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サクラのススメ【02】経路充電インフラ整備よりも優先して自動車業界が為すべきこと

サクラのススメ【02】経路充電インフラ整備よりも優先して自動車業界が為すべきこと

マイカーとして電気自動車の日産サクラを愛用する自動車評論家の御堀直嗣氏が、EVへの理解を深めるために提言する「実感コラム」連載シリーズ。第2回は、急速充電器による経路充電の活用法について考えます。

目次

経路充電はあまり利用しないカーライフ

経路充電を、私はあまりしたことがない。

前回の連載第1回で紹介したように、そもそも私の軽EV(日産サクラ)の利用ニーズが、車載バッテリー容量20kWh、一充電走行距離180kmでほぼ満たされているからだ。

それでも、遠出がまったくないわけではない。サクラに乗りはじめて3年経つが、その間に、静岡県御殿場市、山梨県河口湖、栃木市の試験場など、多少の遠出は経験している。

それでも、往復で1~2回の充電で済んでいるし、もし、目的地充電ができれば、出先で3~4時間は滞在することが多いので、3kWの普通充電でも、9kWhや12kWhの充電ができる計算で、20kWhのバッテリーの半分前後が満たされることになる。

最大30kWの制限にもストレスはない

芝公園近くにある公道パーキングメーターを活用した急速充電スポット。

経路充電が必要な際も、充電器の種類(性能)を選ばないことが、一つのストレスフリーをもたらしている。サクラの急速充電性能は最大30kWと速くない。だからこそ、高出力の急速充電器を探す必要から解放される。

充電時間も制約とは感じない。もし、かなり遠くへ移動することになり複数回の急速充電が不可欠になるとしても、70歳の私には1~2時間移動したら30分ほど休憩することは、むしろ好都合だ。

サクラ購入時、念のためと思い日産が提供するゼロ・エミッションサポートプログラム3(ZESP3)には加入したが、毎月の料金は支払いつつも、ほとんど急速充電器は使用しない状況が続いている。無駄ではあるが、EVをマイカーとする自動車評論家としての必要経費と割り切って、あまり気にしないようにしている。

急速充電は公衆トイレのようなもの

私が1990年代初頭からEVと関わるようになって以来、さまざまな取材を通じ、いろいろな人の意見や教えを耳にしてきた。そのなかで、いまなお忘れないのが、現CHAdeMO(チャデモ)会長であり、東京電力に勤めてきた姉川尚史さんの言葉だ。

「経路充電の急速充電とは、公衆トイレのようなものだ」

つまり、社会的な設備として、それは補助的な存在であり、あれば便利で安心するが、肝心なのは、自宅や出先で用を済ませられることだという意味である。

EVでいえば、自宅での基礎充電(200Vの普通充電)や、出先や訪問先での目的地充電(200Vの普通充電)が、まず適正に整備されることが重要だという意味である。

まさに正論だ。

しかしそうはいっても、いまの国内事情は、戸建自宅に住む人はともかく、マンションなど集合住宅に住んでいると、基礎充電を実現することが容易でない。それを支援する事業者はあるが、すべてを満たしていないかもしれない。

なおかつ、実は戸建て住宅に住んでいても、古い町並みでは自宅に車庫がなく、月極駐車場にクルマを止めている人は同じように基礎充電ができず、設置の難易度は集合住宅より高くなっているのではないか。

そこで、「基礎充電代替」などと称して本来は二次的措置であるはずの経路での急速充電器を充実し、さらにそれを高性能化し、集合住宅や月極駐車場を利用する人の便宜をはからざるを得ない。

しかし、そこに重点を置きすぎると、社会資本として課題は残り続ける。しかも数多く設置するほどに使用頻度の低い充電器もあらわになり、投資した資本が無駄になる懸念が高まってしまう。

給油と充電は別次元の行為

たとえガソリンスタンドと同数の急速充電器が設置されても、私は、日本にEVは普及しないと考えている。理由は、ガソリン給油と充電は、まったく別次元の行為であるからだ。

