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EVモーターズ・ジャパンが日本国内で販売した電気バスに何が起きているのか

EVモーターズ・ジャパンが日本国内で販売した電気バスに何が起きているのか

大阪・関西万博に150台を納入したEVモーターズ・ジャパンの自動運転EVバスに不具合が発生。大きな問題になっています。はたして何が起きているのでしょうか。自動車生活ジャーナリスト、加藤久美子氏のレポートです。

目次

EVモーターズ・ジャパンのEVバスに国交省が全数点検を要請

第1期工事が完了してお披露目された北九州市のEVMJ本社組立工場。

2019年4月1日に設立されたEVモーターズ・ジャパン(本社:福岡県北九州市若松区/佐藤裕之社長 ※以下、EVMJ)が中国3社から輸入して日本国内で販売するEVバスについて、国交省は9月初旬に「全数点検」を要請しました。

この要請を受けて、EVMJは大阪・関西万博に150台(ウィズダム製10-5m115台+6.99m小型35台)、万博需要を見込んで大阪市内の一部エリアで今年1月から運行していた「オンデマンドバス」(愛中和汽車製E1乗合40台)を含む合計317台に対する点検を実施。同社の社員が北海道から沖縄までバス事業所に赴いて、9月9日から1週間程度で点検を行いました。

その結果は10月17日(金)の国交大臣会見にて発表されて、317台のうち35%強にあたる113台に不具合があったことが発表されています。なお不具合が見つかったバスにおいては1台あたり複数個所(多いバスでは10か所以上)に不具合がありました。

さらに、不具合が明らかになった113台以外にも重要保安部品などに深刻な不具合があることが分かったとして、国交省は10月20日にアポなしの立ち入り検査を行っています。これについての検査結果はまだ公開されていません。
※冒頭写真は運行を回避して大阪シティバスの営業所に並ぶEVバス。

関係者からの情報で問題の取材を開始

筆者は今年8月中旬に関係者から情報をいただいて、EVMJのバスが多くの不具合で大変なことになっていることを知りました。また、国産と聞いていたバスが実はまだ一台も国内では組み立てられていないことも併せて知りました。

大阪万博に150台もの受注を受けていたことは知っていましたが、その後、自動運転の実証実験中に事故やトラブルが複数発生したこと、また今年4月に福岡県筑後市の小学校に納入された「国内初のEVスクールバス4台」が不具合多発で修理をしても何度も壊れて、結局EVMJに返品されていたことも報道で知りました。スクールバスを利用する小学生の保護者が、「あまりにもトラブルが多く安心して子どもを乗せられない」として西日本新聞に投書したことが報道されるきっかけとなったのです。

自動ドアが開閉しない、自動ブレーキ用カメラが脱落する、天井からの雨漏りに加えてタイヤハウスからも雨が吹き込む、ブレーキチャンバーが脱落する、ハンドル部品との摩擦によってブレーキホースが損傷するなどの不具合が多数報告されています。

EVMJが販売する中国3メーカーのEVバス

EVMJが中国3メーカーから並行輸入という形で輸入してきたバスについてご紹介しておきましょう

なお、3社が作るEVバスは中国国内向けに販売されるバスとしての『工業情報化部(MIIT)』のリストには載っていません(=中国国内で販売できない)。輸出用としてのみ製造が許可されています。また、3社ともに「日本向けに販売するバスは今回初めて製造した」とのことです。

福建ウィズダム(威驰腾汽車)

福建ウィズダム本社工場で行われた納車式 EVMJからも角副社長以下幹部が出席した(2022年)。

ウィズダム社はEVMJの設立とほぼ同時期の2019年4月8日に福建省で設立されたバスメーカーです。ウィズダム製のEVバスは「輸出専用」としてのみ製造許可を得ており、日本以外では香港、オーストラリア、英国などで販売されています。中国国内で販売するためのCCC(中国国内の製品安全に対して実施される強制認証制度)認証は取得していません。日本でこれまで販売されたのは以下の3車種です。

