テスラ2023年Q1決算を発表〜台数は過去最高も利益率は低下

テスラ社は現地時間の2023年4月19日に、2023年第1四半期(1月~3月)の決算を発表しました。生産台数、納車台数が過去最高を記録した一方で、値下げの影響もあり総売上高、利益率ともに3四半期ぶりに前期を下回りました。決算報告と今後の見通しをお伝えします。

テスラ2023年Q1決算を発表〜台数は過去最高も利益率は低下

総売上高、営業利益ともに前期を下回る

テスラ社が2023年4月19日(現地時間)に発表した2023年第1四半期の決算は、自動車の生産台数が過去最高を記録した中で総売上高は前年同期比で24%増になりました。ただし、前期と比較すると総売上高、自動車部門の売上高、営業利益はいずれも下回っています。

当期純利益は25億1300万ドル(1ドル133.9円で約3364億円)で、前期から11億7400万ドル減少。前年同期比では24%減でした。

総売上高:233億2900万ドル(前年同期:187億5600万ドル/24%増)
営業利益:26億6400万ドル(前年同期:36億300万ドル/26%減)
純利益:25億1300万(前年同期:33億1800万ドル/24%減)

自動車部門の売上高は199億6300万ドルで、前期の213億700万ドルから13億4400万ドル減ですが、前年同期比では13%増です。ただし、生産台数は2022年第1四半期が30万5407台、今期は44万808台と44%増えているので、利益率が大きく下がっていることがわかります。

発表を受けて株価は4月19日の終値180.59ドルから下げ、20日は162.99ドルで引けています。

【参照資料】
テスラ社の決算報告(Investor Relations)
※記事中写真などはテスラ社発表のPDFから引用。

今後は利益率より台数の拡大を目指す

売上高に対する利益率は19.3%で、前年同期の29.1%から10ポイント下がっています。同様に営業純利益率も、前年同期の19.2%が、今期は11.4%と8ポイント下がっています。

利益率が縮小したのは2022年秋からの段階的な値下げの影響が大きく、ニューヨークタイムズは、テスラ社の平均販売価格は2022年最終四半期に5万1400ドルだったのが、2023年第1四半期には4万6000ドル近くになっていると報じています。

利益率の減少についてイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はアナリスト向け電話会議で、マージン確保よりも販売台数を増やすほうが正しい選択肢だと説明。数を増やした後に、将来的には自動運転の実現によって利益を確保することができるという考えを示しています。

また決算報告書では、自動車部門の売上高利益率と営業利益率が減少した要因は、車の販売価格の引き下げのほか、4680セル生産の立ち上げに関するコスト、物流費などの上昇があるとしています。

ザッカリー・カークホーン最高財務責任者(CFO)は、稼働開始から日が浅い米テキサス州オースティンおよび独ベルリンの工場について、予定した生産台数に達して安定化するまでは、利益率を圧迫する要因になるという見通しを示しています。

2022年第3四半期のアナリスト向け電話会議でマスクCEOは、経営陣が最も注目しているのは営業利益率だと話したことがあります。この時は販売価格を引き上げた後だったので、台数よりも利益率を優先しているのかと思ったのですが、今回は明確に、台数確保を目指しているという説明がありました。

考え方が変更になったのかどうかは定かではありませんが、利益率が下がったと言っても2ケタを維持しています。日本の自動車メーカーの営業利益率は、ホンダがここ数年は4~6%前後、日産は3%台、トヨタでも8~9%台なので、マスクCEO、カークホーンCFOが健全なレベルを確保していると述べていることに一定の合理性はあると思えます。

サイバートラックは第3四半期に納車イベントを実施予定

テスラ社の2023年第1四半期の研究開発費は7億7100万ドルで、この1年間は同程度の水準が続いています。研究開発費は、総売上高が今の半分以下だった2021年第1四半期の頃でも6億ドル以上だったので、売上高に対する比率は下がっていますが、3%台を維持しています。

設備投資額は20億7200万ドルで、前期の18億5800万ドルから増加しています。世界各地の工場の立ち上げや、バッテリー生産に係るコストが引き続き大きいことを示しています。

現状での工場の最大生産能力は、以下の様になっています。

<カリフォルニア>
モデルS/X 10万台
モデル3/Y 55万台
<上海>
モデル3/Y 75万台
<ベルリン>
モデルY 35万台
<テキサス>
モデルY 25万台

上海工場での生産車は、今期からは新たにタイでも販売を開始したそうです。工場はフル稼働しているので、タイでの販売が好調になると、納車に少し時間がかかるようになるかもしれません。

なおサイバートラックは2023年第3四半期に、大規模な納車イベントを実施することが明らかにされました。現在はテキサス工場(ギガテキサス)でパイロットラインを稼働し、アルファ版の車を生産しているそうです。

この他、ネバダ工場では、テスラセミのパイロット生産を継続しています。

欧米中で全EVユーザーにスーパーチャージャーを開放する方針

生産関係の実績で伸びているのは、エネルギー貯蔵量です。定置型バッテリーの総容量は3889MWhになり、前期の2462MWhから約58%増えています。前年同期比では360%増です。

マスクCEOは定置型バッテリーについて、エネルギーが持続可能な形に移行するためには、移動式のエネルギー貯蔵よりも定置型の方がより多く必要とされるという見方を示しています。ただ、電話会議の中でエネルギー部門が自動車部門よりも大きくなると信じているのかという質問が出た際には、エネルギー貯蔵量は大きくなるものの収益性は自動車の方が高くなる可能性があるとし、経営への影響については直接の言及をしていません。

