市販EVの実用的な電費(燃費)性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。第26回はキャデラック『LYRIQ(リリック)』の結果を報告します。キャデラック初の電気自動車はいくつかの驚きを与えてくれました。なお、今回はスタッドレスタイヤでの計測になりましたので、静粛性は有利に、電費には不利になった可能性があることをはじめにお伝えしておきます。
【インデックスページ】
計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧
100km/h巡航で約420kmの航続距離性能
日本に導入されているリリックは、スポーツの1グレードのみです。基本的なスペックは、全長4995mm、全幅1985mm、全高1640mm、ホイールベース3085mm、車重2650kg、システム出力384kW/約522ps、トルク610Nm、バッテリー95.7kWh、一充電走行距離510km(WLTP、EPA換算推計値は408km)、車両本体価格は1100万円(税込)、国の補助金(CEV補助金)は31.2万円です。ちなみに、先行して紹介した「試乗レポート」はこちらをご覧ください。
今回の注目点は、ガソリン車でいえば「大排気量で燃費が悪い」という印象を持たれがちなアメ車が、GMの高級ブランドであるキャデラック初のBEVリリックにも当てはまるのか、という点でした。テスラ「モデルS」を除けば、伝統あるアメリカの自動車メーカー製車種として初の検証でもあります。
リリックの一充電走行距離510kmを、バッテリー容量の95.7kWhで割った目標電費は5.33km/kWhになります。2026年1月某日、計測日の外気温は最高14℃、電費検証に臨んだ深夜は9~14℃で推移し、厳しい冷え込みにはなりませんでした。
各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしています。
【今回の計測結果】

