トヨタが新体制方針説明会を開催〜2026年までにEV年間150万台販売へ

トヨタは2023年4月7日の新体制方針説明会で、2026年までに10モデルの電気自動車(EV)を市場に投入し、年間150万台を販売する計画を発表しました。発表のうち、電動化に関する内容を中心に速報解説でお伝えします。

トヨタが新体制方針説明会を開催〜2026年までにEV年間150万台販売へ

EVを拡充して2026年に10モデル、年間150万台へ

トヨタは、2023年4月1日に社長に就任した佐藤恒治氏らが新体制の方針説明会を開催しました。説明会では電動化に関する新たな目標も明らかにしました。

今回の発表にあった電動化など次世代車に関するものは次の通りです。

●2026年までに10モデルの新型EVを市場に投入。これにより年間の販売台数を150万台にする。
●次世代バッテリーを搭載し航続距離をこれまでの2倍にしたEVを、2026年に市場に投入する。
●車作りの工程数を従来の2分の1にするほか、生産工場に新技術を投入するなどにより、2035年に全工場をカーボンニュートラルにする。
●目標実現に向けて専任組織を創設する。
●PHEVではバッテリー走行の航続距離を200km以上に伸ばす。
●商用車を軸に燃料電池車(FCEV)の量産化に取り組む。

このほか、水素社会の実現に向けてタイや福島での社会実装実験のほか、2022年から大型商用車向けの水素エンジンの基礎研究に取り組んでいること、新車販売台数の20倍に達する保有車についてはカーボンニュートラル燃料でCO2削減に取り組むことも説明がありました。

佐藤社長は、これらの取り組みによって、「全世界で全世界で販売するクルマの平均CO2排出量は2019年と比べて、2030年には33%、2035年には50%を越える削減レベルを目指す」と強調しています。

年間の台数目標は従来の1.5倍に拡大か

では、とくに電動化に関する目標について、EVsmartブログの過去記事などを参照しながら少し細かく見ていきたいと思います。

今回の発表の中で注目は、やっぱり2026年までの新たな目標でしょう。トヨタは2021年に、2030年までにEVの年間販売台数を350万台にすることを発表していました。ただ、そこまでの過程については公式情報は出ていませんでした。

一方で日経新聞は2023年2月21日に、米ケンタッキー州の工場の改修やインドでの生産などにより、2026年に年間100万台のEVを販売する目標を掲げたと報じました。この記事についてトヨタ広報部は明確な否定をしていません。

【関連記事】
2026年に100万台? トヨタが作る売れ筋のEVとは?(2023年2月25日)

ということは、今回発表された2026年までに年間150万台という数字は、従来目標を1.5倍に引き上げたとも考えられます。

でも今は2023年4月。2026年末まで3年半くらいしかありません。バッテリーの調達や生産工場はどんな計画なのでしょうか。

バッテリー調達の計画は従来と変わらない?

バッテリー調達計画や工場については、発表会後の記者会見でオートモーティブニュースの記者から「(昨年のEV販売台数は)2万6000台だった。3年という短期間で150万台に増やすにはどの程度の投資が追加で必要か」という質問が出ました。トヨタ側の回答は一般論を中心にしたものでした。

新たに就任した中嶋裕樹副社長は、EVを作る上で「一番大きなペースメーカーはバッテリー」だとし、投資はバッテリーの準備のためのものが大きな比率になっていると説明しました。そして次のように述べました。

「バッテリーの専用工場も視野に入れなければいけないかと思っているが、建屋を含めてどういった形で準備していくのが一番(いいのか)、先々汎用性が高く、将来に向けて競争力がつくものができるのか、最後の見極めをしているところだ」

3年で2万6000台を150万台にするというのは、テスラ社の販売台数の伸びをはるかに上回る規模です。でも今は「最後の見極めをしているところ」だそうです。これで間に合うのか不安になってしまいます。

トヨタはバッテリーについて、アメリカと日本で最大7300億円を投じて2024年から2026年にかけて生産設備を増強することを発表しています。2025年の稼働開始時には4本の生産ラインで年間80万台分、2026年までに6本に生産ラインを増やして年間120万台分のリチウムイオンバッテリーを作る予定です。

