現時点で市販EVとして完成度の高さは アンタッチャブル、テスラ・モデルS

ソフトウェアが最新版の8.1に更新されたテスラ モデルS「100D」。その試乗を通じて判明したのは・・・・今もモデルSは市販EVの中で、もっとも完成した一台であることだ。

現時点で市販EVとして完成度の高さは アンタッチャブル、テスラ・モデルS

じつはモデルSは徐々にアップデートされ、2017年モデルからビッグマイナーチェンジといっていい変更を受けている。ハードウェアは第2世代へ一新され、バッテリー容量は90kWhから最大100kWhに。自動運転機能のアップデートを前提にカメラが8個に増やされたり、12個の超音波センサーの有効検知距離も伸びている。

自動車のモデルチェンジのサイクルがでは昨今、5年も経てば市場では立派なベテラン・モデル。ところがテスラ・モデルSの独特の存在感とパフォーマンスは色褪せることがない。ハードウェア評価以外の場外乱闘でも、イーロン・マスク氏の一連の発言に事故や火災騒動など、これだけ毀誉褒貶の喧しいクルマも滅多にない。ふた月に一度ほどワイヤレスでソフトウェアは更新されており、今回バージョン8.1になった最新版のモデルS 100Dに試乗してみて、あらためてその意を強くした。考えてみれば、ロードスターに続いてテスラにとってはまだ2台目の市販車であるモデルSが、48時間の広報車貸し出しという限られた枠組みでこれだけの完成度を見せるのだから、それは大したことだと言わざるをえない。

一部にスチール製の補強を用いた、オールアルミ製のモノコックボディとはいえ、約2.2tもの車両重量は決して軽くはない。だがクルマのスペック数値とはつねに相対的なもので、それがまったく重く感じられなくなるのだから、面白い。


モデルSのそれは、はっきりいってオーバーサイズの面白さだ。パナソニック製リチウムイオンバッテリーをフロア下に敷き詰めた低重心設計に加えて、4輪のジオメトリーが元より大柄なせいだろう。いざ走り出すとマスの大きさがほとんど気にならない、そんなファースト・タッチなのだ。何せ1950㎜の全幅に前後トレッドは1662/1700mm、ホイールベースは2960mmもある。余談だが、落成早々の都内のタワーマンション内のオフィスに打ち合わせのため駐車しようとしたところ、最新の立体駐車場だったにも関わらず、全幅が少し出ているから無理と、係員に断られた。なかなかの大物っぷりだ。

だがモデルSのサイジングはじつに戦略的といえる。全長は4979mmなので、ほぼ2×5mという10m2の体躯に約3mのホイールベースが収まっていることになる。全長だけ見れば、メルセデスのEクラスやBMWの5シリーズ以上、Sクラスや7シリーズ未満。全幅はいずれもSクラスや7シリーズ以上なのだ。つまり、欧州Sセグメントほどもっさりせずにアクティブさは保ちつつ、その下の欧州Eセグメントより室内は俄然ルーミーで余裕を感じさせるという。電子制御のエアサス装備で、車高が可変であるせいかテスラは最低地上高しか公表していないが、モデルSの全高は見た目の実感では1430~1450㎜ぐらい。マセラティの隣に並んでも引けをとらないロー&ワイドの「2枚目スポーティサルーン」ルックは、Cd値0.23の空力ボディだし、ラジエーター不要ゆえの小口マスクといい、独特のプレゼンスがある。横アングルのグラフィックも煩雑ではなく、去り際の余韻もなかなか美しい。

それでいてリアトランクは実用性に優れるハッチバック形式で、容量も約750ℓもあるのだから、ステーションワゴン要らず。トランクのフロア下からはオプションを選べば、さらに後ろ向きの2人用チャイルドシートが現れる。試乗車は100D、つまりデュアルモーターで前車軸にも駆動モーターを積むAWD仕様ながら、フロントのボンネット下、オーバーハング側にも、機内持ち込みのスーツケースが入りそうなラゲッジスペースがある。EVとしてパッケージングの自由度の高さを、きっちり謳歌しているのだ。

少し話は戻るが、テスラはキーも独特。ミニカーのようだが流線形のオブジェ風でレザーの専用ケースに入っている。キーそのものが車の形状をしており、キーのボンネットを押すとボンネットが、トランクを押すとトランクが開くし、屋根を3度クリックするとすべてのドアが閉じてロックになる。慣れの問題かもしれないが、ケースの中で押したり操作したりは難しいので、おもにインテリジェントキーとして持ち歩くのが前提の造りといえるだろう。

