EVでもコンパクトの指標となるか。フォルクスワーゲン e-ゴルフに緊急試乗!

昨年末から2018年3月30日にかけて公式サイトで購入希望の申し込みを募っているe-ゴルフに今回、試乗が叶った。テクノロジーパッケージが無料オプション装着され、税込価格で499万円の仕様だ(オーダーを募っている仕様は516万2800円)。

EVでもコンパクトの指標となるか。フォルクスワーゲン e-ゴルフに緊急試乗!

1590kgという車両重量はCセグのハッチバックとして軽量級ではないが、35.8kWh容量のリチウムイオンバッテリーを積んだBEVとしては決して重くはない。元よりゴルフ7のMQBプラットフォームは動的質感の点で定評あるシャシーだが、バッテリーを床下に収めるがゆえの低重心ぶりと290Nmの最大トルクのおかげか、そのハンドリングは素直で、身のこなしは俊敏ですらある。アクセルを踏み込んだ瞬間からシームレスな加速感が始まるし、100kW(136ps相当)という電気モーターの最大出力以上のパワー感を漂わせる。

むしろ、低重心とガソリン仕様より抑えの効いた乗り心地、そして電気モーターの大トルクと、EVならではの静粛性が、ゴルフ7の走り味にさらなる高級感をもたらしているとすら思う。

先にゴルフ7がビッグマイナーチェンジを経て「ニューゴルフ」を名乗っている通り、世代的に横並びとなるe-ゴルフも基本的な仕様は新型ゴルフに準拠している。ただし、外観上では内燃機関モデルと比べて、はっきり異なる特徴が与えられた。

ひとつ目はフロントマスク。LEDヘッドランプからグリル内にかけて、アクセントとなる青いラインが入る。またバンパー両脇のLEDランプがC型の意匠となる。これはGTEほど攻撃的でない控えめさだが、VWのPHV/EVファミリーに見られるディティール。もうひとつは専用ホイールで、空力抵抗を重視し、リムのないディッシュタイプのデザインで仕上げられている。

他に外から気づくのは、フロントのVWロゴがキャップになっていて、開くと200Vの普通充電用のプラグが現れる点。

そして内燃機関ゴルフであれば給油口であるはずの、ボディ右後端のフューエルリッド下には、チャデモ方式の急速充電用コネクターが収められている。

普通充電は3kW(200V15A)だけでなく、6kWの倍速充電規格にも対応。3kWなら約12時間かけて100%充電になるところを、6kWなら約6時間となる。そして急速充電については、50kWなら約35分で約80%の充電が可能という。

満充電でのスタート時、330kmという航続距離が表示されていることは確認できた。これはJC08モードで301km(EPA航続距離は201km)という発表値を上回るが、エアコンをOFFにした状態での数値だ。フォルクスワーゲンは電費節約のためには、エアコンを切った状態でシートヒーターの使用を推奨している。確かに、エアコンをつけると航続距離は304kmと表示し直される。

それでも発表値より+約1%ではある。

航続距離に対して、モーター出力やエアコン制御を最適化するため、ドライビングプロファイルはノーマルに加え、エコとエコ+が選べる。後2者は当然、ノーマルよりもパワーの出方を抑える傾向にある。

ちなみに強調しておきたいのは、回生ブレーキに楽しい仕掛けがなされている点だ。通常のDレンジは、コースティングを重視して走行抵抗を減じるコンフィギュレーション。逆に、レバーをさらに引いてBレンジに入れれば、アクセルオフによる回生ブレーキが一気に最大化される。

ところがDレンジのポジションから、+-それぞれ左右の横方向に倒すことで、回生ブレーキの強さを3段階に選べる仕組みがある。

当初は、長い下り坂などで傾斜に応じて回生レベルを選ぶのか? それぐらいしか用途が思いつかなかった。だが、Rの小さいコーナーでブレーキングしながらマイナス側に倒してみたら、まるでシーケンシャルのシフトダウンのように扱えることに、ようやく気づいた。コーナー出口では当然、プラス側に連続してプッシュして、回生を緩めてやれば、まるでマニュアル車のような加速感が疑似とはいえ、味わえる。

本来はスムーズで継ぎ目のないEVのパワートレインに、回生ブレーキでわざわざ段差をつけるという逆転の発想というか、粋な工夫なのだ。これがあるおかげで2ペダルのマニュアルのように、e-ゴルフを操ることが楽しくなる。しかもよく動くリアのマルチリンクサスに、先に述べたような低重心&大トルクゆえの敏捷性と素直なハンドリングが相まって、EVならではの走り味がある。

そんなわけで、今回は回生ブレーキを強めにしたまま色々と試したり、市街地でストップ&ゴーを繰り返した結果、最終的には76.6kmしか走っていないにも関わらず、予想される航続可能距離の上では約150kmも減るという結果になった。諸元表で発表されている交流電力消費率121Wh/kmの、2倍以上のペースで消費していたことになるが、試乗日は雪の予報が出ていた寒さでもあった。

最たる難を挙げるとすれば、内装トリムだろう。他の新型ゴルフより前後列とも柔らかめというシートは、包まれ感と座り心地こそ悪くないものの、チタンブラックと名がついているものの、グレー一色でいかにも化学繊維という感触は、あまりぞっとしない。

とはいえ、e-ゴルフがじつにゴルフらしいと思わせる、「走る・止まる・曲がる」のレベルの高さは、厳然としてある。それのみか、歩行者も検知できるエマージェンシーブレーキ機能と渋滞時追従支援システム、ACCとレーンキープシステムを組み合わせた、レベル2の部分的自動運転として完成度の高いADAS機能を、抜かりなく備えている。そうした完成度からして、EVの時代になっても、やはりゴルフはゴルフらしく、コンパクトの指標であり続ける、そう確信できるだけの内容だった。(文・南陽一浩)

2018年式 e-ゴルフ specification
バッテリー方式 リチウムイオン
バッテリー容量 35.8kWh
モーター駆動軸フロントアクスル、モーター1基
EPA基準航続距離 201km
JC08モード基準の航続距離 301km
交流電力消費率(JC08)121Wh/km
最大出力136hp(100kW)
最大トルク290Nm
車体側の充電プラグ位置 リア左側面(急速充電)、フロントグリル中央(普通充電)
普通充電の容量と時間の目安 100%/約12時間(3kW)、100%/約6時間(6kW)
急速充電の規格 チャデモ
急速充電の最大出力 50kW(500V125A)
急速充電の容量と時間の目安 80%/約35分
全長×全高×全幅 4265×1800×1480mm
ホイールベース2635mm
トレッド前/後1545/1515mm
車両重量1590kg
乗車定員5名
車両価格(税込) 499万円

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この記事の著者


					南陽 一浩

南陽 一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。出版社勤務を経てフリーランスのライターに。2001年に渡仏しランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学にて修士号取得。パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の自動車専門誌や男性誌に寄稿。企業や美術館のリサーチやコーディネイト、通訳も手がける。2014年に帰国、活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体で試乗記やコラム、紀行文等を担当。

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