フォルクスワーゲン『ID.3 1st』発表〜電気自動車が大衆車になる時代の先駆けか

フォルクスワーゲンは9月9日、フランクフルトモーターショー(IAA2019)で同社が提示している電動車両のコンセプト「ID」の初めての市販モデル、「ID.3 1st」を発表しました。欧州では2020年半ばに発売、デリバリーの予定です。

フォルクスワーゲン『ID.3 1st』発表〜電気自動車が大衆車になる時代の先駆けか

【最新情報/2019.11.5】
『VWが電気自動車『ID.3』生産開始。首相出席の式典で示された「本気」の度合い』

ID.3 1stは、2021年からの量産に先駆けて3万台が先行販売される限定モデルです。搭載される電池容量は58kWhで、1充電あたりの航続距離は420km(WLTPモード)、価格は4万ユーロ未満(1ユーロ118.8円で約475万円)になる予定です。

もっとも先行販売される3万台は、すでに予約で埋まっているようです。

でも本番はまだこれからです。本格的な量産に伴って追加される予定のベースモデルの価格は、3万ユーロ未満になることがすでに発表されています。

ベースモデルに低排ガス車の補助金(ドイツでは4000ユーロ)を適用すると2万6000ユーロ(約308万円)です。これなら一般的な内燃機関の小型車と比較できる価格帯と言えるでしょう。日本なら補助金がもう少し多くなるかもしれません。

フォルクスワーゲン グループ ジャパンによれば、日本導入は2022年以降の予定とのことです。今から待ち遠しいのですが、ここではまず、スペックを見ていきたいと思います。

【関連記事】
フォルクスワーゲンの電気自動車「ID」プレゼンテーション全編翻訳をお届けします!(2019年5月14日)
フォルクスワーゲンが2028年までに2200万台の電気自動車生産プランを発表(2019年3月15日)

【参考】
「ID.3」の生産をツヴィッカウ工場で11月に開始(フォルクスワーゲンニュースリリース ※PDFファイル 2019年9月6日)
ドイツ、EV導入を促進する購入支援補助金の継続を決定 (JETRO 2019年6月7日)

搭載する電池容量は3種類を設定

ID.3 1st はフォルクスワーゲンが2018年に発表した電気自動車の共通プラットフォーム『MEB』を使った、最初の市販車になります。コンパクトカーでリアドライブというのは、個人的には車にワクワクする大きな要因です。車内スペースを確保しつつリアドライブにできるのは、EVの大きな特長ですね。

先行販売されるID.3 1stの電池容量は58kWh。1充電あたりの航続距離は420km(WLTPモード)です。フォルクスワーゲンは順次、45kWhと77kWhのバージョンを追加する予定です。1回の充電あたりの航続距離はそれぞれ最大330kmと550km(いずれもWLTPモード)と発表されています。

フォルクスワーゲンは今回、それぞれの航続距離について実用上の予想をリリースに記載しています。並べると、こんな感じです。

ID.3 参考データ
航続距離
電池容量航続距離(WLTPモード)実用上の予測航続距離
(WLTPモード)
推測EPA航続距離
45kWh
330km
230〜330km
294km
58kWh
420km
300〜420km
374km
77kWh550km390〜550km490km
ID.3 車体寸法
全長×全幅×全高
4261×1809×1552(mm)
ホイールベース
2765mm
最小車両重量
1719kg(DIN)
回転半径
約5.1m
トランク容量385ℓ
ID.3 1st 動力性能
最高出力
150kW
最大トルク
310Nm
最高速度160km/h

※EPA値はアメリカでの実車検証を元に「WLTP / 1.121 = EPA」という計算式で推定しています。

予測航続距離は、WLTPモードに基づいて、テストローラーで試験サイクルを模擬して算出しています。リリースによれば、ドライバーの80%はこの範囲に収まるそうです。また、予測航続距離の下限値は高速道路での走行や冬季の運転を想定したものなので、都市部ではもっと距離が伸びると見ています。EVにとって、日本の走行条件はドイツほど厳しくないので、さらに余裕があるかもしれません。

ところでリーフe+の航続距離は、62kWhの電池容量で推定385km(WLTPモード)なので、ID.3 1stは現在のスペックを見る限りリーフの電費を上回っていることになります。これはいつか、実車で確認してみたいところです。

