、もし災害が発生した場合、あとから被災地に簡単に運び込めるキットがあれば、さらに便利になりそうです。
会場で展示されていたこのキットでは太陽光発電パネルとPowerwallに加え、能登地震でも活躍したStarlinkの衛星通信アンテナを設置。電気だけでなく通信をまとめて確保できる、災害時にピッタリの設備です。まだ仮置きのコンセプト段階ではあるものの、ぜひ実現してほしいと思います。
加えて、災害対策と合わせて重要な視点が、電力の脱炭素です。東日本大震災以降に火力発電が主力となった日本では再エネ比率の増加が喫緊の課題とされていて、Powerwallのような蓄電池は変動の大きい再エネを増やす上で欠かせない存在です。筆者(八重さくら)の事務所でも太陽光発電とPowerwallを導入していますので、いつの日か、PowerwallでVPPに参加できる日が来ることを心待ちにしています。
Powerwall認定販売施工会社の声
当日はPowerwallの販売に興味のある事業者のほか、既存の認定販売施工会社も参加。このうち、多くのPowerwallを販売し表彰された株式会社RSTの営業担当にお話を伺うことができました。同社は静岡県を拠点に太陽光やPowerwallなどの蓄電池を販売、施工。Powerwallは国内で発売された2019年から取り扱いを始め、これまでに数百台を設置したとしています。
Q. 一般的な蓄電池と比べたテスラPowerwallの特長は?
統計による4人世帯の平均的な使用量が13.1kWhで、1台で必要な容量が確保できること。さらに大容量でコンパクトなので、設置場所を選ばない。加えてPowerwallは太陽光発電設備との互換性を気にすることなく、全メーカーに対応可能。
Q. 導入したユーザーからの声は?
静岡県では2年ほど前に大雨による停電があり、被災された方から「導入して良かった」との声が。被災されていない方からも電気代の上昇や、増加する大雨などに対する不安が解消できてよかったいう声も。他にもコンパクトでデザイン性に優れた点が評価されている。
Q. 導入される際の台数は?
一般的な家庭であれば1台でほぼ賄えるため、1台が多い。経済性を重視しているので、過剰な提案は控えている。事務所などで2台以上を希望される場合は、消防法の届け出を経て設置している(必要な場合のみ)。
※筆者注:届け出の要否は自治体によって異なり、筆者の事務所がある千葉県木更津市では2台設置時でも届け出は不要でした。
Q. 太陽光と一緒に設置することが多い?
同時に設置する場合もあるが、卒FITなどで後からPowerwallだけ設置するニーズも。Powerwallの場合は単機能で全負荷型なので、メーカーを選ばず設置できる点が強み。また、太陽光発電パネルを付けられない家庭において、停電の不安を解消するために蓄電池だけを付ける場合も。
Q. 販売が伸びたきっかけは?
2019年の台風による千葉での大停電など、停電が報道された際に蓄電池全般の問い合わせが増加。近年は卒FITのタイミングでの問い合わせが多い。
Q. ユーザーは経済的に元を取る目的が多い?
きっかけとしては多いが、実際には必ずしも元が取れる訳ではないため、防災などの観点も含めて提案。新築においてはデザイン、見た目が決め手となる場合も。
Q. EVとセットで導入される人が多い?
Powerwallやテスラ車にはV2H機能はないが、テスラのファンなど、テスラ車の購入と同時に導入したいとの問い合わせも増えている。テスラ車とのセットの場合、停電時に車両へ電力が行き過ぎないように充電を自動的に止める機能がある。
Q. テスラ社への不満や要望は?
Powerwallはモニターがなくアプリで全て確認する仕組みだが、アプリの更新が頻繁で、見た目が変わる場合など、テスラ社からの連絡が来る前にお客様に配信されてしまう場合も。一方で、後から機能が増える点は素晴らしく、お客様にもとても好評。既存のメーカーとは違う、開発スピードが速いテスラならではという点でもあるので、そこは現場でうまくフォローできればと考えている。
(Q&A ここまで)
快く取材を受けてくださった株式会社RSTのご担当者さま、ありがとうございました。伺ったお話の中で筆者が特に共感できたのは、防災目的での導入や、災害などの停電をきっかけに問い合わせが増加したという点です。筆者の事務所がある千葉県木更津市では、実際に2019年の台風による停電で1週間近く停電。幸い2019年以降は大きな停電は発生していないものの、太陽光発電とPowerwall、そして電気自動車やStarlinkを揃えたことで、災害に対する不安を大幅に軽減できました。
備えあれば憂いなし、です。太陽光発電やPowerwallは戸建てでないと導入は難しいですが、筆者の場合は郊外の戸建てに移住して導入しました。人生の選択肢として悪くないと感じています。
テスラが目指す持続可能なエネルギーへの移行
テスラ社のWEBサイトで企業情報を見ると、最初に「持続可能なエネルギーへ、世界の移行を加速」という理念が記されています。同社は以前より化石燃料への依存から脱却して持続可能なエネルギーに移行するための計画(Master Plan)を公開、2023年の投資家向けイベント「Investor Day」ではその第3弾にあたる「Master Plan Part 3」を発表していました。
【関連記事】
脱化石燃料実現のために人類は何をするべきか? テスラ「2023 Investor day」徹底解説【01】(2023年3月26日)
これを達成するには再エネをはじめとしたクリーンな発電方法で電力を作り、それを変動する需給に合わせて蓄電池やEVなどで貯めることが重要です。以下の画像は2024年のQ1決算発表にて公開された、同社のエコシステムです。一番左を見ると太陽光発電と蓄電池で始まっていて、同社が持続可能なエネルギーへの移行を重視していることがわかります。
また、同社はこの決算発表にて産業向けを含む蓄電池製品の販売が4GWhを突破し、過去最高に達したことを公表。今回の日本初のINSTALLER DAY開催からも、同社が蓄電池製品の販売に注力していることが読み取れます。
一方で、世界で報道されているように世界の平均気温は2023年に過去最高を大幅に更新、2024年はさらに上昇しています(3月まで)。世界の気温を集計する欧州コペルニクス気候変動サービス(C3S)によると、2024年3月までの世界の平均気温は10ヶ月連続で過去最高を更新。さらに直近12ヶ月間ではパリ協定の「産業革命前から1.5℃未満に抑える」という目標を上回る、1.58℃高い水準となっています。
【関連サイト】
March 2024 – 10th consecutive record warm month globally(C3S)
化石燃料への依存を減らし、気候変動を緩和する。
テスラ社が目指す持続可能なエネルギーへの移行が進めば、きっと私たちが豊かな生活を続けるための礎となるでしょう。今後も同社のエネルギー製品への取り組みに注目しつつ、随時XアカウントやEVsmartブログにて最新情報をお届けしたいと思います。
取材・文/八重さくら
先日の宮古島での全島停電のニュース。
PowerwallによるVPPはどうなったのか、詳しいいきさつと共に知りたいこといっぱいです。
ぜひ、詳細な記事をお願いします。