プジョー『3008 GT HYBRID4』試乗レポート〜満足度は高いが課題も散見【諸星陽一】

プジョーがパワートレインを選べる車種展開をする中で、人気が高いミドルサイズSUVがプラグインハイブリッドの『3008 GT HYBRID4』です。モータージャーナリストの諸星陽一氏が一日試乗。電動車としての満足度をさらに高めるための気付きをレポートします。

プジョー『3008 GT HYBRID4』試乗レポート〜満足度は高いが課題も散見【諸星陽一】

電動パワートレインは3008のあるべき姿

プジョー『3008』は308のSUV版であるが、そのルーツは2008年のパリモーターショーでコンセプトカーとして出展されたプロローグハイブリッド4であるとされるので、まさに今回試乗した3008 GTハイブリッド4は3008のあるべき姿だと言える。

ボディサイズは全長が4450mm、全幅が1840mm、全高が1630mmとなる。マツダのCX-5の全長×全幅×全高が4575×1845×1690mmなので、CX-5よりもほんの少し小さいというパッケージング。ホイールベースはCX-5の2700mmよりも25mm短い2675mmながら、最小回転半径はCX-5よりも0.1m長い5.6mとなる。

このサイズは一方通行が多い都内住宅街のようなシチュエーションだとそれなりに気をつかう。道路は簡単には広くならない(日本特有の事情という側面もあるだろうが)のだから、そろそろクルマの肥大化は終了してほしいものだ。ボディを大きくすれば、室内は広くできるし、バッテリーもたくさん積めるだろう。しかし、使い勝手が悪いのはやはりよろしくない。

3008 GTハイブリッド4のパワーユニットはプジョー&シトロエングループが長年使い続けている1.6リットルガソリンターボエンジンに前後モーターを組み合わせたハイブリッドシステムとなる。エンジン単体の出力は200馬力/300Nmで、モーターはフロントが110馬力/320Nm、リヤが112馬力/166Nm、システム出力は300馬力520Nmという仕様。

価格は614万8000円〜(税込)。ハイブリッド4と同じ1.6ℓ PureTechガソリンターボエンジンを搭載する『3008 GT』が459万7000円、2.0L BlueHDiディーゼルターボエンジンの『3008 GT BlueHDi』は495万8000円(ともに税込)なので、それぞれ約155万円、約119万円ほど高く、3008の最高峰モデルに位置付けられている。

ただし、プラグインハイブリッド車の新車購入には、国のCEV補助金(令和3年度の場合45万円)などが活用できるので価格差は大きく縮む。地方自治体によって異なるが、東京都の場合はさらに45万円、合計で90万円の補助金が活用できるので、エンジンモデルとの価格差は30〜65万円程度となる。

駆動用バッテリーはリチウムイオンで総電力量は13.2kWhとエクリプスクロスPHEVの13.8kWhと同レベルと考えていいだろう。EV走行のみでの航続距離はWLTCモードで64kmが日本のカタログスペック。欧州のWLTP値では39マイル(約63km)で、実用に近いアメリカEPA換算推計値では約56km)となる。

高速道路での快適性など満足度は高い

走行モードは「ハイブリッド」が基本で、そのほかにモーターのみで走行する「エレクトリック」、エンジンをメインとしてモーターアシストが行われる「スポーツ」、4WD状態を基本にしてFWDにも切り替わる「4WD」の4モードを持っている。バッテリーに残量があればデフォルトモードは「エレクトリック」なのだが、筆者にステアリングを託されたときにはすでにバッテリー容量はゼロになっていて、「ハイブリッド」での走り出しとなった。

バッテリー残量のないハイブリッドだが、発進時はエンジンが発電した電気を使って後輪モーターを駆動して発進する。この感覚がけっこういい。エンジン駆動のFWDで引っ張られるよりも、リヤから押し出されるRWDのほうが安心感は高い。その後はエンジン駆動のFWDになる。基本的には安定していて、乗り心地もいい。

