Honda e 試乗記〜取り回しの良さとコーナリングが快感【諸星陽一】

ホンダが発売した電気自動車『Honda e』、「街なかベスト」をキャッチフレーズとする乗り味はどうなのか。自動車評論家の諸星陽一氏の試乗インプレッションをお届けします。

Honda e 試乗記〜取り回しの良さとコーナリングが快感【諸星陽一】

運転の基本を教えてくれるRRレイアウトの走り

やっとやっとである。ホンダがEVを作った。ホンダのようなグローバル企業がEVの発売について遅れを取っていたのは、じつに残念なことだが、もう出てきたのだからそのことについてあれこれ言うのはやめておこう。

さて、ホンダ初の電気自動車はじつにわかりやすい車名『Honda e(ホンダe)』という車名で登場した。ボディサイズは全長が3895mm、全幅が1750mm、全高が1510mm。つまり全長はフィットよりも10mm短い、ホイールベースは同一だ。全幅1750mmは否応なく3ナンバーサイズとなる(しかし取り回しは悪くない。その理由は後述する)。ホンダe最大の特徴は、モーターを車体後部に配置し後輪をドライブするRR方式としたところだ。原動機であるモーターの重心点がリヤアクスル(後輪軸)よりも後ろにあるパッケージングをリヤエンジン・リヤドライブということでこのように呼ぶ。ポルシェ911はその代表とも言えるモデルで、その前身となるポルシェ356(1950年生産開始)から一貫してRRのレイアウトを踏襲している。



リヤエンジンの名前からもわかるように、RRはエンジン時代に生まれた言葉である。当時、クルマの構成ユニットのなかでエンジンはかなりの重量物であり、その重量物をどこに配置しどの車輪を駆動するかで、クルマの特性は多く左右された。一般的にRRのレイアウトはオーバーステア(コーナリング中にアクセルを踏みこむとクルマが内側に巻き込まれる)傾向になることが多い。一方、EVはエンジンではなくモーターを原動機に使用する。モーターの重量はエンジンよりも軽く、そのモーターよりもバッテリーのほうがはるかに重い。つまりEVになるとモーターがどこに配置されるか? あまり関係ないことになる。もちろんどの車輪が駆動されるか? は重要なファクターであることには変わりない。

ホンダeのバッテリーは床下に収められる。もちろんリチウムイオンで、容量は35.5kWh。ホンダeは標準モデルとアドバンスモデルがあり、最高出力は標準モデルが100kW(136馬力)、アドバンスが113kW(154馬力)。最大トルクは同一でいずれも315Nmである。試乗したのは出力の高いアドバンスモデルである。まず第一にEVらしい力強い出力特性を持っていることをお知らせしておく。キュートなスタイリングのクルマではあるが、アクセルを強く踏み込んだときの力強い加速感はEVらしいものだ。それも後ろから押される感覚はやはり気持ちのいいもので、FF車になれた身体には新鮮でもあった。

後輪駆動らしさは交差点を曲がるような低速でも体験できる。たとえばステアリングを多めに切ってアクセルを踏んだとき、FFは前輪のタイヤの向きに駆動力が掛かり引きずられる後輪が抵抗になる、一方RRの後輪駆動は斜めになっている前輪を押すような形になる、自転車でハンドルを切ってこぎ出すときを想像してもらえばいい。駆動力が小さければ小さいほどその感じはダイレクトに感じる。こうした微妙な感覚は運転にとってはとても大切なもので、それを感じることができるホンダeは運転の基本を覚えることができるクルマだと言える。

フロントタイヤの切れ角を増やし最小回転半径4.3m!

走行モードはノーマルとスポーツがあり、当然スポーツモードが力強い。普段の走行ではノーマルで走って十分、ちょっとスポーティなフィーリングが欲しいときにスポーツモードを選ぶ形だ。また、シングルペダルコントロールのオン/オフスイッチも備え、ワンペダル走行も選ぶことができる。ペダルオフ時の回生量(減速G)は、シングルペダルコントロールスイッチオフ時で4段階、シングルペダルコントロールスイッチオン時で3段階の調整が可能。ワンペダルスイッチオン時最大減速Gは0.18Gで、リーフの0.2Gより数字的には小さいが乗った感じは十分に強い減速感を得られる。

