テスラ2023年株主総会「サイバーラウンドアップ」のポイントを解説

日本時間の5月17日に開かれたテスラの株主総会は、これまでと同様に機関投資家だけでなく一般の株主からも積極的に議題への投票を呼びかけ、後半は1年の振り返りや今後のロードマップ、質疑応答などが行われました。

テスラ2023年株主総会「サイバーラウンドアップ」のポイントを解説

世界中の車を全てEVに置き換えることはできない?

2022年に行われた投資家向けのイベントInvestor Dayで、テスラは自社の長期事業計画、マスタープラン・パート3を発表しましたが、あれは絵に描いた餅ではなく、現実味のある予測とデータに基づいており、持続可能な世界経済を作る具体的な道筋が存在して、テスラはその実現を加速させていると伝えたかった、と述べています。

主なポイントは以下のような提言です。

●持続可能な経済に切り替えると、実は世界のエネルギー消費が半分に減る。
●鉱山の採掘量も実は減る。
●児童労働の温床になりやすいコバルト採掘も、しっかり監視する。
●太陽光、電池生産、EV生産の3つを比較すると電池生産が最も遅れており、ここを強化することが、持続可能な世界経済への近道である。

電池生産能力は現在の29倍必要。

インターネット上では「原発があと何基必要なのか?」とか「リチウム採掘で環境汚染」など、EVシフトが悪であるかのようなコメントを見かけますが、テスラの計算根拠を示した白書は世界に公開されており、今のところ「計算は妥当である」という意見が多く寄せられているようです。

次に、次世代のテスラ車は48V化するという話になります。これについてはInvestor Dayでも説明されていましたが、電圧が上がると配線を細くできるため、車に使用する銅の量を劇的に減らすことができます。

EVだけでなく定置バッテリーなども含めてサステナブルな世界にするためには銅が足りないという分析もありますが、テスラだけでなく他メーカーも48V化することで現在よりも銅の使用量が25%も下がるという話もあります。世界中のリチウムや銅の量まで気にしていることから、テスラが本気でサステナブルな世界を作ろうとしていることがうかがえます。

左から、全てのEVが12Vのまま、テスラだけ48V化、業界全体が48V化。(出典:Twitter @Visaskn)

収益性と中期展望

テスラは量産自動車メーカーの中で最も営業利益が高く、平均して1台売るごとに9,000ドルの利益が得られます。他社のEVにおいてはほとんどが薄利もしくは赤字で、資金がショートしないうちに、もしくは、ガソリン車の利益で補填しながら早期にコストダウンの方法を見出さなくてはなりません。

そして、あくまでイーロン・マスクの予想ですが、ここから12ヶ月ぐらいは世界が不況で苦しむことになるそうです。テスラも例外なく影響を受けますが、1台あたりのマージンが大きいため、新車需要が冷え込んでも値下げをすることで黒字を維持したまま販売台数をキープできます。そのしわ寄せは他メーカーに行くため、中には倒産する競合メーカーも出てくるでしょう。

予想では不況は1年続き、それが終わったらテスラはとても良いポジションにつけているだろうとイーロン・マスクは言っています。その理由を考えてみましたが、今から1年後というと、メキシコのギガファクトリーが竣工しており、サイバートラックの量産化(5,000台/週が目安?)も達成しているはずで、モデル3やYと同等、もしくはそれ以上のヒット商品が、経済の回復とともに市場に投入されるのだと思います。

さらに、車だけではなく、商業用の大型定置用バッテリー「メガパック」もカリフォルニア州レイスロップに工場が完成し、今年は上海工場も竣工予定です。現在の生産能力は年間6GWhですが、これら2つのメガパック工場が軌道に乗れば、合計で80GWh/年以上のメガパックが送り出されます。テスラのホームページでメガパックのコンフィギュレーターを見ていると、大体1台あたり4MWhで200万ドルなので、80GWhというと、年2万ユニット、つまり400億ドルの売上になります。テスラでは最終的に500GWhの生産能力にしてもいいぐらい「需要はいくらでもある」と言っています。

