シャオミの第一弾EV『SU7』に北京で試乗〜受注台数はすでに10万台以上&1万台を納車済み

3月末、発売開始30分足らずで5万台以上の受注を集めた(関連記事)中国の家電メーカー、シャオミの電気自動車『SU7』。はたしてその実力はどうなのか? 中国車研究家の加藤ヒロト氏による海外メディアとしての初試乗(現地関係者によると)レポートをお届けします。

シャオミの第一弾EV『SU7』に北京で試乗〜受注台数はすでに10万台以上&1万台を納車済み

家電ガジェットメーカーが電気自動車に進出

何かと注目を浴びているシャオミ初の自動車「SU7」に北京で試乗しました。シャオミは2010年、現在もCEOを務める雷軍氏によって設立されました。当初はスマートフォンOS「Android」をベースとしたカスタムROM「MIUI」の開発からスタートし、2011年10月には初のスマートフォン「Mi 1」をリリースしました。

そのマーケティングや商品展開はAppleのiPhoneを意識しながら、販売価格は圧倒的にiPhoneよりも安く抑え、その評判は瞬く間に中国全土へ広がります。主力商品であるスマートフォンを年々改良していくだけでなく、タブレットやパソコンなどのガジェットも投入、そして近年ではテレビや加湿器、電気ケトル、電動シェーバーといった家電製品も幅広く揃える会社にまで拡大しました。そのシャオミが2021年、新たに参入する業界として発表したのが「自動車」でした。

以前よりシャオミはいくつかの中国の新興EVメーカーに出資をおこなっていましたが、一方で自動車自体の生産経験はありません。そこでシャオミはそのノウハウを得るためにBMWやメルセデスベンツでの経験を持つデザイナーをはじめ、世界中のメーカーで活躍する中国人を引き抜きます。また、運転支援技術やインフォテインメント周りは自社の強みであるソフトウェア開発の経験を活かすことで、今までになかった「純粋な電機メーカーのクルマ」が完成したわけです。

あまりの人気で「海外メディア初試乗」とのこと

シャオミ初の自動車「SU7」は2023年12月に発表されました。流行りのファストバック風スタイリングを特徴とする4ドアセダンで、パワートレインには自社設計の駆動用モータを搭載する電気自動車(BEV)となります。

シャオミの駆動用モータ「HyperEngine」ファミリーでは現在、中国のモータ会社「UMC」や「イノヴァンス」と共同で開発した最高回転数2万1000 rpmの「V6」「V6s」を量産中です。また、そのさらに上にはシャオミ完全自社設計と謳う2万7200 rpm・569 hp(425 kW)・635 Nmの「V8s」や、カーボンスリーブロータを採用する3万5000 rpmのモータの開発も進行中とのこと。V8sは2025年中の市場投入が予定されています。

SU7はベースグレード、「Pro」、そして「Max」の3グレードで構成されています。スマートフォンのモデル名のようなネーミングはさすがシャオミと言えるでしょう。ベースグレードとProは出力295 hp(220 kW)の後輪駆動なのに対し、Maxは出力663 hp(495 kW)の四輪駆動です。加速性能は後輪駆動モデルで0-100 km/h 5.28秒、四輪駆動モデルで0-100 km/h 2.78秒と公表されており、発表イベントではポルシェのBEV「タイカン ターボS」よりも加速で優っていると強調しました。

肝心のバッテリーはベースグレードがBYDグループ会社「フィンドリームズ(弗迪)」の「ブレードバッテリー」、そしてProが「CATL(寧徳時代)」の「神行電池」を搭載しています。Maxでは255 Wh/kgの密度を誇るCATLの「麒麟電池」を採用しており、875 Vシステムと合わせてわずか15分で510 km走行分を充電できるとのこと。

中国独自の測定方式である「CLTC」モードでの航続距離はそれぞれ700 km、830 km、800 kmとしていますが、実際の数値はその7掛けぐらいと考えるのが良いでしょう。そのため、Maxグレードでは550~600 kmを一充電で走れる計算となります。

自動化運転技術も万全の体制が構築されています。SU7 MaxではLiDAR x 1、ミリ波レーダー x 3、高精細カメラ x 11、超音波レーダー x 12を搭載し、それを計算能力508 TOPSのNVIDIA Orinチップセット2枚が支えています。LiDARユニットの搭載数は昨今の中国BEVでは少ない方ですが、一方で搭載しているチップセットの性能はとても高い印象を受けました。

高速道路でのハンズオフや自動駐車、駐車位置からドライバーの位置まで自動で移動する「自動召喚」などに対応しており、自動運転のレベルとしては「高度なレベル2」に該当します。シャオミはこれまで33億元(約720億円)以上の開発費を自動化運転技術に投じており、開発段階で1000万キロメートル以上を走ってきたと明かしています。

中国でのメーカー希望小売価格はそれぞれ21.59万元(邦貨換算:約465.9万円)、24.59万元(約530.6万円)、29.99万元(約647.3万円)となります。そのあまりの人気ぶりから試乗は中国メディアでもなかなか実現しないようで、今回中国メディア咪车mewcarsの協力を得て実現した私たちの試乗は海外メディアとして初めてだったそうです。

乗り込んだ実車の印象は?

