2021年テスラ株主総会~イーロン・マスク氏プレゼンのポイント【まとめ】

2021年10月7日(日本時間)、世界トップの電気自動車メーカーであるテスラが2021年の株主総会を開催しました。テキサス州への本社移転などビッグニュースも飛び出した発表のポイントを、翻訳家でテスラオーナーの池田篤史氏が紹介します。

2021年テスラ株主総会~イーロン・マスク氏プレゼンのポイント【まとめ】

Tesla, Inc. 2021 Annual Meeting of Stockholders(YouTube)

コロナに負けず飛躍的成長を維持

今年の株主総会はカリフォルニアではなく、テキサスの現在建設中の工場、ギガ・テキサスで行われました。テスラの現会長ロビン・デンホルムが冒頭にこの1年を振り返り、その後イーロン・マスクが会社の方向性について話しました。今年もレポートの後に、筆者によるテスラトリビア情報を付け加えさせていただきましたので、期待している方はぜひ最後までお付き合いください(笑)。

また、オンラインフォーラム形式に変更された「Q&A」は、後日別記事で紹介します。
※「Q&A」翻訳&解説記事はこちら

この1年は期首から期末までフルにコロナの影響を受け、テスラも少なからず苦労をしたようですが、先日発表された第三四半期(Q3)の販売台数は24万台と大きく記録を更新し、年換算で約100万台を販売できるまでに生産能力を上げてきました。現在、世界的に半導体が品薄状態ですが、安定して供給されれば今後もこのペースを続けられます。下図には複合年間成長率は73%と書かれていますが、今後も少なくとも年率50%の成長をするだろう、と予測しています。巨大工場も2つ完成予定で、サイバートラックの販売も控えているため、筆者もこの予想は妥当だと考えます。

Click to big. ※記事中画像はとくに注釈がない限りテスラ社の会見映像などからの引用です。

また、モデル3が発売からわずか3年強でBMW 3シリーズやベンツC/Eクラスを抜いてプレミアムセグメント販売台数1位の座を獲得しました。日本でももうすぐ販売が開始されると思われるモデルYはモデル3以上のヒット商品で、テキサスとベルリンの工場が完成すれば、2022年に売上高で世界一、2023年には販売台数でも世界一になりうるとイーロン・マスクは自信を見せます。

経営の健全化

数年前まで「テスラは倒産する」「売れば売るほど赤字」などと日本でも某匿名掲示板で揶揄されていましたが、モデル3の量産化(2018年)と生産効率アップで財務は一気に健全化し、フリーキャッシュフローは直近12ヶ月で約4700億円に達しました。

日本でも今年の春にモデル3の大幅値下げがあり、平均販売価格が下落傾向にあるにも関わらず売上総利益は増加しています。ここ数ヶ月は再び車両価格の値上げが発表されていますが、サプライヤーのコスト増に起因するもので(コロナや半導体不足が主な原因)、状況が落ち着いたらまた車両価格を引き下げるとのことです。そんな事を言うと買い控えが起きて普通は困るのでしょうけど、今年の生産予定分は全て売り切っているテスラにとっては問題ないのでしょうね。

財務が安定しただけでなく、工場の労働環境も安全性が改善しています。下図は黒い線が生産台数、青い棒グラフが事故の件数で、仕事が増えているのに事故が減少していることが分かります。これはモデル3の生産ラインを立ち上げた頃はライン工も勝手が分からず、とにかく早く量産化しろと急き立てられて事故が頻発していましたが、今では作業手順も固まって安全になり、労災事故の件数が業界水準よりも18%低くなりました。

経営の健全性とは関係ないですが安全に関してもう1点、テスラでは自動運転システムを他メーカーにライセンス販売する用意があるとのことです。テスラの運転支援機能(ADAS)は事故を減らす大きな効果が期待され、EVの新興メーカーなどADASに開発費をあまり割けない会社の利用が見込まれます。

バッテリー量産の現状

ちょうど去年の株主総会の時(総会の第二部として)、テスラはバッテリーの開発状況を説明するBattery Dayというイベントを開催しています。そこで披露された新型バッテリー「4680」が、バッテリーを大量に安く作るカギとなります。

現在はフリーモントの近くの小さな工場でパイロット生産を行っていますが、量産化の目処がついたらギガ・テキサスやギガ・ベルリンで車両の真横で生産し、バッテリーパックの流通コストを下げる計画です。カリフォルニアのパイロット工場で製造した4680は当面ギガ・テキサスでモデルYの「構造バッテリー」に利用される予定です。

構造バッテリーとは、バッテリーそのものを車の構造の一部として利用し、フレームの強度を高めつつバッテリーの搭載量を最大化する技術です。これに前後の巨大鋳造アンダーボディを合体させることで、従来よりもさらに性能を向上させられます。

個人的には大きな事故を起こしたときの修理はどうなるのだろう? という疑問がありますが、おそらくアッセンブリーでまるごと交換するのでしょう。保険料が高くなりそうな予感です……。

