トヨタ『bZ4X』&スバル『ソルテラ』公道長距離試乗レポート【3】第二弾のEVを早く見たい【塩見 智】

トヨタとスバルが合同で開催した『bZ4X』と『ソルテラ』の公道試乗会。期待と注目が集まる新型電気自動車の出来映えについて、複数の視点で評する連続企画をお届けします。第三弾は、モータージャーナリストの塩見智氏によるレポートです。

トヨタ『bZ4X』&スバル『ソルテラ』公道長距離試乗レポート【3】第二弾のEVを早く見たい【塩見 智】

名古屋からソルテラで郡上八幡へ

東京を拠点に日本アルプスをぐるりと囲む壮大なルートが設定されたトヨタbZ4X、SUBARUソルテラの合同試乗会が5月末に行われた。5分割された周回ルートのうち、第3区間の名古屋から金沢までを担当した。これまでにbZ4Xはサーキット、ソルテラはクローズドの雪上コースでそれぞれ試乗した経験があったが、一般道走行は今回が初めて。約250kmを走行する間に充電も経験することができた。

朝9時前、名古屋駅前のホテルをまずソルテラの上級グレードET-HS(4WD。682万円。テスト車には55万円のオプションが備わり737万円)で出発。駅前の渋滞をすり抜け、名古屋高速へ合流した。

一般道でのソルテラは、当然ながらEVそのものの振る舞い、すなわち変速のないスムーズな加減速、高い静粛性、低重心ならではの安定性を見せた。都市高速から東海北陸自動車道に入って北上。交通の流れに沿って80km/h巡航となると、一般道で静かだった車内に、ロードノイズが侵入し始めた。これはEVあるあるで、ICEではエンジン音にかき消されていたロードノイズが、エンジン音が存在しないEVだと浮き彫りになるパターン。ソルテラが同価格帯の他のEVよりうるさいわけではない。

岐阜県美濃市で高速道を降り、国の伝統的建造物群保存地区に選定された“うだつの上がる町並み”へ立ち寄る。個人的なことで恐縮だが、家の前の立派な門のことをうだつだと50年間、壮絶に勘違いをしていた。実際には、屋根の両端を一段高くして火災の類焼を防ぐために造られた防火壁のこと。パッとしない人間のことを「うだつが上がらない」と表現するのは、裕福な家しか「うだつ」を造ることができなかったからだ。きれいな町並みだが、門がないのでおかしいなと思い、現地で先輩ジャーナリストにそれとなく尋ねて、うだつの何たるかを知った。これだから……と自身のうだつの上がらなさを嘆く結果となった。

充電器液晶の「日焼け」で充電情報がわからない

その近所の道の駅美濃にわか茶屋で一度目の充電。「NISSAN」ロゴの入った急速充電器のガンを外そうとするも鍵がかかっている。一回500円という独自の料金設定の充電器のようだ。支払いを済ませて充電開始。電圧と電流を確認したかったのだが、充電器側の表示版がおそらく長年の直射日光によって日焼けして真っ白。一切表示を読み取ることができなかった。

車両側で充電出力を確認しようと車内のメーターを確認するも、bZ4X、ソルテラは充電中、例えば「40kWで充電中」といった充電関連のめぼしい情報を表示してくれない。充電後に走行可能距離がどれくらい復活したかによってどの程度充電できたかをざっくりと知ることしかできないのだ。

充電器の液晶表示は真っ白で何も読めなかった。

たいていのEVは充電器側の表示で充電できた電力量(kWh)が表示されるが、まれに“日焼け事件”のようなこともある。また、急速充電器によっては電力量などの表示が確認しづらい機種もある。できれば充電に関する情報をもう少し車両でも確認できるようにしてほしい。

そもそもbZ4X、ソルテラは電力残量をパーセント表示しない。残りの走行可能距離表示だけが頼りだ。やや不親切ではないか。その点をエンジニアに尋ねると、ICE、HEVから乗り換えたユーザーが、それまで馴染みのない情報に接して混乱しないよう、シンプルに残り走行可能距離でバッテリー残量を把握してもらうため、という返答があった。だが同時に彼らは「これまでに多くの方から残量のパーセント表示をはじめ充電関連の情報をもっと表示すべきという意見をいただきました」と言っており、早期の変更が予想される。

