トヨタ『bZ4X』&スバル『ソルテラ』公道長距離試乗レポート【2】エンジン車と変わらぬ安心感を求める人へ【諸星 陽一】

トヨタとスバルが合同で開催した『bZ4X』と『ソルテラ』の公道試乗会。期待と注目が集まる新型電気自動車の出来映えについて、複数の視点で評する連続企画をお届けします。第二弾は、モータージャーナリストの諸星陽一氏によるレポートです。

トヨタ『bZ4X』&スバル『ソルテラ』公道長距離試乗レポート【2】エンジン車と変わらぬ安心感を求める人へ【諸星 陽一】

エンジン車の延長線上にある電気自動車

bZ4Xもソルテラも、エンジン車の延長線上にあるEVを作りたかったのだろうなというのが私の結論。なにをもってEVらしいEVというのか? という定義はないが、両車はとてもクルマ的であり、エンジン車から乗り換えてもあまり違和感は感じないだろう。この違和感を感じない部分がEVらしくない部分であるといえる。

それをもっとも感じたのがコースティングモードがないことだ。コースティングモードをエンジン車で実行しようとなると、ギヤをニュートラルにするかクラッチを切るかという方法になる。実際、エンジン車でもEVでもコースティングモードを設定しているクルマはたくさんあるので、コースティングモードがEVの象徴かと言えばそうではない。しかし、EVこそコースティングモードが必要なのは間違いないだろう。

今回の試乗会で我々のコースは、bZ4Xで金沢駅至近のホテルをスタートし、松本経由で軽井沢へ向かうというもの。松本でソルテラに乗り換えるというプランなのだが、松本到着時は残り走行可能距離を200km、軽井沢到着時は50kmを残すという縛りがあった。金沢スタート時の残距離は361kmで、約190km先の松本までは上り勾配が中心(松本市の標高は約590m)となるので途中での充電は必須だ。

9km分の電気で約50kmを走破

135km走った時点の平湯バスターミナルで航続可能距離が119kmとなったため、充電となった。30分充電して充電器の表示では19.5kWhを補給。航続可能距離は222kmである。ゴールは約50km先、まだ上り勾配も残っている。慎重にアクセル操作をしながら走ることとなった。

安房トンネルでようやく頂上を越え下り勾配となったが、勾配がゆるいためアクセルを戻していると減速してしまう。こうした状況でコースティングモードがあれば、電気を使わずに下って行くことができるのだが、コースティングモードがないbZ4Xは下りであるにもかかわらず多少なりとも電気を使うことになる。

エンジン車でもコースティングモードがなければ同じように燃料を使うことになるのだが、電気のほうがずっともったいない感じがする。ガソリンスタンドでちゃちゃっと給油できる燃料と違って、充電にはある程度の時間が必要だということも影響しているのだろう。エネルギーの大切さを肌身で感じるのはEVのほうであることは明らかだ。

bZ4Xには回生力を調整するパドルスイッチなどがない、このため勾配が急になるとフットブレーキを多用することになる。フットブレーキを踏んでも回生量は上がってるはずだが、速度と回生量の調整をバランスさせるのは難しい。そこで思いついたのがワンペダルモードの活用。下り勾配がきつく速度が上がり過ぎたときには、ワンペダルモードのボタンを押すことで回生量をアップし速度を落とすことができた。

平湯バスターミナルで222kmだった航続距離は中継地点である松本市内のホテル到着時には213kmと9kmダウン。下り勾配が多かったとはいえ、49kmの距離を9km分の電気で走れたのは立派だが、コースティングモードがあればもう少し電気を残せたような気がする。

慎重の上にも慎重を期して作られたEV

松本から軽井沢まではソルテラでの走行となったが、高速道路が中心だったので、パドルスイッチの出番はほとんどなかった。bZ4XもソルテラもACCの性能は十分に高い。スバルとの共同開発のクルマではあるが、アイサイトは使われていない。それでも、必要十分な機能はあり、安心して巡航をまかせられる。

