世界がお手本にするべき電気自動車〜新型テスラ『モデル3』試乗レポート

電気自動車に関心がある方ならば、ぜひ知っておくべきなのがテスラ『モデル3』の実力です。自社急速充電インフラであるスーパーチャージャーの利便を含め、世界のEVが目指すべきベンチマークモデルと言えるでしょう。新著者陣の烏山大輔氏がフラット&フレッシュな視点でレポートします。

世界がお手本にするべき電気自動車〜新型テスラ『モデル3』試乗レポート

極めて滑らかな「発進、停車」の動き

2023年9月に発売、3ヶ月後の12月から納車が始まったテスラの新型『モデル3』を半日ドライブすることができた。筆者にとってモデルYに続く2車種目のテスラ車の試乗だったので、モデルYとの差にも触れつつ、モデル3とのショートトリップで感じたことを報告したい。

ちなみに、この新型モデル3のアップデートは「プロジェクト・ハイランド」というコードネームとともに、SNSなどでさまざまな噂や情報が流れたことから、テスラファンの間では「ハイランド」と呼ばれているのは既報の通り。従来のイメージは踏襲しつつ、エクステリアを含めたデザインや、装備、機能のさまざまなアップデートが行われた。

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さて、2月某日、新型モデル3の広報車を引き取り、一般道に出る。一時停止で止まり、安全を確認して発進する。このわずか数秒の動きで、このクルマが電気自動車の枠を超えて、すべての自動車の中でもトップクラスの極めて滑らかな動きを実現していることを実感した。

ワンペダルドライブは止まる直前に一切の「かっくんブレーキ感」や不快な減速Gも発生させず滑らかに止まる。そして動き出す瞬間にブレーキオートホールドを解除する動作にも、ブレーキの引っかかりが全くなく滑らかに動き出す。まさにパーフェクトと言える。

回生ブレーキの効き方に慣れてくれば、アクセルの踏み方を加減することで、ブレーキペダルを踏まずに停車位置で止まることも可能だ。

アクセルの反応はとても繊細で、例えるなら他車がアクセル開度を1%単位で拾っているとしたら、モデル3は0.1%単位で拾っているかのようだ。アクセルを「踏む」ではなく、アクセルに「触れる」だけで、その触れた量に応じて動き出す。

その動き出し方も以前乗ったモデルY(パフォーマンスグレード、車重2,000kg)とは全く異なっていた。モデルYはアクセルの踏み始めに「ずしっ」と車両の重さを感じた。モデル3(ロングレンジAWDグレード、車重1,840kg)は、アクセルを踏み始めの車両の重さを全く感じず、「すっ」と軽やかで素直な動きを見せる。

この両車で車重は160kgしか変わらないため、おそらくモーターの制御の仕方が違うのではないかと推測する。イメージとして、アクセル開度が0の時のモーターへの電力供給が、モデルYが完全に0なのに対して、モデル3はわずかに電力を供給しているような感じがある。それにもかかわらず、踏み始めに過敏に反応するのではなく踏んだ分だけのとても繊細な動きなので感心する。

最も綺麗な停車が難しい上り坂でも一切のギクシャク感を出さなかった。この「止める」動きは人間が可能な運転技術を超えたレベルだと思う。

ちなみにこのモデル3には他のBEVにあるような回生ブレーキの調整機能はない、ワンペダルモードもオフにできない。しかし上記の完璧な動きを体験してしまうとその両方は確かになくてもいいと思わされる。

装着タイヤはnokian TIRESのHAKKAPELIITTA R5 EVという銘柄のスタッドレスで、サイズは235/45R18だった。

乗り心地はフラットかつスポーティ、サスペンションのストロークをさほど感じないこともモデルYと同じだった。ハンドリングも良いと感じたが、スタッドレスタイヤを履いていたので、夏タイヤであればもっとダイレクトな反応を示したはずだ。車検証で確認した前後重量配分はどちらも920kgの完全な50:50。きっと山道も楽しく走れるだろう。