最後に、テスラでは積極的に廃バッテリーのリサイクルも行っています。バッテリーは言わば高純度の鉱石のようなもので、わざわざ遠くの鉱山から掘り出さなくてもリチウムやニッケルなどが得られ、採算性もあるため他メーカーのEVも含めてテスラはどんどん回収していくでしょう。

テキサスに本社移転

冒頭でも述べた通り、今回のイベントは本社機能をテキサス州オースティンに移して行われました。もちろんカリフォルニアは何をするにも規制が厳しいため、比較的寛容なテキサスに移転したという見方もありますが、会見では「カリフォルニアを捨てたわけではない。フリーモント工場はさらに生産能力を50%高める予定だ」と述べています。

オースティンはアメリカの東西のちょうど真ん中の南端に位置します。シリコンヒルズと呼ばれるハイテク企業が集まる地域があり、NASAのジョンソン宇宙センターやスペースXのスターベースも車で数時間の距離にあります。周辺の家賃もシリコンバレーより安いため、工場の従業員が近くから通えるというメリットもあります。

今回のテスラトリビア

①テキサス本社のあの丸ロゴ

まずテキサスはカウボーイの州です。そしてカウボーイといえばジーンズにカウボーイハット、ベルトの大きなバックルがトレードマークです。そしてカウボーイといえばイーロン・マスクの弟、キンバル・マスクです。彼も早速この新ロゴのバックルを制作してTwitterで披露していました。

星はテキサスの州旗に由来し、中心の円に書かれているDon’t mess with Teslaは文字通り「テスラにちょっかいを出すと火傷するぞ」という意味もありますが、80年代のテキサス州のポイ捨て撲滅キャンペーン、Don’t mess with Texasのパロディでもあります(messはちょっかいを出すという意味以外にゴミを散らかすという意味もある)。

②イーロン、去年と同じTシャツ?!

左が今回のイベントの様子、右が1年前の株主総会です。どちらもバッテリーの素材として有力視されているカーボンナノチューブの柄ですが、1年間愛用したのか模様が薄くなっています。ちなみにアメリカのテスラストアで今も$30で販売中。

テスラストアから引用。

③ソーラールーフのキャンペーンソング

Q&Aの中で「これを言うと歳がバレてしまうけど、キャンペーンソングのサビはI want my Solar Roof♪だ」と歌っている箇所があります。これもまた80年代のネタで、1981年にMTVが放送を開始した頃にCMで「I want my M! T! V!」と歌っていたのです。

④テスラの安全評価

下図は米国のオーナーにお願いして、スマホを日本語表記にしていただいています。本国ではSafety Scoreという名前ですが、このスクショから日本名は「安全評価 ベータ版」と判明しました。
評価基準は5つ。前方衝突警告を出さずに走れるか、急ブレーキを踏まないか、急ハンドルを切らないか、あおり運転をしていないか、そしてオートパイロット中でもしっかりハンドルを握っているか、です。
安全評価100点満点は本当に難しいらしく、ちょっと前の車が急ブレーキを踏んだりしただけでも、慌てて自分もブレーキを踏むとスコアが落ちていくそうです。高得点を維持する秘訣は夜中に一人で高速道路を延々走ること、それから万が一急ブレーキなどをかけてしまった場合は路肩に寄せて、Pに入れずDレンジのままでハンドル両側のボタンを押してMCU(センター画面)をリセットしてしまうことだそうです。

⑤この夏からモデルYのフロントにも大型鋳造部品が使われている(らしい)

テスラの2021年第2四半期の資料の16ページにある写真を見ると、モデルYのボディが組み立てられている様子が写っています。元ライン工のとある人物によると、これは既にフロントにも鋳造パーツを使っているとのこと。

そして、株主総会の2日後にはギガ・ベルリン工場の内覧会でもその存在が確認されました。ということは、日本で納車されるモデルYはきっと前後に大型鋳造パーツを使った新型モデルが投入されるはずです。4680をつかった構造バッテリーはギガ・上海も来年末でしょうから、最初に納車される方は大型鋳造パーツと2170バッテリーやLFPバッテリーという組み合わせになるでしょう。

来年の株主総会も楽しみです

ということでいかがでしたか? 2023年ぐらいまではなんとなくテスラの動向がつかめましたね。年末に向けてアメリカではテスラが最も売れる時期ですから、バッテリーや半導体などが十分に供給できればQ4も販売台数や収益を伸ばしてくると予想されます。

翌年以降もサイバートラックの生産や新工場候補地の発表、FSD Betaの進捗に4680の本格生産など、イノベーションが盛りだくさんのため、次回の株主総会までまた1年、その成長の様子を見守りたいと思います。

(文/池田 篤史)

【関連記事】
テスラ2021年株主総会『質疑応答』〜気になるポイントを翻訳解説(2021年10月11日)

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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