アウディ『e-tron』試乗〜EVならではの味わいを上質に仕立てた走り【御堀直嗣】

アウディジャパンが9月に日本発売が発表された電気自動車、Audi e-tron Sportbackのメディア試乗会を開催。自動車評論家の御堀直嗣氏の試乗レポートが届きました。2モーターでシステム最大出力300kWのインプレッションをお楽しみください。

アウディ『e-tron』試乗〜EVならではの味わいを上質に仕立てた走り【御堀直嗣】

高級EVの航続距離は400km前後が標準的に

アウディe-tornスポーツバックのファーストエディションに、箱根の山間と東名高速道路で試乗した。試乗前の説明で特徴の一つとして強調されたのが、充放電能力の高さであった。一充電走行距離は、日本のWLTCで405km(EPA参考値約351km ※仕様によって異なる場合があります)とされる。メルセデス・ベンツEQCが約400km、ポルシェ・タイカンが463kmであり、それらと大きな差があるわけではない。世界的にも電気自動車(EV)の一充電走行距離は、400km前後に落ち着きつつある。

しかし、欧州のなかでもドイツは速度無制限区間をもつアウトバーンが存在するので、ディーゼルターボ車が一回の給油で約1000km走れる現実からすると、その半分以下とみられてしまい、急速充電でいかに短時間に1000km近く走れるかが問われるのだろう。e-tronもモーターとリチウムイオンバッテリーを水冷とすることにより、ことに蓄電池への充放電の効率のよさが強調されることになる。

回生ブレーキのフィーリングに感じたこと

箱根の屈曲路の下り坂から試乗をはじめ、東名高速道路へ向かった。下り坂であるから当然回生を働かせ、充電しながらの走行になる。回生は、イグニッションを入れた標準が、あまり強く回生を働かせないモードで、ハンドルの裏側にあるパドルシフトの左手、マイナス(ー)表示を操作すると回生の強さが2段階で切り替えられる。2段目にすると、ワンペダル操作ができるほど強く効くので、標準のままだったが、どんどん電気がたまり、走行可能距離が増えていく。

その後、平らな道に入っていくつか信号で止まったが、そこでは回生の強弱を試しながら運転した。1段目は回生のよさを感じられる。そうした様子は、エネルギーメーターと走行可能距離で確かめられ、平地に入ってもなかなか距離が減っていかない。

東名高速に入ってからも、比較的混雑していたため、加減速があることにより回生を働かせる機会があった。高速巡行とはいえ、ほかのクルマが多く速度調整を必要とする状況では、よく回生され、高速上でも走行可能距離は大きく変化しなかった。

一般道へ再び降りて、郊外の流れが順調な道路に出ると、発進・停止が少なくなるので走行可能距離は徐々に減っていった。以上、充電を試す機会はなかったが、アウディの説明の通り、充放電の繰り返しで、充電が効率的に行える様子を、回生の働き具合から体感することができた。

回生の強弱について、1段目の強い回生は、高速道路などで急に速度を落とさなければならないときに使うのによさそうだった。2段目の強い回生は、市街地走行などでのワンペダル操作によさそうな回生の効き具合だったが、一旦停止すると、標準の回生の強さに戻ってしまう。

つまり彼らは、回生をエンジン車のエンジンブレーキ的に、必要な際にシフトダウンをして減速する感覚で利用することを前提に設定しているのだと思った。

一方、日産のe-Pedalや、e-Powerドライブでのワンペダル操作は、その設定を運転者が選び、市街地を走行する際には、設定を解除するまで回生を強く効かせる状態が続く。このほうが、運転が楽で、エンジン車ではできない操作になるのだが、それができない点には不満が残った。一旦停止後に再びワンペダル操作をしたいときは、再度パドルシフトで2段目の回生が働くように操作しなければならないからだ。

EU域内では、信号機が赤から青へ替わるとき、直前に赤と黄色が同時に点灯する仕組みとなっている。したがって、信号機に近づいていくとき、最初は赤でも減速中に赤と黄色が同時に点灯すればすぐ青になることがわかるので、クルマの流れを停滞させにくく、また運転者も再加速の準備に入ることができる。そういう交通環境の違いも、回生の使い方に別の考えを生むのかもしれない。

それでも日産のワンペダル方式(BMWのi3も同様)は、ペダル踏み間違いの危険性を減らしたり、万が一の急ブレーキを必要とする際に、ブレーキペダルを踏む前のアクセルから足を離した瞬間に強い回生を働かせ、ペダル踏み替えでの空走区間を無くし、衝突までの初速を落とせたりする副次的効果もあり、EVならではの回生の活かし方としてぜひ採り入れてほしいと、アウディ・ジャパン広報へ伝えた。

【追記】 後日談として、インフォテイメントシステムから、車両⇒エフィシェンシー⇒回生オート/マニュアルの手順を踏むと、いわゆるワンペダル操作ができるようになり、なおかつ回生の強弱も3段階に調節できるとのことであった。試乗前のコクピットドリルで案内がなく、試せなかったのは残念であった。次の機会に、確認してみたいと思う。

