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テスラ新型『モデルX』で真冬の北海道遠征/電費や充電インフラを詳細レポート

テスラ新型『モデルX』で真冬の北海道遠征/電費や充電インフラを詳細レポート

今シーズンは複数の著者陣からEVで北海道を走るレポートが届いています。積雪の寒冷地でEVはどうなのか、読者のみなさまの参考になれば幸いです。今回は、エアコン暖房にヒートポンプを搭載した新型『モデルX』による八重さくら氏のレポートです。

目次

新型モデルXで初のロングドライブ!

2023年に続き、2度目の真冬の北海道遠征レポートです。筆者の事務所では2018年にモデルX 75Dを購入し、約6年間運用してきました。2年前のレポートでもお伝えしたように、2020年以前に生産された旧型モデルにはヒートポンプ式の暖房は装備されておらず、暖房を使うと電費が大幅に悪化するという特性があります。今回はヒートポンプを搭載した新型モデルX ロングレンジを使用します。電費や航続距離の違いに加え、充電インフラの進化も徹底検証します!

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一方、2020年以降に製造された新型モデルXにはヒートポンプが採用され、理論上は消費電力が大きく減少し、電費が向上するとされています。かねてより検証したいと考えていたところ、筆者の事務所がある木更津市のテスラ仲間である「テスラのトリコ」氏から、北海道への遠征を兼ねたオフ会にお誘いいただきました。テスラのトリコ氏はモデル3と新型モデルXロングレンジを所有する熱狂的なテスラファンで、YouTubeでも「テスラ購入大学」などテスラやEV全般に関する動画を投稿されています。

このオフ会は、北海道安平町に拠点を置くテスラオーナーのプルテウス氏が企画したもので、本来は雪上カートとランチ、プチツーリングを楽しめる貴重な機会でしたが、当日体調が優れず参加を断念。今回のレポートでは残念ながらオフ会の様子はお伝えできませんが、旧型モデルXオーナーから見た新型モデルXの進化、電費の違い、そしてこの2年間における充電インフラの進化についてお伝えしたいと思います。

旧型オーナーから見た新型モデルXの進化とデメリット

乗り込んで最初に気付いた進化は、インフォテイメントシステムです。中央の画面が縦長から横長になったことで、ゲームや動画などのエンタメ機能が使いやすくなりました。さらに、プロセッサーにAMD Ryzenを採用したことで処理能力が大幅に向上し、遊べるゲームの種類が増えたほか、音楽再生やブラウザの操作もストレスが大幅に軽減されています。

たとえば、旧型ではSpotifyアプリを立ち上げるまで5秒以上かかったり、ブラウザの操作で数秒間フリーズすることもありました。一方、新型ではこれらの操作が一瞬で表示されるため、操作感が格段に向上しています。

運転席に座ると、目に飛び込んでくるのはヨーク型ステアリング(現在はオプション装備)による圧倒的な視界の広さです。特にモデルS/Xではドライバーの目の前にメーター用のスクリーンが配置されており、その視認性の高さが印象的でした。

なお、既存の丸形ステアリングが装着されている車両をヨーク型ステアリングに交換する社外パーツが販売されていますが、後付けには注意が必要です。既存の車両に搭載されているエアバッグは丸形ステアリングを前提に設計されているため、ヨーク型に交換すると本来の性能が発揮できない可能性があります。交換を行う場合は自己責任となることを、十分に理解する必要があります。

新型ではシフトレバーがなくなり、オートシフトになりました。ブレーキを踏むと車が前後にどちらに進むかを判定して準備が完了し、そのままアクセルを踏めば走り出します。速度を上げていくと、車としての完成度が向上していることに気づきます。ロードノイズが減少し、アダプティブサスペンションによって凹凸のある路面での乗り心地が大きく改善され、EV特有のスムーズな走行にも磨きがかかっています。

一方で、新型は必ずしも良い点ばかりではありません。特に左ハンドルに変更されたため、運転には慣れが必要で、右ハンドルを前提とした駐車場や料金所では手間が増えることがあります。ウィンカーやシフトレバーがなくなっている点も、慣れるまでは注意が必要です。