一方でカークホーンCFOはエネルギー部門の利益率について、自動車部門がそうであったように、どのようなプログラムでも20%台の粗利益率を見込んでいるとし、現状ではまだそこまでいっていないものの、その水準を目指していると述べました。

テスラユーザー以外へも開放することが話題になっているスーパーチャージャーは、設置数が順調に増えていて、今期で4947カ所、4万5169口になりました。

スーパーチャージャーを広く開放することについては、電話会議の中で、ユーザーからどんなフィードバックがあるのかという質問がありました。Andrew Baglino上級副社長(パワートレイン、エネルギー担当)は、テスラユーザーとそれ以外のEVユーザーの利用についてバランスがとれていると回答しています。

そして、ヨーロッパでは全スーパーチャージャーステーションの50%を全EVユーザーに開放しているが、待ち時間が増えていることはないという認識を示し、今後も北米や中国で同じアプローチを続ける方針を明らかにしました。

またヨーロッパではV4充電器、北米ではマジックドック(簡単な操作でテスラ規格とCCS1、両方に対応可能な充電ガン)充電器の設置を開始し、今後に新設する充電ステーションではこれらの新しい充電器の設置を続けるとしています。EVの普及をインフラとセットで考えているテスラらしい取り組みです。

とはいえ、CHAdeMO規格が標準の日本ではマジックドックの設置も期待できそうにありません。規格の乱立は普及へのハードルを上げてしまうので、日本の急速充電の規格もいっそCCSにして、世界の充電器メーカーに参入してもらうのもいいのではないかなあと思ったりもするのでした。

車両価格は流動的で今後も予測不能か

ところで、アナリスト向け電話会議で興味深い質問が出ていました。テスラ車の価格についてです。あまりに価格変動が大きいとユーザーから不満が出るのではないか、中古車価格の下落も同様にデメリットを生むのではないか、価格はどのように決めているのかなど、複数の参加者から同じポイントでの質問が続きました。

まず価格決定要因については、マスクCEOもカークホーンCFOも、回答を避けました。マスクCEOは、「話せることはない」とし、生産量やマクロの経済状況を評価して決断すると説明しました。カークホーンCFOも、理由の詳細は言及できないとしています。

一方でマスクCEOは、テスラ社では毎日、受注状況を把握しており、「毎日、週7日で軌道修正を行っている」と説明しています。自動車メーカーが販売データを集計するのには時間がかかりますが、テスラ社はリアルタイムで数字がわかるそうです。このデータは価格設定にも影響するため、昨年のように短期間での価格改訂が起きる要因になるようです。

そしてマスクCEOは、価格決定要因の「質問に答えられるような水晶玉があればいいのだが(そんなものはない)。誰かが水晶玉を持っているのなら、ぜひ借りたい。今は(そのくらい)不確実な時代だ」と述べています。

価格変動が大きくなる理由については、リチウムの価格変動があるとしています。Baglino上級副社長は、リチウムの市場では小さな需給のミスマッチが大きな価格変動を生むため読み取ることが困難だという見方を示しました。

Karn Budhirajサプライチェーン担当副社長は、半年前は炭酸リチウムは1トンあたり8万5000ドルで取引されていたが、今は26%も下落しているとしています。もちろん、テスラ社のような需要家はスポット市場で取引しているわけではありませんが、同社の需要は全体のごくわずかな量なので価格に影響を及ぼさないため見通しを立てるのが難しくなっているそうです。

そんな話が続いたあと、マスクCEOは以前にも話していたことを繰り返していました。リチウムは、採掘よりも精製能力が重要なポイントになるという点です。

だからテスラ社は現在、テキサス州のコーパスクリスティにリチウムの製錬施設、オースティン郊外にカソード精製施設を建設していると、マスクCEOは言います。これらの施設が稼働すると、テスラ社は北米で最大のリチウム精製能力を持つそうです。

そして最後に、「誰かやってくれないか? 私たちはほんとうはやりたくないんだ。頼むから、写真の共有アプリを作る代わりにリチウムの採掘、精錬工場をやってくださいよ」と、半ば冗談、半ば本気で話していました。

EV市場ではなく自動車市場を見てほしい

電話会議では、価格設定とEV市場でのシェアの見通しについての質問も出ました。マスクCEOとカークホーンCFOの回答は明確でした。

まずカークホーンCFOは、EVかICE(内燃機関)かという見方について「私たちはそうは見ていない。(見ているのは)自動車市場であって、EV市場ではない」と述べました。

これを受けてマスクCEOも、「EV市場を見ることをやめなければいけない。何台売れればいいのか、そういう見方をするのはやめよう。すべての車がいずれはEVになる。蒸気機関は今でもコレクターズアイテムとして残っている。将来のガソリン車はそうなる」と話しました。

それがいつ頃になるのかはわかりませんが、テスラ社は今期の決算発表でも、2023年に180万台という目標を維持しています。

ビジネスモデルは、利益を下げても数を売るという方向にすこし変わったようですが、今度は今の車の半分のコストにしたEVを作ることも目指しています。実現すれば確かに、自動車市場の中のEVのシェアというよりも、EVの販売台数が自動車市場を動かすことになりそうです。

まだまだ目が離せないテスラ社の動向なのでした。

文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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