WISDOM F8 series4-Mini Bus 6.99m(コミュバス)114kWh 仕様

万博では会場内を移動する「e Mover」として35台が使用されていたほか、東京都港区のコミュニティバス「ちぃばす」や同じく渋谷区の「ハチ公バス」、伊予鉄バス、京福バス、名護市役所など全国で84台が使用されています。

WISDOM F8 series2-City Bus 8.8m(路線)176kWh 仕様

8.8mには路線仕様と観光バス仕様があります。関電L&A、伊予鉄バス、弘南バス、名鉄観光バスなど全国で18台が使用中です。

WISDOM F8 series2-City Bus 10.5m 210kWh 仕様

万博会場のシャトルバス。

万博輸送用として最寄り駅や駐車場と会場を結ぶシャトルバスとして115台が納入されたほか、富士急グループ、川崎市交通局、九電テクノシステムズ(サブスク形式にて大分バス等が使用)、箱根登山バスなどで合計163台。EVMJ扱いのバスとしては最も多い台数が納入されています。

恒天(南京恒天领锐汽车有限公司)

恒天のEVバスは日本では「YANCHENG」のブランドで販売されています。製造しているのは恒天汽車の子会社となる南京恒天领锐汽车有限公司です。こちらもEVバス製造の経験はほぼなく、EVMJとは2023年に契約しています。日本で販売されている台数は10台前後と少ないのですが、日本バス協会の会長会社である伊予鉄バスや沖縄県企画部に納入されたほか、九電テクノシステムのサブスク経由で筑後市内の小学校向けスクールバス(現在は契約解除)として使用していました。大阪万博の来賓送迎用にも納入されていました。

YANCHENG V8-Micro Bus 6.99m高床/低床仕様 

全長:5.99m/6.99m、乗車定員:5.99m:16人、6.99m:20人/24人、航続距離※:5.99m:260km/6.99m:250km。

前述したスクールバスがこちらです。高床仕様4台が2025年春開校の筑後南小学校の児童を乗せるスクールバスとして運行されていました。しかし運行開始前のテスト段階から不調続きで4月に運行が始まってからも不具合多発で開始から2週間で4台ともEVMJに戻っていきました。その後、6月に運行を再開しましたがその日に再びトラブルが発生し以降は運行を中止し、従来のディーゼルバスを使用しています。

筑後市スクールバスで発生した不具合を列記しておきましょう。
●扉挟み込み防止装置の誤動作により車両が発進できなかった
●朝の学校出発後にブレーキの効きが悪く急ブレーキで停止した
●試験運行初日にハンドルの切れが悪く公道運行できなかった(試験運行を中止)
●起動時の操作エラーで出発できなかった。
●閉扉時にボディとの間に隙間が発生。
●フロントカメラ(両面テープ貼り付け)が脱落。
●ハンドルを左に切るとホーンが鳴り続ける。
●50~60km/h走行中にアクセルペダルを離すとモーターからうなり音が発生(加速時でも定常走行でも)。
●助手席ワイパーが作動時に窓から飛び出してひっかかった。
●LDW(Lane Departure Warning)が異常に働き、走行中にハンドルが動く。
●自動ドアが開閉できない。
●交差点で車両が突然止まる。
●フットブレーキの利きが悪い。

このように、関係者への取材や現地での報道で多くのトラブルが確認できました。

また、YANCHENG V8-Coach Bus(12m)350kWhのバスは国内最大級のEVバスとして話題を集めましたが、「軸重は一軸10トン以下」という日本の保安基準を満たすことができず(後軸)、そのままではナンバーがつかない(新規検査に合格しない)ため10個あるバッテリーを5個に減らして納車したという経緯があります。

愛中和汽車

愛中和は中国最大の鉄道会社CRRC(中国中車)の子会社です。大阪市内を走るオンデマンドバスとして大阪メトロの子会社であるOMタクシーが今年1月より40台の「VAMO E1乗合」(10人乗り普通免許で運転可能)を使用していました。9月1日に大阪市内で発生した事故によって、以降は40台全車が使用中止となっています。