また、室内カメラが搭載されたことでドライバー監視が強化されていますが、(誤判定を含め)1回の運転で5回「よそ見」と判定された場合、一度パーキングにシフトするまでオートパイロットが使用できなくなります。細かい点では、モデル3/Yのようにステアリング上のスイッチで車間距離の設定を変更できず、中央の画面から設定メニューを開いて変更する必要があります。また、旧型で使えた「Model Xmas」と呼ばれるダンス機能や、海外の新型で使えるライトショーも利用できません。

さらに、後述する理由により、大半のCHAdeMO急速充電器では、アダプターを使っても充電できません。

もしモデルXに興味がある場合は、これらのデメリットを考慮しても新型が魅力的と感じられるかどうか、慎重に旧型と比較検討すると良いでしょう。

電費の改善とロングレンジによる安心感

ここまで新型のメリットとデメリットを挙げましたが、真冬の北海道で最も実感できる改善点は、やはりヒートポンプ式の暖房を採用したことによる電費の向上でしょう。

たとえば、苫小牧周辺から札幌市内(テスラ札幌スーパーチャージャー)まで走行した際の電費を比較すると、2023年にテストした旧型(画像1枚目)が300Wh/kmだったのに対し、新型(画像2枚目)では282Wh/kmまで改善していることが分かります。

●旧型モデルXの電費データ(苫小牧〜札幌)

●新型モデルXの電費データ(苫小牧〜札幌)

一見すると大きな違いではないように見えますが、テスト条件として、新型(ロングレンジでテスト)は旧型(75D=スタンダードレンジでテスト)と比較して、以下のような複数の不利な条件がありました。しかし、それにもかかわらず新型の方が電費が良くなっています。

●電池容量が大きいため、車重が約200kg重い。
●加速性能(モーター出力)が向上している。
●平均速度が旧型検証時の46km/hから67km/hに上がっている。
●平均気温が1.3℃上昇したものの、暖房の設定温度が3℃上昇している。
※約58mの標高差がありますが、走行距離が60km以上と長いため、電費への影響は限定的と考えられます。

また、2023年のレポートでもお伝えした通り、筆者は雪国(特に長距離移動の場合)ではロングレンジモデルの使用を推奨しています。電費の向上と、ロングレンジモデルによる電池容量の増加を踏まえ、満充電時の航続距離を比較すると、以下のようになります。(バッファーや劣化を考慮し、実際に使用可能な電池容量は旧型=約65kWh、新型=約92kWhとして計算)

車両外気温
平均気温
暖房設定走行区間/
走行距離/
標高差
平均速度電池
プレコンディショニング
電費
Wh/km
満充電時の
航続距離
旧型
モデルX
-1.5~+6.0℃
平均0.3℃
20.0℃苫小牧市~札幌市/
68.0km/
+17m
46km/hあり300217km
新型
モデルX
-1.5~+2.5℃
平均1.6℃
23.0℃安平町~札幌市/
61.2km/
-41m
67km/hあり282326km

参考として、新型モデルXで他の区間を走行した際の電費も掲載しておきます。

車両外気温
平均気温
暖房設定走行区間/
走行距離/
標高差
平均速度電池
プレコンディショニング
電費
Wh/km
満充電時の
航続距離
新型
モデルX
–7.5~–0.5℃
平均–1.6℃
23.0℃札幌市~厚真町/
71.68km/
-151m
55km/hなし191482km
新型
モデルX
–2.0~–1.0℃
平均–1.2℃
24.0℃千歳市~札幌市/
54.53km/
+1.7m
49km/hあり310297km
新型
モデルX
–1.0~–2.5℃
平均–2.0℃
22.5℃札幌市~厚真町/
66.31km/
+4.4m
63km/hなし206447km
新型
モデルX
–8.5~0.0℃
平均–5.3℃
21.5℃厚真町~樽前SA/
50.18km/
+8.7m
66km/hなし220418km
新型
モデルX
0.0~1.5℃
平均1.1℃
23.5℃樽前SA~富浦PA/
34.99km/
+38.7m
85km/hなし204451km
新型
モデルX
–1.0~+1.5℃
平均0.4℃
20.5℃富浦PA~八雲PA/
136.44km/
-16.4m
87km/hなし207444km
新型
モデルX
–1.5~0.5℃
平均–0.3℃
23.5℃八雲PA~函館市/
65.54km/
-34.2m
70km/hあり235391km