フラッシュサーフェス化されたドアハンドルがポップアップし、車内に滑り込めばすでに通電していて、フットブレーキを踏んでステアリングポスト右側のシフトセレクタレバーをDレンジに入れれば、すぐさま走り出せる。既存のクルマにはない、大胆で洗練されたインターフェイスといえる。停止の際は逆に、一種のフールプルーフもあるだろうが、あえて手動でPレンジに入れずとも、ブレーキをかけたままドアを開けば、Pに入る。

今回、借り出したのは0-100㎞加速で2.7秒を誇るP100Dではなく、航続距離重視の100Dで、4.1秒となっている。前後モーターのAWDだがリア側はとはいえ信号ダッシュは十分過ぎるほど速い。別にこちらはフツーに加速しているだけでも、某国産メーカーの羽根つき太いエグゾーストパイプつきラリー仕様が追いすがってきたことがあって、3つ目の信号でさすがに諦めてくれた。テスラは公表していないが、100Dのシステム最大出力は推測420kW、最大トルクは推測621Nm。P100Dには用意されているローンチコントロール・モードは100Dには見当たらないが、一度だけフル加速を試してみた。するとタイヤのトレッドが縦方向に変形しているのが感じられるほど、踏み出した刹那のトルクの立ち上がりが鋭く、その後は蹴飛ばされたように首にGのくる無音に近い加速。ほとんどワープだ。ちなみにタイヤは245/45ZR19、ミシュランのパイロット・スポーツ3を履いていた。

意外だったのは、モデルSは徐行域でクリーピングがあること。これはパラメーター上でOFFにもできるが、トルコンATから乗り換えても癖として気になることはないだろう。アクセルペダルを離すと回生による減速が強めに効くが、完全停止するにはフットブレーキを踏む必要がある。つまりトラフィックが流れている局面では、加減速はほぼワンペダル操作で済んでしまう。

内装の静的質感は、よくも悪くもアメ車のそれだ。欧州車のハイエンドサルーンに慣れていると、合わせ目のチリが詰まっていないとか、造形の細やかさがないといった感想はあるかもしれないが、鉛を使わないで鞣したレザーとアルカンターラとおぼしき起毛素材、マットなクロームモールとステッチの対比は、精緻とはいわないが目くじらを立てるレベルではない。大らかなホールドだが硬すぎないクッション性などは、むしろ国産車より上等ですらある。惜しむらくは、このバランスはモデルSのようなハイエンド・サルーンよりモデル3のような普及モデル向きだと思わされることだ。

運転感覚のたやすさ、つまりイージーさを強調するのは無論、テスラ独自のオートパイロット機能。ステアリングコラム左下寄り、8時位置のレバーを手前に2回引けばセット、上下させれで設定速度の+-の加減、そして先端のダイヤルは車間調整になっている。物理的スイッチとはいえ、よくあるステアリングホイール上のボタン式とは一線を画し、より感覚的に操れる点は評価できる。メーターパネル内の画面を数値をいちいち読み取りながらボタンを押すより、ずっと簡単だからだ。

最新のアップデートで追加された機能のハイライトは、オートパイロットが作動中は、前走車そして左右の車線の他車の像が、メーターパネル上に表示されることだ。いわゆる「センサーが食っているかどうか」が見える化されるので、その効きを心配せずに済む、気の利いた機能といえる。

従来、「食ってる」状態はギリギリか、いざヒットするまで確認のしようがなかったからだ。信号待ちで目の前を何台も横切るような場面では、多少なりとも不思議な像を映し出すが、無いよりはるかにいい。

もちろんオートパイロット機能の精度は相変わらず高く、首都高5号線のような、時に曲線率Rが巻き込むようなコーナーがあっても、ステアリングを人為的に切る必要にかられることはほとんどなかった。ステアリングを保持すべし警告が、2度めに及ぶと、強制的にスローダウンしてPレンジに入り、再始動が求められるという「極度の警告」はテスラならではだろうが、節度をもってレベル2を使う、という意識に立てば問題はないはずだ。全幅の広いクルマの割に、修正舵によるグリグリしたモーターのヨーが少ないのも、モデルSの美点といえる。じつをいって、ステアリングを軽く握りつつ、バックグラウンドでADAS機能を模範的に使おうとしても、介入がわずらわしいお節介なシステムはドイツ車にも少なくない。

