テスラ2021年株主総会『質疑応答』〜気になるポイントを翻訳解説

テスラの株主総会で例年行われていた「質疑応答」が2021年の今回はオンラインのフォーラムで集められた質問を取り上げる形に変更。例年に増して多彩な質問に、イーロン・マスク氏がほぼ全て回答しています。株主総会でピックアップされたQ&Aについて、翻訳家でテスラオーナーの池田篤史氏が翻訳して注釈します。

テスラ2021年株主総会『質疑応答』〜気になるポイントを翻訳解説

2021年株主総会のレポートはこちら
※冒頭写真は株主総会の公式動画より引用。

今年はオンラインフォーラムで質問募集

テスラでは10月8日まで、SAYというウェブサイトを使って株主からの質問を募集、現在もその内容を公開しています。以前は機関投資家やメディアを招いて(オンラインを含め)質問をさせていましたが質問の内容が浅く、事前資料を読めば答えが書いてあるようなものが多かったため、株主なら誰でも質問ができる民主的な方法に切り替えました。

ご覧のように各質問カードの左下に何人がその質問に賛成をし、それが何株分の重みを持つかを見ることができます。例えば3.3K Votesは3300人が支持、471.5K TSLA Shares Representedはテスラ株47万株分の意見であることを表します。

ピックアップされたQ&Aを翻訳して注釈します

では、株主総会の中でイーロンが取り上げて回答したQ&Aについて、日本語訳と筆者の注釈を紹介していきます。

【Q】サイバートラックはいつ生産開始ですか?生産台数は?

【A】この1年、本当にパーツが不足していました。サイバートラックの生産は来年末に開始して、23年に生産台数を増やします。Semiや次期ロードスターは23年に生産開始を予定しています。

【筆者注】つまり半導体不足も4680の製造も来年末には解決の目処がついているということですね。Semiやロードスターに関しては発表から6年かかりましたが、やっとユーザーの手に渡りますね。

【Q】株価が700~800ドルまで上がっていますが、また株を分割しますか?

【A】まだやらないでしょう。将来的にあるかもしれませんが、今はタイミングではありません。

【Q】ギガ・テキサスでは来年から4680を生産しますか?しないなら、何がボトルネックになっているのでしょうか?

【A】今年はまだKato Road(カリフォルニア)だけです。生産を開始してから量産まで1年はかかります。それでもこの業界では早いほうです。ギガ・テキサスのモデルYは今年中に生産を開始できて、まずはKato Roadの4680を利用します。そして来年にはギガ・テキサス製の4680を使って量産化できるでしょう。

【筆者注】Kato Roadはそのビルの前の道の名前で、施設名称ではありません。

写真はKato Roadにある施設のひとつ。

【Q】今後ももっとギガファクトリーを作る予定ですか?

【A】今のところこれでいいと思います。2022年に次の候補地を検討し23年に決断を下す予定です。

【筆者注】日本の工場の居抜きとかやらないかなぁ。

【Q】株主に配当金を配る予定は?

【A】私の考えでは、そういう事はピークを越えて投資するものがなくなった会社がすることです。テスラはまだ投資したいことがいっぱいあります。

【Q】エネルギー商品の四半期報告もしてください。

【A】もう少し進捗があればそうします。今年は半導体不足で車両の生産を優先したため、エネルギー商品は成績がよくありませんでした。それを発表するとメディアにあることないこと書かれてしまいます。来年は発表してもいいと考えています。

【Q】モデル2について何か言えることはありますか?

【A】モデル2という名前の車は存在しません。モデル3も、当初はモデルEにして、SEXYというラインナップを完成させるはずだったのですが、フォードに商標権で訴えられそうだったので仕方なく3にしたのです。

【筆者注】この質問が来ることを予想していたのでしょう。全く次期コンパクトモデルについての回答になっていませんね。

【Q】ギガファクトリーは(ネバダのように)どんどん拡大していくのですか?

