テスラ「AI Day 2022」翻訳&解説レポート【Part.1】人型ロボットのお値段は?

9月30日(アメリカ現地時間)、第2回目となるテスラ「AI Day 2022(AIデー)」が開かれました。昨年に続き、テスラオーナーの翻訳家である池田篤史氏によるレポートをお届けします。盛りだくさんのトピックを3回に分けて紹介予定。Part.1 は、イベント冒頭から登場した「人型ロボット」の解説です。

テスラ「AI Day 2022」翻訳&解説レポート【Part.1】人型ロボットのお値段は?

【ライブ配信動画(YouTube)】

※記事中画像はYouTubeライブ配信動画からの引用です。

人型ロボットが二足歩行でご挨拶

イーロン・マスクによるとAI Dayは「急速に発展しつつある分野でテスラが何をしているかを共有し、一緒に時代の最先端を感じる」ためのイベントとのこと。もちろん、優秀なエンジニアを採用するためのリクルーティング活動も兼ねており、彼らに向けて最初から最後まで専門性の高いトークが繰り広げられていました。今回のレポートはできるだけ多くの画像を使って各パートの説明をしつつ、補足情報やトリビアも織り込んでいきます。

さて、2021年8月に開催されたTesla AI Dayの最後に登場した人型ロボットのプロトタイプ、オプティマス・サブプライム君を覚えているでしょうか?

彼の名前は映画トランスフォーマーシリーズの主人公のトラック、Optimus Primeに由来しています。ただ、本家ほど高性能ではないので「少し劣る」を意味するSubをつけてOptimus Subprimeと呼ばれています。

今回のイベントでは冒頭から人型ロボットが二足歩行で登場して、観客に手を振ります。オプティマスか? と思ったら、彼はプロトタイプのBumble C(バンブルシー)だそうです。トランスフォーマーファンならもうお気づきだと思いますが、劇中に登場するミツバチのようなカラーリングのカマロに変形するロボット、Bumble Beeに由来しています。アメリカの通知表はAが最高位、Fが落第を表すため、オプティマスと同様にBより少し成績の悪いCなのかも知れませんね。

バンブルシーの胸にはテスラ車に搭載されている自動運転用のコンピューターと全く同じものが装着されています。

胸のパーツの形状に注目。
モデルS/Xに搭載されているHW3そのまんまです(出典:Ebay)

体重は73kg、可動部200箇所、手指には工具類も扱えるように17箇所も可動部(自由度)が設けられています。

この人型ロボットは商品化を目標に開発されており、テスラ車の生産理念を活用して、安く大量に作ることを前提にしています。販売価格は2万ドルを切りたいとのことですが、過去にもイーロンは「モデルSで5万ドルを切る」とか「モデル3で3万5,000ドル」と大風呂敷を広げつつ、実際はロングレンジやパフォーマンスは倍ほどの価格だったため、きっとオプティマス君もパフォーマンスグレードは4万ドルすることでしょう。

バンブルシーは2.3kWhのバッテリーを搭載し、電費は「座っていれば100W、早歩きなら500W」のため、座っているだけなら23時間、ずっと歩き回っていると4時間ちょっとで電池切れということです。テスラは「2.3kWhあれば工場で1日働ける」と言っているのですが、バッテリーが劣化してくると勤務中にタバコ休憩ならぬバッテリー休憩に出かけるようになるんでしょうね。

体の各部に搭載されるアクチュエーターは、もちろん各部に特化したパーツを使いたいところですが、コストダウンのために動きや機能が似ている部位を共通化し、最終的に6種類で成り立っています。

本当はこのようにいろいろ使いたいけど……。
この6つで我慢。

膝関節は人体構造を模して4バーリンク方式になっています。膝の中心にモーターを入れて回す方式だと直立しているときと膝を曲げきったときに最もトルクが必要になってしまいます(下図青いグラフ)。伸縮するアクチュエーターで4バーリンクを動かすと(緑のグラフ)必要な力が最初から最後まであまり変わらないため、よりコンパクトなアクチュエーターを採用でき、コストもサイズも下げることができます。

これらのアクチュエーターは、当初サプライヤーに開発を依頼したのですが、結局自社開発をせざるをえないことになったということで、いつもの「無いものは自分で作る」テスラ節です。その性能はゴリラ顔負けの力持ちで、500kgのグランドピアノを繰り返し上げ下げできるほど。

手のメカニズムに注目すると、実は人間より関節の数が一つ少ないです(親指除く)。これについて、器用さがどれだけ落ちるのか不明ですが、もしかしたら将来は力仕事をしない器用さメインの指パーツなどが登場するのかも知れません。指は後戻りしない機構を採用しており、買い物袋のような荷物を持った際にモーターがずっと握った状態を維持しなくても勝手に指が開かない仕組みです。指先には感触のフィードバックもあるため、柔らかいものや繊細なものも扱えるようです。

自動運転研究の成果がロボット開発にも貢献

自動車チームのこの数年間のオートパイロット(AP)の研究のお陰で、ロボットチームはたった数ヶ月で二足歩行を可能にすることができました。下図を御覧ください。これは上の段からカメラの入力、セグメンテーション(人とか棚の切り分け)、Voxelマップ(空間のどこが歩けてどこがぶつかるか)となっており、テスラ車のAPと全く同じ仕組みで外界を認識しています。最上段にLeft Pillar Cameraと書いていることから、車のBピラーカメラだと推測できますが、左上の図の男性がよほど大男でもない限り、オプティマスの肩あたりに側方カメラがついているように見えます。

自分の周囲の空間の認識だけでなく、「これはじょうろ、あれは植物、地面は紫」と認識するラベリングもAPチームの成果を引き継いでいます。ラベリングの分野において、実はゆっくりと歩道を歩くオプティマスこそ、高速で走り去ってしまう自動車にはできない精密なラベリングの切り札になるのではないかとも噂されています。

次に、こちらの映像はいかに急速に開発が進んでいるかを示しています。2022年の4月に最初の1歩を踏み出し、7月には骨盤を使い始め、8月には腕を振り、9月には摺り足ではなく、つま先で蹴り出すように歩いています。これは動画(ライブ中継動画の49分過ぎあたり)でご確認いただいたほうが分かりやすいです。

現実世界は床の硬さやデコボコ、風などの外的要因、センサーノイズもあるため、その中で体の各部を連携させてバランスを取り、効率の良い歩幅を計算して、障害物を避けて歩かなくてはなりません。人間が当たり前にやっていることも、実は奥が深いんですね。

オプティマスは今後数週間でバンブルシーと同じレベルまで熟成し、その後実際に工場に立たせてみて、この構成で良いのか最終判断をします。そこから数カ月~数年で初号機が完成する予定です。

オプティマスが実現すると経済が一変します。物質的に豊かな時代となり、人は単純労働から解放されます。イーロン・マスクによると自動運転の実現によってモビリティの生産性は0.5~1桁向上します(つまり3~10倍ぐらい)が、オプティマスの経済への影響は2桁(100倍)あるとのことです。今のうちに身の回りの仕事でオプティマスに肩代わりしてもらえそうなものを見繕っておくと、豊かな時代(Age of abundance)の波にスムーズに乗れそうですね。

さて、正味3時間以上におよぶAI Day 2022はまだ序の口です。次回、Part.2では、完全自動運転(FSD=Full Self Driving)に関するプレゼンテーションを解説します。

(文/池田 篤史)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 池田さん
    ありがとうございます。
    翻訳だけで無く私見も入れての解説で非常に良く理解出来ました。
    YouTubeの翻訳機能ではいまいち理解出来なくて・・・

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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