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東名300km電費検証【25】フォルクスワーゲン『ID. Buzz Pro』/84kWhのバッテリーで冬の実質航続距離は約356km

東名300km電費検証【25】フォルクスワーゲン『ID. Buzz Pro』/84kWhのバッテリーで冬の実質航続距離は約356km

市販電気自動車の実用的な電費(燃費)性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。第25回はフォルクスワーゲン『ID. Buzz Pro』で行った検証結果を報告します。「ワーゲンバス」が現代に復活、現状では日本でデリバリーされている唯一のミニバンEVとして人気のモデルはどんな電費を記録したのでしょうか。

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧

目次

100km/h巡航で約350kmの航続距離性能

ID. Buzzの日本仕様には「Pro」と「Pro Long Wheelbase」の2つのグレードがあります。今回の検証には全長4715mm、全幅1985mm、全高1925mm、ホイールベース2990mm、車重2560kg、モーター出力210kW/286ps、トルク560Nm、バッテリー84kWh、一充電走行距離(WLTC)524km、車両本体価格888.9万円のProで臨みました。

今回の注目点は、幅が2m、全高も1.9mと、前回のG580 with EQ Technologyに次ぐ、前面投影面積(=抵抗)があるID. Buzzですが、Cd値は0.285とID. 4の0.28とほぼ同値と優れている。しかし冬季の検証のため気温面では不利という、電費検証に有利な面と不利な面が入り混じる条件下でどのような電費になるかでした。

ID. Buzzの一充電走行距離524kmを、バッテリー容量の84kWhで割った目標電費は6.24km/kWhになります。2026年1月某日、計測日の外気温は最高9℃、電費検証に臨んだ深夜は0.5~3.0℃でした。

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしています。

【今回の計測結果】

往復の電費は、各区間の往復距離を、その区間の往路と復路で消費した電力の合計で割って求めています。

目標電費を超えたのは、往路のD区間、復路のBとC区間で、下り勾配の利点を得やすい3区間でした。往復では80km/hが5km/kWh台、100km/hが4km/kWh台、120km/hが3km/kWh台で、5-4-3のきれいな階段状になりました。

【巡航速度別電費】

各巡航速度の電費は下表の通りです。「航続距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、524kmの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率です。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h5.17434.183%
100km/h4.21353.768%
120km/h3.60302.258%
総合4.24355.868%

(注)80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って算出、100km/hと120km/h、総合の電費も同じ方法で求めています。

総合電費の4.24km/kWhで計算すると、満充電からの実質的な航続距離は約356kmになります。100km/h巡航は約354km、80km/h巡航はカタログスペックの一充電走行距離と比較して17%落ちの約434kmになりました。

「東名300km電費検証」企画独自の基準として、この表の100km/h巡航と総合の達成率が90%台だと優秀、100%を超えると相当優秀な実測電費性能であると判断できます。ID. Buzzはどちらも68%ですので、大きな開きがあります。この数字から関東以南での冬季の一充電走行距離はカタログスペックの3割減で計画するのがオススメです。

巡航速度比較では、80km/hから100km/hに速度を上げると19%電費が悪化します、さらに120km/hにすると30%減になります。反対に120km/hから80km/hに下げると航続距離を1.4倍(144%)に伸ばすことができる計算です。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h81%
120km/h70%
100km/h80km/h123%
120km/h85%
120km/h80km/h144%
100km/h117%

ここで「3列シートのBEV」という日本では貴重な共通点があることから、メルセデス・ベンツEQS450 4MATIC SUV(以下EQS SUVとします、2023年6月時点の車両)の記録と比較してみます。EQS SUVは新車だと1645万円ですが、中古車であれば大手検索サイトで728万円から1298万円でした(2026年1月に確認)。

両車のスペックは、ID. Buzz、EQS SUVの順に、最高出力(210kW/286ps、265kW/360ps)と最大トルク(560Nm、800Nm)はEQS SUVの方が大きく、バッテリー容量には23.8kWhの差(84kWh、107.8kWh)もあるため、車重は2560kgと2900kgと340kgの開きがあります。検証時の外気温はID. Buzzの0.5~3.0℃に対して、17~21℃のEQS SUVの方が有利と思われます。

ID. BuzzEQS SUV電費差
km/kWh
航続距離の差
km
比率
80km/h電費5.176.31-1.1482%
航続距離434.1680.2-246.1
100km/h電費4.214.98-0.7785%
航続距離353.7536.8-183.1
120km/h電費3.603.85-0.2594%
航続距離302.2415.0-112.8
総合電費4.244.86-0.6287%
航続距離355.8523.6-167.8

