別件取材で福岡市のアイランドシティを訪問。偶然、この日からBRJ株式会社による実証実験が始まった自動運転バスに乗ることができました。最高速度は20km/hに制限しているものの、街区のモビリティとしてはいい感じ。「実用化」されるために何が必要なのか考えてみました。
実証実験の初日に遭遇したのは運命か?

2025年11月9日(日)、「ミライズエネチェンジEVサポーターズ」(関連記事)メンバーへの感謝イベント「ミラエネMEET」を取材するため、福岡県福岡市のアイランドシティを訪れました。前夜、新幹線で博多駅に到着。駅前のイルミネーションがきれいだったのでFacebookに投稿したところ、友達になっている福岡のEVオーナーさんから「自動運転バスの取材?」とコメントをいただきました。
え、自動運転バス? とググってみると、まさに11月9日からBRJ株式会社がアイランドシティで自動運転バスの実証実験を開始することがわかりました。
【実証実験の概要】
実施場所:アイランドシティ(福岡県福岡市)
停留所:香椎照葉一丁目→照葉小中学校東→アイランドアイ南→こども病院前→アイランドシティ中央公園→照葉パビリオン(1周約17分)
実施期間:2025年11月9日(日)~11月21日(金)
料金:無料
使用車両:オーブテック社「MiCa」
乗車定員:乗車定員7名(オペレーター1名を除く)
最高速度:時速20km未満
BRJ(本社:東京都港区)は「安全で新しい交通手段の提供と、地域ごとに最適化した交通オペレーションを提供」する次世代モビリティカンパニーとのこと。
使用車両である「MiCa(ミカ)」は、ソフトバンクの子会社であるBOLDLY(ボードリー)株式会社が日本導入を進めているエストニアのAuve Tech(オーブテック)社製の小型EVバス。レベル4自動運転に対応するための最新設計を採用していて、車内にハンドルなどの運転装置はありません。
今回の実証実験における運行方法は、次のように説明されていました。
「車体にはLiDAR(ライダー)と呼ばれる高精度センサーを搭載し、周囲の状況や障害物を検知しながら自車の位置を把握して走行します。従来の車両のようにハンドルやアクセルを操作する必要がなく、自動運転システムが走行を制御します。本事業では安全確保のため、オペレーターが同乗するレベル2の運行方式で実施しています」
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私自身、須磨海岸での実証実験を紹介する記事を書いたものの、まだ実際に乗った経験はありません。運行開始は10時から。こんなにドンピシャの場所と時間に恵まれたことには運命すら感じます。イベント取材は11時半くらいまでにアイランドシティ内の会場へ行けばいいので、10時には現地に行って自動運転バスに乗ってみることにしたのでした。
整備された街区の風景によく似合う

宿泊した博多駅前のホテルをチェックアウトして、アイランドシティに到着したのがちょうど10時ごろ。プレスリリースで調べた停留所名を頼りにレンタカーを走らせていると、運行を始めたばかりの自動運転バスを発見することができました。アイランドシティは「だれもが便利で、健康的なくらしを享受し、ひとと自然がゆるやかに共生するまち」として福岡市沿岸部の埋め立て地に開発された新しい街で、現在、1万6000人以上が暮らしています。
2025年はちょうど「まちびらき20周年」とのこと。広い歩道や豊かな緑地空間が整備された街区に、自動運転バスが走っている風景がよく似合います。
終着点はこのあたり? と見当を付けて近くのコインパーキングにレンタカーを停め、周囲を見ると、歩道脇に臨時で設置されたらしい停留所の看板を発見することができました。
ほどなくしてやってきた自動運転バスが停車。満員だった乗客のみなさんがバスを降ります。周回コースということだったので、さっそく乗り込もうと思ったら、一度車庫に戻るので始発停留所の「香椎照葉一丁目」で待ってくれとのこと。次の交差点を左折したすぐ先、距離にして200mほどの場所だったので歩いて移動しました。

