眺めても乗ってもイコノクラスト、テスラ・モデルXは当代最良のクロスオーバーか?

ファルコンウイングとテスラは呼ぶものの、巷でいうガルウイング仕立てのドアにして、ピュアEV。徹頭徹尾、異端児であることを選択したかのようなモデルXに今一度、試乗してみた。確かに、他の車にもサルーンのモデルSにもない、独特の魅力がある。

眺めても乗ってもイコノクラスト、テスラ・モデルXは当代最良のクロスオーバーか?

まず試乗に先立って挙げておきたい、テスラ・モデルXの特長(特徴ではない、ストロング・ポイント)は、何といってもそのスタイリングだ。ガルウイングと観音開きドアは、デザイナーがアイデアスケッチの段階でしばしば試すもので、たいていはプロトタイプの段階までだ。市販車としてガルウイングを実現してきたのは最近では一部のスーパーカーのみだし、リアドアの観音開きもRX-8やR55時代のミニ・クラブマン、あるいはBMW i3辺りに限られる。そう、同じピュアEVというカテゴリーで鑑みれば、BMW i3より派手なファルコンウイング・ドア(いわゆるガルウイングのこと)を備えた点は、テスラらしさというかモデルXの白眉といえる。成り立ちからして野心的なのだ。既存ボディのままでパワートレインだけEV化してみました的な車とは、明らかにテスラとBMWが一線を画していることは、もっと評価されるべきだ。

しかもファルコンウイングはボタンひとつで開閉し、ルーフ面とサイド面の境目に関節を有する構造だ。狭いところで開く時は畳まれ気味に、ドア下端を引きつけたまま跳ね上がる。

ついでにいっておけば、12個の超音波センサーと360度を見回す8個のカメラがモデルXには備わっており、テスラは「史上もっとも安全なSUV」を謳っているが、周囲の状況を知る情報収集は、安全管理のインテリジェンスの基本中の基本という訳だ。

ファルコンウイングに注目ついでに、リアシートにも述べておこう。乗降性の点で頭をかがめる必要がないだけではない。モデルXの2列目シートの脚は、乗員の足やトランクからの長物といった荷物が絡みにくいよう、きわめて合理的な形状をしている。地味ながらポイントの高い造り込みだ。

ボディ中央を走るルーフピラーにMODEL Xのロゴが入るのも、なかなかくすぐる演出だ。こういう合理性とエンターテイメントはアメリカっぽいと感じる。

サイズも確かにアメリカンではある。遠目にはそれほどに見えないが、全長は5037㎜でホイールベースは2965㎜、全幅は2070mmにも及ぶ。全高は1680㎜と発表されているが、センタークラスターの大型タッチパネルから操作すれば、車高は5段階に変化する。下の写真はVERY HIGH/HIGH/STANDARD/LOWを比べたところで、テスラによればロードクリアランスは137~211㎜となっている。

それにしても真横から見るとモデルXは決して小山のように背の高いSUVどころか、むしろBMW X6に近いクロスオーバーのスタイルといえる。実際、Cd値は0.24を誇るし、斜めから見ると意外なほどコンパクトだ。

キーを携帯したまま近づくと自動でポップアップするドアを開け、シートに腰を下ろす。ブレーキを踏めばドアが閉まる点も、モデルSと同様、テスラ流にいえば「インハンスト・アクセッシビリティ」だ。

日本の車検でSUVに義務づけられる通り、ドライバー側から死角となりやすい左前輪からボディサイドにかけての視界は、ダッシュボード右下に設けられたモニターで確認することになる。

インテリアの素材や雰囲気はモデルSに準ずるものがあるが、着座位置ごと視線も高い。上に伸びた分、17インチのタッチパネルまで大きくなったかのように錯覚するほどだ。だがサルーンとの決定的な違いは、前方視界の広さ。しかも縦方向だ。ウインドウスクリーンは上部がコートされ、頭上にまで開口部が及ぶパノラミックウインドウシールドなのだ。

白いレザー内装は、サルーンに負けず劣らずリュクスな雰囲気。これで3列目シートも備わって7人乗り、しかもフルに畳んでおけば2002Lものラゲッジ容量が現れる。ラグジュアリーだが、人も荷物もたっぷり載せられるヴァーサティリティは、モデルXの大きな長所といえる。

走り出してみると、モデルS同様、低重心設計とボディの高剛性ぶりがタウンスピード程度でも、とてもよく感じられる。今回借り出したのは、モデルXの中ではエントリーグレードにあたる75D。バッテリー容量そのものの75kWhを表している。前々日にモデルS 100Dでほぼ同じルートを辿ったが、やや増えた空気抵抗と車両重量、単純に4分の3となったバッテリー容量と相まって、走行中のバッテリーの減り方は1割増しで速くなる感覚だった。

