テスラ『モデル3』長距離実走レポート:東京=兵庫【テスラにはもう追いつけない? 編】

夏恒例の長距離実走レポート。テスラ『モデル3』で東京=兵庫往復レポートの後編は、ロングドライブしながら思考を巡らして気が付いた「モデル3から得た教訓」についてまとめてみます。世界の電気自動車セールスで独走するテスラに、はたして日本メーカーは追いつくことができるのでしょうか?

テスラ『モデル3』長距離実走レポート:東京=兵庫【テスラにはもう追いつけない? 編】

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自分が所有しているクルマじゃなくて恐縮です

8月11日から14日まで、EVsmartブログチーム(アユダンテ)社有車のテスラ『モデル3』で東京から兵庫北部の郷里までの往復を走り抜けつつ、いろんなことを考えました。長距離実走レポートの後編は、私自身が「モデル3からの教訓」と感じ、読者のみなさんにお伝えしておきたいと思ったいくつかのポイントを語ってみます。

ただし、残念ながらこのモデル3は借り物です。フルセルフドライビング(オプションで約87万円)対応のモデル3パフォーマンスの日本での販売価格は827万円。マイカーとしては手が出ません。なので、モデル3、そしてテスラ車への「羨望」というフィルターが少々入ってしまうことはご容赦ください。

教訓その1/ほとんどの日本人が、まだ知らない

キャディバッグはトランクに余裕で収納。2個は余裕、頑張れば3個入るかな、という感じです。

今回の遠征の目的のひとつが、郷里のゴルフ場で開催される高校剣道部OB会コンペへの参加でした。4年ほど前から開催していて、私は毎年電気自動車で参加していたのですが、気心の知れたメンバーたちに、なぜ電気自動車が好きなのかといった話はほとんどしたことがありませんでした。

今年は、87のベストグロスを出しつつも、ハンディキャップの悪戯で優勝を逃した後輩を励ますために、ラウンド終了後、モデル3のプチ試乗会を開催しました。

この後輩はトヨタディーラーの敏腕営業マンで、この日も新型のプリウスPHVでゴルフ場に来てました。でも、自動車のプロである後輩でさえ、テスラはもちろん、BEVはほとんど運転したことがないというのです。ほんの30分足らずではありましたが、ゴルフ場周辺の高原の道をクルージング。スポーツモードのフル加速も体験してもらい、たいそう感激してくれました。

欧米や中国に比べて、日本ではテスラ車の販売台数は多くありません。ディーラーとの関係が濃い日本独特の商慣習の壁が高いこともあるでしょうが、最大の理由は「ほとんどの日本人がテスラの魅力をまだ知らない」というシンプルなことなんだと痛感しました。

ディーラー営業マンの後輩からは「フルモデルチェンジするMIRAIをたくさん売らなきゃいけないんですよ」という話も聞きました。詳しく突っ込むことはしませんでしたし、おそらく、これから研修などがあるのでしょうが、水素充填インフラが心許ない状況の中、営業マンとしてどんな言葉で広範な顧客にFCVを勧めるのか、ちょっと気の毒にも感じる後輩とのひとときでした。

教訓その2/充電インフラは電気自動車の性能のひとつ

4基設置されているスーパーチャージャー岐阜羽島。

兵庫〜東京への復路を実質スーパーチャージャー岐阜羽島での充電1回だけで走破できたことは、昨日のレポートで紹介しました。復路の走行距離は650km程度。650÷2=325km、75kWhの電池を搭載したモデル3パフォーマンスの一充電航続距離は実用に近いEPA(アメリカ環境保護庁)基準で499kmなので、算数の計算としても充電1回で走りきれるのは当然なのですが、実際に走ってみると、なんというか、満腹です。

さらに、充電1回でOKなのは、スーパーチャージャーが最大120kWという高出力で充電できて、チャデモNCS器のような30分制限がないからでもあります。

このモデル3であっても、もしチャデモでNCS加盟の急速充電器だけで走ろうとすると、最大出力50kWのアダプターを使って原則30分間の充電となり、実質は20kWh強の電力しか補充できないので、充電1回につき走れる距離は100kmちょっと。満充電でスタートして400kmほど頑張って走ったとしても、その後、最低でも2〜3回×30分の充電を繰り返す必要があります。

