トヨタ『bZ4X』&スバル『ソルテラ』公道長距離試乗レポート【1】EVの本質的な価値に目を向けて欲しい【御堀 直嗣】

トヨタとスバルが合同で『bZ4X』と『ソルテラ』の公道試乗会を実施しました。期待と注目が集まる新型電気自動車の出来映えについて、複数の視点で評する連続企画をお届けします。まずは、自動車評論家、御堀直嗣氏のレポートです。

トヨタ『bZ4X』&スバル『ソルテラ』公道長距離試乗レポート【1】EVの本質的な価値に目を向けて欲しい【御堀 直嗣】

全体としてEVらしい上質さが足りない印象

トヨタbZ4XとSUBARUソルテラの試乗は、事前に千葉県の袖ケ浦フォレストレースウェイと群馬サイクルスポーツセンターで体験し、記事は春に掲載されている。敷地内という特殊な条件下ではあったが、走行性能そのものについては体感できた。まだ生産車でないプロトタイプのため、若干仕上げ切れていない面もあるとの事前説明だったが、完成度の高さを実感した。

その走行感覚は、今回の金沢~軽井沢へかけての公道試乗でも大きく変わらなかった。しかし公道になると路面状況は常に変化し、舗装が荒れていたり、そもそも舗装の目の粗さが違ったりして、騒音や乗り心地に影響を及ぼしやすくなる。現実社会の実態が、厳しくクルマに問いかけてくるのである。

もっとも気になったのは、騒音だ。運転していてもタイヤからのロードノイズが耳に届く。さらに路面の荒れた様子がハンドルにも伝わって、ガサツな印象ももたらした。当日は横風がそれなりに吹いていたため、風切り音も意識させられた。

後席に座ると、騒音はより顕著になり、後輪のほうからは何か回転する音がずっと聞こえた。その音は、タイヤの気柱共鳴のようでもあった。気柱共鳴とは、タイヤ接地面の溝に空気が閉じ込められ、それによって発生する共鳴音で、ヒューッという音がする。ほかにも、空洞共鳴と呼ばれる騒音もあり、タイヤ内部の空気が振動によって共鳴することで起こる。これらは、エンジン車では気が付きにくい騒音だが、エンジン車でも静粛性を問われる高級車では課題になる。当然ながらEVでも同様の課題となる。

タイヤメーカーは、高級車向けとしてそれら騒音を抑える対策をすでに行っている。たとえば日産アリアは、スポンジ状の吸音材をタイヤ内側に用いた銘柄を採用し、静粛性にこだわっている。そうした配慮が、bZ4Xやソルテラにはない。

後席の座り心地そのものも、床下に駆動用のリチウムイオンバッテリーを車載するため座面と床との距離が少なく、膝が持ち上がる着座姿勢となる。これは、ほかのEVでもそうした傾向になるのは事実だが、すべてのEVがそうであるわけではない。床下のバッテリーの車載の仕方によって、適切な後席の着座姿勢を得られるEVもある。そのうえで、bZ4Xとソルテラの後席は、座面の厚みが足りない薄っぺらな印象で、腰が落ち着かない。床の高さと後席自体の座り心地の悪さによって、無意識のうちに横座りの姿勢となり、長距離移動には辛く、疲れを覚えた。

全体として、EVにしては上質さが足りない印象だ。しかし、トヨタやSUBARUが目指した目標からすると、違う価値観があるのかもしれない。

エンジン車から「違和感がない」という選択肢

トヨタもSUBARUも、異口同音に「エンジン車から乗り換えても違和感のない性能を目指した」という。それならば、騒音も、やや雑な手応えも、エンジン車と同等を目指した結果であれば悪い評価とはならないのだろう。

トヨタには、永年にわたる販売店や営業担当との付き合いから、新車が誕生すれば乗り換えてくれる優良顧客層が厚い。SUBARUも、水平対向エンジンや4輪駆動であることを好むスバリストと呼ばれる愛好者が多い。トヨタとSUBARUの親しい顧客にとって最良のEVとして、性能を満たしているといえなくもない。EVであるかエンジン車であるかを問わず、従来通り安心して付き合える一台であることは間違いないだろう。

さらにトヨタは、サブスクリプションとなるKINTOのみでの販売としており、保守管理なども含め定額の支払いによって不安のないEV入門となるだろう。

一方、ほかのEVを経験していたり、EVならではの乗り味や使い勝手を求めたりする人には、物足りなさがあるかもしれない。私もその一人だ。たとえていうなら、スマートフォンと携帯電話(いわゆるガラケー)の違いといえるかもしれない。それでも従来通りの携帯電話が使いやすく、安心感があり、自分はこちらがいいという人があっても構わない。選択肢の幅という意味で、bZ4Xやソルテラに独自の価値はあると思う。

