EVで四国遍路【02】マツダ『MX-30 EV』☓ 高知「修行の道場」編

モーター・エヴァンジェリストの宇野智氏がEVと充電インフラを深く理解するため一念発起。電気自動車(EV)4車種で四国遍路全霊場の県別踏破に挑戦しつつ、旅での気付きやEVの実感をレポートするシリーズ企画です。第2弾は土佐の札所を巡ります。
※冒頭写真は、宿毛市を流れる中筋川にて。39番札所 延光寺が近い。 修行の道場はちょうど桜の季節だった。

EVで四国遍路【02】マツダ『MX-30 EV』☓ 高知「修行の道場」編

道中行き倒れたら金剛杖が墓標にも

EVで四国遍路の旅、第2弾は高知県、クルマはマツダ MX-30 EV Model です。四国八十八箇所霊場は4つの道場に分かれており、その2番目が土佐国こと高知県で「修行の道場」とされています(もう少し詳しくは第1弾の記事前半にてご確認ください)。

高知県は、24番最御崎寺から39番延光寺までの16札所と、4県4道場の中では最も数が少ないのですが、37番岩本寺から38番金剛福寺の間が約95km(車移動の場合)と全88の札所間で最も距離が離れた難所があります。さらに、38番札所から39番札所 延光寺までが約75km(同)など、札所間の移動距離が長いところが目立つ道場です。

車がなかった時代(四国遍路の歴史は鎌倉時代中後期には始まっていたとされる)から現代の歩き遍路では、札所間が離れたところで途中2、3泊を必要とし、昔は難所を越えられず命を落とすお遍路さんも無数にいたとか。遍路の携行品の1つ、金剛杖はその上部の布をはずすと卒塔婆が現れる。これは道中で行き倒れたら、それを墓標としてくれ、という意味だそうです。

マツダ 『MX-30 EV Model』(以下「MX-30 EV」と省略表記)は2021年1月に国内発売が開始されたコンパクトSUV。マツダで車を借りた時点では「まだ誰も長距離試乗をしていない」と広報担当者が言っていました。筆者が人柱となって参ります。

車お遍路の道中は、動画にもまとめました。風光明媚な高知をお楽しみください。

高知県のクルマ事情

高知は過疎化が問題となっている県。高知県の人口は約70万人(*1)と46都道府県中第43位。登録車と軽自動車の全自動車保有台数は約54万台で、46都道府県中第45位。全自動車のうち、軽自動車の割合は46都道府県で最も多い55.4%(*2)というクルマ事情。

このクルマ事情は、自動車の電動化を進めていく上でも注意しなければならない地域となるでしょう。特にEV充電インフラをどうしていくかは、車両保有台数、走行台数の多いエリアとそうでないエリアの両方に注目しなければなりません。

今回は、この点にもフォーカスして走ってみました。

*1) 出典:e-Stat 政府統計の総合窓口 2019年度都道府県データ
*2) 出典:全軽自協 2020年3月末現在 軽三・四輪車県別保有台数と保有シェア

35番札所 清瀧寺。

マツダ MX-30 EV Model

MX-30 EVの乗り味をひとことで言えば「EVらしからぬEV」で、パワートレインから発生する音が見事に“調律”され、内燃機関に近いフィーリングがあり、マツダらしい「人馬一体」の走りをEVでしっかりと表現したクルマだと筆者は評価しています。

本記事は、試乗インプレッションがテーマではないので、これ以上は割愛して長距離ドライブの要となるスペックの要点のみを紹介します。

バッテリーの総電力量は、35.5kWhと小ぶり。WLTCモード航続距離は256km(※EPA換算推計約178km)で、電費にすると約7.2km/kWh(同約5km/kWh)となります。また、MX-30 EVは、バッテリークーラーを搭載、これは室内用エアコンのコンプレッサーと共用した高効率化を図ったものです。

運転操作系の特徴としては、パドルシフトを備えています。左側のレバーを引くと回生ブレーキが強くなり、右側のレバーを引くと回生を弱めて加速力が高まるしくみで、全5段階の調整が可能となっています。回生ブレーキは強く作動しますが、日産 リーフに採用されているようなアクセルペダルのみの操作で停止までできる機構は備えていません(ただこれはなくても不便はなく、ドライブフィーリングは自然でした)。

EV充電スタンドでの充電量と航続距離についての誤解

MX-30 EVについてのネットの声を見ると、航続距離の短さ、バッテリー容量の小ささを指摘する声が散見されます。またMX-30 EVに限らず、EVなら500km以上の航続距離は必要という意見もあります。

