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アウディの高級EV『SQ6 e-tron』東京=兵庫【往路編】片道約600km無充電走破に成功はしたけれど……

アウディの高級EV『SQ6 e-tron』東京=兵庫【往路編】片道約600km無充電走破に成功はしたけれど……

ゼロエミッションの電気自動車でありながら俊敏なパフォーマンスを誇る高級EV『Audi SQ6 e-tron』で夏恒例の「東京=兵庫」ロングドライブを試してきました。一充電走行距離のカタログスペックは672km。片道約600kmの往路では、無充電走破に挑戦して成功しました。感じたことをお伝えします。

目次

100%充電後の航続可能距離表示は467km

アウディが2025年4月に発売したプレミアムミッドサイズ電動SUV『Audi SQ6 e-tron』で、夏恒例の「東京=兵庫」往復ロングドライブ試乗を行いました。Audi Q6 e-tron シリーズは、アウディがポルシェと共同開発したハイパフォーマンスなBEV プラットフォームPPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)をベースにしたアウディ初の市販モデル。とりわけ、アウディのスポーツモデルを象徴する「S」の名を冠した SQ6 e-tron は、前後2モーターを搭載したquattro(4WD)で、最高出力380kW、最大トルクはフロントが275Nm、リアが580Nmを発揮するハイパフォーマンスな高級電気自動車です。

搭載するバッテリーの総容量は100kWh。ユーザーが実際に使えるネット電力量でも94.9kWh。カタログスペックの一充電走行距離は672km(WLTCモード)となっています。東京・三軒茶屋の自宅から兵庫県北部の但馬地方、養父市の実家までの距離は約610km、急速充電器がある最寄りの道の駅までなら600km程度です。市販電気自動車でWLTCモードの航続距離を叩きだすのは至難の業ではありますが、50km以上の余裕があるならなんとかしてみようじゃないかというわけで、往路は目的地を「道の駅 ようか但馬蔵」に定め、無充電走破に挑戦することにしてみました。

8月8日の金曜日、品川区御殿山のアウディジャパンで広報車をお借りして、荷物を積み替えるため三茶の自宅に一度戻ったところで、SOCは97%になっていました。600km余りの走破に挑戦するのですから、ここはやはり100%でスタートしたい。というわけで、世田谷通り沿いにあるポルシェセンターに設置されている最大出力150kWの「ターボチャージャー」で充電。

高出力急速充電器でも満充電近くからでは出力が出ないので、100%になって充電が自動停止するまでには20分ほど掛かってしまいましたが、これは想定内。航続可能距離表示が100%でも「467km」しか出なかったのは、都内移動での電費が「3.5km/kWh」と悪かったのを反映しているためでしょう。細かく説明すると長くなるので割愛しますが、まあ、これも想定内です。

ACCを90km/hにセットした走行で電費が改善

最近利用する機会が多い浜松SAを、SOC65%で充電せずにスルー。

ポルシェセンターをスタートしたのが11時40分くらい。予想外だったのは、東京ICから東名高速に乗ってすぐ、海老名SAあたりまで30km近い大渋滞に巻き込まれてしまったことでした。さらに、名神の京都南付近が渋滞していたので京滋バイパスに迂回したものの、こちらでもゲリラ豪雨的な土砂降りの中、10kmほどの渋滞に耐えることになりました。

無充電走破チャレンジとはいえ、現実離れした省電費運転をするのは大変です。渋滞中も便利に活用したアダプティブクルーズコントロール(ACC)は、渋滞を抜けたら90km/hにセット。あまりにも遅いトラックがいたら適宜追い越しながらのドライブです。

スピード控えめの高速道路走行で平均電費がよくなるにつれて、メーターの航続可能距離はSOCが減っても相対的に増えていきます。スタート時のポルシェセンター世田谷で「SOC:100%/航続可能距離:467km(ゴールまで603km)」だったのが、トイレ休憩で立ち寄った鮎沢PAでは平均電費が5.7km/kWhになって「SOC:80%/航続可能距離:444km(ゴールまで525km)」に改善。写真を撮影するために停車した新東名浜松SAでは平均電費6.1km/kWh、「SOC:65%/航続可能距離:382km(ゴールまで373km)」となって、丁寧に走れば無充電で走り切れそうだなという状況になってきました。

最終的に残量0%で最寄りの道の駅にゴール成功

土山SAではレストランで食事したけど充電はスルー。充電器は全部空いていました。

ただし、エアコン(24℃設定)とACCを普通に使った巡航での電費改善はこのあたりが精一杯。名古屋付近の伊勢湾岸道では航続可能距離表示がゴールまでの距離を大きく上回ったものの、四日市からの上りを走りきった新名神土山SAでは平均電費6.2km/kWh、「SOC:37%/航続可能距離:220km(目的地まで214km)」となり、その後も航続可能距離表示と目的地までの距離争いは一進一退の状況が続きます。

最終的には22時45分、SOC「0%」、航続可能距離表示「0km」で50kWの急速充電器がある「道の駅 ようか但馬蔵」にゴール。メーターに表示されていた平均電費は6.4km/kWh、走行距離は594.7kmでした。大渋滞や雨にも遭ってベストな条件ではなかったものの、SQ6 e-tronは「スピードを少し抑えるだけで約600kmを走破できる航続距離性能がある」ことを確認できたのでした。

約600kmの無充電走破で感じたこと

今回の無充電600kmチャレンジは、2013年の急速充電日本一周で私がメインドライバーを務めた際、関西〜四国ルートで同行してくれたジャーナリストの石井昌道さんが、WebCGの記事で「メルセデス・ベンツEQS(バッテリー容量は118kWh)」による1000km超えに成功したことを知って思い付いたテーマでした。石井さんに聞くと、エアコンはオフでACCさえも封印。速度を抑え、回生ブレーキのパドルシフトでコースティングを活用し、右足でアクセルを細かくコントロールしながら記録を打ち立てたとのこと。

