メルセデスベンツの電気自動車『EQC』はEVであることを感じさせない操作感が特長

メルセデスベンツの電気自動車『EQC』をジャーナリストの諸星陽一氏が試乗。乗り味などを詳しく解説します。また航続距離などについて、EVsmartブログ編集部の寄本がプラスアルファでレポートします。

メルセデスベンツの電気自動車『EQC』はEVであることを感じさせない操作感が特長

ICE開発中止の真相は?

メルセデスベンツの本格的EV「EQC」が日本でデビューした。ダイムラーグループのEVということなら、スマートフォーツーエレクトリックドライブが存在した。また、北米で少数のEVを製造したことがあるとのことだが、ある程度のボリュームを持つモデルが製造されるのはメルセデスベンツ初のことである。

今回この「EQC」に試乗することになったのは2019年の9月27日だ。この1週間前には「ダイムラーは内燃機関の新規開発を中止しEVの開発に注力していく」というニュースが世界を駆け巡った。ものすごいニュースの後に来たジャストタイミングの試乗となった。まずはこの「内燃機関の新規開発の中止」について真偽を確かめなくてならない。

広報担当者に直接、訪ねた。「内燃機関の新規開発の中止は本当か?」。答えは「ノー」である。ダイムラーは電動パワートレインにも内燃機関のパワートレインも開発を続けて行くということである。

重厚感とEVならではの力強い加速が印象的

さて、EQCだ。EQCはGLCのプラットフォームを進化させ、前後にモーターを配置、384個のパウチ型リチウムイオンバッテリーを床下に敷き詰めて405V/80kWhの電圧/容量を確保している。

感心させられるのはEV化によってパッケージングが悪化していないことである。さまざまな自動車メーカーがEVを作るときにSUVをベースにしてきた。エンジン車のプラットフォームに電池を押し込めば、それだけSUVのもつ“U”の部分、つまりユーティリティ性がスポイルされてしまうことが考えられる。

ではEQCはどうか? EQCは見事にSUVとしてのパッケージングを維持したままのクルマとなっている。何の犠牲もなくEVとして仕上げられている。ラゲッジスペースは定員乗車時で約500ℓ、最大では約1500ℓを確保している。GLCとさほど大きな差はないレベルである。パッケージングを犠牲にするようなクルマ作りは落第点である。EQCはその点でまずは合格なのだ。

前述のようにモーターは前後に2基搭載される。2基のモーターはハード的には同一だが、駆動の中心はフロント側にある。普段はフロントモーターが中心での走行。強い加速が必要なときなどにはリヤモーターも駆動力を発揮する。

メルセデスはEQCを作るにあたり、EVを意識しないで乗れるクルマを目指したという。その思想通り、ドライバーズシートから見える風景は従来のベンツ車そのもの。そして運転方法もそのままだ。いかにエンジン車との違いを出し、先進性をアピールするかを念頭に置いているテスラとは180度違うことを感じる。

インパネのステアリングコラム左側にある「START/STOP」スイッチを押して、システムを起動したら、コラム右側に生えているATセレクターを操作しDレンジとすれは、普通に走り出すことができる。エンジン車を走らせるつもりでアクセルを踏み込む。走り出しのトルク感はしっかりしたもので、グッと力強い加速を示す。

時速30km/h程度からアクセルを強く踏み込むと、そこからはEVの世界へ突入する。まるでスポーツカーのような加速をEQCは難なくやってこなす。欧州のカタログデータによれば0→100km/h加速は5.1秒、0→60km/hは2.5秒だ。この0→100km/hで5.1秒というのはフェアレディZニスモと同じ数字なのだ。

重量約2.5トンのクルマがこの加速をするところはじつに豪快である。今回の試乗では後席に乗る機会があった。後席に乗った状態でフル加速を味わうと明らかに後方から押し出されているような感覚を感じることができる。前後2モーターでフル加速時は後輪側が強く働くといった制御を如実に感じるのである。

パドルで回生の強さを制御可能

EQCで特徴的なのはステアリンのパドルで回生ブレーキの効き具合を調整できることだ。デフォルトモードは「D」で最大減速度は0.6m/s2を発生できる。ここから右パドルを引くと「D+」モードとなる。「D+」モードは回生を行わずにコースティングとなるモード。デフォルトポジションから左パドル1度引くと「Dー」で最大減速度は1.7m/s2、さらにもう一度引くと「Dー ー」となり、最大減速度は2.5m/s2と強烈になる。

「D」の減速感はちょうどガソリンエンジン車でアクセルペダルを戻したのと同程度。「D+」はコースティングなので、ATのポジションをニュートラルにしたような感じとなる。「Dー」だとかなりきつめに回生が効く、感覚としてはエンジン車のステップAT搭載車でシフトダウンをしたような減速感。「Dー ー」の減速はかなりきつく、強めのブレーキ操作をしたときのようだ。減速度1.3m/s2以上の場合はブレーキランプの点灯が義務付けられているので、「Dー」および「Dー ー」で運転した場合は、同様にブレーキランプが点灯することがある。

2.5トンの車重を持つEQCはその重量に見合ったどっしりとした乗り心地を持っている。車重は軽ければ軽いほどいいというのがよく言われることだが、こと乗り心地に関してはある程度の重量を持っているほうがいいことがある。ロールス・ロイスなどはその典型で、クルマが重いことで安定した乗り心地を確保できている。EQCも同様で、真っ直ぐ走っているときはその重量によって安定感のある走りができる。