今回、SC岐阜羽島では45分間で61.15kWh、5%から89%まで充電することができました。つまり、グランドツアラーとして十分な電池容量を備えていることに加えて、テスラが独自で拡充しているスーパーチャージャー網が、テスラ車の性能の重要な一部になっているのです。

往路で充電した大阪豊中には8基設置。

日本でも、いち早く電気自動車を発売した日産や三菱は自社ディーラー網などに意欲的に充電インフラを整備しています。また、タイカンを発売したポルシェは独自の150kW充電網を整備しつつあります。でも、その他のメーカーからは、今ひとつEV充電インフラへの「本気」は見えてきません。さらに、高速道路SA/PAなどへの公共充電インフラについても、電気自動車の性能やユーザーの利便性を考えた整備が進められているとは、なかなか言えない状況が続いています。

また、今まで日本国内で整備されてきたチャデモ規格の急速充電器は最大出力50kW以下の機種がほとんどで、車両の側も50kWを超える高出力への対応が進んでいません。

テスラを見習えとはいいません。大容量や高出力だけが正しいとも思いません。でも、ユーザーの利便性を最優先で考慮しながら、電気自動車の性能と充電インフラの状況を整えていくことが、とても大事であることは間違いありません。NCSの事業を継承するイーモビリティパワーと、国産自動車メーカーができるだけ深く、有意義に連携して、よりよい充電インフラ環境と、魅力的なEVの車種バリエーション拡充が進んでいくことに期待しています。

教訓その3/できることのパッケージングがテスラの魅力

アプリも使いやすい。今回、サモンを試してみるのを忘れてました。

テスラはスマホキーでエントリーできる。さまざまな機能が液晶パネルでコントロールできる。ファームウェアが自動的にアップロードされる、などなど。テスラ車を語る時、既存のエンジン車に比べて「できること」が注目されがちです。

でも、実際にモデル3をドライブしていて感じるのは、新たに「できること」だけが重要なのではありません。電気自動車としてできること、あるいはできて欲しいことが、液晶パネルを中心としたインターフェースに小気味よくパッケージングされているのがモデル3の魅力の秘訣だと思います。電話機にはテンキーやダイヤルが不可欠という常識をスマホが覆したように、従来の「自動車の常識」には縛られず、ユーザー本位の操作を可能にしていることが、モデル3の、そしてテスラ車の最大の魅力といっていいでしょう。

一方、前編で着目した「エネルギー」グラフのように、電気自動車の肝である電池とのコミュニケーションがほどよく楽しめる、そして実用的に考え抜かれている点も秀逸です。

おそらく、フォルクスワーゲンが最初から電気自動車として開発した ID.3 からのIDシリーズではかなり様変わりするだろうと思いますが、今のところ、ジャガーアイペイスやメルセデスベンツEQCなど、また日産リーフを含めて、欧州や日本メーカーがリリースした電気自動車は、少なからず「エンジン車の常識」を守っています。「エンジン車の呪縛」から抜け出せていないと言い替えてもいいでしょう。

広告宣伝費はほぼ使わないこと。ディーラーのあり方を含めた販売方法。さらには車両と連携するスマホアプリの機能性など、車両そのもののパッケージングだけでなく、自動車メーカーの常識とされてきたあらゆることをイチから考え直し、新たなパッケージとして提供していることこそが、テスラの魅力の真骨頂です。

教訓その4/テクノロジーはチャレンジで進化する

今回の長距離実走では高速道路巡航が中心でした。結果、ほとんどの区間で「オートパイロット」機能を使用していたので、私自身はアクセルやブレーキ、ハンドルの操作などをあまり行っていません。速度が遅いトラックなどを追い越す時も、ウインカーを操作するだけで自動で車線変更してくれます。慣れないうちはついつい自分でハンドルを切る力を入れすぎて警告音とともにオートパイロットが解除されたりしがちですが、数回の操作を体験すれば、上手な扱い方がわかってきます。