巨体だが車幅感覚はわかりやすい

e-tronスポーツバックの車体寸法は、全長が4.9m、全幅が1.935mで、とくに幅は2メートル近い巨体だ。しかし実車に対面してみると、それほど大きく、圧倒されるという印象はなかった。

運転のはじめは、山間の屈曲路で道幅はそれほど広くなく、カーブも急だ。車幅が2m近くあるのでかなり気掛かりではないかと心配したが、まったく不安を覚えなかった。もちろん、すれ違いや幅寄せなどが必要なときは、クルマの左端の様子が気になるだろう。しかし車線内を走っているときには車幅を意識させないのだ。

ちなみに、首を左に曲げて、左側のバーチャルエクステリアミラーを見ようとすると、かなり遠い。だが、前方を見ながらの運転では、車幅の広い大柄なクルマを運転している実感が薄く、車両感覚が手の内に入っている安心感がある。

一方、同じアウディのA8を運転したときは、車幅がわかりにくく、車線内に収まって走れているのかさえ心配になった。A8の車幅は1.945mで、e-tronより1cm広いが、大きな差ではない。なぜ、ほぼ同じ車幅であるのに、e-tronでは不安を覚えず、手の内感覚があるのか?

想像だが、Aピラー(フロントウィンドウの支柱)やダッシュボードの形状、ボンネットフードの形状など、前方視界に入る様々なものの形や位置関係のわずかな違いが影響しているかもしれない。ジャガーi-PACEも、車幅は1.895mあるが運転しやすいクルマだった。

さらに、e-tornは前後重量配分がほぼ50:50といっていい「前1290kg:後1270kg」と調和がとれており、走行中の車両の挙動が安心をもたらすのかもしれない。山間の屈曲路から高速道路へ移っても、車両感覚に変わりはなく、車線変更や料金所の通過も不安なく行えた。

高速道路に入りシフトをDからSへ切り替えると、アクセル全開で最高出力300kWでの加速を味わえる。加速の様子は暴力的でなく、落ち着いてハンドルを握っていることができ、肩に力が入るようなことがない。それでも速度計の数字はたちどころに高まっていく。

最高300kWの出力を出すといっても、その出し方の制御が適切に行われ、運転者の感触とともに超高速の世界へ誘う特性が作り込まれているのではないだろうか。また、クワトロと呼ばれる4輪駆動なので、前後駆動力配分がモーターであるがゆえによりきめ細かく行われ、タイヤが適切にグリップしているからでもあるだろう。全力加速の様子は、実に快かった。

タイヤの接地性は、乗り心地にも通じ、走行モードを、コンフォートとダイナミックへ切り替えても、コンフォートではやや上下動が増えるものの、安定性と乗り心地の調和は崩れることなく、ダイナミックにおいても少し乗り心地が硬めになるだけで、路面からの突き上げはなかった。

速度が高くなればなるほど安定し、落ち着き、上質な乗り心地を高めていく様は、一連のドイツ車に通じる乗り味だ。e-tronも、その域に達している。またそこには、リチウムイオンバッテリーを床下に搭載することによる低重心も効果をもたらしているだろう。基本的にはSUV(スポーツ多目的車)の作りだから、車高は1.6mを超える。最低地上高は190mmあり、床が高い。それでもe-tornの落ち着いた走りと、静粛性に優れた快適性は、高級車の趣だった。

後席は、ややふかっとした座り心地の高級さがあり、それでいてきちんと体を支える。座席と床にしっかりと段差があり膝が浮くようなことなく座れることも、同乗者にとって体を支えるうえで助けになる。SUV(スポーツ多目的車)を基本とするため、床下にリチウムイオンバッテリーを搭載していても、床が高くなりすぎることがない。そうした一つひとつのクルマのつくりが、EVとしてというよりクルマとしての基本を正しく押さえていると安心をもたらす。

機能の面では、ドアミラーに替わるバーチャルエクステリアミラーが新しい。といっても、レクサスESやホンダeでも先に採用されている。しかしここでも、ドイツ車であるという側面を実感する扱いに接した。

左右後方の様子を知らせる画面が、ダッシュボードではなく、左右のドアの内側に設置されている。これに目を移す際には、ダッシュボードに設置されたレクサスESやホンダeに比べ首をやや大きく動かさなければならないが、一方で、通常の運転で前方を見ているときには、視界に画面が入らないので、運転に集中できる。逆にレクサスESやホンダeは、とくに右側の画面が前方視界の目の端に常に入るので、画像を常に意識させられるのである。

かつて、スウェーデンのサーブが、運転に集中できるようにとブラックメーターという装備を採用したことがある。これは、運転中に必要な最小限の情報しか表示せず、それ以外の燃料計や警告灯などは必要に応じて表示できるが、普段は見えなくしておくことができる機能だ。運転中は、他の交通や他車の追い越しなど、運転者が注意を払うべき事柄は多く、そこに後方の様子を知らせる画像が加わると、意識が散漫になり、なおかつ脳が疲れるように感じる。

e-tronのバーチャルエクステリアミラーの画面は、そうした情報過多を減らすための設置位置ではないかと思う。わずかに右下へ目線を落とせば確認でき、同時に、右側面のガラス窓から外の景色も目に入り、画像だけでなく自分の目でも真横の気配を確かめることができるのである。一方、ダッシュボードに画面がある方式では、画像の確認はしやすくとも、側面の窓から実際の外の様子を確かめるのは難しい。それによって、画面の映像を信じ切るしかなく、心の隅に不安が残るのである。慣れれば問題ないかもしれない。しかし信じ切ってしまっていいのかは、今後考察すべき点だろう。

