トヨタ『アーバンクルーザー』への期待とエール/日本がEV戦争で負けないように

2024年12月、トヨタが電気自動車のコンパクトSUV『アーバンクルーザー』をブリュッセルモーターショーで公開することを発表しました。EVシフトが加速する中、世界一の自動車メーカーであるトヨタが輝き続けますように、期待のエールを贈ります。

トヨタ『アーバンクルーザー』への期待とエール/日本がEV戦争で負けないように

2026年までに6車種のBEVラインナップを予告

みなさま、あけましておめでとうございます。2025年、世界のEVシフトがますます加速していくことでしょう。自動車を基幹産業とする日本がEV戦争で負けないことを祈りつつ、新年一発目の記事をお届けします。

2024年12月12日、トヨタヨーロッパが2025年1月10日〜19日にベルギーのブリュッセルで開催される第101回ブリュッセルモーターショーにおいて、新型電気自動車の『Urban Cruiser(アーバンクルーザー)』を一般に向けて世界初公開することを発表しました。アーバンクルーザーは完全なバッテリーEVで、スライド式リアシートを備えたコンパクトSUVで、搭載するバッテリーの容量は49kWhと61kWhの2タイプ。前輪駆動と全輪駆動のパワートレインが用意されるとしています。

トヨタヨーロッパのプレスリリースでは、アーバンクルーザー導入は「ヨーロッパの顧客に幅広い電動ドライブトレイン技術の選択肢を提供するというトヨタのマルチパスウェイ戦略における重要なステップ」であり「トヨタは2026年までに専用プラットフォームを使用する6車種のバッテリーEVを含む15車種のゼロエミッション車をラインナップする予定」であると伝えています。

欧州における「ゼロエミッション車」の定義にハイブリッド車は含まれません。『bZ4X』は発売済みなので、あと2年間のうちに新たに4車種のBEVと9車種のプラグインハイブリッド車(PHEV)、もしくは水素燃料電池車(FCEV)が発売予定であると理解できます。

トヨタの広報部に聞いてみました

欧州の発表ではありましたが、日本のトヨタ広報部にいくつか確認&質問してみました。

Q. アーバンクルーザーはスズキと共同開発、『e-VITARA』の兄弟車という認識で間違いないですか?

はい、その通りです。

Q. スズキでは2025年夏頃から日本を含む各国で順次発売と発表済みですが、アーバンクルーザーの日本導入の予定があればご教示ください。

今回は、2025年1月10日~19日開催のブリュッセルモーターショーでの初公開と、2025年後半から2026年春にかけての欧州各国での導入のみ公表しており、グローバルの導入計画については発表しておりません。

Q. トヨタのBEV車種名に踏襲されると思っていた「bZ~」じゃなかったのはなぜでしょう。

(Urban Tech というテーマを掲げた)クルマのコンセプトや位置付けに相応しい名称であり、また過去、アーバンクルーザーという名前のBセグメントSUVがございましたのでその名称を復活させることとしました。

Q. 欧州仕様の急速充電は最大150kWと報じられています。日本国内の150kW超の充電インフラ構築について、トヨタとして何かアクションを進める計画などはありますか?

日本の充電インフラに関する新情報はございません。

Q. 「トヨタのBEV」を期待する顧客に向けて、今後に向けたメッセージをお願いします。

コンパクトでありながら力強いデザインと、Urban Techのコンセプト通り、街中で使いやすいサイズと技術とを組み合わせたモデルです。当該モデルの欧州以外の地域への導入計画は発表しておりませんが、当社はBEVもマルチパスウェイ戦略の重要な技術と捉えており、お客様が使いやすいBEVの導入を引き続き進めて参りますので、どうぞご期待ください。

(質問&回答はここまで)

スズキ『e VITARA』の兄弟車

e VITARA(グローバル公式サイトより引用)

