あまりの猛暑でくらくら
フォルクスワーゲン・ジャパンは、日本に『ID.4』のLaunch Editionを導入して約半年後の2023年5月22日に、日本向け『ID.4』の生産を立ち上げたことと、導入の初期モデルではなく、量産モデルの2グレード『ID.4 Lite』と『ID.4 Pro』を展開して夏以降に納車を始めることを発表しました。
新しいモデルの納車開始を告知することはもちろん、EV特有の運動機能や制御などをアピールするため、フォルクスワーゲン・ジャパンは7月に栃木市内のテストコース「GKN ドライブライン プルーピンググランド」でメディアを対象にした体験試乗会を実施しました。
プルービンググラウンドは、高速走行、すべりやすい低摩擦係数(低ミュー路)での走行、ハンドリング確認などをするためのテストコースです。
当日は午前10時半にプログラムが始まるのに合わせて、少し早めに東京を出発しました。道中なにも問題なく、10時少し前には現地に到着。始まるのを待ちます。
が、とにかく暑い。猛暑です。酷暑です。プルービンググラウンドは、グラウンドというだけあって日光を遮る場所が事務棟しかありません。しかもほぼすべてが舗装路です。上からの太陽と下からの照り返しでジリジリ焼けて、脳みそがクラクラします。
こんな暑いところでテストをしているドライバーや関係者の人には頭が下がります。同時に、気候変動ヤバいということを、身をもって感じるのでした。
リフトアップして『ID.4』の底面を見学
体験試乗会はまず、午前中の座学から始まりました。内容は『ID.4』のバッテリーシステムやコンポーネント、システムの内容などの説明から、『ID.4』をリフトアップして実車でEVの構造を確認するというものです。
『ID.4』のシステム解説などは普段から資料で見ているものですが、興味深かったのはリフトアップした『ID.4』を下から見ることができたことでした。昔、コンバートEVをリフトアップして下からバッテリーを入れ替えたりしたのは見たことがありましたが、量産EVを真下から見たのは初めてでした。日産『リーフ』は、バッテリーの入れ替え事業をしているオズコーポレーションで斜め横から見ることができたものの、真下ではありません。
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リア駆動なのでモーターが後部に付いているのはあたりまえなのですが、取り付け場所はリアというより、センターに近い感じです。そのため、フォルクスワーゲン・ジャパンの担当者は、ミッドシップに近いかもしれないと話していました。
底面のフラットさEVならではかも
個人的にEVぽいなあと感じたのは、底面が平らなことでした。
ICE(内燃機関)の車だと排気系配管があるのでどうしても凸凹ができますが、底面にバッテリーを敷き詰めているEVだと、ほぼ平らにすることができます。モーターから太い配管が出ているわけでもないので、モーター下部もカバーできます。
なおこの日はモーターが見えるようにカバーを取り外していました。
また『ID.4』は、冷却剤の流路を形成した金属板を2枚重ねて貼り付け、それをバッテリー底部に設置して冷却しています。実際に『ID.4』の底部を見てみると、底部の金属パネルに覆われたところに冷却系が設置されているだろうことがわかります。
もちろん衝突安全性能を確保するために、周囲はガチガチに補強されていると思いますが、雰囲気だけでも感じることができました。
他には、『ID.4』はタイヤ方向に底部カバーを少し張り出すことで空気の流れをスムーズにして、空気抵抗を減らす工夫もしているそうです。こういう細かいところまで気を配っていることには感心してしまいます。
ところで『ID.4』は、リアブレーキがドラムになっています。この点について試乗会参加者から、なぜドラムなのかという質問がありました。
回答をざっくりまとめると、ドラムで十分だから、ということになります。リア駆動の『ID.4』は、基本的に回生ブレーキで制動します。機械式ブレーキは、その補完です。
フォルクスワーゲン・ジャパンによれば、リアブレーキシューの交換時期はマニュアルに指示がないそうです。要するに車両寿命と同じということです。それだけ機械式ブレーキを使わない想定になっているわけで、それならコストの安いドラム式でいいということなのでしょう。
灼熱のテストコースで体験試乗
実車の確認をしたあとは、『ID.4 Lite』と『ID.4 Pro』の販売計画や納車時期の予定などについて説明を受け、昼食を挟んで体験試乗です。
筆者は、サーキットのようなテストコースは体験したことがありますが、こうしたプルービンググラウンド(多様な走行条件のコースを備えた実験場)は初めてです。
