スバル『ソルテラ』雪上試乗レポートPART.2〜トヨタ『bZ4X』と何が違う?【諸星陽一】

スバルが開催した電気自動車『SOLTERRA(ソルテラ)』のプレス向け雪上試乗会の連続レポート。パート2は、諸星陽一氏がトヨタ『bZ4X』との違いや「ソルテラとbZ4X、どちらを選ぶ?」についての感触を語ります。

スバル『ソルテラ』雪上試乗レポートPART.2〜トヨタ『bZ4X』と何が違う?【諸星陽一】

bZ4Xとソルテラ、連日のプロトタイプ試乗

トヨタのbZ4Xプロトタイプを千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗した翌日、群馬サイクルスポーツセンターでスバル・ソルテラのプロトタイプに試乗する機会に恵まれた。

ご存じのようにスバル『ソルテラ』とトヨタ『bZ4X』は基本コンポーネンツを共有するクルマだ。多くの部分で共通性があるモデルなのだが、違う部分も存在する。読者のみなさんは、その違いの部分を知りたいと思っていらっしゃることは承知だが、じつは試乗した群馬サイクルスポーツセンターは完全な雪道だったので、条件を揃えた比較走行というわけにはいかなかった。装備差やセッティング差などの情報は紹介できるが、残念ながら試乗フィールの違いはお伝えできない。

スバルが雪の群馬サイクルスポーツセンターで試乗会を行ったのは、EVでも十分に高い雪道性能が出せることを証明したかったからであろうが、実際に、雪道とEVとの親和性は高い。それは駆動力のコントロールがICE車に比べてバツグンに速く、そして緻密に行えるからにほかならない。

パワーモードでの加速が爽快

試乗車として用意されたのは4WDモデルで、タイヤはブリヂストンのミニバン用スタッドレスタイヤ「ブリザックDM-V3」が装着されていた。

前後に適切にトルク配分されるだけあり、発進はスムーズだ。加速感も力強く、トラクションコントロールが不自然に介入すると印象はない。bZ4Xは走行モードがノーマルとエコの2モードだが、ソルテラはそこにパワーモードが加わる。さらに、深雪やぬかるみなどの悪路走行時に威力を発揮する「Xモード」(bZ4Xも同様)を備えている。

せっかくの雪道なので、パワーモードを使ってすこしやんちゃ目に走ってみる。パワーモードにするとトルクのツキがよくなり、アクセルペダルを踏んだときの加速感が強くなる。さらにbZ4Xには装備されてないパドルスイッチで回生力を調整してやると回生ブレーキが強く効くので荷重移動もしやすくなる。

パドルでの回生力調整は4段階で、3がデフォルトとなる。4にするとコースティングで2-1と回生が強くなる設定。さらにSペダル(シングルペダル)スイッチを押すともっと強い回生が行われる。

ちなみにSペダルで駐車場を走ってみたら、停止までできたのでトヨタとセッティングが違うのかと思ったが、これは勘違い。雪が抵抗になって停止に至ったのである。Sペダルのセッティングはトヨタとの違いはない。また、撮影に使ったクルマはSペダルに切り替えることができず、故障かなと思ったのだがこれも勘違いで、バッテリーがフル充電されていると回生ができないので、Sペダルは使えないということだった。

ノーマルモードについてはbZ4Xとソルテラで同じ制御を行うが、エコモードは制御が異なる。bZ4Xの4WDはエコモードのなかでFWDとなる領域が存在するがソルテラはどのモードのどの領域でも4輪に駆動力が伝わっているという。

パドル操作により回生を4としてコースティングモードにしても、完全に駆動力と切り離されるのではなく、4WD状態は維持される。つねに4WDとしたのはスバルのアイデンティティでもあり、意地でもある。エコモードでFWD状態にすることで電費はわずかにダウンするとのことだが、スバルは小さな電費よりも4WDのフィールにこだわった。スバルならではのEVを欲しいという人はそのほうがうれしいだろうから、それが正解だと言える。

ソルテラはbZ4Xに比べてダンパーの減衰力をアップ、bZ4Xよりも硬めの足回りとしてる。また、電動パワーステアリングのアシスト量は少し大きく、操舵力を軽くしているという。いずれも雪道、スタッドレスタイヤ装着状態では確認のしようはなかったので、情報としてのみ紹介しておく。

