物流大手SBSが中国製380万円のEVを導入〜開発&販売するフォロフライに聞いてみた

2021年10月13日、SBSグループがラストワンマイル用EV商用車を国内初導入すると発表しました。価格は1台約380万円とエンジン車並み。SBSグループにEV商用車を販売するフォロフライ代表取締役である小間裕康氏に、導入方法や低価格を実現できた理由などを聞いてみました。

物流大手SBSが中国製380万円のEVを導入〜開発&販売するフォロフライに聞いてみた

SBSグループが導入する380万円のEV商用車は東風汽車製

SBSホールディング株式会社(SBSグループ)が導入を決めた1トンクラスのラストワンマイルのEV商用車(同社リリースでは「EVトラック」と呼んでいます)は、中国で生産されて日本に輸入される電気自動車で、販売価格は約380万円とのこと。300万~400万円台の国産商用EVとしては、今は販売が終了してしまっている日産のe-NV200が挙げられます。また、エンジン車の1トン商用バンの価格はおおむね300万円前後〜程度。つまり、ランニングコストを勘案すれば、ほぼエンジン車並みの価格で物流大手のニーズに合った電気商用車を導入できる、ということです。

SBSグループでは、おもにEコマース向けに稼働している約2000台のラストワンマイル向け車両を今後5年程度でEVに置き換え、中期的には「協力会社の車両を含めて1万台程度のEVを導入する計画」であることを示しています。

EVトラックを開発して販売するフォロフライ株式会社

SBSグループが導入するEVトラックを輸入して販売するのは、フォロフライ株式会社という京都のEVベンチャーです。フォロフライでは、中国の自動車メーカーである東風汽車と共同で、既存の車体をベースにして日本の物流会社ニーズに合ったEV商用車を開発。日本の保安基準に合わせた車両を日本へ輸入して販売します。

はたして、どんな「EVトラック」なのか。フォロフライ株式会社の代表取締役である小間裕康氏にリモートでお話しを伺うことができました。いくつかのポイントに関するコメントをご紹介する前に、フォロフライと小間氏について少し紹介しておきます。

フォロフライは、ファブレス生産による電気自動車開発販売を行うために設立されたベンチャーです。創業は2021年8月と生まれたばかり。拠点は京都で、本社住所は「京都大学国際学科イノベーション棟」となっています。

EV好きな方にはピンと来たかも知れません。フォロフライ代表の小間氏はトミーカイラZZやEVプラットフォームの開発を手がけ、日本における電気自動車ベンチャーの草分けともいえる『GLM株式会社』の創業者(2010年に学内ベンチャーとして設立)でもあるのです。トミーカイラZZは、2012年にベンチャーとして初めてEVスポーツカーでの国内認証取得にも成功しました。

今年6月に生産終了したトミーカイラZZ。※GLM ウェブサイトから引用。

小間氏がスポーツカーから商用車へとEVベンチャーが目指すべき開発のターゲットを変えて創業したのが「フォロフライ」ともいえそうです。

「GLMで培った技術やネットワーク、クルマづくりのノウハウやナンバー取得の経験、中国のEVメーカーと繋がりにより、今回のSBSグループさんとの事業が実現しました。GLMでの経験や実績があったことで、SBSグループや中国の自動車メーカーから信頼を得られました」(小間氏)

フォロフライでは、今回導入する商用EVについても、創業からわずか2カ月後の2021年10月には、国内自動車メーカーとして初めてファブレス生産(国外生産)による宅配用電気自動車のナンバー交付を受けました。

走行シーン

東風汽車のプラットフォームを使って共同開発

SBSグループに導入されるEVトラックは、全長4,500mm、全幅1,680mm、全高1,985mmのバンタイプ。SBSのニュースリリースには「航続距離 300kmが可能なバッテリーを搭載」とあるので、50〜60kWh程度のバッテリー搭載を目指すのだろうと思われます。

中国メーカーと共同開発する方法

東風汽車という中国メーカーと共同開発した理由や方法について尋ねてみました。

「車両開発は、顧客のニーズを掘り起こし、ユーザーが求める車に近いベース車両を見つけることから始めました。既存の車体やプラットフォームを使うのは、自動車の開発には巨額の投資が必要になるためです。自動車をゼロから開発すると億単位のコストがかかり、結果として販売価格を上げなければならなくなってしまいます。そのため、ベースとなる車体を見つけ、日本の仕向け地対応という形で車両を作っているのです」(以下、「」は小間氏のコメント)

つまり、日本の物流大手のニーズに合ったベース車両をもち、日本に向けた仕様変更にも対応してくれたのが東風汽車だったということでしょう。

「ベースとなる車体をもとに車両を作り上げていく段階で日本の保安基準に合った仕様に変更します。さらに、法律で定められた基準をクリアするだけでなく、日本の自動車メーカーが独自で定める厳しい安全基準に近い安全性を確保するよう、変更や開発を進めます。仕様変更や車両の開発などが進んできたら、仕様や設計の変更に応じてくれる中国の自動車メーカーに生産の依頼をします。開発や設計が進んでも中国の自動車メーカーがOEM生産に対応してくれなければ生産が開始できません」

SBSグループの商用EV導入計画台数は「5年程度で2000台、中期的に1万台程度」です。さらに、実用的で安価な商用EVが成功すれば物流業界全体にニーズはあるでしょうから、日本の自動車メーカーが共同開発や生産を受託すればいいのにとも思うのですが……。まあ、そうなるとベンチャーの出番がないのかな、とも。