ただし苦手なシチュエーションもある、路面が荒れている場面ではリヤサスペンションが落ちつかずばたついてしまうのだ。リヤサスペンションはマルチリンクでその動きやスムーズで、タイヤの対地制御もよく行われているのだが、モーターとサスペンションを同じキャリア(サブフレーム)でボディから吊り下げられているので、無理があるのだろう。路面が安定していれば、走りは安定していて快適だ。

高速道路での安定性と快適性が高いのはさすが欧州車という印象。サスペンションがゆったりと動き、フラットな乗り心地を味わえる。しかし、ここでもちょっとした問題がある。それはACCのスイッチである。ACCのスイッチは、古い時代のクルーズコントロールのスイッチを流用したもので、ここにACCのオン、オフはもちろん、速度調整、車間調整、さらにスピードリミッターまでを集約している。「スイッチは慣れればいいだけ」とする向きもあるが、スイッチの操作を間違えると途端に減速することもあるので、これはNG。もっとわかりやすく、スイッチの位置も現代的にするべきだろう。

チャージモードがないのは残念

運のいいことに取材先に普通充電用コンセントがあったので1〜2時間程度(正確な時間をメモし忘れてしまった)充電、メーター表示で16km程度の電動走行が可能となった。3008GTハイブリッド4の充電は普通充電のみで、充電量ゼロの場合、200V/3kWで約5時間、200V/6kWで約2時間半で充電完了するとアナウンスされている。

EV走行の快適なフィールは申し分なし、静粛性も高く、なによりも加速感がスムーズで気持ちいい。駆動力が的確に前後モーターに配分されるので、発進も中間加速もじつに快適だ。EVモードでの最高速はEVとしての最高速は135km/hを実現しているので、日本での使用を考えれば十分だろう。EV航続距離はWLTCで64kmとなっている。

EVの走行性能に満足できる3008GTハイブリッド4だが、モード設定にはちょっと不満が残る。まず、充電モードがないことだ。仕向地によっては充電モードがあって、走行しながら積極的に充電ができるようだが、日本向けはない。調べ切れていないのだが、ロードプライシングなどが関係しているのかも知れない。同じようにセーブモードもない。どのモードを選んでも、充電した電気を消費してしまう。つまりEVで走れるのは、充電直後のみということで、これはちょっと頭を傾げてしまう部分だ。

雪道での使用にも充分な性能を備えたモデル

3008GTハイブリッド4ではワインディングやスノー、スノーワインディングも走る機会もあった。この時期の広報車両ということで、タイヤはミシュランのスタッドレスタイヤ「X-アイス・スノー」を履くが、ドライワインディングでも十分にスポーティな印象。小径ハンドルによるクイックなステアリングレスポンスもこの場面ではとくに生かされる。

スポーツモードで走ると、アクセルに対するエンジン回転のピックアップが向上。ここでバッテリーに電気残量があればもっと……とも思うので、やはりチャージモードやセーブモードがないのは残念の極みである。また、下り坂で積極的な回生も試みたが、意外と入らない印象。同じ条件で比較はしていないものの「アウトランダーPHEVだと、もっとガンガン回収していくのだけどな」と思った次第。

スノーロードでの走行性能はしっかりと確保されていた。もちろん、アクセルを急に踏んだり、オーバースピードでコーナーに入れば、耐えきれずに滑りだす。しかし、それはタイヤの限界性能でクルマの限界性能ではない。4WDモードを選ぶと、充電量がゼロであっても発電した電気をリヤに送って、リヤの駆動力を発生させるので、発進の安定性が向上する。降雪地での使用にも充分に耐えるモデルであることは確かめられた。

今回の試乗では、ACCのスイッチ系と走行モードに疑問を感じたが、それ以外は納得できるレベルの仕上がり。年次変更で、スイッチとモード設定が改良されることを期待する。

(取材・文/諸星 陽一)

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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