やっぱりEV界のサラブレッド、BMW i3に試乗する

BMW i3は、EVとしても内燃機関のクルマをひっくるめても、独立峰のような、特異な一台といえる。2018年モデルでマイナーチェンジを受けたと聞いて、早速借り出してみた。とはいえ変更はデザインのみにとどまる。2年前のビッグマイナーチェンジで、サイズを変えずに22kWhから33kWh容量へと、エネルギー密度を改善したリチウムイオンバッテリーはそのままだ。

やっぱりEV界のサラブレッド、BMW i3に試乗する

2018年モデルより、BMW i3の外観に細かな変更がなされている。ヘッドランプがLED化され、バンパーは従来よりワイドさを強調した形状に、そしてAピラーからルーフにかけてキャビンを縁どるシルバーのグラフィックが加わった。2年前に、22kWhから33kWh容量へと、エネルギー密度を改善しつつもサイズは据え置きとした、リチウムイオンバッテリーに変化はない。

走行性能や動的質感に関してはほぼキャリーオーバーだろうが、制御プログラムなどに細かな年次改良が加わっていることは考えられる。カタログ数値での航続距離はJC08モードなので390㎞を謳うが、アメリカのEPA基準ではBMW i3は航続距離が約184㎞(114マイル)となる。ガソリン車と比較するためのMPGe(一ガロンのガソリン:約3.79リットルあたりのエネルギーで何マイル:一マイルは約1.61km)走行できるか)という電費単位では、118MPGeとされている。バッテリー容量が40kWhで約2割ほど大きい日産リーフは、それぞれ約243㎞(151マイル)と112MPGeなので、航続距離では日産リーフがBMW i3を上回る。いわばガソリン車との比較類推として、エネルギーあたりに対する走行可能距離では、ややBMW i3が優位にある。要するに、BMW i3は電費の良いクルマなのだ。だがリーフとの違いで驚くべきはまず、航続可能距離の表示だ。広報車を引き取って少し走った状態で162㎞。エアコンを切った状態で、ほぼ満充電では170㎞だったことが分かる。理論上可能な距離というより、リアリストかつ実際的、悲観的とはいわないがリーフより楽観的でないことは確かだろう。 ちなみにこれはCONFORTという出力面でも我慢のない走行モードでの話で、ECO PROというバッテリーセーブ重視のそれに入れれば、約2割ほどさらに航続距離は伸びる。後者のモードではアクセルの踏み込みに対し、確かにトルクの出方がマイルドになるが、鈍重さを感じさせるほどではなかった。