「中国で販売されている車と日本で販売されている車では、ハンドルの位置や装備、安全機能が異なります。仕様が異なる車の開発費用は、弊社で負担するのか、中国メーカーが標準の機能として受け入れてくれるのかなどについてはメーカーと交渉します。こうして、なるべくコストを抑えて日本向け仕様のEV開発を進めているのです。とはいえ、数千万円~億単位の開発費用を投じなければならないケースもあります」

輸入方法やナンバー取得方法などについて

開発や生産ができても、車検を通し登録手続き(ナンバーの取得)ができなければ公道を走行することができません。フォロフライはどのような方法で輸入し、ナンバーの取得をするのでしょうか。

「今回の場合、正規のルートで輸入されているので、いわゆる並行輸入ではありません。日本への導入にあたり、国土交通省と話し合いをして輸入をし、ナンバーを取得しているので、安心して乗ることができます。おそらく中国の自動車メーカーが日本向けに大量生産していこうとするEVでナンバーを取得できたのは弊社が初めてだと思います」

日本でのナンバー取得には、車両の型式認証を受ける「型式指定制度」のほか、年間輸入台数が5000台以下の個別モデルに適用される「輸入車特別取扱制度」などがあります。小間氏によると今回のナンバー取得は、「現時点(2021年11月現在)では、サンプル車として輸入しているため型式不明となっている(輸入車特別取扱制度としての取得)ものの、今後導入台数が増えれば認証(型式指定)を受ける」とのこと。また「東風汽車のみならず他社でのOEM生産も検討している」そうです。

日本向けに仕様を変えたポイントは?

中国と日本では、自動車の装備や安全基準が異なります。日本の保安基準や安全基準に準拠するために変更した部分はどこなのでしょうか。

「視認性や車体強度の変更、バッテリーなどの安全性の証明など、項目は多岐にわたります。日本向け仕様への変更については、GLMの時の経験が活きています。保安基準の検査では、その他のことも聞かれることもあるので、想定外の質問などに対して、安全性が担保されていることを証明する方法についてもGLMの経験が活きています」

特例的なナンバー取得とはいえ、そのノウハウは簡単じゃない、ということですね。

低価格のポイントはバッテリー!

最も気になるポイントは価格です。日本向けに仕様を変更しながら約380万円という価格を実現できたのは、やはりバッテリーの調達価格だったそうです。

「EVで多くのコストがかかるのはバッテリーです。そのため、バッテリーをいかに安くできるかが重要になります。中国では、国策としてバッテリーを共同購入するという方法をとっています。中国ならではのスケールメリットを活かしてバッテリーを大量に購入することで価格を抑えることができています。また、EVの普及については、日本よりも中国の方が進んでいます。よって、CATL(EV用バッテリー世界最大手の中国企業)に大量にバッテリーをオーダーし、開発費を抑えているのです。弊社が中国でEVを生産する最大の理由は、バッテリーを安く買えるからです」

今回のEVトラックで採用しているのは、テスラの上海モデル3と同じ、CATL製のリン酸鉄バッテリー(LFP)とのこと。エネルギー密度や出力の特性ではNMCなどの三元系よりは劣るものの、低コストで耐久性に優れるとされるリン酸鉄バッテリーは、商用EVに適していると思われます。

対応する充電規格や車両メンテナンス網

充電設備やメンテナンスはどうするのでしょうか?

「ラストワンマイル中心にEVを運用する物流業者の場合、急速充電はほぼ必要ありません。そのため、今回導入したEVトラックは普通充電のみの対応となっています。物流業者は、配達が終わると車が集配所に戻ってくるため、充電がほぼ同じタイミングで始まります。よって、ピーク時の電力使用量が増えることから、電力使用量をコントロールする充電設備が必要です。これから充電のコントロールをする設備を整えていく予定となっています。メンテナンスについては、導入する地域にメンテナンス態勢があれば問題ありません。SBSグループさんは独自でメンテナンス網を持っているので、スムーズに導入できました」

ファブレスMICに日本製EVは勝てるのか?

小間氏によると「今回導入するEVトラックは1トン車のみですが、今後は積載量の大きいモデルの導入も検討している」とのことでした。

今回のEVトラックは、日本のファブレスベンチャーが開発&販売する「メイド・イン・チャイナ(MIC)」の電気自動車です。この構図は、ASFが開発して中国の柳州五菱汽車が生産する軽自動車クラスのEV商用車、7年程度で約7200台の導入を発表した佐川急便とも同じです。ASF&佐川急便が進めているのは中国にはない「軽自動車」で車体やプラットフォームも新開発でしょうから、フォロフライ&SBSのようにスムーズにナンバー取得ができるのか、素人考えながらちょっと心配ではありますが、同様の動きはこれからますます活発になっていくことでしょう。

国産車のラインアップが少ない商用EVが低価格で手に入れられる時代が本格的に始まると、価格競争や付加価値による競争も激化するでしょう。日本の自動車メーカーの姿勢がいまひとつはっきりしない現状が続くようであれば、家電業界で起きたことが自動車業界でも起こる可能性があるのではないかと心配です。

かくなる上は、日本発のファブレスEVベンチャーのみなさんには大成功していただいて、既存自動車メーカー崩落の危機から日本を救って欲しいと願うしかない? とも感じるニュースなのでした。

(取材・文/齋藤 優太)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. eNV-200の最終的な値段は500万円もしてました。
    何を考えているのだろうと呆れましたよ。

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この記事の著者


					齊藤 優太

齊藤 優太

静岡県静岡市出身。大学卒業後、国産ディーラー営業、教習指導員、中古車買取を経て、フリーランスへ。現在は、自動車ライター、ドライビングインストラクターとして活動をしている。保有資格は、教習指導員(普通自動車一種・普通自動二輪)、応急救護指導員、運転適性検査指導員。

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