プジョー『508』&『508SW』HYBRID試乗レポート〜武者修行考察「PHEVは必要なのか?」

フレンチPHEV一気試乗の第3弾は、2021年6月2日に日本国内発売となったプジョー『508 GT ハイブリッド』です。5ドア・ファストバックの『508』とステーションワゴンの『508SW』の2タイプがありますが、ボディ形状以外の相違点がないのでまとめてレポートします。

プジョー『508』&『508SW』HYBRID試乗レポート〜武者修行考察「PHEVは必要なのか?」

※冒頭写真は『508 GT ハイブリッド』。

フラッグシップサルーンもPHEVで電動化

向きが揃わず失礼。ファストバックの全長は4,750mm。SWの全長は+40mm。どちらもボディ後半の流麗さが際立つ。

2021年に入って立て続けに新型PHEVモデルを国内投入したグループPSAジャパン。最新の『フレンチPHEV』5モデルを一気に試乗していく電動車武者修行シリーズの第3弾。

プジョーから新たに登場したPHEVは、前回試乗した『3008 GT ハイブリッド4』と今回の試乗車、プジョー『508 GT HYBRID(ハイブリッド)』と『508 SW GT HYBRID』です。この3モデルは、今回連続試乗するグループPSAの3ブランド(プジョー・シトロエン・DS)のPHEV計5モデル共通のプラットフォーム「EMP2」と、PHEV向けにチューニングされた直列4気筒1.6Lダウンサイジングターボ「PureTech」エンジン、アイシン製8速ATにモーターを内蔵し、従来のトルクコンバーター式を湿式多板クラッチ方式に変更したパワートレインを採用しています。なお、プジョー『3008 HYBRID』と『DS 7 CROSSBACK E-TENSE 4×4 Grand Chic』は後輪モーター駆動の4WDとなっています。

また、リアサスペンション方式も全車マルチリンク式(508はもともとマルチリンク式。その他のモデルはトーションビーム式からマルチリンク式に変更されている)という『一卵性五つ子』ともいえる車種展開になっています。

もともとグループPSAは、ひとつのプラットフォームやパワートレインを複数ブランドでキャラを分けて使い回す技術に長けていたのですが、その技術は最新PHEVでも存分に活かされています。よくもまぁ、こんなにも性格を変えてくるもんだと感嘆してしまいます。

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駆動用バッテリー容量は11.8kWhとやや控えめ

508の電動リアゲートは大きく開口し荷物の積み下ろしがしやすい。

508は、プジョーのフラッグシップモデルで、5ドア・ファストバック(低く美しいボディラインとハッチバックの利便性を兼ね備えた特徴的デザイン)とステーションワゴンの「508SW」がラインナップしています。プジョーは本国フランスでは、日本でいうトヨタのような存在ですから、508はクラウンのような立ち位置となりますね(スタイルは随分と違いますが…)。

日本国内では、508が2019年3月、508SWが3ヵ月遅れの同年6月の発売、当初エンジンは1.6Lダウンサイジングターボガソリンと、2.0Lディーゼルターボの2種類でラインナップされました。PHEVモデルは、ICEと電動車の汎用性を高めたプラットフォームの特長を活かして開発されて、2モデルとも2021年6月2日に日本市場へ導入されました。

508と508SWのスペックを確認すると、5ドア・ファストバックかステーションワゴンかというボディタイプとサイズ(全長が508が4750mmに対して508SWは4790mm)の違いのみ。前半分のエクステリアデザイン、インテリア、装備などは同じです。

プジョー 508 SW GT HYBRID。

それぞれ、PHEV(プラグインハイブリッド)モデルの車名には「HYBRID」が付いています。508 HYBRIDのエンジンは、ガソリンモデルに搭載されていものと同じ1.6Lダウンサイジングターボですが、最大トルクが+50N・mの300N・mとなり、最高出力発生回転数が5,500rpm→6,000rpmに上げられています(最高出力は変わらず180PS)。

