テスラ『モデル3』に初めての長距離試乗で体感したスマートなEVライフ

EVと充電インフラを深く理解するため一念発起して電池控えめEVで四国遍路を結願したモーターエヴァンジェリストの宇野智氏が、テスラ『モデル3』に初めての長距離試乗。スーパーチャージャーも使って感じた印象をレポートします。

テスラ『モデル3』に初めての長距離試乗で体感したスマートなEVライフ

※冒頭写真は山中湖にて撮影。ボディカラーはオプションの「レッド マルチコート」。

しれっと大幅値下げしたテスラ「モデル3」

筆者は今回が初のテスラ長距離試乗となります。これまで、試乗会で数回テスラに乗りましたが、いずれもちょい乗り。試乗したのは「モデル3 スタンダードレンジプラス」で、生産工場がアメリカから上海に変わり、内外装やソフトウェアがバージョンアップされた2021年モデルです。

試乗の感想をひとことで言えば「シンプルでスマート。しかし、情報量が多いクルマだ」というのが、今回の試乗の総合的な感想です。まずは「モデル3」2021年モデルのハイライトからお伝えします(EVsmartのご愛読者は既知のことが多いかもしれません。適宜読み飛ばしてください)。

「モデル3」は、2019年5月31日から日本国内での販売を開始しました。生産はテスラ本国であるアメリカのギガファクトリー。当時の車両価格は、511万円〜でした。

その約2年後、2021年2月に何の前触れもなく、しれっと価格改定が行われました。公式Webサイトでの告知もなく静かに価格が変更され、プレスリリースもありませんでした。自動車業界では異例のことです。

その価格改定も異例の大幅値下げ。バッテリー容量が大きい「ロングレンジ」では、なんと156万円の値下げ、ベーシックな「スタンダードレンジ」でも82万円の値下げとなりました。

しれっと大幅なアップデート(改良)も

価格改定と同時に、内外装をアップデート、ソフトウェアもアップデートされました。エクステリアでは、新しいデザインのホイール、サテンブラックになったトリム、プロジェクション式ヘッドライト、インテリアでは、センターコンソールなどのデザイン、パワートランクの採用などが変更点です。

ハードウェア系のアップデートで最も大きいのは、ヒートポンプシステムの採用でしょう。これにより、エアコンとバッテリー温度管理性能を向上、航続距離延長を達成しています。

※ヒートポンプとは、暖房時には外側の冷たい空気をさらに冷やして室内を温め、冷房時には外側の熱い空気をさらに熱して室内を冷ます熱交換システムのこと。これは、ものを冷やすときに、熱が奪われる自然原理を活用したもの。熱い空気は冷ますより、温める方がエネルギー消費が少ない。

普通ならマイナーチェンジとして公式発表、プレスリリースが出されるレベルの大幅改良ですが、これを大々的に発表することもなくしれっとやってしまうのは、いかにもテスラ流ですね。

しれっと生産工場も上海に変更

大幅改良された「モデル3」2021年モデルは、生産工場を「ギガファクトリー上海」へ変更しています。また、バッテリーはそれまでのパナソニック製から中国・寧徳時代新能源科技(CATL)と韓国・LG化学が製造するものに切り替わっています。これもビッグニュースですが、これもテスラは静かにやってのけています。

試乗車はオプションのインテリアカラー「ホワイト/ブラック」。至極シンプル。2021年モデルからディスプレイ下のスマートフォン置き場は非接触充電になった。

値下げの理由を推察

「モデル3」がここまでの大幅値下げを達成できた理由は、次の3つが考えられるでしょう。

① バッテリーコストダウン
バッテリーがパナソニック製からCATL製、LG化学製になったことで、EVの価格構成の大部分を占めるバッテリー価格が安くなった。

② 物流コストダウン
アメリカから運ぶより、上海から運んだほうが物流コストが安くつくのは、誰でも容易に想像できる。

③ 最新設備の工場で生産性向上
テスラは生産工程も徹底的に合理化が進められ、プラットフォームは「インゴット生産」方式が採用されている。これは、特殊のアルミニウムを型に流し込んで鋳造してプラットフォームをつくりあげるもの。普通は、鉄板を何重にも重ねてプレスして溶接を行っていくというたくさんの工程がある。そもそもテスラは合理的で効率的な生産を行っているが、新しい工場でさらに合理化、効率化が進められ、車両価格のコストダウンへ貢献していると考えられる。