【A】全部がそうではないです。でも先進化、高効率化は追求します。ロケット方程式(ツィオルコフスキーの公式)で考えると、

なので、単に工場を大きくしても効果がなく、生産台数に合わせたサイズにしなければならない事が分かります。
半導体に置き換えて考えてもそうです。チップ性能を上げるにはチップそのものを大きくするか、チップ間の距離を縮めてクロック数を上げるしかありません。工場も機器を密集させてサイクルタイムを縮める事ができます。
テスラは今後も知恵を絞って生産効率を突き詰めるつもりです。他には真似できない、ものづくりで世界一の企業を目指します。

【筆者注】だいぶ原文から意訳していますが、ガチオタク発言ですね。彼の頭が今Space Xと半導体不足でいっぱいなことが分かります。

【Q】御社の成長の限界はエンジニアの数で決まるのでしょうか?

【A】優秀なエンジニアを生産する工場なんて存在しないですよね。ただエンジニアの数を増やしても船頭が多くなるだけです。それよりも精鋭が必要です。
もしニコラ・テスラが面接に来たら雇うかなぁ? チャンスは与えるべきだけど(笑)。とにかくテスラが採用で見ているのは、その人に光る才能があるかということ。どこ卒か関係ありません。経歴を3行にまとめ、それが注目に値するなら採用します。

【筆者注】長々と手書きの履歴書を書いて持っていくと落とされます。

履歴書は筆者が作成したイメージです。

【Q】VWのようにミニバンを作る予定は?

【A】VWの元祖ワーゲンバスは大ファンです。今の新しいモデルは知らないです。テスラもいずれは主要な車両カテゴリにラインナップを展開するでしょう。

【筆者注】アジア市場向けにミニバンを作って欲しいですね。個人的にはトヨタさんがアルファードをEV化してくれることを願っています。

Image by Emslichter from Pixabay.

【Q】ソーラー事業の成長が遅くないですか? 四半期の販売実績が50MWを超えるのはいつになりそうですか?

【A】実はソーラー部門も記録的な成長を遂げているんです。ただ、この数年モデル3の量産のためにソーラー部門およびエネルギー部門の社員で手伝える人は全員自動車部門に移籍させたので、目立った成績として発表できていません。
ソーラールーフですが、既存の屋根にあとづけするより新築に最初から取り付けるほうが安上がりです。毎年の新規戸建ての数は分かっているので、そこから攻めます。
EV社会が到来すると、EVを2台所有している家は、車のない家と比較してエネルギーの使用量が2倍になります。暖房も電気で行う場合は3倍になるため、ソーラーとバッテリー事業は大きく成長するでしょう。加えて、もうすぐオーストラリアで地域一帯のソーラールーフ設置住宅をソフトウェアで制御して、電力網の安定に貢献するプロジェクトも稼働する予定です。

写真提供元:Tesla, Inc.

【Q】FSD Beta 10.2は予定通り配信されますか?

【A】予定通りですが、話がマニアックすぎるのでここでは簡単な説明に留めます。まずは安全評価のスコアが100点満点のオーナーが1000人ほどいるため、彼らに配信して、そのあと99点、98点と慎重にテスターを増やします。足切りは全応募者の60%前後しようか悩んでいます。これはあくまでベータプログラムなので全員に行き渡るものではありません。
肝心の性能ですが、本日私が友人宅からここまで来るのに、一度もシステムに介入することなく到着することができました。

【Q】バッテリー用の鉱物の採掘はいつ不要になりますか?

【A】しばらくはずっと必要と思います。世界には20億台のもの車やトラックがあり、毎年1億台が生産されています。平均寿命が20年だから大体辻褄が合っていますね。したがって、今年から販売する車が全てEVになったとしても、地球上のすべての車がEVになるまで20年かかります。まだEVは世界の全ての車の1%にも満たないわけであり、それだけでは廃車をリサイクルしてもバッテリー用の原料が足りません。恐らく30~40年は採掘しているのではないでしょうか。
リチウムは地球上に豊富にあります。どちらかというとリチウムのない岩を探すほうが大変です。しかもバッテリーの1~2%しか占めない原料です。それよりも大事なのは正極の材料に何を使うかです。標準的な航続距離の車や家庭用バッテリーは正極材に鉄を使ったLFP(リン酸鉄)に移行します。高性能な車両やトラックはニッケルを使います。ニッケルも決して希少金属ではありませんが、鉄はニッケルの10~100倍もあるため、大量に普及する製品にはLFPを使います。電費のよいパワートレーンと組み合わせることで、LFPでもニッケルと遜色ない性能を実現できます。

【筆者注】現在テスラでLFPを作っているのは上海工場のサプライヤーCATLだけです。いずれはテスラも自社製のLFPバッテリーを作って各ギガファクトリーで4680と並んで製造するのか注目です。

【Q】地球外工場はいつ建設予定ですか?

