トヨタの電気自動車『bZ4X』一般販売開始は本当か? 販路拡大に向けて方針変更

9月1日、日本経済新聞にトヨタがサブスク専用だったBEVの『bZ4X』を今秋から一般販売する計画であることを報じました。トヨタからの公式なアナウンスはまだありませんが、関係者に確認したところ、11月頃からをメドに一般販売が開始されます。

トヨタの電気自動車『bZ4X』一般販売開始は本当か? 販路拡大に向けて方針変更

一般販売の導入は「販路拡大」のため

2023年9月1日、日本経済新聞が「トヨタ、サブスク専用EVを一般販売 所有も選択肢に」として、ブランド初となる量販電気自動車(EV)で、今までKINTOによるサブスクリプション専用としていた『bZ4X』の一般販売を開始する計画であることを報じました。

本当か? と、トヨタ自動車のニュースリリースなどを確認しても、公式のアナウンスはまだありません。なんとか「真実かどうか」だけでも知ることはできないものかと関係者への取材を進めたところ、一般販売開始は間違いないことがわかったのでお伝えします。

まず、日経新聞が先んじて報じたのは、トヨタから販売店へ通達を始めていた一般販売開始の情報が日経の記者さんに漏れてしまった、ということのようです。

一般販売開始に踏み切った最大の理由は「販路拡大」のため。販売店などへの調査によると、bZ4Xに興味はあっても「サブスクを嫌って契約に至らないケースが多かったから」という話しもありました。まあ、そりゃそうでしょうね、ってことではあります。

一般販売開始の時期については、日経の報道の通り、今秋(11月頃)に予定されているbZ4X「一部改良」のタイミングに合わせた発表となりそうです。

ちなみに、一部改良の詳細な内容についてはまだわかりませんが、いわゆる「イヤーモデル」的な考え方でさまざまな変更や追加が行われることになります。

販売価格は、KINTOでのサブスクではFWDで600万円、AWDは650万円がメーカー希望参考価格となっていて、すでに多くの契約者(国内の契約件数は3000台程度と思われます)がいることからも同様の価格設定になるのではないかと思われます。

バッテリーの「3R」などは自工会のスキームを活用

2022年4月、トヨタがbZ4Xの発売を発表した際、KINTOによるサブスクとリース販売のみとする理由は、「残価低下への不安解消」と、バッテリーの回収など3R=「Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)」を確実に行うためとしていました。


2022年4月、bZ4X発売発表時の資料より引用。

まず、バッテリーの3Rについては、発売から1年が経過して駆動用バッテリーの耐久性に関わるデータが蓄積されつつあり、ほとんどの車両で「おそらくは10年以上経ってからのリサイクル」となるであろうことが判明したこともあり、自工会が進めている「LiB共同回収システム」などのスキームで対応可能であると判断されたようです。

また、残価(数年後の下取り価格)低下への不安については、自社販売店内での流通を高めて残価をできるだけ維持するような取り組みも検討されているとのことでした。

さらに、気になるのは「サブスクはイヤだけど、それしかないならしょうがない」と契約してbZ4Xに乗っている個人や法人ユーザーへの対処です。

事実上、サブスクから所有への変更といったような対処は難しいでしょう。関係者の話によると、11月メドで行われる「一部改良のパーツやプログラムを無償でアップデートするといった、サブスクならではのメリットを提供することになるのではないか」と予想できます。

いかんせんトヨタが公式発表していないことなので、やや曖昧な物言いになることはご容赦ください。とにかく、bZ4Xの一般販売が開始されるのは、ホントです。

EVへの試行錯誤が一歩前進

「バッテリー劣化や残価低下への不安解消」を理由として、リースとサブスクのみでbZ4Xが発売された時には、それはむしろ、トヨタが「トヨタのEVはまだ不安と強調する」結果になるのではないかと疑問に感じました。案の定、当初目標の5000台に届かない日本だけでなく、世界でも販売台数は低迷といっていい状況が続いています。

11月から普通に購入できるようになったとしても、たとえばバッテリー容量など車格が近いと思われるボルボのEX30は559万円で、オプションなどを考えるとbZ4Xより50万円以上安いイメージだし、先日デザインや内装が一新されたテスラ モデル3はRWDで561万3000円、AWDのロングレンジで651万9000円など、bZ4Xの価格帯(もっと安いところを含めて)には手強いEVのライバル車種がひしめきあっています。一般販売したとしてもbZ4Xの苦戦が続くことは必至(それなりの値引きがなければ)でしょう。

当初の「SOC(電池残量の%)非表示」、そして「販売方法」など、ブランドとして初めての量産BEVとなったbZ4Xで、トヨタはEVへの試行錯誤にチャレンジしているところ、とも考えることができます。信じる正義が違い、知らなかったことに対して、今からどうこう言ってみたところで有意義な実りはありません。なにはともあれ今回の一般販売開始は、試行錯誤からトヨタが踏み出した「前進の一歩」と受け止めておきたいと思います。

世界ではEVの新車販売シェアが20%に迫り、さまざまなメーカーがEV100%への決断を示す中、2030年ごろまでに世界における乗用車の主役がEVになるのおそらく間違いないことでしょう。

では、これから世界に向けてトヨタが繰り出してくれる「安心して所有できるEV」はどんなクルマなのか。また「所有から利用へ」といったモータリゼーションの変化に対して、トヨタが自社のEVを活用してどんな提案をしてくれるのか。

個人的にはBYDドルフィンに負けないトヨタの大衆的EV登場を待ち望みつつ、期待して注視したいと思います。

そういえば。先日、EVsmartのYouTubeチャンネルで、テスカスさんがbZ4Xで東京〜大間(本州最北端)へ走るリベンジ動画をアップしていたのでリンクを貼っておきます。

トヨタbZ4Xリベンジ!充電制限無しで東京→青森ドライブできるのか!?(YouTube)

文/寄本 好則

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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