すでにEVユーザーになっている方や、EVsmartブログの愛読者をはじめとするEVに造詣が深い方なら既知のことではありますが、充電と航続距離の関係についてよく知っている方はまだまだ少数と思います。EVに詳しくない方の中には、充電スタンドでの充電量は、バッテリー容量が小さいEVより、大きいEVの方がより多く充電できると勘違いしていることが少なからずありました。実際に筆者と会話した数人もそう思っていました。

EVで長距離を走るとき、どんなに大容量のバッテリーを積んでいても、一旦バッテリー残量がなくなり急速充電スタンドで充電することになれば、小容量のバッテリーと同じ土俵となり、充電後の航続距離の勝負は電費の違いのみとなります。

これからMX-30 EVの購入を考えている方、EVに乗ろうと考えている方に向けて、解説をもう少し。EV急速充電スタンドの出力は、30kW、44kW、50kWが主流です。高速道路のサービスエリアは多くが50kWになっていますが、人口密度が低い地域の道の駅などでは、20〜30kWが多い傾向です(機器更新で50kW仕様が増えてきていますが)。

日本全国の充電インフラを担う『e-Mobility Power』のネットワークに加盟・提携する公共の急速充電スタンドの充電時間は、基本的に一律最大30分に設定されています。50kW出力なら、25kWhが1回で充電できる最大の電力となり、出力30kWなら15kWhとなります。なお、これは計算上の理論値で、充電時の充電スタンドと車両の通信による状態チェック判定結果などの要因により、通常はそれ以下の充電量となることを理解しておく必要があります。

この充電量は、バッテリー容量が小さいMX-30 EVでも、100kWhの大容量バッテリーを搭載した、テスラ モデルS でも等しく同じです。50kW出力の充電スタンドで30分充電した場合、MX-30 EVでは、バッテリー残量計が約70%増加、モデルSでは25%の増加となります(理論値で試算)。

MX-30は「フリースタイルドア」と呼ばれる観音開き式ドアを採用。開いたドアの先に見えるのは、四万十川に架かる沈下橋、高瀬橋。この川は日本では数少ない上流にダムがない清流。沈下橋とは、川が増水したときに川面に沈んで橋を守る構造の橋のこと。動画の冒頭で全貌が確認できる。四万十川は遍路のコース上から少し離れているが、帰路の途中で寄り道した。

35.5kWhのバッテリーでも一般的な使用なら問題なし

第2弾では合計24回、急速充電スタンドで充電をしています(充電履歴の詳細は本記事末尾から確認できます)。そのうち、50kW出力の充電スタンドは12回実施、充電量の平均19kWh、最小13kWh、最大23kWhで、メーターの充電残量計での充電割合(充電後に増加した%)にすると、平均47%、最小32%、最大57%となりました。

MX-30 EV で高速道路を長距離走行するとき、次に予定する充電スタンドで電力をより多く受け入れられる電池残量まで減ってから充電するのが効率的です。充電中、残量がおおむね70%を超えると充電速度が落ちるので、残量20%くらいで出力50kWの充電スポットに到着できるとベターということですね。ただし、電欠ギリギリまで頑張りすぎるのはオススメできません。このあたりは、容量の小さいバッテリーのEVに乗るときの注意点。充電スタンドの出力は、『EVsmart』で確認できます。

第2弾のスタート地点は、横浜子安にあるマツダR&Dセンター。満充電で出発しました。最寄りの首都高速入り口から保土ヶ谷バイパスを経由して町田インターから東名高速、新東名のルートを走った最初の充電スタンドは、清水PA。走行距離は140.5km、電費は5.7kWh、バッテリー残量は18%という結果でした。

理想的な残量で到着できたので、30分で22kWh、SOCにして56%充電することができました。

途中の保土ヶ谷バイパスで10分程度の軽い渋滞に巻き込まれたほかは、道は空いており制限速度ピッタリにアダプティブ・クルーズコントロールをセットしての走行です。天候が良く、エアコン未使用という好条件ではありますが、満充電でこれだけ走れば、日常の走行からちょっとした遠出のレジャーといった一般的な使用なら問題ないでしょう。

岬としては四国最南端となる足摺岬にある38番札所 金剛福寺の近くにて。

ちなみに、MX-30 EV には、充電時の最大充電量を最大100%から10%刻みでユーザーの任意で設定できる機能があります(通常充電、急速充電の両方に対応)。バッテリー寿命の観点から、急速充電は100%の設定は推奨されていません。(長距離走るときなど、たまになら100%に設定する使い方なら問題ないとマツダの広報車担当が言っていました)

実際の電費はどうだったのか?