【A】なかなか良い質問ですね、そういうの嫌いじゃないですよ(笑)。私が死ぬまでに実現できたらいいと思うので、うーん、あと40年以内?

【Q】イーロン、あなたの安全評価のスコアは?

【A】私は安全評価が始まる前からFSD Betaをオンにしたから正直知らないけど、調べておきますよ。ちなみに安全評価の計算方式はまだまだ試行錯誤中で、今後も改善して精度を高める予定です。

【Q】テキサスでは電力網に対して何か行う予定はありますか?

【A】はい、様々なプロジェクトをここ、テキサスで展開しています。電力網を安定させるメガパック(定置型充電池)をヒューストンに100MW分設置しました。また、地元の電力会社ERCOTTとも大きなプロジェクトの話もしています。
メガパックは電力の変動に強い製品です。電力需要は真夏や真冬に特に大きく変動します。その変動を解消するのが尖頭負荷発電所と呼ばれる、電力が足りないときだけ運転する発電所ですが、天然ガスを燃やしているため、先日のテキサス大寒波のように住民が天然ガスの暖房を一斉に使うと発電所が止まってしまうのです。そうした状況でもメガパックがあったなら停電することはなかったでしょう。

【Q】メガパック工場が最近カリフォルニアで完成したと思いますが生産能力は?

【A】40GWhです。

【筆者注】ここはフリーモントとギガ・ネバダの間にあるレイスロップという街にあったテスラの物流拠点をメガパック工場に改造したものです。

【Q】テスラ保険はどうなっていますか?

【A】保険はまるで迷宮のように入り組んだ法規制でできた業界です。保険を扱うための申請も色々あり、当局からの返事を待つ必要もあります。また、州ごとに保険業法も異なるため、ソフトウェアも個別に調整をする必要があります。しかしテキサスはようやく来週からサービスを展開できます。
カリフォルニアではすでにサービスを開始していますが、近日中にアップデートを予定しており、実際の運転履歴に合わせてリアルタイムで保険の掛け金が変わるというものです。テスラの安全評価を使った方式は理にかなっていると思うのですが、許可がまだ得られていない状態です。あわよくば来年全米のほとんどの州をカバーできればと思っています。

【Q】ギガ・テキサスでは何を生産するのですか?

【A】サイバートラックは間違いなくテキサスで生産します。ついでにATVも作りたいですね。ATVはとても危険な乗り物なので、世界で最も安全なATVを作りたいです。バッテリーで重心を低くしてサスペンションもチューニングして横転しにくいATVにできるといいですね。

写真提供元:Tesla, Inc.

【Q】電動の飛行機はいつ作るのですか?

【A】10年前からやりたいと思っているのですが、今はやることが多すぎて余力を割くことができません。バッテリーのエネルギー密度は毎年高くなっており、バッテリーのエネルギー密度で450~500Wh/kg、もしくはバッテリーパックで400Wh/kgに到達すると、電動の飛行機も現実味を帯びて来ます。

【筆者注】現在テスラの2170バッテリーは260Wh/kg前後とされているため、まだまだ飛行機には適していませんが、4680の次のバッテリーなら夢が叶うかもしれませんね。

(翻訳・文/池田 篤史)

この記事のコメント(新着順)2件

  1.  勝手なことを言ってしまいますが、
    日本の国内で閉鎖後の居抜きをしてしまえば、テスラの日本仕様は最高時速180の
    自主規制を強制されるし、海外仕様のテスラの購入が困難になるんで、反対です!

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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