ロイターの報道によると、ギガファクトリー上海では「今後『モデルY』も生産し、最終的には年間生産台数25万台を予定」とのこと。

【関連記事】
テスラが中国・上海のギガファクトリー3からモデル3を今日出荷するというスピード感(2019年12月30日)

「スーパーチャージャー」を初体験

テスラ「スーパーチャージャー」での充電時間が早いことは、YouTubeやレポート記事をみて十分知っていたのですが、実際に充電を体験してみたら「目からウロコ」。

EVsmartで連載させていただいた「EV4車種で四国遍路を巡る」シリーズで、合計8,000km以上を走り、さんざんCHAdeMO(チャデモ)で充電し倒してすっかりEVライフに慣れてしまっていましたが、一度テスラに乗ってスーパーチャージャーで充電を体験すると、もうあの頃には戻れない気分になりましたね。

試乗した「スタンダードレンジプラス」のバッテリー容量は54kWhと、シリーズの中では最も小ぶりとなりますが、それでも航続距離は448km(WLTPサイクル。EPAでは423km)。実際の航続距離では300kmを軽く余裕で超えてくれます。満充電で東京から名古屋まで行ける航続距離です。

今回、バッテリー残量は半分ほど、航続距離約200kmの状態から試乗を開始しました。まずはスタート地点の青山から約100km走って、御殿場のスーパーチャージャーへ。

スーパーチャージャー御殿場に到着した時点では、航続距離81km、バッテリー残量20%弱となりました。

充電充電約40分で満充電。仮に高速道路のSAのCHAdeMO規格、50kW出力の充電器での充電なら、よくて約25kWhの充電量、バッテリー残量は60%台までしか回復できないことになります。御殿場スーパーチャージャーの出力は120kWと超高速、満充電までの時間が40分と、CHAdeMO規格の公共充電スタンドでの充電に比べと圧倒的な利便性の高さを感じました。

なお、急速充電時の充電容量を80%までに設定したほうが効率が良いようです。これは80%~100%までの充電スピードが落ちることと、テスラの充電料金課金システム上、時間従量制になっている(北米などでは電力従量制とのこと)ことから。このためユーザーの多くは、スーパーチャージャーでの充電は80%に設定していることが多いようです(※今回は試乗レポートのため、急速充電容量100%で設定しています)。

スーパーチャージャーには「おかわり充電」の概念がない

CHAdeMO規格の公共充電スタンドで繰り返して充電することは、俗に「おかわり充電」と呼ばれています。充電時間上限が30分というルールがあり、出力が44~50kWh(主要な高速道路SAにおいて。街中では90kWhもあるが数は少ない。また、30kWh以下の充電器も多い)という状況から発生している実状です。

テスラスーパーチャージャーの場合は「おかわり充電ってなんですか?」という感じで、時間制限のない充電が可能です。

ただし、スーパーチャージャーには充電が終わった車のドライバーが戻ってこない問題をスマートに解消するための超過料金制度があります。スーパーチャージャーでの充電が終わってそのままにしておくと、高額な超過料金が加算されるのです。その料金は1分毎に50円、スーパーチャージャーが満車時では100円/分。おのずと、充電終了前に車に戻りたくなる心理状態をつくってくれています。充電待ちを減らすための、気の利いた料金制度だと感じます。

なお、充電状態や終了予定時刻などはスマホアプリで確認できますので、スーパーチャージャーから離れて食事などをしていても安心です。

この制度、CHAdeMO規格の公共充電スタンドでも実施してほしいくらいですね。

御殿場スーパーチャージャーには6基の充電器

筆者はCHAdeMO規格の公共充電スポットで、1カ所に4基以上設置されているのを見たことがありません。スーパーチャージャーは複数台設置がデフォルトで、御殿場以外のスーパーチャージャーでも、おおむね4~8基の急速充電器が設置されているとのこと。さらに、テスラは急ピッチでスーパーチャージャーの拠点数を増やしています。

これなら、充電待ちで時間をムダにすることが大幅になくなりそうです。

御殿場スーパーチャージャー

速い! を実感できる高出力

いまだに、20kW出力でも急速充電スタンドといっている日本の既存充電インフラですが、スーパーチャージャー御殿場は、120kW出力。チャデモ急速充電器の約2.5~6倍もの早さで充電することができます。

さらに、テスラの最も新しい充電設備「スーパーチャージャー V3」では、250kWの出力となっています。川口スーパーチャージャーでは、このV3が日本初設置となっています(関連記事:https://blog.evsmart.net/tesla/model-3/tesla-kawaguchi-v3-supercharger-250kw/)。