最大125kWの急速充電器に対応

ID.3 1stの急速充電対応は100kWで、30分で290km分の充電ができます(WLTPモード換算)。単純に航続距離を考えると、約70%まで入ると考えられます。とはいえこのへんは電池残量や電池の容量に依存するので、実用上がどうなるかはケースバイケースです。

受け入れ可能な充電器の出力は、搭載電池容量によって違います。45kWhモデルでは、急速充電器は最大50kWで、オプションで100kWを選択可能になる予定です。77kWhモデルは、最大125kWの急速充電器に対応しています。

一方、自宅で充電する場合の対応出力は、45kWhモデルは7.2kW、58kWhモデルと77kWhモデルは11kWになります。フォルクスワーゲンはID.3の発売と同時に、自宅用の充電器『ID. Charger』を発売する予定です。家庭用充電器はオプションで、外部からのリモートアクセス機能などを追加できるほか、自宅の電気メーターと統合管理することで電気料金の安い夜間に充電する設定にすることも可能です。

またID.3 1stの電池には、8年間、または16万kmの保証が付けられます。前述の発表(フォルクスワーゲンの電気自動車「ID」プレゼンテーション全編翻訳をお届けします!)では、残容量70%まで保証するとも言及しています。保証期間中のトラブルにどのように対処するかはリリースには記載されていませんが、期間も走行距離も、もし日本で同様の保証が適用されるのであれば十分な条件と言えそうです。

ところで、これは欧州に限った話になりますが、ID.3 1stのユーザーは、フォルクスワーゲン独自の充電システム『WeCharge』を通して、車の登録から1年間、または最大2000kWh分の充電料金が無料になります。

フォルクスワーゲンも出資するIonityは、2020年末までに、高速道路沿いに平均6基の充電器を設置する400の充電施設を120kmごとに整備する計画を発表しています。この充電施設の電気は、100%再生可能エネルギーで賄われる予定です。このほかフォルクスワーゲンは、2025年までに3500の充電施設を独自に整備する予定です。ID.3 1stのユーザーは、こうした充電施設を最初の1年間は無料で使えるのです。

ここまでざっと見てきたID.3シリーズのコストパフォーマンスは、大衆車メーカーの本領発揮といったところでしょうか。量産が始まれば、電気自動車だけでなく、ガソリン車も交えた大衆車市場に大きな衝撃を与えるのではないかと思います。

そのことは、フォルクスワーゲンが今回、新しいブランドロゴを付ける最初の車にID.3 1stを選択したことからも感じることができます。いよいよ大衆EVが、車本来の競争力を持つようになり、内燃機関の車と真っ向勝負をしていく時代の幕が上がるのかもしれません。

新しいフォルクスワーゲンのロゴマーク

※<WLTPモードとEPAモードについて>
当ブログでは基本的に、航続距離については米EPAモードを使用しています。現在、世界的にWLTPモードやWLTCモードの使用を義務化する流れになっていますが、当ブログでは、より数値が厳しく出る(つまり試験条件が厳しい)傾向のあるEPAモードの方が実態に近いのではないかと考え、できるだけEPAモードで表記をしています。なおWLTPからEPAへの換算については、アメリカでの実車検証を参考に「WLTP / 1.121 = EPA」とし、推測値として記載していきます。

(木野龍逸)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. env200乗りです、
    駆動輪は後輪ですね、ホンダEVも後輪で出してきました、
    エンジン車では前輪駆動に特化してきた2社がEVでは後輪というのは面白いですね、
    個人的には、EVは前輪を駆動する意味は全くないと思っています。
    以前価格コムに「EVの前輪駆動はナンセンス」という書き込みをしたところ結構叩かれました。
    話は変わりますがEVの場合ツインモーターで4駆化した場合電費は悪化するでしょうか、
    エンジン車ではかなり悪化しますがEVの場合あまり悪化しないのではないかと考えています。
    ご意見をお聞かせください。

    1. 鮎山女様、コメントありがとうございます!e-NV200にお乗りなのですね!

      ご質問の件、実はテスラは同じプラットフォームで後輪駆動モデルと四輪駆動モデルを両方出しています。そして最初、イーロン・マスク氏は四輪駆動にすると電費は良くなる、と発言していました。理論的には効率の良いところを取ればそうなるのかも知れなかったのですが、結局レンジモードという距離を伸ばすモードでは、前輪のモーターをスリープ(誘導モーターではこれができます)させることで、僅かに電費を向上させていました。
      実際のところ、やはり駆動系が2つになりロスもあるため、理想的な計算のようには行かないようですね。ただその差は僅かであるように感じます。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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