フォロフライの商用EV『EV VAN F1』に試乗〜42kWhで380万円!

電気自動車ベンチャーのフォロフライは昨年、物流会社のSBSホールディングスに中国製の商用EV『EV VAN F1』を日本へ最大1万台導入することを発表しました。都内で試乗できる機会があると連絡をいただき、早速試乗してきたレポートです。

フォロフライの商用EV『EV VAN F1』に試乗〜42kWhで380万円!

中国製電動バンの試乗に駆けつける

EVベンチャーのフォロフライは、2021年8月に京都に設立されました。代表は、京都大学の学内ベンチャーとして活動したGLMを創設した小間裕康さんです。そのためか、フォロフライの本社も京都大学国際科学イノベーション棟に置かれています。

フォロフライは、電気自動車の開発と販売を手がけ生産工場を自前で持たない、いわゆるファブレスメーカーです。実際に販売をするEVは、SBS HDに販売する『EV VAN F1』が初めてのモデルです。42kWhのバッテリーを搭載しながら380万円に抑えた価格には驚きました。

フォロフライは立ち上げからわずか2か月後の2021年10月に、国土交通省から『EV VAN F1』初号機のナンバー交付を受け、車をSSBホールディングス(SBS HD)に納入しました。納入にあたってEVsmartブログではフォロフライの小間代表にお話をお伺いしました。

【関連記事】
物流大手SBSが中国製380万円のEVを導入~開発&販売するフォロフライに聞いてみた(2021年11月12日)

今回はフォロフライから、SBS HDに納入した車に試乗できるというお知らせをいただいたので、押っ取り刀で駆けつけてみました。場所は夢の島にほど近いSBS HDの配送事務所です。試乗は事務所の周りをちょっと一周するだけでしたが、いろいろと興味深いことがわかりました。

実証実験中の車両に試乗。

なお『EV VAN F1』は、6月22日からインテックス大阪で開催される関西物流展でも実車が展示される予定です。

バックセンサーにバックモニター装備!

まず『EV VAN F1』のスペックをおさらいしておきたいと思います。

全長×全幅×全高:4500mm×1680mm×1985mm
車両重量:1480kg
最大積載量:950kg
乗車定員:2人
最高出力/最大トルク:60kW/200Nm
バッテリー:リン酸鉄リチウムイオンバッテリー(CATL製LFP)
バッテリー容量:42kWh
最大航続距離:300km
充電時間:急速=1.5時間、普通充電=6.5~13時間
充電規格:CCS2(欧州規格)

サイズは幅が1700mm以下なので、日本国内でも扱いやすい大きさです。ハンドルは、中国では左ですが、日本仕様では右ハンドルになっています。ハンドルだけでなく、ウインカーとワイパーのレバーも右ハンドルに合わせて付け替えてあります。ウインカーを出そうとしてワイパーを動かしてしまうことはなさそうです。

バッテリーはCATLのLFPバッテリーです。価格が380万円に抑えられているのはこの要因もあるのでしょう。航続距離は、カタログ値では300kmとなっていますが、測定方法は不明です。実用では「4〜5km/kWh」として約160〜210km程度ではないかと思います。基本的にラストワンマイルをカバーすることを想定した商用車なので「まずまず十分」と言えるでしょう。

航続距離について、試乗の当日に説明をしていただいたフォロフライの中尾源COOは、「eキャンター(一充電航続距離は100km前後)だと短すぎるというお客様の声がある」と言い、ユーザーの要望を採り入れて「走れる、安全、安い」を実現したスペックになっていることを強調していました。

確かにラストワンマイルとは言え、4トントラックで100km前後というのは微妙に短いかもしれません。以前、イケアが導入した『eキャンター』について紹介した際には、航続距離にとくに不安はないというお話を聞いていましたが、暖房を使う冬には配送の途中でちょっとだけ充電することもあるようでした。エンジン車でも途中で給油することはありますが、せっかく拠点で充電ができるのであれば、途中充電がなければさらに便利に使えるでしょう。

『eキャンター』とは積載量が違いますが、航続距離に関しては『EV VAN F1』くらいのスペックがあれば都市部のラストワンマイルを十分にカバーすることができそうです。

バックモニター付き!
壁面(障害物)までの距離もデジタル表示。

びっくりしたのは、バックセンサーとバックモニターが付いていることです。でも考えてみると、深圳の電子街に代表されるように中国なら圧倒的に安い電子パーツを比較的容易に入手できます。バックセンサーやバックモニターなら、たいしたコストアップにもならないのかもしれません。電子機器関係は、中国製EVに地の利がありそうです。

おや、と思ったのは、充電口がCCS2(Combo2)になっていたことです。日本で一般的なJ1772のタイプ1で普通充電する際にはアダプターを使用します。

この点について中尾さんは、今後はタイプ1やチャデモにすることも検討中と言っていました。現在はサプライヤーや中国側などと交渉中とのことです。

やっぱり日本で使うならアダプターなしの方が使い勝手はいいですが、フィアットが『500e』もアダプター方式にしています。なので、ひょっとすると、うまく充電できるのならアダプターにした方が製造時の変更が少なくて済むため日本導入が早くなるし、コストも下がるのではないかと、都合のいいことを想像してしまいます。

乗り味は大味で昔の『ライトエース』を思い出した

では試乗の感想です。見た目は、普通の車です。一見しただけでは中国製なのかどうかはわかりません。ただ、ドアの開け閉めをしてみると、ちょっと大味な造りだなあと感じる部分はありました。