始発停留所にやってきた次のバスには、住民の親子連れ、わざわざこのバスに乗ってみるためにアイランドシティにやってきたという若い女性2人組、地域開発に関わるデベロッパーのお2人とともに、私を入れてちょうど定員いっぱいの7人が乗車しました。
現状はまだ「プログラム走行」という印象

MiCaは8人乗りですが、オペレーター1名が同乗するため乗客は定員7名で運行します。ドライバーなしのいわゆるレベル4完全自動運転を想定して開発されている車両ではあるものの、今回の実証実験では「安全確保のため、オペレーターが同乗するレベル2」の自動運転ということになります。
車内にハンドルやペダルなどの運転装置、そしてもちろん運転席は無く、乗降ドアを囲むように座席が配置されています。私が座ったのは進行方向に背を向ける先頭側の3人掛けの席。隣は住民の親子連れでした。乗客が乗り込んでシートベルトをしたら、バスは自動で発進。走りはとてもスムーズな印象でした。
後部座席のオペレーターさんはモニターを見ながらボタンを押すなどの操作をしているようですが、運転というほど大きな動きはなく、乗客の感覚としては「なるほど自動運転ですね」って感じです。

車内のモニターにはセンサーの情報などが表示されていました。
赤信号の交差点では、当然、ちゃんと自動で停止します。ただし、現状としては信号のあるすべての交差点で一旦停止する設定になっていて、青信号で安全に進める場合はオペレーターが「進行」指示を出しているということでした。整備された街区の、2kmほどの決められたコースを周回するだけだし、客観的に評価すると「自動運転というより、まだプログラム走行って感じかな」という印象ではありました。
街中モビリティとして20km/hは、まあOK
走行速度は20km/h未満に制限。乗る前は「遅くてイラッとしたりするのかな」と想像していましたが、そもそもマンションや病院などが並ぶ街中の道、最高20km/hという速度は慎重に運転する自家用車といった感じで、乗客がストレスを感じたり交通渋滞の原因となるようなことはありません。考えてみれば、普通の乗合バスだって、そんなにスピードは出さないよね、と思い至りました。
臨時の停留所は路肩の緑地帯などに置かれていて、乗降時の足場が気になるあたりは実証実験ならではのご愛敬。実際に導入されることになれば、乗り降りしやすい停留所が設置されることになるのでしょう。

客席にはUSBポートも装備。
期間限定ではなく、導入して運行しないと進化は難しそう

公共交通の進化を想定すると、自動運転EVバスはそう遠くない未来には全国各地で活躍するようになるのだと思います。とはいえ、期間限定の実証実験だけで、実用的な安全性の確認や自動運転そのものの完成度向上を進めていくのは難しそう、というのが、アイランドシティの自動運転バスに乗ってみた正直な感想です。
自動運転の完成度という点に注目すれば、LiDARを装備したMiCaのシステムよりも、膨大な市販EVからの走行データを集めて進化を続けるテスラのFSDのほうが圧倒的に優秀で、レベル4に向けた実用に近いことは明白です。
はたして、どのようにレベル4の実用化を目指すのか。あるいは、レベル2で運用するとしてオペレーターの養成や人件費をどうするのか。ちゃんと前進していくためには、期間限定の実証実験ではなく、ちゃんと街の公共交通手段として導入し、試行錯誤を重ねる必要があることを感じました。
茨城県境町などの自動運転バスにも乗ってみたい
日本全国、いくつかの自治体ではすでに、期間限定ではない自動運転バスが運行しています。自治体として日本初の定常運行を始めた茨城県境町では、今年2月にルートを増やして計3路線で運行中。また、2026年早々には、愛媛県の伊予鉄グループが道後温泉など松山市内でレベル4の完全自動運転バスの本格運行を開始すると発表しています。
境町の自動運転バスは何年も前から気になりながらまだ取材に行けてなかったし。道後温泉は大好きだし。改めて、各地の自動運転バス乗車レポートをお届けしたいと思います。
取材・文/寄本 好則






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