トヨタヨーロッパの発表では明言されていませんが、欧州メディアなどが伝えているとおり、アーバンクルーザーはスズキとの共同開発であり、2024年11月に欧州で発表したスズキ初の量産BEVモデルとなる『e VITARA』の兄弟車であることが確認できました。スバル『ソルテラ』とトヨタ『bZ4X』のような関係ですね。

スズキではe VITARAを「2025年春よりインドのスズキ・モーター・グジャラート社で生産を開始し、2025年夏頃から欧州、インド、日本など世界各国で順次販売を開始」することを発表しており、アーバンクルーザーもインド生産となるようです。広報部回答の通り「日本発売は未定」ですが、トヨタから日本でも発売されることを期待します。

発表されているアーバンクルーザーとe VITARAのスペックを比較すると、全長や全高が微妙に数ミリ違ってますが、駆動方式は出力などは同じで、兄弟車であることが読み取れます。日本市場で競合車種になると想定できる、BYD ATTO3、ヒョンデKONAと比較した表にしてみます。

e VITARA
(アーバンクルーザー)
BYD ATTO 3ヒョンデ KONA
Casual
ヒョンデ KONA
Lounge
バッテリー容量49616158.5648.664.8
駆動方式FWDFWDAWDFWDFWDFWD
全長(mm)4275
(4285)
44554355
全幅(mm)180018751825
全高(mm)1635
(1640)
16151590
ホイールベース(mm)270027202660
車両重量(kg)17021760-17991860-1899175016501790
乗車定員555
タイヤサイズ225/55 R18225/55 R18, 225/50 R19235/50 R18215/60 R17235/45 R19
最高出力(kW)10612813515099150
最大トルク(Nm)189189300310255
最小回転半径(m)5.25.355.4
価格(税込)未発表450万円399万3000円489万5000円

バッテリー容量やボディサイズなどはほぼ同等。e VITARAの全長と全高欄のカッコは欧州で発表されたアーバンクルーザーの数値です。微妙な違いはデザイン的な差異だと推察できます。e VITARA &アーバンクルーザーの全幅が抑えられているのは、あくまでも「BセグメントのコンパクトSUV」であるというメッセージを感じますが、1800mmなので日本では3ナンバー(全幅が1700mm超)になります。

価格は欧州でも未発表ですが、1月に発売予定とされているインドの情報を調べてみると、e VITARA の価格が200万〜250万ルピー(約365万〜456万円)と予想されていました。ちなみに、66kWhの日産アリアB6 e-4ORCEの日本価格は約720万円〜。61kWhのAWDモデルが450万円程度で、日本でも同等の価格でスズキやトヨタから発売されるとしたら、BYDやヒョンデのBEVと並べても競争力があるのではないかと思われます。

ただし、BYDやヒョンデのEVは先進運転支援などの機能がほぼフル装備のワンプライスです。日本メーカーのクルマは先進運転支援機能などがオプション設定になっていることも多く、うっかりすると100万円追加! なんてことにもなりがちで。スズキやトヨタには、新開発の「本気のEV」として魅力的なパッケージで発売してくれることを期待します。

目標達成には「わかりやすく本気のBEV」が必要では?

トヨタは昨年9月、2026年に150万台としていたBEVの生産台数目標を100万台に引き下げました。BEV販売の主要マーケットと見込む中国では、BYDなどと共同開発した『bZ3』を中国で発売。その後も『bZ3C』や『bZ3X』など中国市場専用車種のバリエーションを増やすことを発表(関連記事)しています。とはいえ先に発売した『bZ4X』(スバルと共同開発)を含めて、中国での販売台数が2年後の100万台に届きそうなほどに伸びているという知らせは聞こえてきません。

中国で発売された『bZ3』。

今、世界のEV市場はテスラとBYDが席巻しています。テスラモデルYは2023年に約122万台を販売し、エンジン車を含めて世界で最も売れた車種になりました。2024年11月に高橋(EVネイティブ)さんのレポートでお伝えしたように、ことに中国市場ではPHEVを含めたNEVがすでに自動車販売の主流となり、ブランド別のEV販売台数はBYDとテスラの一騎打ち状態になっています。