※全て乗員2人、タイヤ空気圧は概ね推奨値(2.9bar)±0.2barでテスト。

今回は札幌市から函館市までの約300kmを休憩を挟みながら移動しましたが、新型モデルXロングレンジであれば、真冬でも高速道路の流れに乗って、余裕を持って一気に走りきることも可能でしょう。

充電インフラが「超急速」で改善中!?

2023年のレポートでは、冬の北海道を走行するための最低限の充電インフラは整備されているものの、依然として不十分であることを指摘しました。では、その後2年間で充電インフラはどのように改善されたのでしょうか。

今回も2023年と同様に、往路は茨城県の大洗港からフェリーで北海道まで移動する計画を立てました。北海道では苫小牧港で下船後、テスラ「札幌」スーパーチャージャーまで移動する必要があるため、乗船前に事前の充電が必要です。2023年当時は大洗港から約70km離れた「つくば」スーパーチャージャーが最善の選択肢でしたが、その後、大洗港から約15kmの距離に「ひたちなか」スーパーチャージャーが新たにオープンしました。しかし、「ひたちなか」へ行くと少し遠回りになるため、今回は一部のEVオーナーの間で話題になっているFLASH充電器を利用することにしました。

この充電器はちょうど「つくば」と大洗港の中間に位置する石岡市に設置されており、大洗港からは約40kmと程よい距離です。FLASH充電器の主な特徴は以下の通りです。

●最大で1,000V/180kW(最新機種では240kW)の出力に対応。
●NACS(北米充電標準規格=テスラ規格)ケーブルを搭載しており、テスラ車でも変換アダプターが不要。
●従量課金制で44円/kWhという低価格(キャンペーン価格)。
●会員登録不要で、クレジットカードやQRコードによる都度払いが可能。

これらの特徴から、「速い」「安い」「簡単」と3拍子揃っている点が、多くのテスラオーナーから評価されている理由と言えるでしょう。今回は64%から充電器の上限である90%まで充電し、電力量は約28kWh、料金は約1,245円、所要時間は約21分でした。充電終了後3分以内にクレジットカードで清算すれば完了となり、非常にスムーズな充電体験でした。ただし、清算せずに3分以上経過すると、1分あたり100円の超過料金が請求されるため注意が必要です。

乗船前の充電はこれで最後になる予定でしたが、大洗港に到着して嬉しい誤算がありました。なんと、フェリー乗り場からすぐ近くの大洗マリーナに、エネチェンジの6kW普通充電器が設置されていたのです。たかが普通充電と侮ることなかれ、乗船前の余った30分で、車内で作業しながら3%分(約3kWh)を充電できました。いざという時、この3%が大きな差を生む可能性もあるでしょう。

宿泊施設にも予想外の充電器、でも接続してみると…

今回の遠征では、北海道での2泊を厚真町の「こぶしの湯 あつま」で過ごしました。事前にエネチェンジアプリで充電器の情報を調べていたのですが、残念ながら充電器が設置されているホテルは全て満室だったため、充電器が設置されていない(はずの)こちらの施設を予約しました。

到着後、ダメもとで「EV充電のためコンセントを借りられませんか?」と尋ねてみたところ、なんと充電器が設置されているというのです。エネチェンジアプリに掲載されていない充電器を見つけると、まるでお宝を見つけた気分になります。早速確認してみると、ニチコンのパワーステーションが2台も設置されていました。

パワーステーションのコネクタはCHAdeMOでしたが、念のためテスラのCHAdeMOアダプターを予め持参していました。車に接続し、「コネクタロック」「充電」の順に操作してしばらく待つと……。なんと!エラーコード「E75」が表示され、充電は全く始まりません。

実は、このパワーステーションによる充電はV2Hに対応した国産EVを主な対象としており、テスラをはじめとする多くの輸入車では利用できないようです(BYD、ヒョンデなど一部メーカーの輸入車は利用可能)。期待していた分、大きく落胆しましたが、逆に国産EVなどの対応車種にとっては穴場とも言えるでしょう。もし機会があれば、ぜひご利用ください(もちろん、エネチェンジアプリには未掲載の充電器として報告済みです)。

CHAdeMO充電器は使えないって本当?