コーナリングはかなりスポーティなものだ。とくに感心させられのが、カーブの回転半径が大きな高速コーナーでのコーナリング。コーナーに向かって進入し、フッとアクセルを少し戻して荷重をフロントよりに移し、ステアリングを切り込んでいくとびったり4輪のタイヤがグリップしてコーナーをクリアしていく。クリッピングポイントについたら、そこからアクセルを踏み込めば、リヤから押し出される感覚でコーナーをクリアする。この気持ちよさはかなりの快感である。

では入り組んだ道路での取り回し性能はいかに? なのだが、これがまた素晴らしいのである。ホンダeはリヤにモーターを搭載したおかげでフロントまわりにかなりの余裕ができている。そのため、フロントタイヤの切れ角が通常のクルマよりもずっと増えているのだ。ホンダの軽自動車であるNワゴンのFF車の最小回転半径が4.5m(4WDだとさらに大きい)であるのに対し、ホンダeの最小回転半径は4.3mとなる。いかにホンダeの前輪が切れるかがわかるだろう。

今回の試乗会では、大量の段ボール箱を使って室内に迷路を製作、そこをホンダeで走るというコースが設定されていた。タイヤの切れ角が大きくて、小回りが効くのはもちろんだが、クルマの四隅の見切りがいいのでドンドン攻め込んでいける。全幅1750mmは取り回しについてはまったく問題なし。ただし、狭い道への進入や狭い道でのすれ違いでは全幅の絶対値は関係してくる。やはり日本で使いやすいのは5ナンバーサイズであることには変わりない。

インテリアなどもEVらしさを主張

また通常のドアミラーではなく、カメラで撮影した画像をモニターに映し出す「サイドカメラミラーシステム」を採用しているのも特徴的。モニターが通常のドアミラーと近い位置にあるため確認はしやすいのだが、ミラーの虚像とウインドウの外の実像は、見えるものの解像度にあまり差がないので違和感なくすべてを情報として取り入れられる。一方モニターに映される画像はかなりクリアで、モニターのみを使うのは非常に使いやすいものの、モニター画像とウインドウの外の実像の両方を脳内で情報処理するのにちょっと手間取ってしまうという印象だ。

運転席側のサイドカメラミラーシステムのモニターからメーターのモニターに続き、ディスプレイモニター、そして助手席側サイドカメラミラーシステムのモニターと一直線に並んだモニター類の配置は他に類を見ないもので、ホンダeのインテリアを象徴するものだ。試乗時間が短く、各種機能を試すまでには至らなかったが、先進的なインテリアはEVらしさを十分に備えている。

フロア下に搭載されたバッテリーはフロントシートクッションの下からリヤシートクッションの間くらいに配置されている。このため、フロントシートの足元はスッキリとしているのだが、リヤシートはフロアが高くなっている。リヤシートのクッション前後長も短めなので、リヤシートは若干の窮屈さを覚えてしまう。ラゲッジルームは通常使用では困らないサイズだろう。定員乗車状態でA型ベビーカーを畳んだ状態で横積み可能、リヤシートのシートバックは一体可倒式となっていて倒せばゴルフバッグを縦方向に搭載できる。

充電はCHAdeMO(1.2規格)対応の急速充電と、タイプ1単相の普通充電に対応。CHAdeMO50kWの場合は、充電警告灯点灯タイミングから30分で80%までの充電が可能。タイプ1単相普通充電の場合、3.2kWまでなら9.6時間以上、6.0kWで5.2時間以上となっている。

車載のAC100Vコンセントから合計1500Wの電源供給が可能なほか、充放電器(V2H)を介して分電盤に接続し、家屋などへの給電が可能。またCHAdeMO接続で外部給電器に接続しAC100VやAC200Vを取り出すこともでき、避難所やイベント会場での使用も可能となっている。

(取材・文/諸星 陽一)

2 thoughts on “Honda e 試乗記〜取り回しの良さとコーナリングが快感【諸星陽一】”

  1. 「フロア下に搭載されたモーターはフロントシートクッションの下からリヤシートクッションの間くらいに配置されている。」 ・・この記述は理解できません。モーターはリアアクスルのさらに後ろの設置してある,との記述が先にありますが。

    1. Junji Shirai さま、コメントありがとうございます。

      著者の諸星さんにも確認しました。「モーター」ではなく、「バッテリー」の間違いですね。記事本文も修正します。

      ご指摘いただき、ありがとうございました!

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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