航続距離についてはEQS SUVと比較して112km~246kmと、バッテリー容量の違いもあるため大きな差が出ましたが、電費は0.25~1.14km/kWhと意外に小さく、高速化によりその差は縮まる傾向です。比率にすると6%~18%ですので、気温を揃えると差はもっと少なくなると思います。

ほぼ自動運転感覚のACCとLKA

東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航するため、巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用します。さらに交通量の少ない深夜に走行することで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないよう留意しています。

ID. BuzzのACCはステアリングホイール左スポークのスイッチで操作します。設定速度は+や-のスイッチを軽く押すと1km/hごとに、強く押すと10km/hごとに変わります。その二つの間にあるスイッチで先行車との車間距離設定を5段階から選択できます。

フォルクスワーゲンではACCとLKAを合わせてトラベルアシストと呼んでいます。「RES」ボタンの下の「MODE」ボタンで、トラベルアシスト、ACC、速度リミッターと機能を切り替えられます。

LKA(レーンキープアシスト)は、この検証コース中で最もきついカーブである鮎沢PA手前の300Rも曲がり切れるばかりか、ACCを使用したすべての場面で危なげない働きを披露してくれたこともあり、総じて完成度が高い印象でした。

ドライバーがステアリングを持っているかどうかも、接触センサーによる判定ですので、トルクセンサーの他車と比較すると、ステアリングを持っているのに「持ってください」警告は出ず、非常に快適です。ドライバーはACCを目標速度に設定し、ステアリングを握っていれば、あとはID. Buzzがほぼ自動運転ばりに走ってくれます。

ACCでの停車時はブレーキを抜きながら止まってくれるため、2560kgの車重と1.9mの車高を考えれば、最小限の揺れでの停車を実現していると感じましたが、将来的にはテスラの「0G停車」(関連記事)を実現してくれると、家族を乗せる機会が多いミニバンとしてはベストではないかと思います。アクセルを離すと停車までする「ワンペダルドライブ」はありませんので、どちらのペダルも操作しないと、5km/hほどのゆっくりとしたクリープで走ります。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は3~4km/hで、実速度を100km/hにする場合は、メーター速度を104km/hに合わせる必要がありました。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
83104123
ACC走行中の
室内の静粛性
db
676765

巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hと100km/hが67dBでした。風切り音はドアミラーあたりからの「さらさらっ」程度の微かなものでした。

120km/hは東名よりも路面がきれいな新東名の利点を活かし65dBでした。風切り音はフロントガラス付近からも加わる感じがしますが、それも極端にうるさくなるものではなく、静かな空間が保たれていました。

横風の影響も受けにくいように感じました。以前、新東名を国産車のバンで120km/h巡航中には横風に対して相当な修正舵をあてる必要に迫られた場面もありましたが、ID. Buzzはボディが少し揺らされる程度でした。

バッテリーヒーターが本領発揮。30分で47.4kWhを充電

ID. Buzzは、SOC 24%から開始した駿河湾沼津SA下り150kW器での充電で、気温3℃という悪条件にもかかわらず、30分で47.427kWhを充電し、SOCを80%に回復してみせました。これには手動で起動させたバッテリーヒーターが大いに役立ったと考えられます。

SAに到着時にバッテリーメニューを開くと「現在の急速充電能力」は90kW、「最適な温度にするには38分必要です」との表示。バッテリーヒーターを起動させて待つこと40分、ほぼ時間通りに「最適な急速充電能力に達しました」とのメッセージと「現在の急速充電能力」が160kWに変わり、上記の充電を実現できたというわけです。

実際の最高出力は130kWでしたが、ID. Buzz Proの受け能力も140kWであるため、ほぼ最高値を記録したことになります。

今回は電費への影響を排除するため、SAに到着してからバッテリーヒーターを起動させましたが、時間節約のためにも通常は走行中に行っておくと良いと思います。なお、40分のヒーター起動(と人間の暖房)にはSOC 5%を消費したことを付記しておきます。

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオン時に確認。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。表示がない場合は不明としています。

駿河湾沼津SA下りで充電したあとに120km/hで巡航して、駿河湾沼津SA上りに到着した時は、バッテリーはまだ「最適」なままでしたが、終点の東名川崎ICに到着した際は、ヒーターが必要な状況になっていて、最適な温度まで13分との表示でした。このことから冬季は120km/h走行ではバッテリーの発熱量が「最適」を維持できるが、80~100km/hだと発熱量が少なくバッテリーが冷えてしまうことが推測できます。