30分間充電し、復活した電力量は不明。走行可能距離は約170kmから約220kmに復活した。30分で50km分、車載電費計によるとここまでの電費は高速道路を中心に走行して5.9km/kWhだったので、充電できた電力量は50km÷5.9km/kWh=約8.5kWh程度。つまり急速充電の出力は20kW弱だったことになる。EVsmartによるとこの道の駅にある急速充電器出力は44kWなのでもっと充電できていい気もするが、情報が足りないから正確なデータはわからない。

ワインディングロードの走りが楽しい

美濃から乗り換えポイントの郡上八幡までワインディングロードを中心に走行。EVは高速巡航よりも負荷が連続的に増減するワインディングロードのほうが楽しいということを再確認することになった。さまざまな曲率のコーナーをアクセルペダルの踏み加減、戻し加減によってスピードをコントロールしながら走行するのだが、ICEだとブレーキペダルを踏むようなコーナーに差し掛かってもEVならアクセルペダルを戻すだけで十分減速できるケースが多く、リズミカルに走行することができるのがよい。

ただ回生で得られる減速Gの絶対量がもう少し欲しい。明確にアクセルオフで得られる減速が、例えば日産リーフよりもマイルドだ。当然フットブレーキで補う頻度が増す。そしてそれよりも気になったのが、アクセルを戻してから減速Gが立ち上がるタイミングだ。アクセルを戻し、減速が立ち上がるまでの一瞬の間が違和感として残った。戻した瞬間、あれ? と思ってブレーキペダルに足をやろうとした瞬間に減速が始まる。

もちろん、減速の強さも立ち上がるタイミングも、技術的にそうとしかできないわけではなく、開発陣がそうすべきと考えてセッティングした特性だ。モーターの制御次第でもっと強く、あるいはもっと早く減速することも可能だが、していないのだ。この点についても、開発陣からは「ICE、HEVからの乗り換えユーザーが多いため、それらからの連続性を考慮した」という答えが返ってきた。ダントツでシェアの大きいメーカーとしての責任と理解することもできるが、開発陣の口ぶりから、それがこの先も絶対であるという印象は受けなかった。

一般論として、クルマがもっている特性を急激に変化させるのはユーザーを戸惑わせることにつながるかもしれない。しかし現時点でEVを選ぶユーザーはどういう層か? 熟成極まったICEやHEVが多数存在するなか、わざわざまだ選択肢の少ないEVを選ぶのは、好奇心旺盛な新しいモノ好きと言われる層のはずだ。環境保護の観点からそうすべきと考えて選ぶ人ももちろんいるだろうが、多くはEVがどういうものかに興味があって、ICEやHEVで得られない体験を求めて買う人が多いのではないだろうか。回生ブレーキによる挙動はその代表格だ。第一弾EVであっても、もう少し盛り込んでほしかった。

郡上八幡から金沢へは『bZ4X』で

郡上八幡の山の中腹に建つ旅館ホテルで、他のメディアがここまで乗ってきて、この先私が乗るbZ4Xの充電を待つ。次に乗るbZ4XのグレードはZ、FWD。600万円(テスト車は36万3220円のオプションが備わっていて636万3220円。KINTOで申込金77万円、月額11万1320円)。

bZ4X、ソルテラは4WDモデルが前後それぞれに最高出力80kWのモーターが備わり、システム合計の最高出力が160kWとなるのに対し、FWDモデルはフロントに最高出力150kWのモーターが備わる。最高出力は10kWしか違わず、ドライ路面の街なかを走らせる限りにおいては両者の違いはほとんど感じられないはずだが、ワインディングロードを活発に走らせたり、雪上を走らせたりするなら4WDのほうが楽しく、頼もしいだろう。