走り出すまでに「常識」だった操作は不要

「自動車の常識」を破壊してきたテスラは、新型モデル3でもそれをさらに進化させている。これまでクルマに乗り込んで走り出すまでには、シートベルトを締め、ブレーキを踏み、エンジンをかける(システムを起動させる)、パーキングブレーキを解除し、シフトをD(ドライブ)に入れるという一連の操作が必要だった。

しかし新型モデル3に新しく採用されたオートシフトは、走り出すまでのそれらの「手間」を大幅にカットしている。クルマに乗り込んだら(ここで自動的にシステムが起動する)、シートベルトを締め、ブレーキを踏むと、クルマの後方に壁があると自動でD(ドライブ)に入る(ここでパーキングブレーキも自動解除)し、前向き駐車していてクルマの前方に壁がある場合は自動でR(リバース)にシフトされるので、あとはアクセルを踏むだけでいいのだ。

車両の前に壁があるため、オートシフトでリバースに入っている時のセンターディスプレイ、この状態でアクセルを踏むとバックする。

ちなみにオートシフトは、停車中にシートベルトを外すかドアを開けると自動でパーキングに入るため、ここまでの一連の流れで一度も「シフト操作」をせずに移動ができる。手動でシフト操作をしたい場合には、センターディスプレイの運転席側に表示されるクルマのイラストを上に動かすとDに、下に下げるとRに入る。Pは一番上の「P」を押せば良い。DとRは一般的なシフトレバーの動きと逆なので、完全に慣れるまでは時間がかかると思った。

ステアリングとディスプレイだけの室内。ディスプレイ下のスマホ置き場は2台とも無線充電が可能。加減速や右左折でもスマホが動きにくい設計なのも素晴らしい。

このオートシフト機能は、すでにモデルSとモデルXに搭載されている。オートシフトに慣れてしまったら、他のクルマで動き出すまでの操作にストレスを感じてしまうだろう。実際に筆者もある国産ハイブリッド車で、システムをスタートしたのにシフトレバーがすぐにDに入らないことにストレスを感じ、アクセルを踏んでも動かないと思ったら、パーキングブレーキを手動で解除する必要があり、さらにストレスを感じたことがある。

万が一、ディスプレイが故障した時のためにもオーバーヘッドコンソールにPNRDのボタンがあるので、こちらでもシフト操作が可能だ。このPNRDの各ボタン表示は普段は消えていて、どれかのボタンを触ると表示が浮き出るようになっている。

このあたりの仕組みの差は、各メーカーの安全性の考え方の違いでもあるが、ドライバーの意思を尊重したスムーズな発進の方がよりユーザーに選ばれるのではないかと思う。

なお、オートシフトの正式名称は「オートシフト・アウトオブパーク」で、この機能はベータ版(正式版をリリースする前にユーザーに試用してもらうためのサンプルのソフトウェア)とのこと。現時点でもその完成度は文句のつけようがないレベルで、このまま実装でも問題ないと思った。

オートシフト・アウトオブパークは「ペダル&ハンドル」の設定画面でオン・オフが可能。

オートステアリング(ベータ版)も「ほぼ」完璧

モデル3はオートパイロットの設定画面で2種類の機能を選択できる。「トラフィックアウェアクルーズコントロール」と「オートステアリング(ベータ版)」だ。「トラフィックアウェアクルーズコントロール」はいわゆるACC(アダプティブクルーズコントロール)で、先行車がいる場合はその速度に合わせて走行できる(車速のみを制御する)。「オートステアリング(ベータ版)」はそれに加えて車線維持とステアリングアシストも制御してくれる機能だ。両機能ともに「ハンドル」を握っていることが条件だ。

この機能の起動方法は、以前のモデル3はステアリングコラムにあったレバーで行っていたが、新型ではステアリングホイール右スポークにあるスクロールホイールをクリック(押す)すると起動できる。

設定画面で起動方法をシングルクリック(1回押し)かダブルクリック(2回押し)かのどちらにするかを選択できる。

速度調節はスクロールホイールを上下に回す。1回転で1km/hごとに、3回転くらいを一気に回すと5km/hごとに調節できる。先行車との車間距離設定はスクロールホイールを横に動かして調節する、レベル2から7の範囲で設定できるそうだ(実は試乗中にこの横動かしで調節できることまで把握できず、広報車返却時に確認した)。

