BMWの電気自動車『iX』試乗レポート〜アウトバーンの価値観を踏襲【御堀直嗣】

日本デビューして間もないBWMの電気自動車『iX』に自動車評論家の御堀直嗣氏が試乗。居住性の快適さに感嘆しつつ「アウトバーンの価値観」をEVで踏襲することへの疑問を提示するレポートです。

BMWの電気自動車『iX』試乗レポート〜アウトバーンの価値観を踏襲【御堀直嗣】

『iX』へのプロローグ〜『i3』による挑戦

ドイツのBMWは、欧州車のなかでは早く電気自動車(EV)の導入を本格的に始めた。2013年に欧州でi3の販売を開始し、翌年に日本市場へも導入された。それに続く新世代のEV専用車と位置付けるのが、iXだ。

1997年に、トヨタがハイブリッド車(HV)のプリウスを発売した当時、ドイツを含む欧州は電動化に積極的でなかった。既存技術を活かせるディーゼルターボ車で脱二酸化炭素を乗り切ろうとした。ところが、2015年のフォルクスワーゲン(VW)によるディーゼル排ガス偽装問題をきっかけに、電動化への転換をはかった。i3の発売は、それ以前になる。

背景にあったのは、水素エンジン車が困難であることを見極めたからだろう。BMWは、最上級4ドア車7シリーズのV型12気筒エンジンで水素を燃焼し、有害物質の排出ゼロを目指そうとした。何台もの水素エンジン車を試作し、世界中を走り回った。来日もした。しかし、ガス燃料の水素では、ガソリンエンジン車の半分ほどしか出力を出せないこと、また水素燃料が短期間しか車載タンクに保管できない(BMWは液体水素での保管を試みた)ことなど、量産市販車として道のりが遠いことを、身をもって実感したはずだ。

BMW『i3』

そうした実体験を踏まえ、BMWはEVに大きく舵を切ったが、いきなり新車開発をしたわけではない。まずEVがどのようなクルマであるべきか、概念の構築からはじめ、それを世に問うた。メガシティ・ヴィークルと名付け、都市での足として機能するEVの姿を固めていった。2001年からBMWブランドとなったMINIを使い、試作のEVを何台も製作し、世界中を走らせたのである。日本でも走っている。そして登場したのが、i3だ。

i3にはEVへの意気込みが様々に盛り込まれた。車載バッテリーの重量増に対処するため、カーボンファイバー製の車体を専用で作った。内装には自然由来であったりリサイクルであったりした素材を活用した。タイヤは極細のオロジックと名付けられた専用を、ブリヂストンの協力を得て開発した。生産においても、脱二酸化炭素に取り組む姿勢を明らかにした。

一方、一充電走行距離が短いとの批評も受けた。だが、都市での移動を狙いとしたEVと割り切ったのであり、EVがもたらす新しい未来を想像させるきっかけに一役買ったはずだ。同じ考え方は、ホンダeでもいえる。同時に、ガソリンエンジンの発電機を装備したレンジエクステンダーの選択肢を設けた。

それでも、やはり販売が芳しくなかったのは事実だろう。消費者の志向が追い付けなかったからだ。ことに本国ドイツには、世界唯一となる速度無制限区間を持つアウトバーンがある。そこでEVを無自覚に走らせれば、たちまち電力は消費してしまう。i3が発売された当時の欧州は、ディーゼルターボエンジン車が全盛で、一回の給油で1000km走行できることが身にしみついてしまった消費者の意識を転換させることは難しかった。

そうした苦い経験も踏まえつつ、BMWが次の段階のEV専用車として打ち出したのが、iXなのである。

駆けぬける歓びを具現する電気自動車

いま、世界の自動車市場で売れ筋はSUV(スポーツ多目的車)だ。iXも同様の姿で現れた。ただしBMWは、SUVとは呼ばずSAV(スポーツ・アクティビティ・ヴィークル)としている。エンジン車のX3やX5などは、サーキット走行もできるとする打ち出し方だ。「駆けぬける歓び」を標榜する自動車メーカーのこだわりである。

iXは、2車種が日本に導入されている。xDrive50と、xDrive40だ。バッテリー容量が異なり、一充電走行距離は50がWLTCモードで650km(EPA基準では約491km ※21インチホイール装着車)であるのに対し、40は450km(EPA基準推計約360km)になる。50は空気バネを使うエアサスペンションで、ほかに後輪操舵機能を持ち最小回転半径は6.0mになる。今回試乗したのは、xDrive50のほうだ。

遠目で見れば、エンジン車時代の名残と思えるキドニーグリルの顔つきで、EVでもそれが必要なのかと思わせた。だが、実車を前にすると、キドニーグリル表面にきらびやかな装飾が施され、一つの意匠としての価値を覚えさせた。ただし、もう少し控えめな大きさのほうが品はよく、EV時代の新たなBMWらしさを訴えられるのではないかと思った。

ドアを開けると試乗車の内装は茶系であり、駆けぬける歓びを標榜してきたBMWにしては、快適さを重視するような新たな価値への挑戦を伝えてくるようだった。後席は、両端が湾曲し、居間のソファーの雰囲気を覚えさせる。

走行モードに、パーソナル(コンフォート)/スポーツ/エフィシェント(エコ)の3つの選択肢がある。標準はパーソナルで、スポーツモードを選んでも公道での走行ではそれほどパーソナルと大きな差は感じなかった。アウトバーンを走ると違うのかもしれない。またエフィシェントモードにしても、モーター駆動のためだろうが、明らかに出力を抑えた感じもなかった。モードの違いをあまり覚えさせず、国内ではパーソナルのままで不足がないのではないかと思った。