モーターの最高出力は110PS、最大トルクは320N・m、システム総合最高出力は225PS/360N・mのスペック(フランス本社公称値)。

バッテリー容量は11.8kWhで、グループPSAのPHEVラインナップでは最も小ぶり。ほかのEVモデルのバッテリー容量は13.2kWhとなっています。これは、508以外がSUVであるというボディ形状の違いが影響していると推測されます。

このため、EVモードでの航続距離は、56km(WLTC)と若干少なめのスペック。筆者の試乗時では、「508」「508SW」とも28km程度の航続距離となりました(外気温27~30度、天候雨、エアコンON、シフトは回生ブレーキが強いBモード)。

【編集部注】英国のサイトを確認すると、欧州仕様車の航続距離は「最大39マイル=約63km」となっています。これを、実用の感覚に最も近いアメリカの基準であるEPAに換算(欧州WLTC÷1.121)すると、約56kmとなります。
EVやPHEVの一充電航続距離は、各国の測定基準によって異なっており、通常は「EPA<WLTP(欧州)<WLTC(日本)」の順に多くなっていきます。でも、最近は欧州メーカーの電動車のバリエーションが増え、欧州のWLTP値より日本のWLTC値のほうが厳しい(距離が短い)というケースが散見されます。そもそも、欧州WLTPと日本WLTCの測定基準は同じであるものの、日本では高速走行テストが一部割愛されるので有利になる、みたいな、とてもややこしい状態です。
世界基準で実用に近い航続距離を示してくれるようになるのが、ユーザーには優しい、と思うのですが。

最新の『プジョー顔』は、フロントフェイス両サイドは「セイバー」と名付けられたLEDデイタイムライトが特徴。プジョーのエンブレム、ライオンの牙をイメージしたデザイン。リアコンビネーションランプデザインはライオンのかぎ爪をモチーフにしている。

走りの質感はICEモデルを凌駕

走りの質感は、ガソリンモデル、ディーゼルモデルよりも上質な印象でした。ガソリンモデルは、フラッグシップモデルらしい高い静粛性と上質な走りですが、ライバルに比べるとややパワー不足感がありました。不自由はしないのですが、Dセグメントとしてはやや物足りなさがあることを否めませんでした。ディーゼルモデルは、太いトルクでパワフルな走りを見せますが、エンジン音が気持ち大きめ。上質さで比較すれば、ガソリンモデルのほうが上となる印象です。

PHEVモデルは、508ガソリンモデルのウィークポイントであった、エンジンの力不足(繰り返しますが、不自由はしないですし、アクセルを踏み込めばそこそこ速く走ります)が解消され、最もフラッグシップモデルらしい走りを獲得していました。

この走りの質の良さは、単にガソリンモデルより最大トルクを高めて、モーターのパワーが加わっただけにとどまらず、8速ATが従来のトルクコンバーターから、湿式多板クラッチへ変更されたことも好影響を及ぼしているはずです。

このトランスミッションの良さは、508に限らず、他のグループPSAのPHEVに共通した特長ですが、走りの上質さにおいては508が最も優れていると筆者は感じました。

逆に少しばかり気になったのは、足回り。PHEVモデルに限ったことではありませんが、サスペンションストロークが気持ち短いような感覚があり、路面が複雑な凹凸で連続するような走行シーンでは、バネ下の落ち着きがいまいち良くなかった感じがしました。まぁ、これは、スタイルを重視して犠牲になったところかもしれないですし、そのような悪路に頻繁に遭遇することもないでしょうから、トータルバランスで問題のない範囲と筆者は思っています。

インテリアは508、508SWともに共通。楕円形のステアリング、高い位置にあるメータークラスターなど独特のレイアウトは「i-Cockpit」と名付けられたプジョー共通のコックピット。視線移動範囲が小さく、手を自然に伸ばしたところにスイッチ類を集中させているのがポイント。ステアリング位置は、通常より拳1個分くらい下になり肩が楽。

電動車武者修行で考察「PHEVはそもそも必要か?」

この「フレンチPHEV 5モデル一気に試乗」企画、EVsmartブログ編集長が「電動車武者修行」というサブタイトルをつけてくれました。毎回、電動車について考察してみる主旨であり、今回のお題は「PHEVはそもそも必要? 自動車メーカーにおけるPHEVの立ち位置とは?」です。