レバーがなくなったステアリング周り。ウインカー操作は左スポークにある矢印で行う。慣れるまでは手元を見る必要があった。

オートステアリングの車線維持性能も最上級ではないだろうか。首都高でほぼ右のUターンレベルのカーブである谷町JCT(渋谷から一ノ橋JCT方面)も何の危なげもなく曲がっていく。ステアリングの切り方も「上品」で、ほぼ横Gを感じさせず滑らかに旋回する。直進走行中も車線の真ん中をキープしてくれる。モデルY試乗時には隣車線のクルマとの距離が気になるほど車線内で左右に寄ることがあった。

なお、オートステアリングには自動車線変更機能もある。ウインカーボタンを押し、軽く車線変更する側にステアリングを切ると、車線変更する。完了までの間ウインカーも点滅したままになり、センターディスプレイにもアニメーションでその様子を表示する。ドライバーの目視確認に加え、車側もセンサーとカメラで安全確認を行っているので、人間だけで行うよりも安全なのではと思った。

オートステアリングについては気になる点もあった。きちんと両手でステアリングを握っているにもかかわらず「ハンドルを少し回してください」の警告がかなり頻繁に出る。しかも厄介なのは、指示に従ってステアリングを回すが、回しすぎると車線維持機能が解除されてしまうのだ(感覚的には5度未満ならOK、5度以上はNGという感じ)。この点はもう少し「ゆとり」を持たせてもいいと思う。

ACCの動きで言うと、渋滞などで停車して再度発進する時には結構「ぐわっ」と力強く加速する。この動きはモデルYも同じだった。前述のような滑らかな動きと異なるので違和感をもつが、発進したことをドライバーに伝えるためあえてこの発進方法なのではないかと推測する。少し残念だがこれが「テスラ流」ということで受け入れるしかなさそうだ。

冬の航続距離は550kmほどか

新型モデル3はCd値が0.219に向上している(従来モデルは0.225)こともあってか、ロングレンジAWDは航続距離が17km伸びて、706kmと国内最長を達成している。しかしながら試乗当日の気温は4〜9度と低いことも影響してSOCと航続距離表示から算出できるSOC100%での距離は550kmほどだった。

ただし、どんな状況でもSOC100%で無理に706kmにする表示ではなく、状況に応じて正直かつ正確に実現できる航続距離を示してくれた方がユーザーとしては予定通りに移動できて良いのではないか。

この日は都内(有明)で広報車を受け取りまず千葉の鋸南町へ。実際の移動距離79kmに対して、航続距離表示は76kmの減少とその差はわずか3kmだった。次に充電のため移動したスーパーチャージャー東名川崎までは実際の移動距離95kmに対して、航続距離表示は108kmの減少(加速性能を確かめたため少し消費の方が多かった)。返却に向かった有明までの実際の移動距離は30kmに対して、航続距離表示は28kmの減少と、完璧なまでに実際の移動距離と同等の航続距離表示の減少だった。

そして国内100カ所目であるスーパーチャージャー東名川崎での充電結果は30分で58%、319km分をチャージできた。これまで筆者が行った急速充電で最高だった「メルセデス・ベンツEQE 350+(セダン)の30分で279kmを抜いて最高記録の充電体験だった。

このスーパーチャージャーは『Cybertruck』にインスパイアされた特別カラー「サイバースーパーチャージャー」だ。

しかし今回のモデル3の充電結果は本来の性能を全く発揮していない。テスラは15分で282kmを充電できると謳っているためだ。その原因は効率的な充電のためにバッテリーを予め温めるプレコンディショングのための時間を十分に取れなかったからだと思う。

センターディスプレイのナビでスーパーチャージャーを目的地に設定すると、到着時間から逆算して自動でプレコンディショングを開始するのだが、この日はナビの設定を到着の5分ほど前に行ったため、到着してもまだプレコンディショング中でバッテリーを適正温度に温めきれていなかった(ごめんなさい)。