新たな装備として、走行感覚を耳でも印象付ける人工的な創作音が室内に流れてくる。走行モードの違いで音色や音量も異なる。しかしいずれも、EVにとっては余計な音としか感じられず、音色もそれほどよいとは思えなかった。この擬音を出さない設定も選べる。

これまで、同じドイツ車でもメルセデス・ベンツとは明らかに違う価値を求めてきたBMWだが、iXの全体的な印象は、同社が標榜し続ける駆けぬける歓びより、快適な移動空間という印象のほうが強かった。そこはメルセデス・ベンツが上手を行く。ドイツ車のなかで先駆的なEVへの取り組みや、駆けぬける歓びを標榜するうえで、何か新しいことをしたくなったのだろう。その一つが、人工的な擬音なのではないか。20世紀に、アウトバーンを背景に超高性能をひたすら追い求めてきたドイツ車の苦悩をみる思いがした。i3の次のEVの価値を摸索する難しさを印象付けた。

装備では、輻射熱を応用した暖房機能が新鮮で、かつ心地よかった。室内の空気を温める空調に比べ、シートヒーターやハンドルヒーターは一桁小さな電力消費で済む。輻射熱の応用も同様だ。電力消費を抑えたいEVにとって、標準装備としていく価値がある。トヨタbZ4Xのプロトタイプでも、輻射ヒーターが装備されていることを確認している。

カーナビゲーション画面のタッチ機能を使った操作や、拡張現実(AR)を採り入れた道案内など、新たな機能もiXの特徴となっている。米国テスラの影響もあるのだろう、これまでのコマンド式操作から転換していくことになるのかもしれない。

しかし、ひじ掛けより前寄りのコンソール部分に設けられた項目選択のスイッチは、高級な意匠として木目とした上に白で項目が表記されているため、一目での判別が難しく、配置も前方視界から大きく目線をそらせなければならない。さらに、そこに外からの陽が差し込むと見えにくくなる不都合もあった。

進路案内で導入されたARは、カーナビゲーションの地図表示画面の半分が、前方のカメラ映像に切り替わり、その映像に曲がる方向への矢印が重ねて表示される。このため、その矢印によって周囲の景色がわかりにくくなるなど、かえって不安な気持ちにさせた。当然ながら、情景がわかりにくいのでナビゲーション画面のカメラ映像を凝視することにもなる。

運転者は、フロントウィンドウ越しに周囲の景色を自分の目で通常は見ているわけで、遠近感もわかりにくくなりがちなカメラ映像を表示する必要があるのだろうかとの疑問がわく。運転者が未知の土地で不安に駆られるのは、そもそも右左折のためにどの車線を走行すべきなのかがわからないことだ。曲がり角も、地図で的確であるというより、走行中のクルマの移動速度のなかで、運転者があらかじめ曲がり角を認識できる時間感覚を含めた到達距離である。急に、ここを曲がりなさいと指示されても、間に合わないような場面が今日でさえ幾度も起きる。

そしてもっとも戸惑ったのは、駐車してパーキング(P)にシフトしようとしたとき、PレンジもPボタンもみあたらず、結局、回答は駐車ブレーキのPスイッチを操作することだった。テスラは、駐車ブレーキの操作はないが、Pレンジは設けており、ドライブ(D)やリバース(R)と同じレバー操作でPへ入れれば駐車できる。運転者に迷いは生じさせない。

そうした一連のHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)で、iXの装備は人間の感性に対しまだ不十分だと感じた。

急速充電は最大150kW(xDrive40は100kW)に対応。

これまで、世界を席巻してきたドイツ車は、超高速走行性能で他を凌駕してきた。だが、石油から電気の時代を迎え、程よい性能を快適に利用することで快い日々を送ることを人々は求めるようになりつつあり、そうした21世紀において、20世紀の遺産であるアウトバーンがかえって世界の非常識となりかねない懸念がある。

メガシティ・ヴィークルとして構想したi3だけがEVの未来像ではないが、もう少し遠出を安心してできるEVという次の価値を生み出そうとしたとき、iXの迷いを感じた。とはいえ、アウトバーンを疾走したい人の気持ちは満たすEVではあると思う。

(取材・文/御堀 直嗣)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 先週iX40を一時間ほど市場して来ました。家から一番近いディーラーがBMWなのでその前はiX3,それ以前はPHEV等の複数の車両をさせて貰ってます。
    今まで乗ったBMWのなかでは断トツで上質です。あの大きさが許容出来るのであれば良いのかもしれませんね。

  2. アウトバーンの価値観?そうとは思えない。擬音は単にエンジン車から乗り換えた時速度感覚にズレが生じない様に敢えて優しさでつけた物だ。モデルXを所有して思いの外速度が出ていて驚く事があった。タイカンの音も変じゅないか。ARヴィジョンは最初は憧れたメルセデスEクラス。しかし使って見ると立面が渋滞時に平らで読み取る能力が殆どクイズ。
    なら俯瞰視してるX5のヘッドアップディスプレイのが分かりやすい。正直言ってM60でもXの加速に勝てないし、其れを分かっていて車の総合的出来の良さ、テスラに追いついていない部分は沢山ある事分かっていて勝負している。良いなと思った機能の評価も変わるし、面倒だと思うインターフェースも慣れてくる。初見での印象とオーナーになってからとは大きく変わる要素がある。まだ分からないが多分9月にオーナー。持ってからコメントします。アウトバーンからのジレンマかどうか、来る前からの不満は4輪全てPHV X5よりブレーキローター小さくなっている。アレは許し難い。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					御堀 直嗣

御堀 直嗣

1955年生まれ65歳。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

執筆した記事