筆者は仕事柄あらゆる車種に乗りますが、評論のフォーカスはその車種に向けることが基本です。今回のように「PHEVは……?」というマクロなカテゴリでクルマのことを考えることはあまりません。ほかのカテゴリで言うなれば「軽自動車は……?」「SUVは……?」という考察になるでしょう。けれども、それらはもはや枯れたカテゴリで、過去を振り返り未来に思いを巡らすことがあっても、深く考えたところで得るものがあまりありません。しかし、今回のPHEV連続試乗では多角的に考えてみました。

「タイムズ海老名中央公園地下」には会員登録すると無料で通常充電が利用できる「パーク&チャージ」がある。立ち寄ってみたが先にBMW i8が充電中だった。奥は急速充電。

これまでの「EVシフト」動向を振り返る

「PHEVはそもそも必要? 自動車メーカーにおけるPHEVの立ち位置とは?」を考えるに際して、まずはこれまでの「EVシフト」の動向を振り返ってみました。

PHEVの市販モデルが販売されたのは2010年代、国内市場で一般販売(法人向け販売を除く)された第1号は、2012年1月に発売された、トヨタ プリウス PHVでした。その直後、2013年には三菱のアウトランダーPHEVがデビューします。PHEV市販モデルとしての歴史は、まだ10年に満たないんですね。

ことに欧州におけるEVシフトのはじまりは、2016年2月にノルウェーの最大政党が、2030年に新車販売のすべてをゼロ・エミッションにする声明を発表したことではないでしょうか。その後、EVシフトの急加速が顕著になったのが、2019年7月にEUが2035年にICE(内燃機関車)の新車販売を事実上禁止する方針を打ち出したことでしょう。

約15年という期間で、新車販売からICEをなくさねばならないという政策は、自動車業界を筆頭に、さまざまな業界へ大きな波紋を広げました。EVシフト待ったなし、となった2019年ですが、ICE新型車の開発を、どのメーカーも進めていた最中でした。

2010年代の自動車の開発スパンは、共通化されたプラットフォームやパワートレインなどの進化によって大きく短縮され、既存のプラットフォームやパワートレインをベースにした新型車であれば1~2年で市販化が可能となり、派生車種であれば1年を切るメーカーも出てきています。しかし、EVとなると今までのような開発スパンで発売にこぎつけることは困難です。

PHEVモデルのデビュー時、LEDメーターが改良され高精細になり、とても見やすくなった。表示パターンは多彩。画像の表示は、ゼロ・エミッション走行割合が表示されている。

新型EVの開発と併せて自動車メーカーが直面している問題に、厳しいCO2排出規制、燃費基準があり、基準が達成できなければ、高額なペナルティがメーカーに課されることになりました。2021年の欧州燃費基準は特に厳しくなり、対応できないメーカーが出てくることが懸念されています。また、これは欧州市場での販売シェアが高い日本の自動車メーカーにも適用されるものです。

欧州のCO2排出規制値は「NEDC」と呼ばれる欧州燃費モード(やや古い)で、1km走行毎に95gとしています。これを超えた場合、新車1台を販売するごとに、1g/km毎に95ユーロ(約12,000円/本記事執筆時点の為替レート)という高額なペナルティが課せられます(この規制はすでに2021年1月から始まっています)。

ただ、このペナルティは自動車メーカーごとの新車販売台数総量に対してのものですので、燃費が悪いクルマを1台売ったとしても、基準を満たす燃費の良いクルマを売ってトントンにできます。

また、自動車メーカーは、課せられるペナルティを自腹を切って支払うか、販売価格に上乗せにするのか、どちらでも良いという選択肢があります。これは、自動車メーカーの勝ち負けを左右する材料にもなりますね。

仮に、車両価格300万円のクルマが、燃費基準を大きくオーバーしペナルティ額が100万円になった場合、売る側も買う側もどちらが負担しても非現実的な金額ですね。しかし、車両価格が2,000万円の高級車だったなら、買う側が「100万円くらいだったら、払ってもいいよ」という可能性は十分に考えられます。