この点についてテスラに確認したところ、気温や直前の走行状況など様々な要因が関係するため明確に何分が必要とは言えないが、5分は短すぎるとの回答だったので、次回は気をつけたい。

テスラは搭載しているバッテリー容量を公表していないが、広報担当者は「容量よりもエネルギー効率。他社よりも容量は少ないが航続距離は長い」と教えてくれた。EVsmartブログ編集部としてはモデル3ロングレンジAWDのバッテリー容量を78.4kWhと推測している。この数値をもとに一充電走行距離の706kmを78.4で割るとジャスト9km/kWhと良好な値が計算できる。ちなみに9km/kWhはサクラやekクロスEV(180km/20kWh)と同等の数値だ。

参考までに鋸南町まで(79km)の電費は7.69km/kWh、有明まで(30km)は7.93km/kWhだった。気温が一桁台で暖房もシートヒーターも使用してこの数値は相当優秀な感じがする。機会があれば「東名300km電費検証」(関連記事)を行ってみたい。

今回の新型モデル3の体験で、「自動車としての質」でテスラが着実なステップアップを果たしていることを確認できた。そして発進までの手順など「どうすれば使いやすいのか」を徹底的に考え抜いていることにも感銘を受ける。あとはボタンが少なすぎる室内などの「テスラ流の車作り」をあなたが受け入れられるかどうかだ。ぜひ実車で確かめてみて欲しい。

取材・文/烏山 大輔

この記事のコメント(新着順)4件

  1. 新しいモデル3はおっしゃる通り良いクルマだと思います。しかし、シフトだけはレバー式に戻して欲しいと強く思っています。
    モデル3RWDが納車されて二か月弱になりますが、こんなことがありました。
    信号のある交差点の右折車線に進入したところ、対向車数台が左折し止まってしまったため、行き場が無くなりました。そのうち信号が変わってしまい、バックを余儀なくされました。この時バックに上手く入らなかったのです。
    原因はタッチパネルによる操作がレバーより不確実なためです。その上、視認が必要なためレバーのような直感的な操作ができません。
    危険回避にシフト操作が必要なときは致命的な事になりかねません。また、狭い場所での車庫入れなど、複数回の切り返しが必要なときは余計な時間とストレスが掛かります。
    フルセルフドライブになれば必要ないのかも知れませんが、シフトレバーはその後で無くして欲しいと思います。

  2. テスラは色々と問題も多いが、BEV どころか車というもの(これには車椅子さえ含まれるかも)に様々な良い影響を与えていると感じます。
    BEV 全体の現状の問題点としてはバッテリーのエネルギー密度の問題、車両重量にまつわる諸問題、充電速度の問題、リセールバリューの問題、修理や維持に関する問題、他にもいくつか有りますが、テスラは車に関する常識を変え続け、問題点も驚異的な速度で対応もしくは解決しようとしている点で素晴らしいと思っています。
    そして、一番素晴らしいのは電池問題を各メーカー、各国が真剣に取り扱つている事かも知れませんね。
    BEV の問題点というのはバッテリーが進化すれば大半が片付くし、その恩恵は車業界以外にも波及するでしょう。

  3. >しかし今回のモデル3の充電結果は本来の性能を全く発揮していない。テスラは15分で282km(単純計算だと30分で564kmになる)を充電できると謳っているためだ。

    テスラの言う15分の充電量は残量がごく少ない状態かつプレコンディショニング済からの15分です(286/706で40%分くらい)。
    充電されるに従って出力が落ちるので16〜30分は282km分というわけではないです。
    尤も706kmというのも当てにならない国交省審査値のため100%充電しても706kmと言う表示を見ることはないと思います。

    1. しまねこさん、コメントありがとうございます。
      おっしゃる通り、充電性能は15分を基準にしたもので単純に2倍にできるものではありませんので、(単純計算だと30分で564kmになる)は削除しました。
      一充電走行距離については、ご存知の通り外気温に影響されますので、「706km」の希望は捨てられないと思っております。

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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