低速域での高度な制御はEVならでは

Sペダルモード、パワーモードでスノーワインディングを走ると、荷重移動を生かしながらアクティブな走りが可能だ。コーナーへ向かい、アクセルペダルをゆるめて荷重が前に移動したタイミングでステアリングを切り込み、ノーズがインを向いたところでアクセルペダルを踏んでやると加速しながらもきれいにコーナーをトレースする。

フロントタイヤにしかトルクが伝わらないFWDの場合はタイヤにトルクが伝わるとフロントタイヤが外側に逃げてコーナリング半径が大きくなるのだが、リヤにも駆動力が伝わるとそのバランスがとれるというわけだ。しかし、このバランスは一朝一夕にできるものではない。スバルが長年にわたって蓄積してきた4WD(AWD)技術をフィードバックしたからこそできるワザだと言える。

ソルテラもbZ4Xも4WD技術はスバルが担当した。そうしたなかでスバルとEVとの出会いが実現したのがXモード内に設定されたグリップコントロールだ。Xモードは前後の駆動配分トルクを最適化するとともに、4輪独立ブレーキによってLSD効果を生み出し、接地性の悪い状態からの脱出性能を向上する機能。通常のXモードの場合はアクセル操作が必要となるが、今回追加されたグリップコントロールはアクセル操作が不要で、速度を確定してスイッチをオンにするとあとは設定速度を維持して的確なトルク配分を行う。

設定できる最低速度は2km/hで、この速度での制御をエンジン車で実現するには相当低いギヤ比と粘り強いエンジン特性が必要となる。しかしEVならばモーターの回転数に関係なく最大トルクを得られ、そのコントロールも容易だ。重い多段ミッションや副変速機を積むことなく、極低速のグリップコントロールを実現できたのはスバルの4WD技術とEVの組み合わせの賜物だと言える。

じつはbZ4Xに装備されるふく射熱式ヒーターはソルテラには装備されず、その代わりといってはなんだがシートヒーターの採用範囲がサイドサポート部分にまで拡大されるなどの方策が採られている。スバルでは「ふく射熱式ヒーターの取り付け可能な位置が高く、膝や太ももしか暖かくない。本来であればもっと下の足首あたりを温めたい」という思いから、bZ4Xが採用した位置での採用は見送ったという。このあたりの思想の違いも興味深い部分である。

さて、「bZ4Xとソルテラのどちらを選ぶ?」というお題。試乗ステージがあまりに違ったため、走行フィールでどちらがいいと決めるのは難しい。とはいえ、現状の感覚では「走りを楽しみたいならソルテラを選ぶののがよさそうだ」と感じている。走行モードにパワーがあること、回生パドルシフトを備えていること、サスペンションのセッティングが硬めであることなどがその理由だ。両車の市販モデルが登場したら、改めてじっくりと乗り比べてみたい。

(取材・文/諸星 陽一)

【編集部追記】ソルテラは日本でも個人向けに通常販売予定

トヨタbZ4Xの試乗会に続き、ソルテラの雪上試乗会にもEVsmartブログ編集長の寄本が2人のジャーナリストに同行して参加しました。bZ4Xは「日本では全量リースのみ。個人向けにはKINTOによるサブスクで」と確認できたこともあり、スバルは、ソルテラはどうなるの? と気になっていたのですが……。

試乗会場での懇談時、開発責任者の小野大輔氏に確認したところ、ソルテラは「普通に販売する予定」ということでした。サブスク利用になるbZ4Xと、自分名義で所有できるソルテラという点も、両車の大きな違いとなりそうです。

さらに「英国では日本円換算で約650万円〜とお高めですが?」と質問したところ、「イギリスはそもそも物価が高い。日本では先行して発売されている日産アリアとも競争力のある価格にする方向で検討中」という主旨のお答えでした。

日産アリアは、バッテリー容量66kWhで2WD(前輪駆動)の「B6」が539万円〜、特別仕様の4WD「B6 e-4ORCE limited」が約720万円〜となっています。ソルテラのほうが5.5kWh大きなバッテリーを搭載していることを考慮すると、日本での価格設定は500万円台後半〜と推察できます。

ただし、先だって発表されたヒョンデ『IONIQ5』は、72.6kWhのRWDモデルが室外V2Lなど充実装備満載で519万円〜。ソルテラも、なんとか500万円前後からの価格で手に入るようにしなければ、苦戦を強いられるかも知れません。

(追記/寄本 好則)

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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