テスラ『モデルX』がー5℃で立ち往生に巻き込まれたら?【EVで旅する冬の北海道 Part3】

冬の北海道をテスラ『モデルX』で旅して寒冷地でのポイントを検証してきた本シリーズ。最終回は立ち往生を想定した消費電力テスト。昨年の冬の実証に加え、先日追加のテストを実施したので、Part3のレポートをお届けします。マイナス5℃の環境で立ち往生に巻き込まれた(想定の)モデルXは、果たして電欠の危機に陥ったのでしょうか?

テスラ『モデルX』がー5℃で立ち往生に巻き込まれたら?【EVで旅する冬の北海道 Part3】

【シリーズ記事】
Part1:寒冷地や雪道での電費の低下を検証し、理想的な充電インフラを考える(2023年3月22日)
Part2:テスラ モデルXの雪上性能と現地オーナーの声(2023年6月4日)
Part3:テスラ モデルXがマイナス5℃で立ち往生したら?(本記事)

EVで立ち往生すると命が危ない?

本シリーズのPart1では、日本よりも過酷な寒冷地&豪雪地帯でも、充電インフラさえ整えばEVが普及していることを指摘しました。一方で国内では、未だに冬になるとSNSなどで「EVで立ち往生すると凍死するのでは?」というような懸念を目にします。このような状況に対して、EVsmartブログではこれまでも以下のような検証記事や、立ち往生を実際に体験された方のインタビュー記事を公開。必ずしも内燃機関車と比べて不利とは言えないことを示した上で、EVならではの注意点をお伝えしてきました。

【関連記事】
大雪の高速道路で立ち往生〜電気自動車は大丈夫なのか? という不安を考える(2023年1月11日)
電気自動車で「豪雪立ち往生」を実体験〜危険を回避できた備えとは?(2023年12月29日)

そして今回はより理解を深めるために、2018年製のテスラ モデルX 75Dを使い、実際に北海道で立ち往生を想定した消費電力テストを実施(2023年2月)。さらに、検証したいことがあったので、先日、千葉県内で追加テストを行った結果をレポートします。

あらかじめ留意点としてお伝えしておくと、電費や航続距離を検証したPart1でもお伝えしたように、テストで使用したモデルX75Dは以下のような特徴があり、寒冷時の走行だけでなく立ち往生においても不利となる車種といえます。

●暖房に旧式の「PTCヒーター」を採用(最新の「ヒートポンプ」を採用する車種と比べ、約3倍の消費電力)している。
●広い車内空間や巨大なフロントガラス、天井ガラスによって暖房効率が低い。
●モデルXとしては電池が小さいグレード(搭載は75kWh、ただしマージンや劣化により現在使用可能な容量は約65kWh)である。

電費や航続距離と同様、このような不利となる車種によるテスト結果を示すことで、より実用に役立つデータを得ることを期待しています。

立ち往生を想定したテスト条件

まずは昨冬、北海道での検証結果から紹介します。

一連の取材や検証を終えた後、立ち往生テストのために北海道恵庭市の駐車場に移動。恵庭市は新千歳空港がある千歳市の北隣で、北海道の内陸部に位置し、冬は放射冷却でー20℃前後まで下がることもあるそうです。テスト時の気温は約ー5.5℃、体感的には晴れ・曇・雪がそれぞれ3分の1ほどの変わりやすい天気の中でした。

北海道恵庭市でのテスト中に吹雪に遭遇。

今回のテストは実際の立ち往生を想定し、1時間程度走行したあとに車を停め、駐車中の電池消費量を計測します。

なお、前述の『電気自動車で「豪雪立ち往生」を実体験〜』記事のモデル3オーナーさんの場合は、エアコンを切り、代わりに「電熱ブランケット」を使うことで電池を節約していますが、今回のテストでは快適性を優先してエアコンを使用しています。設定温度は走行中からテスト終了まで、19℃に固定。これはテストを担当したスタッフがシートヒーターを併用して丁度良いと感じる、普段から使用している設定温度です。

この間に使用している主な電装品は以下のとおりです。

【使用した電装品や設定など】
<エアコン>
オートで19℃に設定
<シートヒーター>
3段階中、2(中間)に設定
<その他>
セントリーモード(※後述します)
MCU(ナビやオーディオを兼ねている、中央の操作画面)
ノートPC、スマホの充電 など

このうちセントリーモードは本来駐車中に不審者を監視するための機能で、カメラとオートパイロット(運転支援)用のコンピュータを使用するため、比較的消費電力が大きい機能です。本来はオフにしても良いのですが、そこまで気が回らず、今回はオンのままでテストしていました。言い訳になってしまいますが、実際に立ち往生に遭遇した際も、きっとそこまで気が回らないでしょう。

いざ、テスト開始!

