テスラ2021第1四半期の台数実績発表〜日本メーカー超えが射程内

テスラ社は2021年4月2日(現地時間)、第1四半期(2021年1月~3月)の生産台数と納車台数を発表しました。『モデルS/X/3/Y』の合計生産台数は18万338台、納車台数は18万4800台でした。2021年の生産台数は75万台が目標で、まずまずのスタートになりました。

テスラ2021第1四半期の台数実績発表〜日本メーカー超えが射程内

【参考情報】
Tesla Q1 2021 Vehicle Production & Deliveries(2021年4月2日 ニュースリリース)

目標達成するも『モデルS/X』は生産台数ゼロ

エープリルフールの翌日、テスラ社は2021年第1四半期の生産台数と納車台数を発表しました。ニュースリリースによれば、四半期の数字としては生産台数も納車台数も過去最高を記録しています。

生産台数、納車台数が過去最高を記録したのは2020年の第4四半期で、『モデルS/X/3/Y』の合計生産台数が17万9757台、納車台数は18万570台でした。今期の数字はそれぞれ、生産台数が18万338台、納車台数は18万4800台となっています。

生産台数推移
テスラ 生産台数推移2021Q1

納車台数推移
テスラ 納車台数推移2021Q1

ニューヨークタイムズは2021年4月2日、テスラの納車台数が17万2000台にとどまると予想していた多くのアナリストが「売り上げの急増に驚いた」と報じています。

テスラ社の生産台数は、2020年の第1四半期、第2四半期こそ新型コロナの影響で工場を止めたことなどもあって、2019年第4四半期の数字よりも落ち込んでいましたが、その後は回復。2020年第3四半期には約14万5000台、第4四半期は約18万台と台数を伸ばしています。

ところで2021年第1四半期のモデルごとの数字を見てみると、『モデル3/Y』の生産台数が18万338台、納車台数が18万2780台、『モデルS/X』の生産台数が0台で、納車台数が2020台となっています。

はい、そうなんです。『モデルS/X』の数が異様に少ないのです。2020年の第4四半期は、生産台数が1万6097台、納車台数が1万8920台だったので、それぞれ、100%減、90%減になります。いったい何が起こったのでしょうか。

『モデルS/X』は2021年にまったく新しいモデル『Plaid』などに切り替わっています。テスラ社はニュースリリースで、『新型モデルS/X』を生産するための新しい生産設備は立ち上げの初期段階にあり、第1四半期にテストをすると説明しています。これが要因の第1のものと考えられます。

その他の要因についてCNBCは、『モデルS/X』を生産しているカリフォルニア州フリーモントの工場の火災、世界的な半導体の不足、部品不足による工場の閉鎖、港湾容量の問題、新型コロナのパンデミックなどがあると報じています。

フリーモント工場は3月11日午後に火災が発生し、夜に鎮火しました。テスラ社は生産への影響がどの程度になっているかを公表していません。CNBCなどによればフリーモント工場は過去にも何度か火災が起きたことがあり、かなりのコストがかかっているようです。

工場の閉鎖は、マスクCEOが2月26日にツイッターに、2日間の閉鎖があったことを投稿しています。

またCNBCは、テスラ社が証券取引委員会(SEC)に提出した通期のリポート『10-K』に、カリフォルニア州のベイエリア管理地区(BAAQMD)からフリーモント工場の大気質やコンプライアンスについて違反の通知を受け取った記載があることを伝えています。テスラ社の『10-K』は、この違反通知については異議申し立てをしていて、工場の生産への悪影響はないと説明しています。

【参考資料】
テスラ社の『FORM 10-K』

『モデルS/X』はフリーモント工場でしか生産していないので、何かあれば大きな影響を受けることになります。もっとも半導体不足は『モデルS/X』だけでなく『モデル3/Y』にも影響がある話なので、今後の動向が気になります。

一方で、『モデルS/X』が0台でも、前期と同じ程度の生産台数になっていることに驚きを感じてしまう部分もあります。マスクCEOは2020年第4四半期の決算会見で、『新型モデルS/X(Plaid)』について、『モデルS』は2月に、『モデルX』はもう少し遅れて納車が始まると話しているので、今期の2020台はほとんどが『モデルS』だと思われます。いずれにしても、第1四半期は生産台数0台なので、本格的に納車が増えるのはもう少し先になりそうです。

テスラ社が日本の自動車メーカーを追い抜く日

テスラ社の2020年通期の決算発表では、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO : Elon Musk)、ザッカリー・カークホーン最高財務責任者(CFO : Zachary Kirkhorn)、それに自動車部門トップのジェローム・ギーレン氏(Jerome Guillen)が揃って、長期的に年平均成長率(CAGR=Compound annual growth rate)が50%になるという見方を示しました。マスクCEOは、2021年は50%を超えるとも述べています。

昨年の年間生産台数は約50万台だったので、50%の成長率なら今年は通期で75万台になります。これは年平均なので四半期ごとの伸び率にすると約10.67%の成長率になります。

ということは目標の75万台に届くためにはこれから生産台数がどうなればいいのかと、苦手な数字とにらめっこをしてみました。

まず、2020年度の生産台数を起点にした年平均50%の成長率は、四半期ごとにすると10.67%の伸び率になります。これをもとに50万台から75万台に届くために必要な生産台数を考えてみます。

そうすると2021年に必要な生産台数は、第1四半期は16万台、第2四半期は17万7000台、第3四半期は19万6000台、第4四半期は21万7000台になります。この数字はあくまでも平均的に数字が伸びた場合なので、四半期ごとに上下するのは考慮していません。