bZ4Xに乗り換えてすぐ東海北陸自動車道へ戻り、ひるがの高原SAで30分間充電。その間、2台の同業者が充電しにきてふさがっているのを確認してどこかへ行った。申し訳ない気持ちになる。走行可能距離184kmから同236km(52km分)まで復活した。車載電費計は(上り勾配が続いた直後ということもあって)3.1km/kWh。充電できた電力量を車載電費計基準で計算すると30分間で52÷3.1=約16.8kWhなので、この充電器は約34kWの出力が出たことになる。

bZ4Xはソルテラ同様、ボディ剛性感が高く、足まわりがしなやかに動いていた。試乗会スタッフが何度も下調べをしてルート設定しただけあって、岐阜・白川村の御母衣ダム周辺のワインディングロードをbZ4Xで走行するのは快適だった。僕がbZ4X、ソルテラに慣れたのか、あるいはbZ4X、ソルテラが僕に慣れたのか(←それはない)、アクセルオフでの減速感も、その強さに見合うタイミングでアクセルを戻せばよいのかもしれないという気にもなってきた。減速Gの立ち上がるタイミングについては最後まで馴染めなかったが。

最後高速道路に戻って金沢へ。残り走行可能距離が目的地までの距離を大幅に上回っていて、さらに目的地で充電できるメドがたっている時のEVの無双感は他に形容できる感覚がない。思う存分にモーターのトルクの強さからくる鋭い加速を楽しみ、エアコンをはじめとする電装品も好きなだけ使ってゴールを目指した。

トヨタ、SUBARUの量産EV第一弾からは、ICE、HEVからの違和感のない乗り換えを第一に考えたEVであることが見て取れ、変化、すなわちEVでしかできないことを求める僕からすると物足りない部分もあったが、この慎重さこそEVを真剣に考えている証拠なのかもしれない。第二弾、第三弾のBEVも早く見せてほしい。

【塩見さんの動画レポートはこちら】

(取材・文/塩見 智)

【編集部注】『bZ4X』&『ソルテラ』公道試乗会について

2022年5月下旬、トヨタとスバルが合同で開催したメディア向けの公道試乗会。「東京〜静岡」「静岡〜名古屋」「名古屋〜金沢」「金沢〜軽井沢」「軽井沢〜東京」という5区間を設定し、各区間に10組のメディアやジャーナリストが参加。2週間の日程で、5区間のコースを2周して、合計で100組の試乗を行うという大規模なものでした。

EVsmartブログでは、1周目の「名古屋〜金沢」区間に塩見智氏が参加。「金沢〜軽井沢」区間に、御堀直嗣氏、諸星陽一氏とともに、編集長の寄本が参加してきました。それぞれの視点で、何をどう感じたのか。連続レポート企画でお届けします。

トヨタ『bZ4X』&スバル『ソルテラ』公道長距離試乗レポート【1】EVの本質的な価値に目を向けて欲しい【御堀 直嗣】
トヨタ『bZ4X』&スバル『ソルテラ』公道長距離試乗レポート【2】エンジン車と変わらぬ安心感を求める人へ【諸星 陽一】
●トヨタ『bZ4X』&スバル『ソルテラ』公道長距離試乗レポート【3】第二弾のEVを早く見たい【塩見 智】

この記事のコメント(新着順)7件

  1. この車の市場レビューを見ると、必ず、「ICE、HEVからの違和感のない乗り換えのため」という内容が出てくるけど、どのレビュー内容文でも、「違和感を感じなかった」という評価をしている人を見たことない。