航続距離だけでは語りきれないEVの価値

私は、30年近く前、バッテリーもまだ鉛蓄電池しかなく、EVという市販車さえ影も形もなかったころ、直流モーターを使った改造EVの経験を発端にEVと付き合ってきた。当時の改造EVは、充電しても数十kmしか走れなかった。それでも、限られた電力のなかでどのように走らせればいいか、どう暮らしに役立てられるかを考えることが新鮮で、楽しく、長い距離を走れないことへの不満はそれほどなかった。どうやって充電するかという、新たな価値の創造にも思いを寄せた。もちろん、より長距離を走れる方がよく、ニッケル水素バッテリーを使えたときの喜びもまた、忘れがたい。

当時は現在のような急速充電の社会基盤もなく、自宅などのコンセントから100Vでゆっくり充電するしかなかった。それでも、EVが使い物にならないとは思わなかった。使えるように使えばいいというのが、当時を知る人々の共通認識だった。

走行距離に限界はあっても、ある意味で暴力的とさえいえるモーター走行の想像を超える力強さ、また車両重量を意識させず走って行く滑空感に酔いしれたのである。しかも排出ガスゼロによって環境を大きく改善できる。それは、今日でいう気候変動の抑制だけでなく、いま自分が見上げている空の大気汚染が拭い去られ、青空を取り戻せる快さは何事にも代えがたい。二つの環境問題が解決される未来に、夢が膨らんだ。

人生観や生活様式の転換にも目が向き、そうした暮らしぶりに未知の世界があり、新しく生きることへの心地よさを思うのであった。これまでの生活を変える苦労や苦痛ではなく、新たな船出の喜びがあった。

EVは、クルマという見かけは同じであっても、移動する道具以外の価値としてエンジン車とまったく異なる存在だ。EVの本質的価値を探り、そこに迫り、追求することによって、21世紀の未来を切り拓く躍動を味わえるのである。18世紀の産業革命以来20世紀まで続いた地下資源を掘り出し環境破壊を起こす時代ではもはやなく、電気というエネルギーを最大に活かした新しい生活様式への転換を促すときである。その象徴が、EVだと私は考える。

エンジン車でも、水素やバイオ燃料、あるいは合成燃料を使えば実質的にカーボン・ニュートラルになると、CO2排出の有無だけに目を向ける自動車メーカーとは、そこが異なるのである。

(取材・文/御堀 直嗣)

【編集部注】『bZ4X』&『ソルテラ』公道試乗会について

2022年5月下旬、トヨタとスバルが合同で開催したメディア向けの公道試乗会。「東京〜静岡」「静岡〜名古屋」「名古屋〜金沢」「金沢〜軽井沢」「軽井沢〜東京」という5区間を設定し、各区間に10組のメディアやジャーナリストが参加。2週間の日程で、5区間のコースを2周して、合計で100組の試乗を行うという大規模なものでした。

EVsmartブログでは、1周目の「名古屋〜金沢」区間に塩見智氏が参加。「金沢〜軽井沢」区間に、御堀直嗣氏、諸星陽一氏とともに、編集長の寄本が参加してきました。それぞれの視点で、何をどう感じたのか。連続レポート企画でお届けします。

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この記事のコメント(新着順)2件

  1. 水平対向エンジンや4輪駆動を好むスバリストさんは、スバルがこれらを選択しているメリットに共感して購入されていると思うのだけど、ソルテラがさらに共感を強める商品になっているのかが気になる。個人的には、EVの世界では、スバルらしさはそんなに特別なものになり得るのかは疑問があるなぁ。

  2. 約5年程EVに乗ってきましたが、EVはガソリン車に無いポテンシャルがあると感じています。クルマとしての最大のメリットは、クルマ自体の摩耗や劣化が少ない事だと思います。ガソリン車は長く使っていると、どうしてもエンジンの熱や振動でクルマ自体が傷んでくるのですが、EVは丁寧に扱えば、殆ど新車同様の状態を維持する事が可能です。EVは製造工程で発生するCO2がガソリン車に比べて多いのですが、長期間使用する事によって、トータルでのCO2削減が可能になってくると思います。頻繁にモデルチェンジを繰り返すビジネスサイクルでなく、リユースも含めた、出来る限り消費者が製品と長く付き合えるようなビジネスプランを自動車メーカーには考えてもらいたいと思っています。

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この記事の著者


					御堀 直嗣

御堀 直嗣

1955年生まれ65歳。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

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