それにしても、アクセルオフで駆動力もオフになると、AWDとはいえ自然に巻き込んでいく感覚のモデルSのハンドリングは、慣れると病みつきになる。モーターもバッテリーも、サーマル・コントロールが効いているテスラのシステムは、サーキット走行をしたら保証外とはいえ、公道を気持ちよく走る程度の負荷は確実に許容してくれる。回生がよく効くので、雪道でのアクセルオフでは、前後の駆動輪のいずれかがロックしないか気になるが、本国サイトではあえて雪道を悠々とドライブする様子が動画で公開されている。真夏の試乗だった今回は確かめようがなかったが、4輪ロックによるスキッドはシフト制御やESPで抑えられるようにでもなっているのだろう。ロールは一定量はあるが、そこから先にはなかなか進ませない。でもシャシー・アンダーではないという、思慮深いものだ。乗り心地は概してフラットで快適だが、段差越えなどで重いクルマ特有のパタパタした感触はある。エアサスとしては穏やかな類だ。

ところでフル充電からの自律走行距離はEPA基準で539㎞。今回は撮影と試乗の後、お台場の地下駐車場内に設けられたテスラのスーパーチャージャーで高速充電を試みた。充電プラグはリアのコンビネーションランプ左側の前端にある。フル充電状態から、夏の早朝、エアコンを23度設定で普通に使い、高速と下道のミックス状況で200㎞強を走った後、バッテリー残量は60%弱だった。

駐車場のビルで守衛室に申告すると1時間の無料チケットが渡され、その間に高速充電を試みるわけだ。充電早々に車内のモニターを見ると、充電電力は72kWと表示され、その30分後にはバッテリー容量の90%強、航続可能距離はエアコンONのままでも500㎞弱を回復していた。もちろん充電は無料だ。

モデルSに短時間ながら接していると、その完成度の高みに驚かされる。同時に、その完成度が両刃の剣にもなっている事実に気づく。EVというジャンルを、既存のクルマとまったく別のものにしかねないインパクトを持っているからだ。充電は慣れたら不愉快なイベントでも何でもない。むしろ給油より面倒というイメージは、踏み絵どころか偏見に過ぎないことが、テスラのスーパーチャージャーを使ってしまうと腑に落ちる。500㎞以上の航続距離を休みなしで運行することの方が、今やバランスを欠いた運転の仕方だし、モデルSとXに限っては高速充電に関するチャージ(つまり料金のこと)はテスラもちなのだから。

従来のクルマと違うところを上げたらキリはないが、卓越した加速トルクを伴う感覚ゆえに、モデルS自体はきわめてクリーンなマッスルカーともいえる。単にトラフィックをリードできるというだけでなく、モータリゼーション全体の中で先陣を切るという広義の意味で、これだけの力を手にしたら受益者たるオーナーには賛同の対象となる。だが、そうでない人には妬み嫉みの対象ともなる。アンチが多いのもそのせいだが、アップデートでエンハンスをかけられるテスラだからこそ、気に留める理由はどこにもないのだ。(文と写真・南陽一浩)

この記事のコメント(新着順)8件

  1. 85Dを中古で買いましたが走りに全く問題は無いですね。ナビだけは星一つもあげられないぐらいですが(^^; 「キーボードが日本語非対応ですので音声入力のみです」「(地図はキャッシュしていないのか)圏外の地下駐車場では一切表示されません」とか・・・改善要求をメールしようかと思います(苦笑)

    1. phoenix様、コメントありがとうございます。このナビはElectrobit社製とのお話を聞いたことがあり、Googleマップなところまではいいのですが、ナビ自体は良し悪しなところがあると思います。習慣の違いもありますよね。米国では高速の出口には独自の名前ではなく、交差する道路名を使いますから道路名が見える今の仕様が標準。日本では交差する道路に関係なく勝手に出口名を付けているので、それをデータベース化しないといけない、など、充分に日本の環境に最適化できていない部分はあると思います。まあ最初はナビなかったんですからそれよりはマシかと(笑) ちなみに入力するのはちょっと難しいですが、手書き入力で日本語はある程度は入力できます。最新のファームウェアではスマホから行き先をBluetoothで飛ばせるようになったので、行き先の読み方分からないので入力できなくて困る、という問題はなくなりました。