  2. 安川様、
    ガソリン車に慣れ親しんだ方は、急速充電器の性能差によってEVの使い勝手が全く違ってくるというのは中々理解されないと思っています。ガソリン給油機に関しては、ガソリン給油スピードなどは全く意識されないわけで、最新のEVに30分充電したけれど50kmしか走れないないなどと聞けば、そんな物はとても使えないと思われると思います。
    でも実際は、安川さんがご指摘になるように、きちんと充電器さえ確保すれば全く問題ないわけで、テスラ車がこの事実を証明しています。
    EVの最大メリットは、ガソリンスタンドに行かなくて済むことで、普段の使い勝手では自宅充電で済む事です。この利便性は経験しないと分からないと思います。スマホの時もそうだったのですが、毎日充電しなくてはいけないスマホなどとても使えないと言われていましたが、毎日充電することに慣れてしまえば何の事もないわけです。
    自動車ジャーナリストの方々には、EVの使い方について正確にユーザーにお伝えしていただき、EVの素晴らしさをガソリン車ユーザーにも理解していただきたいと思っています。

    1. ピーター様、コメントありがとうございます。

      >>ガソリン車に慣れ親しんだ方は、急速充電器の性能差によってEVの使い勝手が全く違ってくるというのは中々理解されない

      このあたりは、しっかりと国産メーカーなどは販売時に教育する体制が必要ですね。
      他の点も、おっしゃるとおりだと思います。

  3. > 日焼けして真っ白。一切表示を読み取ることができなかった。

    とありますが、日産のいわゆる縦細型の充電器には複数種類があり、NSQC442Aという一番ベーシックなモデルに液晶非搭載機があったはずです。
    確か442Aは屋内設置向けになっていたと記憶しているので屋外設置されているケースはないかとは思うのですが、液晶が見えない=日焼け、故障ではない可能性もあるので、可能であれば充電器の銘板などを見ていただけると幸いです。

    1. コメントありがとうございます。写真でご紹介した画像に写る白い表示ですが、しっかり凝視すると液晶で、表示が変化しているのが見てとれました。数字などは一切判別できませんでしたが。なのでこれは液晶非搭載モデルではないと思われます。

  4. 残念ながら現在の国内充電インフラでは、一般ユーザーの方にEVでの長距離走行はお勧め出来ないです。現状ではあくまでも自宅充電を前提にEVを正しく使っていただきたいと思っています。今後欧米並みの90〜150kWクラスの急速充電器が整備されていけば、EVでの長距離移動も可能になっていくでしょう。しかしそれまでは長距離移動するのであれば、ガソリン車をレンタルする事をお勧めします。国内の充電インフラをきちんと整備しないで、やたら高額なEVを増やしても全く意味がないです。今やるべき事は、EVの特性をユーザーの方によく分かっていただいて、素晴らしいEVライフを満喫していただく事だと思っています。ジャーナリストの方々には、ぜひこの事を読者に伝えて欲しいです。

    1. ピーター様、コメントありがとうございます。

      >>一般ユーザーの方にEVでの長距離走行はお勧め出来ない

      長距離の定義にもよると思いますし、車にもよると思います。私は電気自動車で毎月長距離走っていますし、すでに今の車は4年7ヶ月、10万7千キロを超えました。
      実際のところ、普通のEVでも300kmは走行できるわけで、チャデモの急速充電器で休憩、往路と復路でそれぞれ15分ずつ充電するとすると、6km/kWhの仮定で50kW充電器の場合、
      50 x 0.9 x (15 + 15) / 60 x 6 + 300 = 435km
      ですから、片道217kmまではガソリン車と同じように旅行が可能です。これは東京を起点に考えると、箱根はおろか、軽井沢や那須も範囲に入りますから、多くの方には問題ないレベルであるとも言えます。

      しかし長距離をもっと遠くと定義すると、ここで超急速充電ネットワークが必要になります。今の日本で超急速充電ネットワークを実現しているのはテスラくらいのものですから、それ以外の電気自動車では、片道300kmを超えるような旅行は、ある程度時間がかかると考える必要があります。

      しかし、お勧めできないというほどではないですね。
      片道200Km程度までの旅行が多い方や、テスラにする方は、電気自動車でも何の問題なく長距離旅行が可能と言えます。

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この記事の著者


					塩見 智

塩見 智

先日自宅マンションが駐車場を修繕するというので各区画への普通充電設備の導入を進言したところ、「時期尚早」という返答をいただきました。無念! いつの日かEVユーザーとなることを諦めません!

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