120kWでも十分に速い! EV四国遍路で充電し倒したのが、遠い昔の出来事のように思えてきました。

所作もスマート。充電カードも必要ない

テスラには充電カードもありません。車を購入するときに、オーナーのクレジットカードを紐付けて、充電コネクタを接続するだけで認証、充電がスタートして自動的に課金されるシステムです。

また、スーパーチャージャーの充電コネクタは軽く、ケーブルも取り回しやすくなっています。CHAdeMOの充電コネクタは、マシンガンかよと思うくらいの重量とコードの取り回しの悪さが気になっていましたが、テスラは充電時の所作までもがスマートです。

電費レポート

ルート走行距離電費気温道路状況など
テスラ青山→中井PA65km7.9km/kWh26~27℃ほぼ高速
中井PA→御殿場32km6.0km/kWh23〜25℃登り坂メインの高速
御殿場SC→山中湖→早稲田204km7.5km/kWh24〜25℃一般道160km&高速
早稲田→テスラ青山6km4.7km/kWh26℃都心部ちょい乗り
トータル307km6.5km/kWh23〜27℃高速と一般道はおよそ半々

今回の試乗ルートは、テスラ青山から最寄りの首都高速から東名高速、御殿場ICで降りて「御殿場スーパーチャージャー」で充電。充電後は一般道で三国峠を越えて山中湖を一周のドライブ。帰りは一般道で山道が多い「道志みち」を通ってから、圏央道相模原ICから高速道路に乗り、首都高速新宿出口で降りて、その後は一般道というコース。エアコンは常時AUTOでONでした。

トータルの走行距離は、高速道路と一般道が半々となる307km、平均電費は6.5km/kWhでした。この数値による推定航続距離は、約350km(バッテリー容量:54kWhとして)となります。

テスラは自動車業界のゲームチェンジャーになるか?

「モデル3」は、普通の車にあるべきものの多くがありません。例えば、車両の電源ON・OFFボタン、パーキングブレーキ(機構そのものはあるが、操作するボタンやレバーはない)。細かいところでは、エアコンの吹き出し口で風向きを変えるルーバーもありません。計器類は、センターコンソールの大きなタッチスクリーン1枚にすべて集約。空調の調節からオーディオ、カーナビからサイドミラーの調節までもが集約されています。

いままでの自動車の常識を大きく覆したテスラ。シンプルでスマート、合理的で高効率なEVと充電システム、プレスリリースを出さないところも、自動車業界の常識を打ち破っています。また、クルマの製造工程も革新的なインゴット生産を採用。これは他の自動車メーカーはすぐには追随できないものでしょう。

クルマの売り方も斬新。車両だけの販売ではなく、充電インフラもセットにして売っています。電気自動車ではなく「テスラを買う」という選択で、人生で初めて車を購入する方が「モデル3」を選んだり、充電設備が自宅に設置できない方が購入するケースも増えているようです。

ウワサでは、テスラが新車価格200万円台のコンパクトEVを発売するとか? その性能は「モデル3」と同等との説もあり。実現したら、自動車業界のゲームチェンジャー確定ではないでしょうか。今のEV購入補助金制度が続いたとしたら、100万円台で買えてしまうかも知れません(本当にそうなったら、補助金を出す対象の車両価格が設定されるかも)。

シンプルでスマートなテスラ。頭ではテスラのすごさはわかっていましたが、実際に乗ると無数の「目からウロコ」がありました。ほかにも書きたいことがありますが、下の動画でもお伝えしていますので、このあたりで筆を置くことにします。

(取材・文/宇野 智)

この記事のコメント(新着順)7件

  1. たぶん10年後には、免許返納してなければですが、EVに乗ってると思います。ただ、ことテスラに関しては不安が拭えません。それはサービス体制です。
    私のような地方居住者にしてみれば、もしトラブったらどうなるの…、ということです。
    ぶつけて凹んだ、ということならその辺の修理工場でも何とかなるでしょう(本当に?塗装とかできるの?)。でも電気系や制御系が問題起こしたら…?
    今乗ってるクルマなら、車で15分のところにお店があるし、動けなければ営業の方に電話すれば何とかしてくれますが、テスラのサービスやメンテナンス体制はどうなのでしょうか?
    テスラがかなりいいクルマということはよくわかるのですが、私にとってのテスラの問題点は、そこです。