重量物であるバッテリー(なんとバッテリーだけで652kgもある!)を床下に置き重心を下げていることもこの乗り心地を生み出すことに大きく関与しているといえる。足回りもしっかりとした印象で、コーナリングにも不安感はともなわない。だたしキビキビした動きはやや苦手であり、横Gがかかり続けるような深いコーナーでは車重を感じながら走らなくてはならず、慣れない人はちょっと戸惑うかもしれない。

ベースとなったGLCはフロントセクションにエンジンを搭載するモデルあり、そのエンジンが前面衝突時には衝撃を吸収、遮断する役目も担っている。モーターではその役割を肩代わりしきれないため、EQCはモーターを取り囲むようにパイプフレームが取り付けられ衝突安全性を確保している。もちろん高電圧システムについては事故時には遮断され、感電の心配を排除している。

安全運転支援システムはSクラスと同等の「レーダーセーフティパッケージ」を採用。

アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック (アダプティブクルーズコントロールは高速道路の渋滞時なら30秒以内の自動再発進、一般道なら3秒以内の自動再発進が可能。車線維持機構の「アクティブレーンキーピングアシスト 」も装備される。車線をはみ出そうな際は、ステアリングに振動が伝わるタイプの警告が行われるので、ドライバーのみがクルマの状態を確認できる。

アクティブブレーキアシスト は性能の強化が図られた。たとえば、右折の際に対向車と衝突する危険がある場合、自動ブレーキが作動(速度などの条件があり)する。また緊急回避補助システムでは、車道横断中の歩行者などとの衝突の危険を検知すると、システムが正確なステアリングトルクを計算して、ドライバーのステアリング操作をアシスト 。さらに回避後の車線復帰もアシストする。

テレマティクスサービスの「メルセデス・ミー・コネクト」はEVに求められる機能を追加した上で標準装備となった。24時間緊急通報サービスは10年間無償で提供。スマートフォンの操作で車両ドアのロック、 アンロック、走行距離、平均電費等の状態をアプリなどでの確認、駐車位置検索などが可能なサービスも3年間無償提供される。

EQC専用のテレマティクスとして、EQオンラインナビゲーション 充電ステーション情報 、 出発時刻・プリエントリークライメートコントロールの設定、• エナジーフローや電費情報の表示、最大充電電流の設定ができる。

価格は標準モデルであるEQC 400 4マチックが1080万円、特別仕様車で55台限定のEQCエディション1886が1200万円。EQCエディション1886が先に販売され、2019年10月以降のデリバリー開始、EQC 400 4マチックが2020年春以降となっている。

メルセデスのセダンのトップモデルSクラスのS450が1170万とほぼ同等。EQCには補助金や税制面での優遇もあるが、かなりの高価モデルであることは間違いなし。メルセデスエンジン車からの乗り換えが多いのか? 既存のEVからの乗り換えが多いのか? 1年後くらいのデータが楽しみである。

(諸星陽一)

127km走行で35%の電池を消費

今回の EQC 試乗には EVsmartブログ編集部担当者として私、寄本も同乗しました。使命は「電費確認」と「急速充電をやってみること」です。

まずは電費について。諸星さんのレポートにもあるように。EQC は電気自動車であることをドライバーにあまり意識させないインターフェースになっています。電池の残容量はメーターパネルなどに「%」では表示されておらず、目盛りがあるだけ。電池温度も表示しません。

右リアフェンダー部に急速充電口、バンパーの角に普通充電口があります。

今回、諸星さんと御堀直嗣さんという2人のジャーナリストとともに試乗したので、私は助手席や後部座席からメーターパネルを時々撮影して、オドメーターを目安に電費を推計してみました。

まず、出発直後のオドメーター(積算走行距離)表示は710kmでした。試乗スタート場所だった六本木メルセデス『me』から首都高速に乗り、アクアラインを経て木更津方面の撮影場所へ。さすがに試乗慣れした諸星さんと御堀さん。とっておきのクルマ撮影スポットをいくつか教えていただきました。

いろいろじっくり撮影した後、再びアクアラインを経て横浜へ。日産グローバル本社の90kWh急速充電器を試したかったのですが、この日はショールームで何かイベントをやっていたらしく、本社前の充電器は2台とも塞がっており、残り時間も20分以上。試乗車の返却時間まであまり余裕もなかったので、市内の日産ディーラーへ行ってみたけどここも充電中。結局、大黒ふ頭PAでとにかく急速充電を試してみることになりました。

大黒ふ頭到着時のオドメーターは837km。つまり走行距離は127km、電池残量表示は「62%」です。 EQC が搭載する電池容量は80kWhなので、「80×0.38=30.4kWh」を消費した計算になります。ということは、今回の電費は「約4.2km/kWh」という結果でした。

今回の試乗では加速や高速コーナリングを試したりしたので、電費に考慮した運転はしていません。普通に高速道路を巡航すれば、5km/kWh 程度といったところでしょう。カタログ値の航続可能距離は400km(WLTC)ですから、まさに 5km/kWh の計算です。EPA推計値としては約357km。市街地など電費条件が悪い条件下では350〜370km程度、法定速度での高速道路巡航ではWLTC値に近い400km程度の航続距離を発揮してくれる、と考えてよさそうです。

ちなみに、EQC の日本での急速充電は出力50kWまでの対応です。日産本社の90kW器で逆に最大50kWであることを確認したかったのですが。。。

鶏と卵なんでしょうけど、大容量電池搭載車には高出力対応を望みたいし、高出力充電器のさらなる普及も待ち遠しいところです。こうした状況もまた、EV普及の過渡期だからこそのこと、なのでしょう。

(寄本好則)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 中々楽しそうなBEVですね!!
    ただ…そこはベンツ、高いですね〜😅
    魅力的なBEVである事には違いありませんね!!

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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