まず、こちらがテスト開始時点の電池残量です。

クリックすると拡大表示します。

このキャプチャ画像は、特殊な方法を使って専用のスマホアプリ(scan my TESLA)から車載コンピュータに接続し、通常の方法では確認できない車両の詳細情報を表示しています。特に注目していただきたい項目は電池の充電残量にあたる「SOC」と「Usable」で、70.6%(42.6kWh)と読み取れます。

このほか参考になる情報として、「Battery power」がエアコンを含め車両全体で使っている電力、「DC-DC input power」が12Vの電装品が消費している電力で、それぞれ0.82kW(820W)、368Wと出ています。エアコンの消費電力は820W – 368Wで、約452Wの計算(刻々と変化するため、あくまでも参考)です。

テスト中はスマホを充電しながらSNSをチェックしたり、MCUを使って動画の視聴やゲームをしたり、消費電力を気にすることなく気の赴くままに使用しました。

立ち往生の際にも動画の視聴やゲームができるMCU画面。

そして2時間後、テスト終了時の充電残量がこちら。

残量は64.7%(39.0kWh)となり、2時間で5.9%(3.6kWh)分を消費したことが読み取れます。これは1時間あたり約3%(1.8kWh)、仮に10時間なら約30%(18kWh)消費する計算になります。

前述の通り立ち往生において不利な車種ということもあり、決して少ない減り方ではないですね。数時間程度であれば乗り切れそうですが、実際の立ち往生では解消までの時間はわからないため、人によっては心細いと感じるかもしれません。

追加テスト/モデルXでもエアコンを使わず耐えられる?

さらに電力消費を抑えるには、前述の実体験記事のようにエアコンを切り、シートヒーターと電熱ブランケットで乗り切る方法があります。しかし、車体が大きく熱が逃げやすいモデルXでも、同じ方法が通用するのでしょうか。

そんな疑問を解消するために、以下の条件にて追加テストを実施しました。追加テストは千葉県で実施していますが、よく晴れた深夜のため、放射冷却により気温は-2°C〜-4°Cまで下がりました。

【追加テストの諸条件】
<エアコン>
オフ
<シートヒーター>
3段階中、1(弱)に設定
<その他>
電熱ブランケット(最大45W、弱で使用)
セントリーモード、MCU、ノートPC、スマホの充電 など

追加テストでは、4時間で1.4kWh(2.3%分)、すなわち1時間あたり約0.35kWh(0.575%分)の消費という結果になりました。仮に50%あれば丸々3日分以上にあたる、約87時間は電欠しない計算になります。

この結果は八重さくらのXでも共有しました。

今回使用した電熱ブランケットは強弱を調整可能ですが、写真のようにすっぽり足元まで覆ってしまえば、「弱」でもそこまで寒さを感じることはありませんでした。さらに気温が下がった場合は強にしても良いでしょう。また、今回は電熱ブランケットの併用により、シートヒーターは「中間」ではなく「弱」でちょうど良いと感じました。その他の電装品は前回と同様、消費電力を気にせず使用しています。

電熱ブランケットで足元をすっぽり覆うことで、体感的な寒さは和らいだ。

ところで、過去に発生した大規模な立ち往生の事例を見ると、例えば2021年の北陸自動車道で発生した立ち往生では、完全な解消に60時間を要したという報道がありました。ここまで長期化した場合は車から離れて避難することが理想ですが、どうしても車に残る必要がある場合でも、残量が約35%以上残っていれば凌げる計算になります。

最後に参考として、今回のテストから割り出した推定の電池消費量を表にしておきます。

エアコン ON(19℃)エアコン OFF
10時間約29.5%(18kWh)約5.8%(3.5kWh)
20時間約59.0%(36kWh)約11.6%(7.0kWh)
30時間約88.5%(54kWh)約17.4%(10.5kWh)
40時間約23.2%(14.0kWh)
50時間約29.0%(17.5kWh)
60時間約34.8%(21.0kWh)

大寒波で「テスラの墓場」?