前述の通り、新型モデルXの弱点の一つとして、多くのCHAdeMO急速充電器が利用できない点が挙げられます。これは、多くの急速充電器が仕様上最大450Vの電圧にしか対応していないのに対し、新型モデルS/Xでは電池のシステム電圧が450Vを超えるためです。実際に、今回のオフ会に参加された新型モデルSオーナーの方も、道中の急速充電器はすべて利用できなかったそうです。

しかし、本当にすべての充電器が使えないのか? 中には利用できる場所もあるのではないか? そう考え、函館へ向かう途中に道央自動車道の樽前SAに立ち寄り試してみたところ、なんと一発で充電に成功! 宿泊施設での苦労は一体何だったのかと、少々拍子抜けしてしまいました。

今回使用した充電器は東光高岳製の比較的古いタイプで、樽前SAのほか、同じ機種が設置されている八雲PAでも充電できることを確認しました。ただし、車両の製造時期など他の要因が関係している可能性も否定できないため、「新型S/Xでも絶対に充電できる」とは考えない方が良いでしょう。実際、今回のテストでも最大77%(電圧450V未満)までしか確認しておらず、100%付近(450V以上)まで満充電した際の動作は不明です。

もし「ここは充電できた」「ここは充電できなかった」などの経験がありましたら、ぜひコメントで教えてくださいね。

これからも進化が続く国内の充電インフラ

今回の遠征は2月上旬でしたが、帰宅してからわずか数日後、なんとテスラから「苫小牧」スーパーチャージャーの設置が発表されました。

ここにスーパーチャージャーができれば、フェリー乗船前の充電は不要になり、ロングレンジより航続距離が短いスタンダードレンジでも、札幌から函館まで余裕をもって移動できるようになるでしょう。願わくば、もう少し早く作ってほしかった…!

でも、落ち込むことはありません。日本国内の充電インフラは、これからもどんどん進化していきます。たとえば、高速道路SAPAの充電器を管轄するe-Mobility Powerは、この秋にも最大350kWに対応する超急速充電器の設置を発表しています。さらに、複数の充電事業者がNACSコネクタへの対応や、高速道路SAPAでの充電事業への参入を表明しています。これらの充電器は、東名阪などの大都市圏から導入されると思われますが、いずれは北海道をはじめ、全国に広がるでしょう。

確かに、現在の充電インフラには、設置数だけでなく、相性問題や使い勝手、出力、充電規格の統一など、まだまだ改善が必要な点が多くあります。それでも、一歩ずつ確実に進化していくことを願いながら、今回のレポートを締めくくりたいと思います。

追伸:ちょうどこの記事執筆が完成した2025年3月6日、テスラジャパンがモデルS/Xの新車販売を3月31日で終了すると発表しました。モデルS/Xは2025年後半に改良されるとの噂があり、その影響なのか、それとも単に販売台数が少なく収益性が見込めないためなのかは不明です。新車をカスタマイズして注文したい場合は、3月31日までに手続きを完了するのが良いでしょう。

取材・文/八重さくら

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この記事を書いた人

現在は主にTwitterや自身のブログ(エコレボ)でEVや環境に関する情報を発信。事務所の社用車として2018年にテスラ モデルX、2020年に三菱アイ・ミーブを購入し、2台体制でEVを運用中。事務所には太陽光発電とテスラの蓄電池「パワーウォール」を設置し、車と事務所のほぼすべての電力を太陽光で賄うことを目指しています。

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