往復の電費は、各区間の往復距離を、その区間の往路と復路で消費した電力の合計で割って求めています。トリップ計に表示されている電費は、距離をリセットしてもなぜか電費はリセットされませんでしたので、センターおよびドライバーディスプレイに表示させることができる「電力消費量」の合計でトリップ距離を割って区間電費を求めています。
目標電費を超えたのは、往路のBとD区間、復路と往復のBとC区間のなんと6区間でした。これはこれまでで7区間という最多記録を持つ「BMW iX xDrive50」に次ぐ記録です。iXが8月の計測で気温面では有利と考えられますので、1月の冬季にリリックが残したこの結果には驚きました。
往復では80km/hが5~6km/kWh台、100km/hが4km/kWh台、120km/hが3km/kWh台になりました。80km/hのBとC区間は往復にするとだいたい同じような電費になることが多いのですが、勾配の少ないB区間が約1km/kWhも良いことが特徴的です。
【巡航速度別電費】
各巡航速度の電費は下表の通りです。「航続距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、510kmの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率です。
| 各巡航速度 の電費 km/kWh | 航続距離 km | 一充電走行距離 との比率 |
|
|---|---|---|---|
| 80km/h | 5.88 | 562.7 | 110% |
| 100km/h | 4.42 | 422.9 | 83% |
| 120km/h | 3.87 | 370.3 | 73% |
| 総合 | 4.60 | 440.0 | 86% |
(注)80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って算出、100km/hと120km/h、総合の電費も同じ方法で求めています。
総合電費の4.60km/kWhで計算すると、満充電からの実質的な航続距離は440kmになります。100km/h巡航はそれよりもわずかに短い約423km。そして80km/h巡航にいたってはカタログスペックの一充電走行距離を上回る約563kmになりました。冬季で110%も今までの最高記録です。
「東名300km電費検証」企画の独自の基準として、この表の100km/h巡航と総合の達成率が90%台だと優秀、100%を超えると相当優秀な実測電費性能であると判断できます。リリックはどちらも80%台で十分に健闘しています。
巡航速度比較では、80km/hから100km/hに速度を上げると25%電費が悪化し、さらに120km/hにすると34%減になります。反対に120km/hから80km/hに下げると航続距離を1.5倍(152%)に伸ばすことができる計算です。
| ベースの速度 | 比較する速度 | 比率 |
|---|---|---|
| 80km/h | 100km/h | 75% |
| 120km/h | 66% | |
| 100km/h | 80km/h | 133% |
| 120km/h | 88% | |
| 120km/h | 80km/h | 152% |
| 100km/h | 114% |
ここで1000万円超のAWD高級SUV電気自動車というくくりで「メルセデス・ベンツ EQE 350 4MATIC SUV Launch Edition(以下、EQE SUV)」と「BMW iX xDrive50(以下、iX)」の記録と比較してみます。なお、EQE SUVは2024年4月、iXは2023年8月の計測で、車両のスペックと価格は当時のものです。全長、全幅、全高の3サイズと車重は似通っていて、出力はEQE SUVが、トルクはリリックが少し小さく、一充電走行距離はバッテリーが大きい分iXが上回っています。
| リリック | EQE SUV | iX | |
|---|---|---|---|
| 全長(mm) | 4995 | 4880 | 4955 |
| 全幅(mm) | 1985 | 2030 | 1965 |
| 全高(mm) | 1640 | 1670 | 1695 |
| 車重(kg) | 2650 | 2630 | 2560 |
| システム出力(kW/ps) | 384/約522 | 215/292 | 385/523 |
| システムトルク(Nm) | 610 | 765 | 765 |
| バッテリー容量(kWh) | 95.7 | 89 | 112 |
| 一充電走行距離(km) | 510 | 528 | 650 |
| 車両本体価格(万円、税込) | 1100 | 1370 | 1398 |
電費検証データの比較、まずはEQE SUVです。検証時の外気温はリリックの9~14℃に対して、16~19.5℃のEQE SUVの方が有利と思われます。
| リリック | EQE SUV | 電費差 km/kWh | 航続距離の差 km | 電費比率 | 航続距離比率 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 80km/h | 電費 | 5.88 | 6.35 | -0.47 | 93% | 100% | |
| 航続距離 | 562.7 | 565.3 | -2.6 | ||||
| 100km/h | 電費 | 4.42 | 5.25 | -0.83 | 84% | 91% | |
| 航続距離 | 422.9 | 467.2 | -44.3 | ||||
| 120km/h | 電費 | 3.87 | 4.30 | -0.43 | 90% | 97% | |
| 航続距離 | 370.3 | 382.7 | -12.4 | ||||
| 総合 | 電費 | 4.60 | 5.18 | -0.58 | 89% | 96% | |
| 航続距離 | 440.0 | 460.7 | -20.7 |
結果は最も差が開いた100km/h巡航でも、電費で0.83km/kWh、航続距離にすると約44kmなので、大きな差にはなりませんでした。気温を揃えると差はもっと少なくなり、バッテリーが6.7kWh大きいことを活かし、航続距離でリリックが上回ることもあり得そうです。
次にiXです。検証時の外気温はリリックが9~14℃、iXは25~27℃でした。
| リリック | iX | 電費差 km/kWh | 航続距離の差 km | 電費比率 | 航続距離比率 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 80km/h | 電費 | 5.88 | 7.27 | -1.39 | 81% | 69% | |
| 航続距離 | 562.7 | 810.1 | -247.4 | ||||
| 100km/h | 電費 | 4.42 | 5.71 | -1.29 | 77% | 66% | |
| 航続距離 | 422.9 | 636.8 | -213.9 | ||||
| 120km/h | 電費 | 3.87 | 4.55 | -0.68 | 85% | 73% | |
| 航続距離 | 370.3 | 507.3 | -137.0 | ||||
| 総合 | 電費 | 4.60 | 5.64 | -1.04 | 82% | 70% | |
| 航続距離 | 440.0 | 629.4 | -189.4 |
結果はiXの電費が2割ほど良く、かつバッテリーも15.8kWh大きいので、航続距離も総合で189kmの差がつきました。気温がそろったとしても、この2割差を取り返すのは難しい印象です。以上を踏まえると、この3車の中では4項目ともにトップの電費を記録したiXのパワートレーンが、最も効率が高いと考えられます。
LKAのフィーリングはもう一歩
東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航するため、巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用します。さらに交通量の少ない深夜に走行することで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレが出ないよう留意しています。
リリックのACCはステアリングホイール左スポークのスイッチで操作します。設定速度は右上のRES+やSET−のスイッチを上下させると1km/hごとに、長押しすると5km/hごとに変わります。その左スイッチで先行車との車間距離設定を3段階で調整できます。