エコドライブの達人ではない私が、普通にエアコンやACCを使って、WLTCモードの約9割に相当する600kmを走破できるのか。また、相変わらず根強く聞こえてくる「EVは航続距離ガー」な方々に向けて、なにがしかのメッセージを送れたらいいなと考えてのことでした。

東京から兵庫まで、おもにトラックの群れとともに走った長い時間、改めて感じたことを挙げておきます。

600km無充電走破なんてEVの魅力にとって意味はない

まず、当然と言えば当然の結論として痛感したのが、市販EVが搭載するバッテリー容量の限界に挑む無充電走破なんて行為に、EVの魅力に影響するような意味は何もないということでした。

SQ6 e-tronは100kWhの大容量バッテリーを搭載しており、最大135kWを受け入れる急速充電性能をもっています。東京から郷里の兵庫までの高速道路上(下り線)で、最大150kWの高出力急速充電器が設置されているのは、東名中井PA、新東名駿河湾沼津SA、新東名清水PA、新東名浜松SA、伊勢湾岸道湾岸長島PA、新名神土山SAと6カ所もあり、90kW器まで含めるとさらにたくさんのSAPAが整備されています。でも、今回はすべての充電スポットをスルーしたのです。本当は、大容量バッテリーによる「充電場所選択肢の豊富さ」と「急速充電性能の高さ」をいかして、ゆったりと600kmを駆け抜けるのが正しいことを、改めて痛感することになりました。

ことに19時ごろ、SOCが40%を切って到着した土山SAでは、充電器が空いていてレストランで夕食をとったにも関わらず、「我ながらアホらしいことやってるなぁ」と思いながら無充電を貫きました。休憩ついでに充電できるのがEVの利点。どこかで一度、15〜20分だけでも充電すれば余裕で到着できるのに、充電せずに走り続けるのがいかに愚かな行為であるか痛感しました。

今回、無充電走破に挑戦することはあらかじめアウディにも伝えてあったのでギリギリまで攻めましたが、本来、SOCが0%になるまで走るのはバッテリーの健康のためにもオススメできない行為です。

航続可能距離が50kmを下回ると出力制限が発動

SQ6 e-tronは車両の特性が変わるドライブモードを選択可能、「Balanced(バランス)」「Dynamic(ダイナミック)」「Comfort(コンフォート)」「Efficiency(エフィシェンシー)」「Offroad(オフロード)」があり、今回の往路では終始、エネルギー効率重視のエフィシェンシーで走りました。

ちなみに、セレクターで「D」モードを選んでいるときは、ステアリング裏のパドルスイッチで回生ブレーキの強さを3段階(コースティング/弱/強)で変えられて、「B」モードにすると完全停止までするワンペダルドライブになります。ただし、ACC使用時は回生の調整は自動となり、マニュアルでの調整も可能ではあるもののあまり意味はなくなります。

今回、期せずして残量0%まで走ったことで、残量減少時の警告などを見ることができました。まず、SOCが20%になると、エアコンのエネルギー消費を抑え、メーターパネルなどの表示も減らして電力を節約する「エフィシェンシー・プラス」モードが発動。航続可能距離表示が50kmを下回ると、小さな亀マークが出現して出力抑制の警告が表示されました。

ゴールを目指す最終区間で走った北兵庫豊岡自動車道を制限速度の70km/hで走りつつ、航続可能距離とゴールまでの距離が同じまま、かなり正確に1kmずつ減っていくことに「さすがアウディ!」と感心したりして。

ゴールまで15kmほど手前の「道の駅 但馬のまほろば」には出力30kWの中速充電器がありますが、SOC3%でスルーしました。走り慣れた道でゴールまでの勾配なども頭に入っていて、間違いなく到着できると判断したからこその0%到着でしたが、もちろん普段はこんな走り方はしないし、読者のみなさんには「もっと早めの充電を心掛けましょう」と申し添えておきます。

大容量バッテリーでも電欠のピンチには陥ってしまう

「真夜中のコインランドリー」の灯りが無充電走破を祝福してくれました。

さらに「そりゃそうだよなぁ」と実感したのが、いかに大容量バッテリーを搭載した高級EVでも、適切な経路充電を行わないと「電欠のピンチには襲われる」ということでした。

私自身、マイカーの30kWhリーフで、東名「新御殿場出口」の罠に落ちた時に完全電欠を体験したことがあります。御殿場での電欠レポートでは「最近は取材などでも大容量バッテリー搭載の高級EVで電欠の不安などなく快適に走ることがほとんどで、電気への感謝を忘れかけていた」と反省しましたが、いかに大容量バッテリー搭載の高級EVでも、適切に充電しなければ電欠のピンチに陥ります。

今回「エフィシェンシー・プラス」モードが発動した直後、SOC18%の時点で表示されていた航続可能距離は109km。出力制限がかかる航続可能距離50kmになった時のSOCは10%でした。初代リーフや軽EVであれば、100kmを超える航続可能距離は満充電に近い数値だし、50kmは充電必須の目安となる距離といえます。

つまり、SQ6 e-tronにとってバッテリー容量の90%くらいはロングドライブを安心して走りきるための「余力」であり、そのふんだんな余力を「細かな計算なんてしなくても簡単に使いこなせるのが高級EVとしての価値なんだなぁ」と実感することができました。

復路では、余力を活かした快適ドライブを試してみたいと思います。

取材・文/寄本 好則

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この記事を書いた人

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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