これだけを見ると、『モデルS/X』の生産が完全に止まっているとは言え、やはり第1四半期の「18万台」を超える生産&納車台数は十分な数字だと言えそうです。

さて、これで2021年度は75万台になるわけですが、このまま成長が続いたらどうなるかというと、こんな感じなります。

年平均50%の成長が続いた場合の生産台数(四半期ベースでは10.67%で試算)
2021年予測台数
Q1160,029
Q2177,136
Q3195,934
Q4216,901
2021年合計750,000
2022年
Q1240,037
Q2265,631
Q3293,973
Q4325,351
2022年合計1,124,993
2023年
Q1360,056
Q2398,519
Q3441,032
Q4488,027
2023年合計1,687,634

あくまで予測ですが、改めて数字にするとすごいですね。3年後には170万台近くになってしまいます。

ところでわが日本の自動車メーカーがどのような状況かというと、まずスバルの生産実績は2011年から大きく上下しているのですが、2011年(暦年)が約58万台で、最新の2020年(暦年)は約88万5000台でした。その直前、新型コロナの影響が出る前の2019年(暦年)は約98万7000台です。

ということは、来年の終盤にはスバルの生産台数を超える可能性が高そうです。

【参考資料】
スバルの生産台数推移(公式)

次に三菱自動車を見ると、2019年度の生産台数は133万7000台です。ちなみに2012年度以降だと、最低だったのが2016年度で約108万台、最高は2018年度で約144万台でした。

ちなみに三菱自動車は電動車の販売台数も出しているのですが、電気自動車(EV)は2012年の7742台をピーク下がり続けて2018年には世界で766台になってしまっています。2019年に1015台と少し増えましたが、この数字を見ると哀しくなってしまいます。いったいどこで間違ってしまったのでしょう。

いずれにしてもテスラ社は、三菱の生産台数も2022年の半ばに超えそうな勢いです。

【参考資料】
三菱自動車の生産台数推移(公式)

次はマツダです。まず2020年(暦年)は国内外を合わせて117万5139台でした。新型コロナの影響が出る前の2019年(暦年)は約149万台、2018年は約160万台、2017年(暦年)は約161万台などとなっています。

マツダは生産台数の落ち込みが続き、いろいろなテコ入れをしているところです。なにか起爆剤があればいいのですが、直近ではめぼしいものはないのが現実です。新型コロナの影響からの回復が遅れると年産100万台を切る可能性すらあります。

ということは、テスラ社は遅くとも4〜5年後にはマツダも追い抜く可能性が高いと予測できます。

【参考資料】
マツダの生産台数(公式)

諸行無常の鐘の音が聞こえてきそうです。自動車業界の大転換が起きているのは間違いありません。EVの普及はまだ先と言い続け、水素に優先的に資金を投じるという選択が正しかったのかどうか、結果の検証をすべき時期にきているように思います。今やらずに、いつやるのかという感じですが。

もちろんテスラ社と言えども盤石でないとは思います。世界的な半導体供給不足もありますし、各社がEVに本腰を入れれば入れるほどバッテリーの素材調達も難易度が増します。フリーモント工場は、規模が大きくなる中で従業員組合との軋轢も報じられるなど、大メーカーが通ってきた道を通りそうな気配もあります。さらにはフォルクスワーゲンのように、巨大メーカーが本気でライバル視する場面も出てきました。

市場環境が厳しくなったためか、テスラ社の株価にも変化が出ています。今年の最高値は1月26日の883.09ドルで、そこから下げ続けて、4月1日時点では661.75ドルになりました。CNBCは金融サービス会社『Jeffries』がテスラの目標価格を775ドルから700ドルに引き下げ、テスラ社がEV市場における唯一の選択肢ではないという趣旨のリポートを出したことを伝えています。

と言っても、1年前には100ドル台(分割後の株価に換算)だったので、冷静に状況を見るのが正解ではないかとも思います。

まあ、何度も言うように筆者はテスラ社の株を持っていないのであんまり関係がないのですが、今後の動向は気になります。2021年度以降、ベルリンやテキサスで新たに稼働を始めるギガファクトリーがどのくらいの生産を維持できるのか、立ち上げはうまくいくのか、その時の台数はどのくらいで、価格はいくらいになるのか……。

EV市場のプレイヤーが増えたとは言っても、まだしばらくは、テスラ社が中心プレイヤーなのは変わらないのだと思います。

(文/木野 龍逸)※冒頭画像提供/Tesla, Inc.

この記事のコメント(新着順)3件

  1. テスラが唯一入り込めない市場、それは軽自動車規格っ!!
    そもそも車幅が広い車が受け入れられへん路地裏へも入れる軽自動車の存在、忘れちゃおませんか!?ただでさえドライバー高齢化で操縦性や小回りが求められてて新車販売の4割が軽自動車でっせー!!
    もう我輩はテスラ自体が「ガラパゴス」やー思いますー。
    それに日本人の収入も横ばいどころか低下してますやん!!実はそれこそが自動車産業へのボディブロー、秘技3年殺しやないですかー!!(爆)
    ※すんまへん言葉悪いですがそれしか言いようありまへんから(マジ)

    日産三菱の電気軽自動車に期待せずにはいられまへん。そうなりゃセンタータンクレイアウトのホンダくらいは電気軽自動車へ動くかもしれまへんが(ホンダeの技術転用で)。

  2. 世界では、もう向かうところ敵無しですね。
    ただ日本だと超高額商品の通販は敬遠される傾向があります。
    各県に1つでも良いのでディーラーを設置してくれると買い易いのですが。
    もっと黒字になれば考えてくれるでしょうか。

    1. ライバルがある意味いませんね。ある意味。
      各県にSCでさえもないので、ディーラーは、当然無理だと思います。
      見せかけの黒字が大きく増えることもないのではないでしょうか?

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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