今回の超長距離ドライブでの平均実電費は以下の結果でした。(記事末尾に履歴詳細データへのリンクを貼っておきます)

市街地:8km/kWh
郊外:7km/kWh
高速道路:5~6km/kWh

天候は、市街地と郊外走行時で晴れ、高速道路は往路が晴れで帰路の一部区間で雨(一時大雨)、気温は11~21℃、良好な気候でエアコンはほとんどOFF、寒い時と雨が降ったときにヒーターを使用しました。大半がEVにとっては好条件での走行です。

新東名の最高速度120km/h区間では、その速度でアダプティブ・クルーズコントロールを使用した定速走行を実施しました。このときは5km/kWh台で、100km/h定速で晴天時が6km/kWh前半、夜間の雨天時で5km/kWh後半となり、全体的にほぼカタログスペックに近い実電費となりました。

37番札所 岩本寺、本堂の天井。撮影をする筆者を見た寺の人らしき女性が「ここは自由なお寺なんです」と声を掛けてきた。寺にマリリン・モンローの絵は違和感があるが、仏教の懐の深さを表現しているのだろう。

EVは高速道路をひたすら走るのは苦手

MX-30 EVに限ったことではありませんが、電気自動車は高速道路を走ると電費が悪くなる傾向があります。高速走行で空気抵抗が大きくなり、回生ブレーキが使えない走行ではひたすらバッテリーを消費するのみとなるからです。筆者も頭ではわかっていたのですが、今回のEV四国遍路で改めて痛感できました。

連続して高速道路を走ったときは、おおむね80〜100km毎の充電が必要となりました。高速道路の基本設計では、サービスエリアを40~50km毎に設置することになっています。(最近は、刈谷ハイウェイオアシスのような、大型複合施設があるパーキングエリアも増えてきましたね)急速充電スタンドがあるSAないしPAを1つ置きで立ち寄り、充電するという格好となりました。

高速道路を80km走行する所要時間は約1時間。これは、充電のためのサービスエリアへの流入、流出を含めた低速走行を含めてのもので、平均時速は約80km。充電に30分使うので、トータルした平均時速は、80km ✕ 1.5時間 ≒ 53km となります。なお、充電スタンドに先客がいたら、プラス最大30分加わるなどと、平均時速で見るとちょっと悲しい結果になります。

これは、MX-30 EVに限らない、電気自動車の宿命です(現時点では。今後、高出力な急速充電器の普及や車両側の急速充電能力向上など、技術の進歩や革新が進めば当然変わるでしょう)。

「EVで高速道路を長距離走行すると、移動効率が悪い問題」となるわけですが、エンジン車と比べるからそうなるのであって、これからのサスティナブルなモビリティ社会を考えると、そもそもの高速道路での移動についての概念から変えていかないといけないのでは? と思うようになりました。(この点は、第3弾の愛媛編以降での移動ルートに、大きな影響を与えることになったのでした)

急速充電スタンドに、待機車用の駐車枠がないところが多かった。今後、EVが増加するにあたり、充電の順番待ちに関わる整備(その前に複数台設置か)を望みたい。画像は西名阪 香芝SAにて。

高知を走って思ったこと

風光明媚な高知の道路を走りながら、「ここに自動車電動化の波が押し寄せたら、どうなるのだろう?」と妄想していました。

高知県は過疎化が進み、高齢者層が多く、軽自動車の割合が高いという地域特性があります。実際に、もみじマークを付けた古い軽自動車が、制限時速を大幅に下回る速度でフラフラと走るという状況に何度も出食わしました。

政府が掲げた新車販売のすべてを電動車とする、が文字どおりのすべてEVになったとしたら、その流れについてこられない高齢者ドライバーへのサポートが必要となるでしょう。

また、軽自動車が重要な交通インフラとなっている実情もありますから、軽EVをどうしていくか、という問題も解決せねばなりません。

充電設備も地域特性に合わせた拡充が必要となります。いたずらに充電スタンドを増やせば、発電のための化石燃料の消費が増えるばかり。風力や太陽光などのサスティナブルな発電設備は、高知の風土に合いそうです。

つらつらと思いを巡らせていると、「EVを太陽光だけで充電する場合、太陽光発電パネルは何枚必要になるのだろう?」「風力発電と太陽光のハイブリッド発電設備を各家庭に備えたとしても、発電できない天候が続いたらどうする?」「都市部のマンションで全戸がEVを買ったら、電力供給は足りるのか?」など、次から次へ調査したいことで脳内が埋め尽くされてしまいました。