で、第一印象は、「暑い」でした。昼を過ぎてさらに気温が上がっています。車載モニターの温度表示は32.5度ですが、もっと暑い気がします。そういえば車の温度ってどうやって測ってるんだろうと思い、開発関係の知人に聞いたところ、たいていは熱電対じゃないかということでした。だとするとそれほど正確に温度が測れるものではないので、プラスマイナスに幅がありそうです。
などということを考えながら、まずは低ミュー路+左右で異なるミュー路での坂道発進です。
片側を圧雪路を想定した摩擦係数0.3の路面に、もう片側を凍結路想定の摩擦係数0.1に乗せて発進します。
ドキドキしたのは発信時ではなく、車を所定の位置に止められるかどうかでした。人に見られながら駐車するのって、ちょっと緊張しますよね。メディア参加の試乗会だとなおさらです。
少し緊張しながら車をとめてから、アクセルを少し踏むと、凍結路側の車輪が少し空転する「ギュロロロ」という音が聞こえました。同乗していた寄本編集長に「いま、空転してましたよね」と聞くと、「たぶんそうなんじゃね?」という味気ない返事が返ってきました。
実際の道路で片側が空転すると、車の向きが変わってしまってめんどうなことになりかねないのですが、『ID.4』は空転がすぐに止まり、普通に発進することができました。
モーターで細かな制御ができているのを実感できます。なんの心配も、考えることもありません。運転技術もいりません。技術力ってすごいなあと、改めて思ったのでした。
S字スラロームや旋回路でスピンもどき体験
低ミュー路での坂道発進に続き、すべりやすい路面でのS字スラローム、直線での回生ブレーキ体験、少しトリッキーなワインディングロードのようなコースでハンドリング体験、滑りやすい路面での定常円旋回を体験していきました。
中でも興味深かったのは定常円旋回のテストでした。水で濡らした路面はとてもすべりやすくて、時速30キロで入っていくとフロントのグリップが不足して簡単に外に出て行ってしまいます。
でも速度を調整しながら入り、フロントがグリップしている状態だと、ステアリングを目一杯切った状態でのドリフトが、けっこう簡単にできるようになります。筆者も3周ほど回ったらなんとか形になってきて、楽しくなってしまいました。ロック・トゥー・ロックでステアリングを回してドリフトを続けられるって、普通の道では体験できません。
というドリフト走行が目的ではなく、リアがすべってもトラクションコントロールが効いて、アクセルを踏んでも必要以上にタイヤが空転しないため、車の挙動を制御しやすいこともちゃんと体験できたのでした。
ただ、この時に横滑り防止装置を入れていると、滑ったあとにアクセルを踏んでもまったくトラクションがかからないか、とても反応が遅くなるかするため、かえって車のコントロールがしにくいなあと感じました。フォルクスワーゲン・ジャパンのインストラクターの方からも、扱いにくかったら横滑り防止装置は切った方がいいかもとアドバイスがありました。
ところで、定常円旋回は速度を出しすぎてうまく旋回できないと、滑りやすい路面の外側にある普通のアスファルト路面にでてしまって車がガクガクッっとつまずいてしまいます。
筆者の2周目くらいに寄本編集長を横に乗せて走った時に少しガクガクッとなってしまい、寄本編集長は「へたくそ」と言い捨てて降りていったのですが、その後で寄本編集長が同じコースを走ると、コースに入ってすぐに外に飛び出してガクガクッとなったのがお茶目でした。
戻ってきた寄本編集長に「へたくそ」と言えて溜飲が下がりました。まあ、目くそ鼻くそですけども。
そんな体験試乗会を堪能して感じたのは、EVならではの特長(パワー制御の反応が速い)を活かして車の制御がうまくできていると安定感が増すし、いざという時にも曲がったり止まったりがきちんとできるんだなということでした。
ただもう一点、車のおかげで運転がうまくなったような気になるけども、それは気のせいなので勘違いすると危ないかもということも、改めて考えたのでした。
暑かったけれども、楽しいだけでなく、とても勉強になった体験試乗会でした。そして、次はほんとうの雪道で走ってみたいなあと思ったのでした。
取材・文/木野 龍逸
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リアブレーキだけドラムというのは、ちょっと昔のガソリン車みたいで懐かしいですね。
EV にはエンジンブレーキが無いので、満充電に近い状態で例えば碓氷バイパスを下ってきたらどうなるか気になります。古いリーフの下り坂では怖い思いをすることがあるので・・
機会がありましたらテストをお願いしたいです。