LKA(レーンキープアシスト)は、総じて疑問の残る性能でした。この検証コース中で最もきついカーブである鮎沢PA手前の300Rはなんとか曲がりきれましたが、終始車線を踏むかその手前のギリギリのところを維持する感じで、その後のカーブが続く区間では車線を超えてしまうこともありました。LKAの印象は「最低限のサポートをしてくれる」レベルです。
車線変更時に斜め後ろなどに他車がいる場合や、車線を踏みそうな時に、その方向のシートクッションに振動が入るので、視覚だけではなく振動でも危険を教えてくれるのは良い点でした。ドライバーがステアリングを握っているか否かはトルクセンサーですが、握ってさえいれば、警告表示はほぼ出ないので、接触センサー並みの快適さがあり、こちらも良い点です。ACCでの停車時はぐっと割と強めのかっくんブレーキで停まることが多く、少しラフな制御に感じました。
スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は7~8km/hと大きめで、実速度を100km/hにする場合は、メーター速度を107km/hに合わせる必要があります。
| 80km/h 巡航 | 100km/h 巡航 | 120km/h 巡航 |
|
|---|---|---|---|
| メーターの速度 km/h | 87 | 107 | 128 |
| ACC走行中の 室内の静粛性 db | 65 | 67 | 63 |
巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、上の表の通りで、80km/hと120km/hはこれまでで最も静かだった「BMW i7」や「メルセデス・ベンツのG580とEQE SUV」の数値にプラス2dBでした。風切り音は80km/hだと「無い」と言っても良いほどで、聞こえてくるのはタイヤのパターンノイズのみという印象です。
次世代のアクティブノイズキャンセレーション、フロントとサイドの二重ガラスなど静粛性にこだわっているリリックですので、この結果には納得です。大柄に見えるリリックですが、実は全高は1640mmと背が低めのSUVであり、横風(計測時間帯は最大風速3m)の影響も最小限に感じました。
150kW器30分で46.223kWhを充電
リリック(日本仕様)の充電性能は「90kW器30分で190km分」が公式の発表です。SOC 28%から開始した駿河湾沼津SA下りの150kW器での充電で、30分で46.223kWhをチャージし、SOCは77%に、メーター表示の航続距離は274km分が増え、公式発表を大幅に超える性能を発揮しました。ただし、総合電費の4.60km/kWhで計算すると約212kmになるので、「274km」を鵜呑みにしない方が良さそうです。
センターディスプレイで「急速充電準備」機能を使用できるのですが、スタートさせても「スタート」のボタンが「停止」に変わるだけで、ID. Buzzのように「終了まであと何分」のような表示がなく、この機能をフル活用できたのかは不明でした。

とりあえず同機能をスタートさせるとドライバーディスプレイの消費電力がエアコンのみの1kWから4kWに増えますので、確実に働いているのは分かります。そして30分間の急速充電準備を行ったあとに150kW器での充電が上記の結果で、これはID. Buzzの47.427kWhと1.204kWhしか違いませんでした。なお、この30分でエアコンと急速充電準備に2.9kWhを消費しました。

4kWの消費電力は中央から少し左下にあります。左側の消費電力量の一番上が「エアコンと急速充電準備」で2.9kWhを使用していることが分かります。
充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオン時に確認。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。表示がない場合は不明としています。
充電中のディスプレイでは走行中には見られないSOC(円の中の33%)を確認できます。上の写真では消費電力だった表示は114kWの出力表示(写真の一番右端)に変わっています。