充電とは、他の用事をしている間に行われることが、エンジン車にない合理性だ。それは、時間の有効活用であり、暮らしをより快適にする行為である。

ところが急速充電器を使う場合は、そのために生活時間を割り振ることになり、余計な時間をとられることを意味する。たとえ5~10分のことでも不快なことだろう。

ガソリン給油がまさにそれだ。5分で給油を済ませられるとしても、そのためにガソリンスタンドまで行かねばならない。給油ポンプがほかのクルマでふさがっていたら、待ち時間を要する。結果、給油のために20~30分は無駄な時間を過ごさなければならなくなる。

これまで当たり前だと思っていたことでも、気づかぬうちにストレスになっていた可能性は高い。

EVに基礎充電したり、目的地充電をすることは、ストレスフリーである。その間、家で寝ていたり、食事をしたり、出先で仕事をしていたり、買い物をしたり、遊んだり……、それらは人生の一コマであって、いずれも無駄な時間ではない。

日常の範囲であれば普通充電で十分であり、なおかつ充電のたびに満充電にする必要もない。次の充電可能な目的地(あるいは帰宅)まで走れる充電残量を確保できればよい。さらに先へ移動する途中であれば、いまいる目的地で、その次の目的地までの充電量が確保できればいいのである。

EVに乗り替えるメリットは快い暮らしの実現

自宅にはV2H機器を設置した。

EVに乗り換える目的は何か?

一つは、排出ガスゼロによる気候変動の抑制だ。

しかし忘れてならないのは、EVによって暮らしがより快くなっていくことではないだろうか。ガソリン給油という、一つのストレスが無くなることで、生活は一変する。サクラに乗りはじめて以来、一度もガソリンスタンドへ行かなかったことによる心の軽さは計り知れない。

EVの充電は、ストレスのない暮らしを享受できる環境整備が不可欠なのである。

しかしながら、集合住宅や月極駐車場への普通充電の整備は、遅々として進まない。これを、どう解決していけばいいのか?

集合住宅や月極駐車場に基礎充電の設置を進める事業者の努力は不可欠だ。それでも、彼らのみならず、EVを購入したい人々にとって最大の後押しになるのは、世間の意識改革である。世の中の人々が、EVの必要性を深く認識し、そのための基礎充電の重要性を認める社会を育てること。それには、手立てが必要だ。

業界団体に有意義な情報発信を求めたい

社会認識を変える一つに、自動車メーカーの役割が大きい。それも各社個別の行動ではなく、自動車工業会(JAMA)のような団体による意見発信の展開だ。

たとえマルチパスウェイ戦略を唱える企業であっても、先々EVを売らなければならないのは現実であり、さらには、プラグインハイブリッド(PHEV)こそ、基礎充電が不可欠である。

日本のPHEVは、急速充電口があるとはいえ、わずか100kmほどのモーター走行のため、急速充電器まで出かけて行き、時間をかけて充電する意味がどこにあるだろう。当初は興味本位でやったとしても、間もなく、その無駄に気づくはずだ。そして充電しなくなったら、ハイブリッド車(HV)と同じ価値しかなく、余分の金額を支払った無駄に気づくだろう。

JAMAだけでなく、輸入車業界を取りまとめる日本自動車輸入組合(JAIA)とも結束し、さらには自動車販売協会連合会など含め、関連業界の団体すべてで、政府への根回しは勿論、社会に対する情報発信を即刻行うべきである。

こうして世論が醸成し、普通充電整備に対する法的措置の検討など行われるようになれば、基礎充電の整備が進むのではないか。

もちろん、経路充電の充実が不必要だということではない。口数や高性能化を含め適正な整備は継続されるべきだ。しかし、それより前に為すべきことがある。

これが実現しない限り、日本にEVは普及しないし、いざ、自動車メーカーがEVに本腰を入れても、販売台数は伸びないだろう。

文/御堀 直嗣

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この記事を書いた人

1955年生まれ。一般社団法人日本EVクラブ理事。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ“を科学する」など全29冊。

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