前車追従式オートクルーズやレーンキープ機能は最近では多くの車種で搭載されていますが、モデル3のオートパイロットの信頼感の高さは、これもまた秀逸です。テスラが完全自動運転へのチャレンジに意欲的であることはよく知られています。このモデル3にもソフトウェアのアップデートで「フルセルフドライビング」に対応できるとするオプションが搭載されています。日本の道路で完全自動運転が実現するのがいつになるかはさておき、高い目標設定に向かってテスラがチャレンジを続けているからこそ、現段階でも抜群に信頼性と実用性の高い「運転支援機能」が実現できているのだと思います。

今回、このレポートをまとめるために、オートパイロットで運転しつつ、スマホのメモアプリに音声入力で気になったことを書き留めていきました。

そのメモがコレ。音声入力だと「後で見るとわけわからない誤変換だらけになるかな」と思っていましたが、このメモは音声入力したまんま、一文字も修正していません。数年前のスマホの音声認識のクオリティを考えると驚きの進化です。これもまた、アップルやらGoogleやらの企業が、高い目標を掲げて音声認識機能を提供し、チャレンジし続けてきたからこそ、ですよね。願わくば、インタビューなどのテープ(録音)からのテキスト起こしが、早くこのレベルになってくれるといいのですが……。

テクノロジーは研究室や会議室で進化するのではなく、製品として世に出して、真摯なアップデートを続けることで本当の進化を遂げることができる、のだと感じます。

結論/テスラにはもう追いつけない?

褒めちぎってきましたが、モデル3で気になる点もありました。まず、ナビシステムの目的地検索が使いづらいこと。あまり細かくは検証していませんが、おそらくはMAPのデータベースに登録されている名称とドンピシャのワードを入力しないと、目的地の候補すら表示されません。そして、液晶パネルキーボードの日本語変換もちょっとプア。ナビの検索窓ではなく、普通に音声認識機能を立ち上げてスポット名を告げると候補スポットが表示されるので、むしろそっちのほうが使いやすいというテクニックは発見しました。モデル3オーナーの方であれば、さらに上手な使いこなし方があるのかも知れません。

あと、ナビの案内音声はちょっと日本語が苦手です。曲がるポイントも交差点名を告げるのではなく「今、右側車線をヨウフに向かって走行してください」とかアナウンス。「ヨウフ」というのは私の地元の地名で「養父」、正しくは「ヤブ」と読みます。ま、これも最初のうちは違和感満点ですが、慣れてくれば日本暮らしがまだ短いハーフ美女とデートしているようなチャームポイントに感じてきます。

あと、高速道路でのオートパイロット中、前方のトラックがふらついたり、時には何もないところで、突然急減速することが何度かありました。また、たとえば三車線の道で中央車線を走っていると、私自身の感覚よりかなり左のライン寄りに走ろうとするので、大型車の脇を抜ける際などに少し「近すぎるだろ!」と感じることがありました。テスラとはいえ、数百キロに及ぶオートパイロットが完璧なわけではありません。

電気自動車としての機能。電池の生産技術や能力。自動運転へのチャレンジなどなど。テスラが日本メーカーを始めとする既存自動車メーカーをぶっちぎって独走しつつあるのは事実としても、まだ、テスラにも隙はあります。なんとか、日本のメーカー各社にも、近未来のユーザーのために、テスラに負けないチャレンジを続けて欲しいと願います。

個人的に感じているテスラ最大の弱点は「価格が高い」ことです。そしてテスラだけのことではないですが「一充電で500km走れなきゃ」なんていう航続距離伝説も幻想だと思っています。たとえば、一充電で高速道路200km走れる電気自動車を200万円で発売すれば、テスラとは違う大きなユーザー層を手中にできるはず。どこかの、できれば日本のメーカーが、真新しい庶民の夢を具現化してくれることに期待しています。

というわけで、1300kmあまり走りながら考えた戯言でした!