トヨタもスバルも既存のお客さんからの乗り換えを期待しているのだろう。だから既存のクルマと同じフィーリングを大切にした……これが私のbZ4Xとソルテラに関する結論だ。

テスラは既存のお客さんがいなかったから、思い切ったクルマを作ってユーザーを驚かせたが、既存の自動車メーカーがそれをやるのは難しい。事実、BMWはその方向で動き始めたが、うまくいかず舵を大きく切った。そうした状況をじっくりと観察してきたトヨタ&スバルは慎重な上にも慎重を期してbZ4X&ソルテラを作ったのだろう。

かつて、クルマの駆動方式がFFに転換し始めたとき、トヨタは一気にFF化することをためらい、FFとFRを共存させた。5代目のカローラはセダンや5ドアはFFとなったが、クーペとハードトップはFRのまま(これがAE86)だった。コロナやカリーナはFFモデルとFRモデルを共存させていた。既存のお客さんを逃さない、既存のお客さんを満足させるというのがトヨタのビジネスの基本。

今、EVに注目している人達は先進性を重視しているが、そうでない客層もたくさんいる。そうした客層にEVを広めていくにはbZ4Xやソルテラといったようなクルマの存在も大切なのである。

(取材・文/諸星 陽一)

【編集部注】『bZ4X』&『ソルテラ』公道試乗会について

2022年5月下旬、トヨタとスバルが合同で開催したメディア向けの公道試乗会。「東京〜静岡」「静岡〜名古屋」「名古屋〜金沢」「金沢〜軽井沢」「軽井沢〜東京」という5区間を設定し、各区間に10組のメディアやジャーナリストが参加。2週間の日程で、5区間のコースを2周して、合計で100組の試乗を行うという大規模なものでした。

EVsmartブログでは、1周目の「名古屋〜金沢」区間に塩見智氏が参加。「金沢〜軽井沢」区間に、御堀直嗣氏、諸星陽一氏とともに、編集長の寄本が参加してきました。それぞれの視点で、何をどう感じたのか。連続レポート企画でお届けしています。

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この記事のコメント(新着順)4件

    1. seijima様、コメントありがとうございます!
      実はbZ4Xやソルテラでは残量の%表示がなく、充電器側に充電量表示がないと、電費すら計算できないのです。またジャーナリストの試乗の場合、充電スタンドは決められてしまうこともあり、その充電器が新しい型のものである可能性も確実とは言えず、この種の車ではデータに基づく運用はできないとお考えいただければと思います。ざっくり、目分量で走行、ですね。。

    2. 私はしませんが、EV乗りで距離をかせぐためニュートラルを利用する人がいますね。確かに、ゆるやかな下り坂が多い場合かなり電費向上に貢献すると思います。私がしないのは、レンジ切り替えが面倒だからです。特に急なスピード変化に対応するのが面倒。通常走行で少しの回生、ゆるやかな下り坂でニュートラル、急な下り坂で強い回生を自動で切り替えるなら使いたいです。値段が高くならなければ。
      EV乗りがエコ運転をするのは、エネルギーの節約ができるからだと思いますが、電費表示がないと確認ができません。リアルタイム電費と平均電費の表示は必要だと思います。もちろん、そういうことに興味ない人もいるかもしれませんが、そういう人は見なければいいし、見たくない人のために非表示モードを作ればいいと思います。デフォルトが表示なしというのはかなり変。

  1. テスラの例を見てもわかりますが、将来EVは大型ダイキャストマシンによる一体成型部材を利用したり、従来のガソリン車に比べ、大幅に車体構造を簡素化出来ると思います。
    私が現在使用している三菱i-Miev(M型)は、既に10年、10万Kmを走行していますが、東芝SCiBバッテリーも含め、クルマ自体に顕著な劣化や傷んでいる箇所は見あたりません。これは通常のガソリン車では考えられない事で、凄まじい熱や振動を伴う内燃機関を搭載していないEVの最大の特徴と思います。EVは、きちんと整備していけばガソリン車に比べ長寿命です。従ってEVは、OTAによって自動車としての機能を進化させていく必要があります。従来のガソリン車の様なEVでは、恐らく世界では戦えないと思います。

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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