テスラとBYDに共通しているのは、最初からBEVを前提とした開発をしていること。テスラはSDV(Software Defined Vehicle)という流行語を生み出し、世界中にスーパーチャージャーのネットワークを拡げ、ギガキャストなど自動車生産の常識まで覆してきました。BYDもLFPによるブレードバッテリーを開発し、SEALで採用したCTB(Cell to Body=電池セルをボディ構造の一部として活用)など斬新な独自テクノロジーを発展させています。

BYD『SEAL』

このまま、共同開発で今ひとつ「EVならではのセールスポイント」が不明瞭なままに車種バリエーションを増やしたとしても、2026年に100万台や、2030年にEV350万台という目標を達成することを想像するのは難しいと感じます。それはつまり、グローバルで自動車販売のEV比率が上がるにつれて、トヨタのシェアが減退していくことを示唆しています。

トヨタでは2023年に「BEVファクトリー」を新設し、2026年発売に向けた新型EVの開発を進めていると伝えられています。ぜひ、トヨタが本気で「イチからEVとして開発した、わかりやすい魅力を備えた電気自動車」を繰り出してくれることを期待しています。

トヨタには多くの人気車種がありますが、世界一の自動車メーカーとなる屋台骨を支えてきたのは、グローバルの生産台数が累計5000万台を超え、ギネス世界記録を更新し続けている『カローラ』だと認識しています。もちろん、フラッグシップとなるプレミアム車種の存在は大切ですが、クルマの「普及」を支えるのはこれからもカローラのような大衆車であることに変わりはないでしょう。

EVはテスラがプレミアム車で新市場を開拓し、欧州メーカーが高級SUVを中心に展開してきた流れもあって「航続距離が長い高級車」中心となっていて、大衆的な車種はとても少ないのが現状でした。

BYD『SEAGULL』

とはいえ、中国ではBYD『SEAGULL』や、GMと合弁の上汽通用五菱汽車の『宏光MINI EV』といった大衆的な車種が販売台数ランキングの上位に食い込んでいます。中国の蔚来汽車(NIO)が大衆ブランドの「Firefly」を新しく立ち上げて、価格を抑えた小型EVを投入するとして、トヨタがアーバンクルーザーEVを発表するブリュッセルモーターショーでお披露目することを発表しました。

日本市場でも、1月10日から開催されるオートサロンで、ヒョンデが小型EVの『インスター』発売を正式に発表することが予告されています。本国仕様ではバッテリー容量が42kWhと49kWhのインスター。日本での価格は補助金(おそらく35〜45万円程度)を使って300万円を切ってくるといいなと期待しているところです。

ヒョンデ『インスター』

要するに、EV市場の動向を見ていると、トヨタが圧倒的な実力を発揮すべき「安くて壊れない大衆車」のフィールドにも、各国の意欲的なOEMによって新型EVの駒が置かれつつあるのです。失地回復のために残された時間は、もうそんなに多くないかも知れません。

曖昧な言い方をしても私の期待は伝わらないと思うので、少し具体的に列挙しておきましょう。「バッテリー容量は40〜50kWh(実質的な航続距離は250〜350kmもあれば十分)」で「最大80〜100kWくらいの急速充電性能」を備え、「最初からEVとして開発」し「車両システムまでOTAでアップデート」してくれる、「ACCなど合理的な先進運転支援機能を標準装備」した、「300万円以下」で購入できる「コンパクトで使い勝手のいいEV」を、トヨタが発売してくれることを待望します。

はたして、2025年は日本の自動車メーカーからどんなEVのニュースが届くでしょうか。繰り返しになりますが、EV戦争に敗れたら日本は雇用の喪失や経済失速で大変な窮地に追い込まれると危惧しています。個人的にも心の底からトヨタをはじめとする日本メーカーの奮闘に期待しつつ、EVユーザー目線の情報をお伝えしていきたいと思っています。

今年もよろしくお願いします!

文/寄本 好則

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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