初対面となった実車の印象からお伝えします。まずはエクステリアですが、全長4997 mm x 全幅1963 mm x 全高1455 mm、ホイールベースを3000 mmとしていながらも、実車は意外とコンパクトな印象を受けました。SU7のデザインはBMWのiX(i20)や7シリーズ(G70)のデザインを担当した李田原氏が指揮を取ったといいます。

簡素でミニマリスティックな外装とは対照的に、室内空間はスポーティな印象を漂わせています。グリップ性に優れたD型ステアリングではドイツメーカーのハイパフォーマンスモデルのようにダイヤルスイッチが中央部より生えており、クルーズコントロールやドライブモードの選択、そして最大性能を20秒間だけ引き出す「ブーストモード」を操作できます。

センターディスプレイは16.1インチのものを採用しており、その下にはオプションとして販売されているエアコン・メディア操作用の物理ボタンが接続できます。先進的な印象を与えるタッチ操作を基本としつつも、従来の物理的フィードバックも必要に応じて追加できるスタイルには驚かされました。

ドライブモードは「爽」「新手(初心者の意)」「COMFORT」「SPORT」「SPORT+」の5つで、まずは「COMFORT」からスタートしました。アクセルの感触はマイルドめになっており、Maxグレード専用装備のエアサスペンションのおかげでじゃり道でも快適です。

まったく期待していなかった乗り心地に驚愕

正直に言うと、シャオミの作るクルマにはまったく期待していませんでした。中国で過剰なほどに話題となっていたのも単にミーハーな人たちが多いだけですし、今までクルマを作ったことのない会社のBEVなんてたかが知れているはず。シャオミが製造パートナーに選んだのは北京汽車ですが、その北京汽車も老舗ながら作るクルマのクオリティは最悪なのです。こういった点から、試乗する前は冷めた目で見ていました。

ですが、実際にアクセルを踏み込んで発進した時に「案外イケるかも……?」と感じました。「COMFORT」モードで感じた乗り心地の上出来さに感心しつつ、次は本命の「SPORT」モードへ切り替えます。SU7のアクセルペダルはより直感的に反応してくれますが、一瞬強めに踏み込んでもそこまで酔う感覚がないのには驚かされました。

今までいろいろな中国製BEVに乗ってきましたが、アクセルのチューニングやサスペンション設計の未熟さで不快な思いをしたクルマばかりという印象だったのが現実です。そこをSU7はフロアと視点の低さ、綿密なエアサス制御、そしてアクセル制御で乗り心地を上手い具合に処理しているのだと気が付きました。

SU7のサスペンションはコンフォート面だけが得意なわけではありません。「SPORT」モードに変更して車高を下げることで、路面に吸い付くように走ってくれます。しっかりと硬い乗り味になりますが、闇雲に硬くしただけではなく、しっかりとスポーティさを考えたチューニングになっている印象です。

電子的な加速音は「やる気」の演出に最適ですし、コーナリングではメルセデスAMGの「ドライビングダイナミックシート」のように運転席のサイドサポートが荷重移動に合わせて膨張、姿勢をしっかりとホールドしてくれます。試乗したコースはそれほど綺麗な舗装ではありませんでしたが、直進安定性も問題なく、アクセルを安心して踏み込むことができました。

高速からの制動性能には不安な一面も……

ですが、改善点ももちろんあります。外装においてはリアバンパーの作りがとても柔らかくて薄い印象を受けました。クルマの外装に使われるような樹脂の質感ではありません。また、加速性能をアピールするBEVであるならば、ブレーキ性能もしっかりさせたいところです。シャオミはフロントにブレンボ製4-potキャリパーを搭載していると誇らしげに語りますが、その性能は0-100 km/hを2.8秒以下で加速する2トンのクルマには不十分です。

速い速度からのフルブレーキングを何度か試しましたが、ズルズルと滑りながら止まる制動性能は不安しか感じませんでした。SU7のライバルとしてシャオミが見据えているポルシェ タイカン ターボSではフロント10-pot・リア4-potのキャリパーを搭載しており、ブレーキローターもホイール内側ギリギリまで大径化されています。ブレーキにおいてはパッド、ローター、そしてキャリパーのすべてが見合っていないという印象でした。

4月3日に納車が始まったSU7は、発売43日目となる5月15日までに1万台をデリバリーしたとシャオミは発表しました。支払い済みの予約件数はこれまでに10万件を超えており、その爆発的な需要に対応するべく、6月からは1日あたりの工場稼働時間を8時間から16時間へ延長、月産約2万台体制を構築するとしています。

破竹の勢いで販売台数を伸ばすシャオミは2024年中に新たなSUVをお披露目すると言われており、今後の展開から目が離せません。

取材・文/加藤 ヒロト

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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