タイヤ・ホイールは21インチ
リリックのタイヤサイズは前後ともに275/45R21で、メーカーはピレリ、商品名はスコーピオン・ウィンターというスタッドレスタイヤでしたので、冒頭でもお伝えしたように静粛性は有利に、電費は不利だった可能性がありますが、どちらも良好な数値を記録しました。スタッドレスですが走行中にトレッド面の柔らかさによる不安定感はなく、サマータイヤと言われても分からないほどのしっかり感がありましたので、高速走行時の横風への強さにもつながっていると思います。

今後のキャデラック製BEVにも期待
LKAは白線を超えてしまうことがあるなど性能がいまいちでした。これはアメリカ仕様をデチューンしていることが関係しているかもしれません。本国では「スーパークルーズ」といういわゆるハンズフリー運転機能が搭載されています。ぜひ日本に入れてもらいたい装備ですが、対応地域がアメリカとカナダなどの対応可能な道路に限られているので難しそうです。つまりキャデラックが持っている最もレベルの高いシステムではないため、アメリカ仕様よりも性能が下回っている可能性があります。
米国政府のEV政策が逆風となり、フォードも、キャデラックを擁するGMも多額の損失を計上というショッキングなニュースを目にします。しかしリリックは冬季でも良好な電費を記録して、燃費が悪くガソリンを浪費するアメ車のイメージを覆したばかりか、高効率なBEV作りができていることを証明してくれました。
試乗記でもお伝えした通り、今年キャデラックが日本に導入予定のオプティック、ビスティック、リリックVへの期待も高まります。日本にもヨーロッパにも、中国や韓国にもないアメリカ独自の個性を持つであろう、これら3車種の続報を楽しみに待ちたいと思います。

モータースポーツ好きの筆者としては、F1への新規参戦にも注目しています!
| キャデラック リリック スポーツ |
|
|---|---|
| 車両型式 | ZAA-L233 |
| 全長(mm) | 4995 |
| 全幅(mm) | 1985 |
| 全高(mm) | 1640 |
| ホイールベース(mm) | 3085 |
| トレッド(前、mm) | 1685 |
| トレッド(後、mm) | 1680 |
| 車両重量(kg) | 2650 |
| 前軸重(kg) | 1350 |
| 後軸重(kg) | 1300 |
| 前後重量配分 | 50.9:49.1 |
| 乗車定員(人) | 5 |
| 一充電走行距離(WLTP、km) | 510 |
| EPA換算推計値(km) | 408 |
| モーター数 | 2 |
| 駆動方式 | AWD |
| モーター型式、フロント | S76 |
| モーター型式、リヤ | P9C |
| モーター種類(前後) | 交流同期電動機 |
| フロントモーター出力(kW) | 170 |
| フロントモータートルク(Nm) | 309 |
| リヤモーター出力(kW) | 241 |
| リヤモータートルク(Nm) | 415 |
| システム最高出力(kW/ps) | 384/522 |
| 最大トルク Nm | 610 |
| バッテリー総電力量(kWh) | 95.7 |
| 急速充電性能(kW) | 117(実測値) |
| 急速充電時間 | 90kW器で30分で190km分 |
| フロントサスペンション | マルチリンク式 |
| リアサスペンション | マルチリンク式 |
| フロントブレーキ | ディスク式(ブレンボ) |
| リアブレーキ | ディスク式 |
| タイヤサイズ(前後) | 275/45R21 107V |
| 荷室容量(L) | 793-1722 |
| フランク(L) | なし |
| 車両本体価格 (万円、A) | 1100 |
| CEV補助金 (万円、B) | 31.2 |
| 実質価格(万円、A - B) | 1068.8 |
取材・文/烏山 大輔






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