ということは150万台を作るためには30万台分が不足しますが、トヨタはCATLなどと提携をしているので、例えば中国生産が30万台だとしたら、とりあえずつじつまは合いそうです。

ここで疑問が浮かびます。もしそうだとすると、従来発表のバッテリー調達計画に大きな変更はないことになり、2026年までに150万台という今回の発表にも新味はないことになります。

そういえばこの数字について中嶋副社長は、「アクセルを踏んでるとか、計画を早めてるっていうわけではない」と説明していました。なるほど、従来計画の言い方を変えただけなのであれば、確かにそうかもしれません。よくわかりませんが。

このあたり、地域別のEV販売目標や生産工場などの詳細が出てくるのかどうか。もし直近で説明があるとすると次の決算発表のタイミングがあります。トヨタの通期決算発表は例年、5月のゴールデンウィーク明けの週です。何が出るかな、何が出るかな、と口ずさんでしまいそうです。

【関連記事】
トヨタがEV用バッテリーに7500億円を追加投資~北米のEVシフトに間に合うのか?(2022年9月5日)

EV走行200kmのPHEV、e-fuelなどの消えない疑問

ここからは個別の項目をさらっと見ていきます。まず、「次世代バッテリーを搭載し航続距離をこれまでの2倍にしたEVを、2026年に市場に投入する」計画ですが、これ以上の具体的な説明は出ていません。記者会見でも質問はありませんでした。

次世代バッテリーが何を意味するのかは不明です。全固体電池なのか、他のものなのか。次の発表を待つしかありません。

「目標実現に向けて専任組織を創設する」ことに関しては、記者会見で、リーダーはすでに指名していて実質的にはスタートしていること、ゴールデンウィーク明けには明確に組織化されるという見通しが示されました。

生産技術までワンストップに含むこの組織改編は、EVの生産コストを2分の1にするという目標に関連しています。テスラ社を横目に見て、従来のやり方では太刀打ちできないと考えたのではないでしょうか。はたして何年くらいで構造転換ができるのか、お手並み拝見です。

さて、筆者がとても不思議に感じたのは、「PHEVではバッテリー走行の航続距離を200km以上に伸ばす」という発表でした。単純に、「そんなに走れるのならエンジンはいらなくないか?」と感じたのです。

PHEVは一見すると便利なようにも見えますが、内燃機関(ICE)とバッテリー+モーターという2種類のパワートレインを搭載しているため、コストが高くなるだけでなく、全体効率も落ちるのではないかという指摘もあった、ちょっと複雑な車でした。そのため、個人的にはICE車やHEVから、EVに移行するまでのつなぎの役目が大きいように感じていました。

トヨタが発表した、バッテリー走行可能な距離が200kmのPHEVは、そんな矛盾をさらに拡大させるように見えてしまいます。バッテリーを増やせばコストはさらに上がります。それだけでなく、あまり使わなくなるICEのために重量も増えます。

それならもう少しバッテリーを増やして、航続距離を300kmくらいにしてICEを取り去ればいいのではとも思ってしまうのですが、どうでしょうか。航続距離が2倍になる次世代バッテリーがあるのなら、なおさらそう思います。

もちろん、今のICE車と変わらない使い方がしたいという好みはあるかもしれないので、ライフスタイルを変えたくないというニーズに応じた商品性はあるかもしれません。でもそれって、トヨタが掲げるカーボンニュートラルに至る道のりの中では異端度が上がるように思うのです。

トヨタはこのPHEVを、「プラクティカルなEV」、つまり「現実的なEV」と呼んでいます。商品群として定着するのかどうか、注目です。

e-fuelの見通しは楽観的とは言えない

このほか、カーボンニュートラル燃料の開発について、記者会見で言及がありました。会見では、欧州連合(EU)がEV一辺倒から方針転換をしているが、トヨタにとってどのような意味を持つかという質問が出ました。

これに対して佐藤社長は、豊田章男氏の口癖のようになっていたひと言、「敵は炭素である」と前置きして、次のように考えを述べました。

「多様な選択肢をという観点では、産業構造あるいは、社会環境を踏まえた現実的な提案が少しなされてきたのかな、という風な側面はあるのではと思う。ただ、e-fuelを精製するプロセスではまだまだ課題も多く、エネルギー変換効率を考えると多くの技術的要素が残っていると認識している。カーボンニュートラル燃料を本当に選択肢としていくためには、 エネルギー産業のみならず、自動車産業とも連携したさらなる技術開発が必要だ」