(取材・文/寄本 好則)

9 thoughts on “テスラ『モデル3』長距離実走レポート:東京=兵庫【テスラにはもう追いつけない? 編】”

  1. モデル3からの教訓同意できるところたくさんあります。
    特にテスラ独自のSC 網の設置は私が購入を決意させた大きな要因です。
    20箇所程度と少ないとの指摘がありますが、航続距離等考えるとあと北海道、新潟、九州位で十分ではないかとおもうほどです。
    ナビですが確かに案内等はわかりにくいですが、場所の特定は逆に普通のナビより不正確な名称でも候補をいくつか出してくれると思っています。私の場合、今年の2月にオープンしたばかりのある施設名を試しに音声入力してみたところドンピシャで検索されましたよ。どうもひらがな入力のキーボードが出てると入力の確定ができないようなので英数のキーボードに戻して確定ボタンを押すか最初から音声入力をしてあげるようにしています。テスラはあとは価格面とアフターサービス面の充実が大切と感じております。

    1. Kozot さま、コメントありがとうございます。

      英数キーボードで確定、ですか。気付きませんでした。次の機会に、サモンとともに試してみたいと思います。

      価格など、私としては、テスラが本当に300万円(3万ドル)程度で買える「大衆車」を出すのが先か、他メーカーがテスラを超えるEV大衆車を出してくれるのが先か、期待を込めて待望しています。

  2. テスラは価格性能費で言えば決して高くないと思います。確かにオプション付けると絶対的には高価ですが。
    それよりも日本普及するには幅が大き過ぎると思います。モデル3でも1850、モデルXは2000では都市部では厳しいです。しかも低速が得意なEVは都市部こそ有利なので益々普及を難しくしています。
    テスラにひとつだけ弱点があります。
    そては放電です。通信などのためでしょうが一週間程度乗らないと相当放電されます。これはチョットEVを推進するエコ派にとっては納得出来ないですし一般的に知られていないので買ってからビックリでしょうね。

    1. 停めている間の放電は、どちらかというとバッテリーの温度調整が主ではないでしょうか。

  3. テスラに追いつけないというより、追いつこうとはしないのではないでしょうか。
    テスラは自社の利益と地球や人類の未来を考えている会社ですが、国家間の経済的・軍事的バランスを考えている様には見えません。
    他の自動車メーカーは、各々の国の自動車産業や関連子会社の利益も尊重しなければならず、それぞれの国の根幹産業でもあるので国益も守らなければなりません。
    BEV化が進んで一番得をする国はどこかというと中国と韓国になります。特に中国が今以上に経済力を持つと軍事力が強化され、他国領土を狙い始めるのは皆さんも御承知の通りです。最近はあからさまですよね。
    特に日本は欧州よりもBEV化を遅らそうという意思が強いように見えますので、インフラを発達させてエンジン車よりBEVの利便性が良くなるのは都合が悪いのではないでしょうか。
    という理由で、当分の間テスラの天下は続くと予想します。
    テスラが大衆車とセットで自社インフラ網ももっと拡充すれば、BEVはテスラ一択になるでしょう。

  4. ナビ設定はGooglemapやiphonemapで設定してテスラのナビに飛ばすのが簡単で正確です。

  5. テスラ『モデル3』は、見た目はセダン車なんですが、セダンの格好をした、スポーツカーであるというのを(5人乗りw)、もっと日本で評価されてほしいと感じています。

  6. いつも 興味深く拝見しております。
    日本では拠点が大都市にしかなくサービス体制が気になりますがいかがですか ?故障とかは不具合とかはないですか?

    1. さお様、コメントありがとうございます。テスラのサービスは現在、東京東雲と横浜、名古屋、大阪になります。これ以外の地域ではモバイルサービスがあり、サービスカーとサービスマンの出張によるサービスが提供されています。しかしおっしゃるとおり、モバイルで解決できないサービスもあり、その場合はローダー(積載車)で入庫になります。
      故障が保証範囲のときはローダーは無料ですが、そうでない場合は陸送費用もかかります。

      万一の事故の際は、提携しているボディショップが上記サービスセンター以外にもありますので、ボディ周りはそちらで修理となります。部品もボディショップに届きます。

      そういう意味で、地方ではある程度不便な思いはすると思います。

      故障は日本車程は少なくないと思いますが、欧州車を10年所有した経験、また他の方のお話とかを聞くと、欧州車とかとはあまり変わらない気がします。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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