トヨタ車で例を挙げて試算してみます。

車種NEDC CO2排出量対基準値ペナルティ額
ヤリス HV64g/km-32g0
RAV4 PHEV26g/km-70g0
スープラ 3.0L170g/km74g888,000円

※ペナルティは、€1=12,000円の単純計算

ざっくりとした試算ですが、燃費が悪いスープラ3.0Lモデルを1台売っても、RAV4 PHEVが1台売れればほぼトントンです。またヤリス ハイブリッドが2台売れれば、スープラ1台分のペナルティが10g分に軽減されます。

仮に、スープラでペナルティ額を車両価格に上乗せした場合、現在の国内販売価格ベースで約730万円が、約820万円となります。スープラなら820万円になったとしても買う人がいなくなることはないでしょうが、販売の大きな足かせになるのは間違いありません。

普通充電のみに対応。グループPSAは「PHEV」の表記をモデルに用いず「ハイブリッド」で表現。

少し話がそれてしまいましたが、「PHEVはそもそも必要? 自動車メーカーにおけるPHEVの立ち位置とは?」の答えが見えてきましたね。

仮に、EVシフト急加速の背景がなく、EU燃費基準だけが厳しくなっていたとしたら、多くの自動車メーカーは、ハイブリッド車の開発に力を入れていたことでしょう。そのほうが開発コストは抑えられるのは明白です。

しかし、脱炭素への機運の高まりが燃費基準の厳格化を強め、EVシフトの急加速という世の中の動きが本格化しています。世界の自動車メーカーはBEVの開発を余儀なくされ、その過渡期である現時点において、『つなぎ』としてPHEVの開発、販売を必要とせざるを得なくなっているところ、といえるでしょう。

ただ、地球の環境保全、限りある資源の有効活用といったマクロ視点でのサスティナブルを考慮すると、EVシフトの急加速があろうがなかろうが、EU燃費基準が厳しくなろうがなかろうとも、ICEからBEVへの段階的な置き換えを、サスティナブルな発電とワンセットで推進しないといけない命題、と筆者は考えています。

ドライブ先の「灯籠坂大師の切通しトンネル」にて。

さて、次回は最新フレンチPHEV連続試乗の最終回となります。残る1台は「シトロエン C5 エアクロス ハイブリッド」です。本記事執筆時点で既に試乗を終えているのですが、一連の試乗を通して、新たなEVの可能性を見出すことができました。

次の記事では、そのEVの可能性と筆者的『PHEVのススメ』を、最新フレンチPHEV5モデル連続試乗記のまとめとしてお届けしたいと思います。どうぞお楽しみに。

今回の試乗コースは、「508」は荒天のため近場で済ませ、「508SW」では雨の日でも撮影が可能な「灯籠坂大師の切通しトンネル(千葉県富津市)」を選びました。このドライブの様子や、もう少し細かい試乗インプレッションは、下記の動画でまとめています。

(取材・撮影・文/宇野 智)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 宇野さま

    >ICEからBEVへの段階的な置き換えを、サスティナブルな発電とワンセットで推進しないといけない命題、と筆者は考えています。

    全く同感です。
    日本でも、地熱発電や潮力、太陽光、風力などによる自前(国内産)の持続可能エネルギーで、国内全ての電力需要を安価に賄えるはずなのです。

    日本がサスティナブルな発電を推進していくにあたって、現状と課題、展望などを、是非、取材して詳しく考察して頂けたら嬉しいです。

  2. 必要?

    タダのHVハイブリッド車は、電動車=EVも含むでは無いからね!(笑)

    PHEV車は、完全電気自動車EVへ移行!への妥協の車(笑)

    外部から充電可能!
    ほら、EVに似てる?!近い(笑)

    最早、PHEVこれしか売れない(泣)

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					宇野 智

宇野 智

エヴァンジェリストとは「伝道者」のこと。クルマ好きでない人にもクルマ楽しさを伝えたい、がコンセプト。元「MOBY」編集長で現在は編集プロダクション「撮る書く編む株式会社」を主宰、ライター/フォトグラファー/エディターとしていくつかの自動車メディアへの寄稿も行う。

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