新技術採用に際して、アウトバーンを超高速で走行することも視野に入れた考え方の一端だと思う。

静かに、滑らかに走るe-tronスポーツバックの車内で、心休まるひと時を過ごすことができた。総合的な仕立てのよさに、e-tornの魅力を実感した。1346万円という高価なEVであれば当然だと思うかもしれないが、EVならではの味わいを狂いなく仕立てたところに、アウディの企業声明である「技術による先進」の意味を再確認したのであった。

(取材・文/御堀 直嗣)

9 thoughts on “アウディ『e-tron』試乗〜EVならではの味わいを上質に仕立てた走り【御堀直嗣】”

  1. 貴重なレビュー記事ありがとうございました。
    一点質問させていただきたいのですが、今回のe-tron Sportbackの航続距離が欧州WLTCモードで375kmと記載してありますが、日本法人が公表している数値でしょうか?
    海外のAudi公式インフォを当たったところ、欧州WLTCモードで446kmと発表していますが、
    日本仕様の航続距離はかなり低くなってしまっているという認識でよろしいでしょうか?(ちなみに出力などは変わってないように見受けられます。)

    https://www.audi-mediacenter.com/en/audi-e-tron-sportback-12270

    1. EV_Native さま、コメント、ご指摘ありがとうございます。

      航続距離について。
      今回日本に導入されたのは e-tron sportsback、55quattro の特別仕様モデルなのですが、挙げていただいているグローバルの案内では「373 – 452km」と幅があり……。いろいろ調べて、UKのEVデータベースサイトが REAL RANGE として提示していた 230mi を参照しました。
      と、230mi は370kmなのに、記事中、375kmになっていますね。。。いったん修正の上、当該モデルの欧州WLTP値について、アウディ広報に確認してみます。

      ご指摘、ありがとうございました。

      (参考サイト)
      https://ev-database.uk/car/1107/Audi-e-tron-Sportback-55-quattro

  2. 早速のご返信ありがとうございました。
    私もこちらのサイトを参照することがあるのですが、
    こちらのREAL RANGEは、サイト独自の方法で算出された数値で、
    WLTPサイクルを基準にした数値は277マイル(≒446km)と記載されていますね。

    1. EV_Native さま

      そうなんですよね。
      とはいえ、日本導入モデル仕様との整合性がわからず、日本WLTC405kmより欧州WLTPが断然長いはずもなく。

      参照出典など注記するべきでした。反省します。

      アウディジャパンに確認中なので、しばらくお待ちください。

    2. EV_Native さま

      懸案の航続距離について、アウディジャパンから日本仕様の欧州値は不明とのお返事をいただき、本文を修正、追記しました。

      欧州情報の55クアトロ航続距離は「373-452km」となっていて、装備などで異なるとのこと。詳細は判然としていませんが、日本仕様モデルは大径ホイルなどを採用していること、またWLTCが405kmであることを勘案して、下限の373kmを参考値としました。

    1. EV_Native さま

      ありがとうございます! EPA、記事整理時に検索したのですが見つけられていませんでした。なんてことでしょう。。。であれば、WLTPを経由する必要もないので、「EPA参考値約351km」に修正しておきます。

      それにしても、EVの航続距離はエンジン車以上に重要なので、そもそも実用に近いデータを示してもらいたいものですね。日本でも世界標準にするためWLTPを採用しながら、わざわざガラパゴスのWLTCに変換しているのもあまり意味がないように感じます。

  3. まさに重要な指摘で、少なくともEVの航続距離の表現を正確に伝えることができているメデイアが、(胡麻を擂るわけではありませんが)EPAサイクルという現状最も実態に近い基準を採用しようする姿勢であるEVSmartさんしかいらっしゃらないのですよね。
    ただそれも理解できないわけではなくて、そもそも基準が多すぎて、しかもメーカーもJC08と日本WLTCモードを併記するという(確か今後発売される車種は日本WLTCモードのみの表記だったはずですが)。
    それでは消費者がわかるはずもなく、メディアも説明がめんどくさいのか、なーなーで情報を伝えているという始末。
    せめてWLTPサイクルを基にした欧州のWLTCモード(Extra-Highモードを含めた)を採用して統一して欲しいですよね(これに関しても高速走行の割合が低い日本はExtra-Highモードを入れたくなかったから、交渉して妥協点を見つけたという経緯であると想像できますので仕方ないとは思いつつ、、)。

    1. EV_Nativeさま

      ありがとうございます。
      EV_Nativeさんのように正しく詳細な知識と見識を持つ方が注視してくださっていることを心して、励みます!

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					御堀 直嗣

御堀 直嗣

1955年生まれ65歳。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

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