EUがe-fuelを認めることについて、日本では、EVからの方針転換だという報道も見られますが、佐藤社長が説明したように課題は多く、コストダウンがいつ頃までにどのくらいできるかという見通しもありません。このため、広く一般に使える燃料になることは考えにくいのが現状です。使うとしたら、フェラーリやランボルギーニなど一部の高性能スポーツカーメーカーなのかもしれません。

佐藤社長の認識は、そうした実情を物語っているように感じました。トヨタのように予算が潤沢に取れるのであれば開発を進められるでしょうが、e-fuelがメインになるとまでは、佐藤社長も考えていないように思いました。

なにしろ巨大企業なので、トヨタの動きにはいつでも注目が集まります。それに対してトヨタからは、EVの商品化についてあまり具体的な情報が出ないため、積極的ではないと受けとめられる原因になっていました。

そんな状況を意識してか、佐藤社長は「バッテリーEVについては、具体的なファクトを示すことができていなかったのかなというところについては反省している」と述べ、この日の発表会を行ったと述べています。

この言葉の割には、いまひとつスッキリしない部分が残った発表会でした。でも問題は、今後さらにファクトが積み上がっていくのかどうかと、そのスピード感です。まずは次回の決算発表を待ちたいと思います。

文/木野 龍逸

この記事のコメント(新着順)4件

  1. PHVでEV走行200キロということは、おそらくこれまでのエンジン直結機構がありエンジン併用範囲も長いアウトランダーやプリウスPHVのようなタイプではなく、ファーウェイのPHVのようなレンジエクステンダーとして発電に徹するタイプの可能性がありますね。
    また、中国ではBYDの秦PLUS DM-iチャンピオンはハイブリッド+EV複合で1200キロ(緩いCLTC)と、PHVの人気も高いので中国市場の攻略を考えるとPHVも外せません。
    内モンゴルや重慶など内陸部の酷暑、酷寒など過酷な気候で長距離移動もするユーザーにはPHVの人気がありますからね。

  2. EUのe-fuelの話は、何だかドイツのロビイストにいいようにやられている感じがしてちょっと不愉快です。ただ、個人的にはICEVの延命にはかなり賛成です。
    しかし、いずれは給油インフラも次第に減っていくでしょうから、e-fuelのそもそもの製造コスト高に加えてデリバリーコストアップや給油所がとんどん遠くなっていくことなど考えると、自宅にガソリンスタンドを所有しない限り、如何にランボルギーニユーザーとはいえICEVに乗り続けるのは非現実的かなー、と思います。
    これって、ちょっと前の(あるいは今の)EVスタンド事情の反対版かも、と思うと笑えますね。

  3. まずは、この計画の根本は中国ありきで計画を立てているのですか?次世代バッテリー。レアメタルの産地(ウイグル産)と一党独裁、共産主義の国に対するリスクを考えていますか?それとも、ロシアを頼りますか?ロシアはもう一党独裁、共産主義ですよ。日本人に多い危機管理能力の欠如・でも偉い人々は必ず言いますよね。常に危機管理が優先と。同じことは今、日産自動車のリスク管理の甘さが出ている。しかし日産自動車は経営に失敗したら、ただ、従業員を切れば良い、経営方針を又、前面に出せばいいだけ。部品メーカーは引くに引けない。

  4. 新車の開発には最低4〜6年間位必要なので、2026年に10モデル、150万台を量産するということは既にクルマ自体の開発が完了しているという事でしょうか?トヨタには是非世界をアッと言わせる離れ技を見せていただきたいです。佐藤社長はエンジニアなので良く分かっていらっしゃると思いますが、実は敵は”炭素”でなく”炭化水素”なのです。炭化水素と窒素酸化物は光化学反応によって対流圏オゾン(=温暖化ガスでもある)を生成してしまうので、内燃機関エンジニアは必死になって排気浄化に取り組んできました。しかしカリフォルニア州の様に排ガス規制値をゼロにされると、e-fuelではゼロエミッション(排ガスゼロ)は達成不可能です。欧州がe-fuelを認めたのは、まだ排ガス規制値がゼロではないからです。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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