生産、納車台数ともに増加も株価は下落
電気自動車(EV)メーカーのテスラ社は2024年10月2日に、2024年第3四半期(7~10月)の生産台数と納車台数の速報値を発表しました。
生産台数は、『モデル3/Y』が44万3668台で、モデルS/Xやサイバートラックを含む『その他』が2万6128台、合計46万9796台となり、前期の41万831台から約14%増加しました。前年同期比では約9%の増加です。
納車台数は、『モデル3/Y』が43万9975台、『その他』が2万2915台、合計46万2890台で、前期比4.3%増になりました。前年同期比では6.4%増です。
前年同期を上回ったのは3四半期ぶりです。
それでもテスラ社の株価は、発表前の9月30日の終値261.63ドルを境にジリジリと下げていて、10月2日の終値は249.02ドルでした。1月2日の終値が248.42ドルだったので、ほぼ同レベルです。
市場のテスラ社に対する見方は、第1四半期の決算発表直前の4月22日に142.05ドルまで急落した頃に比べれば、信頼度は大きく回復していると言えるかもしれません。
なお今期の速報値について、テスラ社はとくに説明をしていません。
納車台数はアナリスト予想をわずかに下回る
株価が下がったのは、発表された業績がアナリスト予想を下回っていたためのようです。
ロイター通信によれば、金融データを提供しているロンドン証券取引所グループ(LSEG)がまとめたアナリスト12人の納車台数の予想は46万9828台。ブルームバーグのアナリスト予想は約46万3900台でした。
まあ、どちらも予想を下回ったとは言え、長期的に見れば誤差の範囲ではないでしょうか。ブルームバーグ予想では1000台程度しか違いません。
アナリストらが販売増を予想したのは、最長5年のゼロ金利ローン提供や有料塗装オプション値下げなど中国市場の販促強化や、中国政府がガソリン車からEVへの乗り換えを促す補助金を拡大したことなどが要因でした。ロイター通信は中国乗用車協会(CPCA)のデータから、テスラ社は7月、8月に販売を伸ばしたと伝えています。
年間180万台に届くのか
今期の販売は前期に比べて回復基調にあると言えますが、年間で考えると楽観視はできません。
テスラ社は昨年、年間の納車台数が180万8581台と初めて180万台を超えました。今期はここまで129万3656台なので、180万台まで約50万台が必要です。そこまでの到達は難しいかもしれませんが、EVの売り上げが伸びていない、ブームは終わった云々と言われていますが、急拡大こそしていないものの堅調に推移しているようです。
ただテスラの株主でもあるマホニー・アセット・マネジメントのケン・マホニー最高経営責任者(CEO)はロイター通信に対して、中国での販売好調と米連邦準備理事会(FRB)の利下げ効果により納車台数は昨年並みの180万台に届く可能性があるという見方を示しています。
FRBは9月に、政策金利を0.5%引き下げることを決定しました。その後の追加利下げがあるのかが焦点になっていますが、政策金利が下がればローンの金利も下がり販売増も期待できます。
他方でロイター通信、テスラ社が米国で、中国から調達したLFPのバッテリーを搭載したモデル3の廉価版の注文受付を終了したと伝えています。
米国は中国からの輸入品への関税引き上げを発表していて、中国製EVに100%、EV用バッテリーや重要鉱物に25%の関税を課すとしているほか、中国製バッテリーを搭載する車を7500ドルの税額控除の対象外にしました。
欧州ではドイツがEVへの補助金を停止したため販売が大きく落ち込んでいます。
こうした逆風を考えると、2024年に年間180万台を達成したとしても、来年以降の市場環境は厳しいものになりそうです。開発に手間取っている普及モデルの市場投入時期がどうなるのか、我慢の時期と言えそうです。
全体が落ち込む中でEVは堅調
ところでニューヨークタイムズ電子版は、テスラ社の速報値を発表する中で、大手自動車メーカーの状況をあわせて伝えています。
10月2日付けの記事によれば、EV市場でのテスラ社の販売シェアは低下しているものの、依然として米国では半分を占めています。
一方、市場全体の販売台数は伸びているものの期待値は下回っていて、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、ボルボなどはEV関連の投資を縮小しています。
とは言え、ニューヨークタイムズによれば、GMは2024年第3四半期の米国でのEV販売台数が60%増でした。GMは同期の全体の販売台数が約2%減少したそうです。
またフォードは第3四半期にEVの販売台数が12%増で、乗用車とトラックの販売台数の0.7%増を上回りました。
まあ、台数はそれほどでもなく、第3四半期のGMのEV販売台数は3万2000台超、フォードは約2万3500台だったのですが、市場全体が縮小した中で、EV販売は堅調だったと言えます。
こうなると、やっぱり待ち望まれるのは普及価格帯のモデルです。
日本では、軽EVの日産「サクラ」、三菱自動車「ekクロスEV」の累計生産台数が10万台を超えました。
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GMやヒョンデ(起亜)なども、価格帯を下げたモデルを出しています。
GMで最も売れているEVは、第3四半期に9700台以上が出たシボレー「エキノックスEV」です。GMはこれまでエキノックスEV の価格を、税額控除前で約4万2000ドルからとしていました。
ところが10月に入り、エントリーレベルのエキノックスEVの価格を、税額控除前で3万5000ドルに引き下げました。控除を受ければ2万8000ドルを切ると、InsideEVなどが伝えています。
一方、テスラ社では、モデル3が税額控除前で4万2490ドル、売れ筋のモデルYは4万4990ドルからになっています。
安ければいいというわけではありませんが、価格が下がれば販売台数は確実に伸びます。それに、気候変動対策を考えれば、普及は必須です。
テスラ社は10月10日にロボタクシーの発表を予定しています。本来は8月に、ロボタクシーや普及価格帯の新型EVについてアナウンスする予定でしたが、いろいろ遅延しています。
ロボタクシーの実現とは別に、普及価格帯の新型EVはテスラ社の今後だけでなく、EV市場の今後に大きな影響を与えるのは間違いありません。
何か言及があるとすれば、10月23日(現地時間)に予定されている第3四半期の決算発表です。首を長くして待ちたいと思います。
文/木野 龍逸