(注)ボリュームディスカウントが適用されるため、上図では100台分の注文で試算しています。

コンパクトハッチバックとミニバンは改めて詳細を発表

話は前後しますが、メキシコ工場での生産が予定されているのはコンパクトハッチバックとミニバンで、これは以前Investor Dayでベールを被っていた2車種だと想像できます。

相当革新的なアイデアを詰め込んでいるのか、その詳細については株主総会でサラッと発表するのはもったいないので正式なイベントを設けるそうです。48Vアーキテクチャはもちろんのこと、レアアースを使わない1000ドルのモーターなども搭載されるとみられ、この2車種だけで年間500万台を販売する見込みです。参考までに世界で最も売れているカローラは2020年に113万台(フィールダーやクロスなど全て含む)を販売しているので、相当野心的な販売目標と言えます。

現行モデルに関して言えば、モデル3が5年10万キロの保有総コスト(TCO)でトヨタカローラと同等レベルまで下がりました。世間ではBMWのような高級車だと思われていますが、それは購入時のコストであり、その後の燃料代や税金、保険、メンテナンスを含めると、アメリカではカローラ並みの安さになります。

人型汎用ロボット、オプティマス

現在、テスラでは汎用人工知能(AGI)にとても近い自動運転機能「FSD」を開発中です。これは周囲を認識して、与えられた目的を達成するものですが、これが実現すれば自動車だけでなく、膨大な数の新たな用途が生まれると見られており、その一つがテスラの作る二足歩行ロボット、オプティマスも含まれます。

面倒な雑務や単純労働をこなしてくれるので、もし一家に一台、もしくは複数台購入される未来が来るなら、100億~200億台売れてもおかしくないだろうとイーロン・マスクは言います。当然オプティマスだけでそれだけの台数が売れるのではなく、様々なバージョンや他社競合を含めて、そのぐらいのロボットが世界中に出回るだろうという予測です。

この分野では自社製のアクチュエーターからFSDコンピューター、バッテリー、そしてAI学習のためのDOJOスーパーコンピューターまで備えているテスラが優位であり、100億台市場のうち、大きなシェアを獲得すると想定されます。イーロン・マスクによると、ロボット事業が長期的にはテスラの価値の大半を占めるだろうと自信を持って言えるのだそうです。

Q&Aセッション

Q&Aセッションからは、筆者の独断で面白そうな質問だけピックアップしました。

Q/キャンピングカーを作る予定は?

A/今の所ないけど、サイバートラックにはアンカーポイントをたくさん用意しているので、社外品メーカーがそれらをうまく利用して何か作ってくれるんじゃないかな?

Q/元気? 挨拶じゃなくて、本当に体調はどう?

A/弟に誘われて先週久しぶりにクラブで踊ってきたよ。最近はツイッターにすごく時間を取られてたけど、新しいCEOも決まったしもう大丈夫。気遣ってくれてありがとう。

Q/アップデートでエアバッグの性能を高めたり、他にもテスラは知られていない安全機能が沢山あるのになぜ広告を打たないの?

A/色々な人と話す機会があるけど、未だにテスラは高くて買えないって思ってる人も多いよ。実際は一番安い車はアメリカの平均新車価格よりも安いのにね。皮肉なのが、テスラは一切広告をしないけど、ツイッターは広告で成り立ってるから、みんなには「どんどん広告を出してね」って言わなきゃいけない事だよね。もちろんツイッターでテスラ公式や俺のアカウントをフォローしてる人もいるけど、ファンはみんなテスラの安全性とか知ってるから、一般人にリーチできるよう広告を試しにやってみようと思う。

Q/最近のテスラ車はSteamでゲームができるけど、サードパーティにアプリなどを作らせる予定は?

A/自動運転が可能になると、車内でのエンターテイメントや生産性を高めるツールは必要だけど、今はまずFSDを完成させて人間の運転よりも安全になることがゴール。もちろん将来的にはいいアイデアだね。

Q/今後10年、どうやってリチウムを確保する予定? 精製ではなく、採掘レベルで。

A/専門家は採掘能力が足りないって言ってるけど、採掘はもっとスピードアップ可能だと思う。でも多分だけど、精製する能力が足りないから今のスピードで採掘してるんじゃないかな?だからテスラでは精製施設を作ったんだ。

Q/次期ロードスターはどうなってるの?