この事故は車内のドラレコ動画を見ても明らかですが、ハンドルを左に切っているのにバスは右に進んで衝突を回避しようとするドライバーの動作むなしく中央分離帯に激突して止まりました。幸い、回送中であったため乗客はおらずドライバーにもけがはありませんでした。また、同じ「E1」をベースにした路線バス仕様もすでに40台近くが輸入されていますが、現在のところ大阪メトロはこれらのバスを使用する予定はないとのことです。

EVMJの急速充電器にも不具合が多発

現在、万博で使用したEVMJのバスが保管されている大阪シティバス駐車場の充電器。

EVMJではCHAdeMO2.0規格に対応した急速充電器も販売してきました。EVMJの充電器は万博会場にもスズカ電工(設置と管理を担当)を通じて納入されていましたが、バス同様に多数の不具合が発生していました。今年7月には国際博覧会協会より充電器不具合に関する対応強化の依頼文書が出されています。指摘の概要は以下の通りです。

●稼働開始以降EVMJが扱うの充電器で多数の不具合が出ている。
●稼働開始から約3か月半で修理回数は28回。
●2025年7月22日の時点で、設置した22基のうち12台が使用不可となっている。
●故障が頻発するため当該充電器を使用する桜島駅シャトルバス、舞洲P&Rシャトルバスにおいては充電個所を運行バス会社の営業所に変更するなどして対応。
●充電個所の変更によって運行計画に支障をきたしている。

頻発する不具合に対応すべく、万博会場ではEVMJのスタッフが毎晩夜中までかかって部品交換をするなどして対応していたとのこと。現在、EVMJのバスはすべての不具合が明らかになり、補修が完了するまで新規出荷が停止されています。

不具合対応の中にはバスの設計からやり直さなくてはならないため、長ければ改修に2年程度かかるケースがあるとのこと。このような状況で年内納車予定だったバスの契約を解除するところも出てきています。万博輸送で使用したWISDOM製バスをフェリーにてEVMJの本社工場(北九州)に送り返す準備も進んでいます。すでに納入されて使用されている317台に対して使用停止命令は出ていませんが、不具合が完璧に解消するまでは使用を見合わせる事業者が増えています。

バスは多くの人命を預かって運行される公共の乗り物です。人命最優先ですべての不具合が明らかになり安全性が完全に保証されることを願うばかりです。

取材・文/加藤 久美子

【編集部注】
EVMJのEVバスについては、EVsmartブログでも期待とともに紹介する記事を公開してきました。9月初旬、今回の問題について、具体的な不具合の状況や対応についてメールで質問を送り、以下のような回答をいただきました。

お返事が遅くなり申し訳ございません。まず、本件に関する一連の事柄におきまして、関係する皆様に多大なるご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます。(中略)
当社は、国土交通省からのご指示(2025年9月3日付)に基づき、国内で運行する全車両を対象とした総点検を実施しており、速やかに全車両の点検を完了させるよう進めております。
恐れ入りますが、弊社プレスリリースを含め正式発表までお待ちいただければ幸甚に存じます。

その後、まだ正式な発表などはありません。公共交通を支えるバスのEV化は、モビリティ脱炭素化にとっても大切なアクションです。一日も早くトラブルの原因を明らかにして、日本におけるEVバス導入推進が減速しないようにすることを願います。(寄本)

※2025年11月28日、国交省公式サイトでEVモーターズ・ジャパンからリコールの届け出があったことが発表されました。

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この記事を書いた人

山口県下関市生まれ。大学時代は神奈川トヨタのディーラーで納車引き取りのバイトに明け暮れ、卒業後は日刊自動車新聞社に入社。95年よりフリー。2000年に自らの妊娠をきっかけに「妊婦のシートベルト着用を推進する会」を立ち上げ、この活動がきっかけで2008年11月「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)においてシートベルト教則が改訂された。
一財)日本交通安全教育普及協会認定チャイルドシート指導員の資格を取得し、育児雑誌や自動車メディア、TVのニュース番組などでチャイルドシートに関わる正しい情報を発信し続けている。
愛車は1998年5月に新車で購入したアルファスパイダー(26.5万キロ走行)

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