  2. こんにちわ~♪
    MS試乗記ありがとうございます。

    まだまだ、都下では一月に一度すら見かけないモデルSやXですが
    その静かな人気が、写メ撮る人や声をかけてくる人が増えていて
    なんだかんだで変化してきているように思います

     通常の自動車メーカーのように「買ったら日々少しづつ型遅れになっていく」
    があまりないテスラ…
     サービスマンも「テスラを買ったら地球環境と資源保護のため数年で買い換えせずに、出来るだけ1台の車に長く乗って使い倒して欲しい」と正直に言い切れるメーカーやデーラーは唯一有無でしょう…
     OTAでソフトウェアが配信されるたびに
    「今度は何が変わるのかな?」と車庫に置いたままで、わざわざデーラーへ赴く必要すらない通信システムはNice《環境依存文字》ですね
     しかも他社のコネクテッドカーが経年で有償を前提としたサービスなのに
    テスラはユーザー全てに無償で平等に新しい機能の追加や
    改善した最新の性能を全てのユーザーに使わせてくれていますね
     
     これらユーザー視点のサービスを知ってしまうと
    EVの乗りやすさと合わせて、メカニカルではありますが効率の悪くてメンテが定期的に必要なICエンジン車には戻れなくなりますね… 
    エンジン車のオイル交換だけでも世界で毎年数十億リッターの廃油が出ていたりも考えさせられます。  
    石油タンカー数百艘ぶんのエンジン車から出るオイル交換を私達は今迄、あまり気にすること無く使って来た事になるのでは?

    AP 

    1. Model S様、コメントの承認が遅れ、何度も書き込んでいただいてすみませんでした。基本的には全て承認するようにしているのですが、スパムもありますため、自動にはなっていないのです。ご迷惑をおかけいたしました。
      テスラも少しずつ認知度が上がってきましたね!ソフトウェアアップデートする車は今までなく、またソフトウェアだけじゃなく、ハードウェアもモデル途中で少しずつ改良されてしまうテスラは、国土交通省にとっても今までの車の考え方を覆すクルマだったはず。その後レベル2自動運転も日本で初めて認可する形となり、名実ともに「初めて」の連続になっていますね。

  3. 「トランクを押すとボンネットが開くし」って、ソフトウェアのバグですか?(笑)

  4. こんにちわ〜♪
    MS試乗記ありがとうございます
    まだまだ私の生活圏では 月に一度くらいしか
    すれ違う事のないテスラ車ですが
    食い入る眼で見られたり、質問されたりを
    楽しんでいます。

    時々、駐車してる間にダウンロードされるソフトウェア配信で、買っても自分の車が古くなりにくく、飽きにくくなってますし
    配信されるたびに何が変わるのか?にワクワクする車は初めてで
    他社に似たような仕組みが増えて来てもそれらコネクテッドカーのように課金じゃなくてずっと無料、全てのオーナーに平等なサービスを行おうとする企業姿勢もテスラはグー
    単なるユーザーからの金儲け主義じゃない

    ホント、車=金食い虫の定説を変えてくれてますね

  5. こんにちわ〜♪
    MS試乗記ありがとうございます
    まだまだ私の生活圏では 月に一度くらいしか
    すれ違う事のないテスラ車ですが
    食い入る眼で見られたり、質問されたりを
    楽しんでいます。

    時々、駐車してる間にダウンロードされるソフトウェア配信で、買っても自分の車が古くなりにくく、飽きにくくなってますし
    配信されるたびに何が変わるのか?にワクワクする車は初めてで
    他社に似たような仕組みが増えて来てもそれらコネクテッドカーのように課金じゃなくてずっと無料、全てのオーナーに平等なサービスを行おうとする企業姿勢もテスラはグー?✨
    単なるユーザーからの金儲け主義じゃない

    ホント、車=金食い虫の定説を変えてくれてますね☺

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この記事の著者


					南陽 一浩

南陽 一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。出版社勤務を経てフリーランスのライターに。2001年に渡仏しランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学にて修士号取得。パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の自動車専門誌や男性誌に寄稿。企業や美術館のリサーチやコーディネイト、通訳も手がける。2014年に帰国、活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体で試乗記やコラム、紀行文等を担当。

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