コーナーでのロール量もサルーンよりやや増したが、車高が上がったがゆえの鈍重さはない。とはいえ2.5トン近いため、舗装の粗い道ではタタンパタンといった、路面の変化に脚の伸びがついていってない感じの、重いクルマ特有の乗り心地を示すことがある。厳密にいえば、モデルSよりルーフが高くなっている分、コーナー進入時に上モノの重さで僅かにシャシーの反応が遅れる感覚は、ロール初期に感じなくはない。その遅れを265/35R22もの大径扁平タイヤでねじ伏せるような。確かに車重からして、このぐらいのタイヤでないと荷重の変化を満足のいくように受け止められないのかもしれない。

それでも一旦、挙動を作れば、元々の低重心設計とおそらくはデュアルモーターAWDの調和、そしてダブルウィッシュボーンの素直なサスが、クルマを思う方向へ軽々と曲げてくれる。しかし舗装のいい道では、リニアな加速感と回生ブレーキの感触が心地よく、すこぶる運転しやすい。先に挙げた外寸より、いざ走り出してしまえばボディ小さく感じるほど。つまり、それほどまでに手の内への収まり感がいいのだ。

走行による電力消費だが、EPA基準でモデルX 75Dのフル充電からの航続距離は、383㎞となっている。かなりの渋滞を含む都内と、関東近隣を約170㎞走った末に、バッテリーは半分強を消費していたので、きわめて正確な数値であることが確認できた。

充電もモデルSと同じく、台場のスーパーチャージャーを使用した。45%ほどのバッテリー容量から急速充電をスタートさせ、約30分後には89%、50分後には95%まで復活していた。申し分ない充電効率といえるだろう。

ひとつ惜しむらくは、リアウイング。この価格帯の車なら、固定ウイングではなく高速時だけ出てきてタウンスピードでは引っ込むような、車速感知式の格納タイプにして欲しかった。

とはいえ、2.4トン超えの車が、手の内に易々と収まり従順である様子は、驚愕すべきものがある。感覚として、おそらく経験してみないと分かりづらいほど。それでいてEVゆえの低重心と低床パッケージによる巨大なラゲッジ容量と、7人乗りさえ実現しているのだから。前例のないスタイリングに加え、比類ないアウトプットとパフォーマンスが、少し走り出しただけでも否応なく看取できるはず。既存の「自動車」像をことごとく破壊しているという点で、モデルXはまさしくイコノクラスト(偶像破壊者)なのだ。
(文・南陽一浩)

この記事のコメント(新着順)4件

  1. 情報が早いので楽しみにしています。
    ModelXのバージョンですが、うちのは今日まで2018.21でした
    イースターエッグは出来てました。
    今日、バージョンアップが来て、2018.32.4になりました。
    マップの表示が変わったようですが
    イースターエッグは出来ます。
    バージョンはアップするたびに全車に配信されるだと思ってましたが、、、
    飛ばされる事もあるのかなあ

    1. XP様、コメントありがとうございます。私も昨日アップデートが来まして、2018.24.1から2018.32.4にアップデートされました。ずっとLTEだったりとか、配信時にずっと地下に入っていたりしてアップデートの受信のエラーが多いと、飛ばされることもあるみたいですので、他の方がアップデートされて自分だけ、、のようなときはサービスセンターに連絡すると良いらしいです。ちなみに2018.21.9→2018.24.1→2018.32.4という順でアップデートがされていまして、24.1だけModelXmasができなくなる、というバグ!?があったようです。

  2. いつも楽しく拝見しています。
    今回のバージョンアップでテスラダンスができなくなりました。
    いつ頃このバグが解消されるか判りましたら教えていただけますでしょうか。

    1. 東様、コメントありがとうございます。ModelXmasのイースターエッグですよね。これはバージョン2018.24.1で入り、2018.26で(ちょっとしたバグ付きで)復活しているそうです。次のバージョンが日本に来る頃には使えるようになりそうですね。

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この記事の著者


					南陽 一浩

南陽 一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。出版社勤務を経てフリーランスのライターに。2001年に渡仏しランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学にて修士号取得。パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の自動車専門誌や男性誌に寄稿。企業や美術館のリサーチやコーディネイト、通訳も手がける。2014年に帰国、活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体で試乗記やコラム、紀行文等を担当。

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