A/本当、どうなってるんだか。今年中に設計を完成させて、約束はできないけど来年生産開始できるかも。台数的に売上には貢献しないけど性能はすごいから楽しみにしてくれよ。

Q/サイバートラックの年間生産台数は?

A/今年の後半に生産を開始して、そこから台数を増やしていき、需要を見ながら調整するけど、25万台/年とか、もう少しかな?

Q/教育機関と連携して若者の雇用促進をする予定は?

A/実はすでに他のギガファクトリーでも地元の学校と連携して、工場勤務者の卵を育てているよ。オートメーションは進めてるけど、人間もたくさん必要だ。

Q/モデルYの価格を大幅に値引きして、最近また少し値上げしましたね? 今後どのような価格戦略を取るつもりですか?

A/簡単だよ、需要に合わせて調整してるだけだ。従来のディラーでも表向きそう見えないだけで、裏では調整やインセンティブなど色々行われているよ。

Q/いつもの「今年こそFSDは完成する」じゃなくて、今はこのバージョンで、こういう事に取り組んでいて、このあたりで実現する、という具体的なロードマップは示せるか?

A/FSDの予測で難しいのは、順調に進んでいると思ったら、伸び悩んでくることなんだ。そこから脱出するために根本的に構造を作り直すことになる。それを何度も繰り返してきたが、今年こそは伸び悩んだとしても、人間よりも平均して安全な運転ができるようになるはずだ。念のために言っておくと、現時点でも人間が監督しているFSD走行のほうが4倍ぐらい安全なんだ。

トリビアコーナー

恒例のトリビアコーナー。今回はオプティマスに関するネタがたくさんあったので、そこを掘り下げてみました。

イーロン・マスクが登壇して、始めに胸の前でハートマークを作って観客に飛ばす(?)仕草をしますが、これは昨年行われたAI Day 2からオプティマスのトレードマークです。オプティマス君のキャラ設定は「繊細なハートを持ち、運命の出会いはあると信じていて、よくマッサージが上手と言われる。シャイな性格だが、時にははっちゃける。」だそうです。

これまでのファクトリーオートメーション(FA)ロボットは決められた動作を寸分の狂いもなく繰り返すだけでした。しかしここにAIが加わることで、「この部品を、あの箱に入れて」と命令するだけで、実行の仕方はAIが決定するようになります。それが顕著にわかるのが、人間の男性が動作のトレーニングをしている場面です。

腕の長さや関節の動き方が人間と異なるため、ある程度は真似できても最終的には知恵を絞って同じ作業を達成する必要があります。例えばこの写真では人間は親指が薬指にくっついていますが、オプティマスはこれができません。そのため、物を握るときに指の使い方が少し異なっているようで、丸い物体は親指で握って薬指の側面に押し付けるように把持しているようです。

左から、オプティマス握り、人間の握り方、物体の形に応じて握り方も変わる。

それから、この人間に装着されているのは、ほぼ間違いなくオプティマスの機能部品でしょう。頭にかぶっているのはカメラセットで、オプティマスの頭の中身はこれが入っていると想定されます。前方カメラが2つ、側方2つ、手元が2つ。背中に背負っているペリカンケースには最新のFSDコンピューター「HW4」とバッテリーが詰まっていると予想します。

頭の中にはカラビナのフックポイントもあり、実験中に転倒しないよう、ここで吊るようですね。

背中のバッテリーパックは、よく見えないですけど4680バッテリーを使っているようです。オプティマスのバッテリーパックは2.3kWhなので、4680の容量が96Wh/個だとすると、24本詰まっていることになります。縦に8個、横に3列もしくは6個4列と推定できます。これで8時間動くと言うんだから、相当電費がいいですね……。

FSDの開発とともに今後急速に発展していくと思われるオプティマス君たちから目が離せません。このビッグウェーブに乗り遅れるな!

文/池田 篤史

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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