    1. ぶんねこ 様、コメントありがとうございます。おっしゃるように、テスラはサービスセンターもすべて自社所有する方針で、今は遠隔地についてはサービスカーを運転するスタッフが、必要な部品を搭載して全国を回るスタイルとなっています。
      板金はアルミじゃない部分なら通常の板金工場でできますし、アルミ部分でも(モデルS/Xは総アルミです)、経験のある、高級な輸入車を扱っているような修理工場なら確実に修理できます。地方なら、まずヤナセさんを当たるとだいたい行けると思います。彼らも、板金修理やサービスで食っていますので、ちゃんと対応いただけると思います。
      そのため、サービスセンターまで片道1-2時間以上の場所にお住いの方々は、「現時点では」ある程度の覚悟が必要ですし、あまりお勧めはできないですね。当サイトで、モデルXのほうの修理記録などはいろいろ掲載していますので、よろしければ検索ボタンでご覧ください。弊社所有のモデル3は、実はほとんどトラブルなしでして、1年点検以外でサービスセンターに入庫したことはないんじゃないかなぁ。。

    2. 安川様、ありがとうございます。
      最寄りのテスラからたぶん2時間かかる、ちょっと気の短い地方居住者としては、もう数年くらいはテスラの動きを眺めることとします。N社などには浮気しないことを誓います。
      コストコとイケアが次はどこに出店するのかとっても気になる田舎者、というのと同レベルの悩みですね(笑)。

  2. 日本で残念なのは、スーパーチャージャーの利用を前提にすると行けるところが限られてしまうことですね。普及がまだまだなので。
    ヒートポンプ(熱交換器)のご説明は少し分かりにくい気がします。「空気を直接温めるエネルギーより熱交換で温めるエネルギーの方が消費が少なくて済む」などの方が実際に近いのでは?(昔の熱交換器は効率が悪く、むしろ消費が多かったですが・・)。枝葉末節ですみません。

  3. 宇野 智さま
    テスラが、自動車、いや産業界のゲームチェンジャーであることを感じさせる、良い記事ですね。ありがとうございます。
    動画もとても面白かったのですが、コメントが聞き取り難いところが多いので、字幕をリアルタイムでしっかり付けて、早送りやカットをもっと多用してメリハリつけて、15分くらいになるように再編集して頂けると、ずっと“スマート”になると思います。

    自分が5年後にはテスラに乗ってる予感がしています。

  4. モデルSもですが、個人的にはモデル3最大のメリットは外見の格好良さだと思います。所有出来たら鼻高だか。

    スーパーチャージャーも便利そう。
    eMP一押しの新型チャデモ充電器も、6台で合計200kwまでなんて物足りないです。

    噂されているコンパクトEVが200万円台だったら、ネットでポチる怖さも段々薄れる価格になってきますね。

    ところで、モデル3は運転席周りの内装がちょっと寂しいと思うのですが、スピードメーターとか、ハイビームやウィンカーの点灯を知らせるランプ類はどこに付いているのでしょう?真ん中の大きなモニターに表示されるのでしょうか?

    1. シーザー・ミラン様、コメントありがとうございます。ちょっと画像を探してみたのですが、モデル3で、夜画面でヘッドライト点灯、走行中、かつ雨、というパターンが一個しか見つかりませんでした。
      https://twitter.com/TeslaModel3Love/status/1185440411759722496/photo/2
      PRNDのところがシフトレバーのインジケーター、その右がスピードメーター、右上の緑色がヘッドライト表示、画面右下がワイパーコントロールで、この部分はカード式になっています。普段はオドメーターが表示されていて、右にスワイプするとワイパーコントロールが表示され、設定を変更できます。通常はオートワイパーを選択してそのままにしておけばOK。ワイパーは、ウィンカーレバーの先端をプッシュすることで1回動作させることもできます。この写真の車両は納車直後の車両だと思われ、オートパイロットのカメラキャリブレーションが実行中と表示されていますが、この表示は50kmも手動走行しないうちに消え、自動運転が利用可能になります(青のリング表示、もう終わりのほうですね)。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					宇野 智

宇野 智

エヴァンジェリストとは「伝道者」のこと。クルマ好きでない人にもクルマ楽しさを伝えたい、がコンセプト。元「MOBY」編集長で現在は編集プロダクション「撮る書く編む株式会社」を主宰、ライター/フォトグラファー/エディターとしていくつかの自動車メディアへの寄稿も行う。

執筆した記事