その動的質感に一切の妥協ナシ

加えて、走りの質という面では、さすがBMWと唸らせる「キレ」のようなものがBMW i3には宿っている。それはアルミシャシーの上にカーボンのセルを載せた、「LifeDriveモジュール」とBMWが呼ぶアーキテクチャに負うところが大きい。アルミのフロアシャシーにバッテリーやパワートレインを収め、その上にカーボン製のシェルを載せるという、ふたつの独立ユニットを重ねた構造だ。当然、軽量・高剛性の素材同士なので、車両重量は1300kgに収まっている。しかもBMWの伝統ともいえる50:50の重量配分と後輪駆動を採用しているのだ。短く、際立った重量物のないノーズが、ステアリング舵角に対してリニアに軽く切れ込んでいって、アクセルオンではすかさず鋭いトルクが後輪を蹴り上げる。その感触には思わずゾクリとさせられるものがある。EVの利点であるトルク・レスポンスの素早さが動的質感の中心に据えられ、痛快な走り味として表現されているのだ。これは他のFFレイアウト(フロントモーター・フロントドライブ)のEVには逆立ちしても真似のできない芸当だ。RR(リアモーター・リア駆動)好きなら、ポルシェ911やトゥインゴGT辺りと、純粋に比較対象になりうる。しかもアクセルオフに対して回生ブレーキが強く効いて、ブレーキペダルなしのワンペダル・ドライブが可能であることは、BMW i3が元祖であることも思い出した。回生の効き具合はリーフのそれよりも強い印象で、上手く走れれば、かなりのバッテリー容量を走りながら取り返すことができる。下り坂が続けば、航続距離が伸びることさえある。オプションの20インチを履いた仕様だったためか、乗り心地はややゴツゴツと固さを感じさせるが、上物の軽さゆえに足回りの動き出しがよく、強い突き上げや不快な揺れという類ではなかった。175/55R20という特異なサイズで、トレッド面は細いがエコタイヤを履いていることを思えば、乗り心地は悪くない。もっと高い速度域で快適さが増しそうなタイプ。BMWならではのダイナミクスはEVでも健在なのだ。その一方で、コミューターとしての資質も優れている。カーボンのセルの並外れた剛性によって、Bピラーを省略できたことから、前後ドアには観音開きを採用。観音開きはモーターショーのプロトタイプではやたらに見かけるが、現代の市販車で採用された例はほぼ皆無であることはご存知の通り。数少ない別例とてBMWグループ内、先代ミニ・クラブマンだったが。小さなドアだが、Bピラーレスゆえにリアシートの乗降性は悪くない。サイドシルにはカーボンの目がそのまま露わになっている。コンパクトな全長でRRレイアウトを採った関係で、ドイツ車にしては珍しく、リアシートの着座位置はフランス車のように高く座らせるタイプだ。背の高い大人が乗るとやや頭部に圧迫感を感じるかもしれないが、室内スペースは十分に広い。今回、借り出した仕様は「ロッジ(車両価格580万円)」と呼ばれるナチュラル・エレガンス志向の内装。グレーのウール・クロスとオフホワイトのナチュラルレザー、そして成長の早さゆえに採用されたユーカリのウッドパネルと、ざっくりした風合いのファブリックが目にも肌にも心地よい。その雰囲気は現代建築家によって誂えられたサロンのようでさえある。

とはいえ、ドアポケット部分はレザーと同じ配色のハードプラスチックが用いられるなど、決して高級素材だけで覆われているインテリアではない。同時に外観では、今どきアンテナがドルフィンタイプであることにも気づく。カットできるコストは可能な限りカットしているのだ。ちなみに充電ソケットは普通充電がフロントのボンネット内、急速充電用のそれはボディ右後方に設けられている。今回試した急速充電では、バッテリー残量66%の状態から充電を開始して早々に100Aが出たが、15分ほどで8.86kWhが入り、残量92%となったので、ステーション側で十分と判断したのか15分ほどで充電終了となった。カタログでは45分で約80%となっているので、まずまず正確といえるだろう。

EVでもBMWウェイに綻びはない

こうして見ていくと、BMW i3はまぎれもないBMWであるとはいえ、そのハイエンドなサルーンやスポーツカーとは対極といえる。むしろ大昔のBMWイセッタのような、無駄を切り詰めたコミューターとしての側面すらある。レンジエクステンダー仕様を除けば、538万~595万円という価格帯は、e-ゴルフと重なるところがあるかもしれない。だが「i」という専用ブランドから登場した看板の重さより、EVとして専用アーキテクチャを用意されたところにBMWらしさ、ひいては電気自動車であっても四輪のサラブレッドたらんという矜持が垣間見える。ものの見事に見る人によって好悪の分かれそうな、アクの強い外観ゆえに意外かもしれないが、そう、BMW i3はアグリービューティだがサラブレッドなのだ。

EVの中でも独特の存在感を放つが、歴史的視点で見ても空前絶後の一台といえる。バッテリー劣化時の対応は気になるところだが、ワンペダル操作のドライバビリティやレンジエクステンダーを市販量産車に導入したクルマとして、将来的に歴史に記憶されるクルマであることは確かだ。
(撮影・文/ 南陽一浩)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					南陽 一浩

南陽 一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。出版社勤務を経てフリーランスのライターに。2001年に渡仏しランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学にて修士号取得。パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の自動車専門誌や男性誌に寄稿。企業や美術館のリサーチやコーディネイト、通訳も手がける。2014年に帰国、活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体で試乗記やコラム、紀行文等を担当。

執筆した記事