タイヤ・ホイールは19インチ

ID. Buzzのタイヤサイズは前235/55R19、後255/50R19、メーカーはピレリ、商品名はスコーピオン・エレクト+・シールインサイドです。スコーピオンはピレリが「高性能サマータイヤ」と謳っており、エレクトはBEVやPHEV用に開発され、+はフォルクスワーゲンの承認タイヤの証です。シールインサイドはピレリのパンク修復技術の名称です。つまりフォルクスワーゲンのために開発されたBEV・PHEV専用タイヤと言えます。

フォルクスワーゲンジャパンの努力の賜物

ID. Buzzはドイツ・ハノーバーにあるフォルクスワーゲンの商用車工場で製造されています。ドイツ本国のサイトを見てみると、ID. Buzzのラインナップには日本に導入されているProグレードの他に、4MOTION(AWD)のGTX、バッテリー容量の小さいフリースタイルやピュアもあります。

商用車らしさを感じるのは、フリースタイルグレードの前後バンパーが無塗装でスチールホイールを履いている点です。これは「ルノー・カングー」の黒バンパー仕様が好きというセンスを持った方々にハマりそうな気がします。

「よりカッコいいID. Buzz」を求める人や降雪地の方にはAWDのGTXも人気になりそうです。GTXのみが選択できる赤いボディカラー「チェリーレッド」を纏ったID. Buzzはかなり目立つと思います。

ID. Buzzが日本で発売される半年前の2025年1月にフォルクスワーゲンジャパン関係者と車両本体価格について話をしたことがありました。「色々と頑張っているが、ショートホイールベースでも1000万円を超えるのは間違いなさそうだ」と教えてくれました。

そして6月に発売された際のショートホイールベースの価格は、なんと900万円を切る888.9万円でした。当時のユーロは165円でしたが、直近では185円にまで上がっています。ID. Buzzを狙っている方は、価格改定が入る前にディーラーに行った方がいいかもしれません。

その際は、下道はもちろん、可能であれば高速道路での試乗をお勧めします。それは段差では結構どしどしと衝撃を伝えてくる乗り心地で、2560kgの車重をいなしきれていないと感じたからです。ロングホイールベースはもう少しゆったりした乗り心地だと別の関係者から聞きました。スーパーカー並みの1985mmの全幅にも注意が必要です(ランボルギーニ・テメラリオは1996mm)。

2025年分の割り当てはほぼ完売しており、次の納車は春頃を予定しているそうです。グレード比率ではロングホイールベースが7割強、ボディカラーは約24万円のオプションである2トーンの3種類が3割ずつになっているとのこと。満開の桜と2トーンのID. Buzzはとても映える光景になりそうです。

ACCとLKAの性能が良いだけに、今回の検証では航続距離が一充電走行距離よりも3割短くなったのが残念ではありますが、冬季でも急速充電性能が高いことに加え、高速道路には90kW以上の急速充電器があるSAPAが増えてきていますので、ロングドライブも不安なくこなせるのではないかと思います。そして勇ましい顔つきのミニバンが溢れる中で、乗る人もID. Buzzを見た街の人をも笑顔にさせる唯一無二のデザインこそが、このクルマの最大の魅力だと思います。

VW
ID. Buzz Pro
全長(mm)4715
全幅(mm)1985
全高(mm)1925
ホイールベース(mm)2990
トレッド(前、mm)1675
トレッド(後、mm)1665
車両重量(kg)2560
前軸重(kg)1230
後軸重(kg)1330
前後重量配分48:52
乗車定員(人)6
最小回転半径(m)5.9
プラットフォームMEB
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)168
一充電走行距離(WLTC、km)524
EPA換算推計値(km)419
モーター数1
モーター型式ECN
モーター種類交流同期電動機
モーター出力(kW/ps)210 / 286
モータートルク(Nm/kgm)560 / 57.1
バッテリー総電力量(kWh)84
急速充電性能(kW)140
普通充電性能(kW)6
V2X対応なし
駆動方式RWD
フロントサスペンションマクファーソンストラット
リアサスペンション4リンク
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキドラム
タイヤサイズ(前)235/55R19
タイヤサイズ(後)255/50R19
荷室容量(L)最大2123
フランク(L)なし
0-100km/h加速(秒)7.3
最高速(km/h)160
Cd値(空気抵抗係数)0.285
車両本体価格 (万円、A)888.9
CEV補助金 (万円、B)46
実質価格(万円、A - B)842.9
※車両重量は車検証に記載の値

取材・文/烏山 大輔

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この記事を書いた人

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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