これらは、近いうちに1つずつ紐解いていくことにします。

道の駅キラメッセ室戸。ここが最も美しい眺めの充電となった。

高知県の都市部では充電スタンドに不自由することはありませんが、人口密度の低い山岳部や海岸部では、道の駅だけが頼りとなります。四国遍路で最も札所間が離れている37番岩本寺から38番金剛福寺は、国道55号線を室戸岬へ向かって約95km走るのですが、充電スタンド間も最も離れている区間となりました。

室戸岬の北東側の東洋町には、国道沿いに「海の駅 東洋町」がありますが、この先に南下して室戸岬方面に向かうと、約40kmの区間が急速充電スタンド空白地帯となります。こういった状況の道を走るときは、バッテリー残量と次の充電スタンドを事前に調べるのですが、もし、充電設備が故障していたら大変です。

一度、小規模な日産ディーラーで充電しようとしたら、機器に「故障中」の張り紙が。あえなく近くの道の駅の中速充電スタンドへ移動したことがありました。このときは、たまたま近くに道の駅があったからよかったのですが、これが充電スタンド空白地帯だったらと思うとヒヤリとしました。

充電スタンドが足りていない地域への設備の拡充について、行政はきちんと考えているのでしょうか? これについても、今後調査、取材をしたいと思いました。

まだまだ修行が足りないと感じた「修行の道場」

土佐国、高知県はとても広く、自然豊かな美しいところです。徒歩のお遍路さんには、まさに「修行の道場」ですが、その美しい景色が心の支えになっていることでしょう。

しかし、筆者は移動が楽な「EVお遍路」。フィジカルな修行を体験することがありません。ただ、いろいろと考えさせられることが多く、まだまだ知らないといけないことがあるという「修行の足りなさ」を感じた「修行の道場」となりました。

また、「カーボン・オフセット」や「SDGs」の推進についても考える良い機会となりました。持続可能なエネルギーへのアクセスと、産業と技術革新の基盤つくりのためのインフラ整備がSDGsの目標の中にありますが、EVとそのインフラについて正しい理解がないまま推進すると、どこかで何かが破綻するとも思います。

この点については、これから筆者を含め皆で修行していきたい。少なくとも、もっと多くの人がまずはEVに関心を持ってもらわねばとも思います。

高知からの帰路につく頃には、すっかりEVでの長距離ドライブに慣れていましたが、うっかりして電欠の危機に陥り焦りました。

高速道路のサービスエリアには必ず充電スタンドがある、と盲信していた筆者は、ナビが示すサービスエリアまでの距離と、メーターパネルの充電残量と電費を計算してギリギリと判断した名神高速の大津サービスエリアに入りました。しかし、大津SAには、充電スタンドの設備がありません(後で調べたら上下線とも)でした。メーターパネルの充電残量は4%。慌ててEVsmartアプリを起動して最寄りの充電スタンドを検索、SAと直結しているICから高速を降りて日産ディーラーへ向かったのですが、タイミングや場所が違っていたら電欠しておかしくない状況でした。

そういう体験も修行のひとつ。

次の第3弾は「菩提の道場」。伊予国、愛媛県をHonda e で巡ります。菩提とは「道」「知」「価覚」の意味があり、修行を終えてあらゆる煩悩を断ち切って菩提の域に達する道場となります。

はたして筆者は「EV菩提の領域」に達することができるのでしょうか? どうぞお楽しみに。

「修行の道場」高知の最後の札所、39番 延光寺。

(取材・文/宇野 智)

充電履歴一覧表

『電気自動車で四国遍路【02】マツダ『MX-30 EV』☓ 高知「修行の道場」編』充電履歴全データをGoogleスプレッドシートの閲覧専用共有ファイルとしてアップ(編集長寄本の個人アカウントで)しました。

この記事のコメント(新着順)2件

  1. EV普及には高速道路のSA/PAで30分で最低200Km以上分の充電が可能な大出力の充電スタンド普及が急務な気がしますね。(MX-30 EVは厳しいでしょうが、、)
    100Km毎にSA/PAに立ち寄らなければならないレベルだとちょっと厳しいですね、、せめて高速で200Km走行して、残量に余裕をもってSA/PAに立ち寄り30分休憩で200Km分充電できれば高速道路での長距離移動も現実的になってきます。

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この記事の著者


					宇野 智

宇野 智

エヴァンジェリストとは「伝道者」のこと。クルマ好きでない人にもクルマ楽しさを伝えたい、がコンセプト。元「MOBY」編集長で現在は編集プロダクション「撮る書く編む株式会社」を主宰、ライター/フォトグラファー/エディターとしていくつかの自動車メディアへの寄稿も行う。

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