まず、少々勢いよく閉めないと、スライドドアやリアゲートがきちんと閉まりません。「バン!」っていう感じです。そういえば、35年前ほどに乗っていた『ライトエース』や『サニーバネット』がこんなドアだったなあと思いました。380万円という価格を考えるとこの立て付けはどうかとも思いますが、個人的には懐かしさがこみ上げてきました。

スタートは、普通のエンジン車と同じようにキーを差してイグニッションスイッチを回すタイプです。『EV VAN F1』はエンジン車からのコンバートなので、基本的なパーツは共有しているのでしょう。コンバートEVだと考えると違和感はありません。

メイン電源が入ると、カラフルなメーターが点灯します。メーターパネルもエンジン車と共有かもしれません。EVには珍しく、タコメーターがついています。

バッテリー残量は、セグ表示とともに、SOC表示もあります。これはありがたいですね。メーターパネルの真ん中の右上には電圧表示もありました。試乗時には319Vと表示が出ていました。この表示もコンバートEVっぽい印象を感じます。手作りコンバートカーの多くはバッテリー状態を電圧で監視しているんです。

試乗は、配送センター屋上の駐車場から出て、センターの周りを一周だけしました。走り出してすぐ感じるのは、アクセルペダルやブレーキペダルが軽いことです。ちょっと軽自動車のような感覚です。

回生ブレーキは使っていません。機械式ブレーキだけで止めます。このあたりはコストとの関係かもしれません。回生ブレーキを使わなければコントローラーも安くなります。

軽いアクセルペダルに気をつけながら、ゆっくりと走り出してみました。ちょっとクリープがついているので、走り出しはスムーズです。ペダルは軽いですが、このあたりは慣れの問題でしょう。ただ、ブレーキはちょっと甘いかなあと感じました。屋上駐車場から下りるときに、傾斜が急なのでけっこうきちんと踏む必要がありました。

それにEVの場合はエンジンブレーキが効かないので、回生ブレーキがついていないと、長い下り坂ではブレーキを踏みっぱなしになります。ブレーキ性能はわかりませんが(フロントはディスク、リアはドラム)、フェードが心配ではあります。

ところで『EV VAN F1』は、シフトポジションが、ドライブとニュートラル、バックの3つしかありません。停車時はサイドブレーキだけを使います。そうです。パーキングの「Pレンジ」がないのです。

マニュアル車であれば止めるときに1速に入れればいいのですが、AT車やEVではそれができないので、パーキングレンジは必須です。サイドブレーキだけでは坂道に大きな不安が残ります。そのせいか、試乗した『EV VAN F1』のセンターコンソールには、大きく、「Pレンジが無いため、必ず【輪止め】を使用する事」という注意書きが貼り付けてありました。

これでは不便すぎるので、今回、実車の試乗に訪れた業界関係者からも「Pレンジ」を付けてほしいと要望があったそうです。そのため、今後は検討するとのことでした。

走行時間が限られているので、正直、街中を走るとどうなのかはわかりません。短い時間に感じたのは、繰り返しになりますが、昔の車っぽいなあということでした。でもこの値段でEVのワンボックスが手に入るというのは、用途を限定すれば魅力的な選択肢かもしれません。

特注車両のようなものなので、エンブレムは SBS HD のロゴ!

若者に期待です!

全体に手作りコンバートEV感がにじみ出ていた『EV VAN F1』ですが、何かが始まるとき、最初はこんな感じなのかもしれません。最近は21世紀の車に乗り慣れてしまっているので、市場に出始めたばかりの新しい製品が、昭和からやり直していると思えば、いろいろなところが愛おしくもあります。

品質に関しては、量産したときにどうなるのかは予想ができません。フォロフライは自前の生産設備を持たないファブレスメーカーなので、『EV VAN F1』は中国の東風汽車に生産を委託しています。日本対応にするための設計変更はフォロフライで行っていますが、設計に従ってどのくらいの精度で生産できるかや、歩留まりがどうかは、車体設計とは別の問題です。

テスラ社も、当初は生産管理で苦しみました。『EV VAN F1』は年間2000台程度なので、手作りラインに近い形でできると思えます。品質管理をどこまで高められたのかは、実際に車が出てこないと外部の私たちには検証ができません。計画通りに車が作れるかにも影響するので、今後の動きを注目したいと思います。

現在の予定では、年内に数台~数十台を日本に入れるそうです。また、型式認定を取得することも検討中とのことです。

COOの中尾源さん。

ところで、今回の取材で何がビックリしたかというと、最大の驚きは、COOの中尾さんが、19歳の大学生だったことでした。一緒に行った寄本編集長共々、筆者は「え~っ!?」と声を上げてしまいました。いや、確かに若い人だとは思ったのですが、とても10代には見えなかったんです。

聞けば、中尾さんは高校生の時にもアパレル関係の会社を起業していて、今でも事業を継続しているそうです。IT関係の若い起業家にはお会いしたことはありますが、EV生産の分野にも進出してきたのかと、オジサンはちょっと感慨深くなりました。

フォロフライがこれからどうなるのかは未知数ですが、とりあえず今は元気と勢いのある若者に期待です。簡単ではないと思いますが、うまくいってほしいと願うのみです。

(取材・文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 今は無き?enV-200は最終的に500万円でした。
    バンにさすがに出せる金額ではありませんでした。

    安いなりの割り切りが大胆な所もありますが、
    キャラバンのBEVEVが期待出来ない状態ですから楽しみではありますね。

    本来の使い方ではありませんけど、
    キャンピングカーのベース車輌に良さそうですよ。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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