まさに今回に記事を書いている最中も、ー30℃以下の寒波に襲われたシカゴで、電欠した複数のテスラ車に対して「テスラの墓場」と揶揄する記事が拡散されています。SNSなどでは、これをもって「寒冷地ではEVは使えない」という論調も散見されました。

一方で、米国のEV専門メディアであるINSIDE EV’sによると、充電器の故障やライドシェア用車両の滞留など、複数の要因が重なった結果と指摘しています。

もう一つ重要なデータとして、ノルウェーのバイキング(日本のJAFに相当)によると、同国のEV保有率は23%に達する一方で、2024年の最初の9日間で始動不能により救援要請を受けた車両のEV率はわずか13%だったとしています。同国でも2023年と2024年に寒波に襲われ、2024年は2022年と比べると救援要請が約2倍に増加したそうです。年式の違いを考慮する必要があるものの、以下の記事ではEVのほうが約2倍優れている可能性があるとしています。

【参考情報】 Klart dårligst i sprengkulden: – Helt ekstremt(ノルウェー、TV2)

また、今回のシカゴと同様ー30℃程度まで下がることも珍しくないノルウェーでは、このような問題は発生していません。今後も気候変動による異常気象の増加が予想される中、ノルウェーから学べることはあるのでしょうか?

まず、急速充電器については寒冷地に対応することが重要です。例えばテスラのV3スーパーチャージャーは-30℃以下でも通常と同様に動作したと報告されていて、レバーやボタンなどの可動部品が少ないため、実際にシカゴでも比較的影響が少なかったとされています。一方で国内の多くのCHAdeMO充電器には物理ボタンが搭載され、このように凍結して操作が困難となったケースにも遭遇しました。

ボタンが凍結して操作が困難となったCHAdeMOの急速充電器。

さらに、急速充電器以上に重要なのが、駐車場に設置する普通充電器(コンセント)です。内燃車の時代からブロックヒーター(エンジンを温める装置)のために駐車場にコンセントが設置されていたノルウェーでは、自宅(拠点ガレージ)で充電が可能な比率が高いとされています。駐車中に充電できれば急速充電器を使う頻度を減らせ、混雑が緩和します。

また、EVで使われているリチウムイオン電池は、一部の例外を除き、低温になると性能が落ちて充電も遅くなります。もし出発前に(普通充電器やコンセントに繋いだ状態で)プレコンディショニングにより電池を温めることができれば、効率よく走行できるだけでなく、急速充電時の充電性能も上がります。寒冷地に住んでいる場合はプレコンディショニングに対応した車種を選び、急速充電の前に必ず有効化することが重要です。

スーパーチャージャーをナビの目的地に設定し、プレコンディショニング中のテスラ車画面表示。

最後に、筆者から一つ提言したいことがあります。

過去に大規模な立ち往生が発生した事例を見ると、多くの場合、警報級の大雪の予報が出ていました。一方で、近年では台風などが接近した際は臨時休業や公共交通機関の計画運休が発表され、出社しなくても良い風潮が広まっています。大雪でも同様の風潮が広まりつつありますが、今後さらに広まれば無理に出勤する必要がなくなり、立ち往生の確率も減るでしょう。内燃車でもEVでも、立ち往生の危険性があるときには、車を運転する必要がない社会。そんな社会の実現に向け、一人ひとりが声を上げてほしいと思います。

取材・文/八重さくら

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 私も立ち往生問題を見るたびに、道路の街路灯などに電気は道路わきに来ているのだから、長く坂が続く区間とか立ち往生が発生しやすい区間に非常用のコンセントを設置することで問題は解決するのではと考えていました。もちろん停電も考えられますから、太陽光パネルと蓄電池のセットも予備電源として完備し、日頃から準備しておけば、必要な時には車輛だけでなく近所の一般家庭にも配電できるようにすることもできるし、災害のときには、BEVからの放電で一般家庭に配電できるよなぁって思うのですが。
    このように、BEVが多く走るようになれば、BEVの立ち往生の対策だけでなく、地域の防災対策にもなるようなシステム構築が道路を中心にできるようになると考えられると思うのですがいかがですか国土交通省さん。私の考えだけでなく、皆さんがアイディアを出し合えば、きっと良いものが出来るはずだし、それこそ国土強靭化です。

  2. 国道が止まったり高速が止まって、道路がスタックした時には、
    緊急対応として、例えば、「信号機や街灯からの電源や、高速道路横の非常通話などの機械のコンセントから200V(Or100V?)の電源を出して、勝手に充電してもよい」
    という、災害立法を作ってもらえれば、
    安心してEVが乗れるのではないかと思います
      高速道路なら、ある間隔で必ず電気は来ていますし、街灯はたいていの国道レベルなら一定間隔でついていると思います。
      誰かこのような法律(仕組み)を作ってもらえないでしょうか?

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					八重 さくら

八重 さくら

現在は主にTwitterや自身のブログ(エコレボ)でEVや環境に関する情報を発信。事務所の社用車として2018年にテスラ モデルX、2020年に三菱アイ・ミーブを購入し、2台体制でEVを運用中。事務所には太陽光発電とテスラの蓄電池「パワーウォール」を設置し、車と事務所のほぼすべての電力を太陽光で賄うことを目指しています。

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